下級役人のつぶやき

ロングテールと格闘する下級役人の仕事日記

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さて下級役人です。(第22回)

※ 文字制限との関係で、前回との2分冊になっていまして、これは第21回の後半です。前回から読んでください。


……とすると、フェアユース導入後に個別規定を追加するための基準としては、判例が定着したから個別規定を設けるというのとは、別の基準を持ち出す必要があるだろう。


◆フェアユース導入後に、個別規定を追加するには(後半)
 もう一つ別の説明として考えられるものは、第18回で書いたような、訴訟で戦う体力のない「訴訟弱者」の保護のための規定は、個別規定の方が望ましいという説明か。これは、判例動向が定着しなくとも使える理屈なので、これは確かにあるかもしれない。
 そして、こういうことであれば、役所の個別規定を作っていくという仕事も引き続き残るだろう。

 しかし、こういう基準だとすると、大企業の利益が絡むような場合には、なかなかうまい説明ができないのではないか。フェアユースだと萎縮効果が働くので、個別規定にしなければいけないとでも言うのだろうか。あり得ない話ではないが、これは、少々苦々しい。
 実際のところ、要望の本音としてありがちなのは、前回にも書いたようなことだが、私的複製のようにフェアユースよりも広いと言われる権利制限規定を作って欲しいという希望だろう。いちいち訴訟をせずに、確実に自分の事業が適法だという範囲を、しかも自分のビジネスに有利な形で定めておきたいというのが本音という場合だ。実際、日本の私的録音録画機器がここまで発達しているのは、この広い私的複製の規定(アメリカのフェアユースでは、ライブラリ目的の私的複製が合法化どうかははっきりしないようだ)のおかげだと、発言している委員もいる、というのは前回書いたところだし、こういう本音を企業側が持ったとしても、全く不思議ではない。

 だが、フェアユースができた後で、こういう、より広い権利制限規定を設けることができるだろうかというと、私には甚だ疑問だ。要するに、事柄をそのまま捉えれば、フェアではないのに権利は制限する、という関係になるわけで、それをストレートに述べたのでは、とうてい立法にはならない。別の理屈をつけなければいけないし、そのときに根拠とする理屈はあるのか? にわかには理屈が思いつかない。

 ※ それにしても、フェアユース導入の心配のタネは尽きない。私も第17回以降、書いてきているし、他のブログ(memorandumPatent-Hacksなど)でも書かれているようだが、フェアユース規定自体にも、導入後の心配があれこれある上に、今ある個別規定のメリットが活かせなくなるのだとすると、どうにも企業側の立場に立って考えてみると悩ましい心配事が多い気がする。


 こう考えてきてまとめると、訴訟弱者のための保護の規定については、役所の仕事は残るかもしれない一方で、大企業関係では、役所の仕事がなくなるかもしれないということだ。
 そうすると、ここは私のいつもの問題意識(詳しくは第2回参照)だが、役所が得意とする大きな利害調整では、役所の仕事が減り、役所が苦手とする少数利益との利害調整では、今後も仕事が残るということになりかねない。

 どうにも、社会全体の役割分担としては、うまい結果だとは思えない。


◆その他に考えられる行政・立法の仕事
 ということで、個別規定を作る仕事というのは、一部には役所の仕事として残る可能性があると書いたが、その他にもこんな仕事は考えられるのではないか。

 一つは、権利者側の今後の行動を予測してみて、こんな可能性はないだろうかということ。
 フェアユースが運用される中で、利用者側が、ここは確実に適法だという部分を個別規定化して欲しいという希望を持つのと正反対の動きとして、ここは確実にフェアではないという範囲を決めてくれ、と権利者側が個別規定化を要望する可能性だ。
 ちなみに、前回途中以降は、個別規定から漏れる場合でもフェアユースが成立する場合がある(両者が重畳的に働く)という前提でここまで書いてきたので、こういう権利者側の要望を想定してみることは、その前提と矛盾するようだが、著作権法には、113条に「みなし侵害」の規定がある。……実は、私も勉強していて、この「みなし侵害」の性質がよく分からないのだが、権利規定や権利制限規定とは独立したものなのだろうか。そうだとしたら、こういう権利者側の要望は成り立ち得る。
 もし私が権利者側だったら、こういう形で、確実にフェアでないと思うような行為は、個別規定を追加すべしという要望を出すかもしれない。(これも、どういう基準で追加するのか、判例が定着した場合なのか等々、同じ議論はあるが)

 あるいは、前回の議論でリンクを張った知財本部での奥邨参考人の資料では、アメリカでは、判例でまずいものがあったら、立法でひっくり返すという仕事もあるようだ。
 立法の仕方としては、確実にフェアだ、フェアではないということを書き込む規定を作るか、あるいは、当初の立法で作ったフェアユースの考慮要素を変えてしまう、という2つの仕事があり得るか。

 ※ しかし、これも個別規定がフェアユース規定でオーバーライドされる状況だと難しいとは思うのだが、アメリカは一体、どういう関係なんだろう? 詳しい人がいたら教えて欲しい。
(各条項の関係がどうなっているのかということも、結局は解釈の問題で、司法が権限をもつのだろうから、立法がいくらひっくり返そうと規定を作っても、また司法がひっくり返されることもあるだろうし、……一体どうなるのだろう。他のブログ(アメリカ法の発祥の地でアメリカ法を思考する)では、日本の裁判官は謙抑的だから、ということも書かれていて、日本ではそういう問題は起こらないのかもしれないが、一応、気にはなる)


◆ということで、強引にまとめに入ると
 ということで、いろいろ話は脱線したが、フェアユース導入後にも役所の仕事が残るかどうか思考実験をしてきた。結局は、私は、フェアユースの規定の仕方、特に個別規定との関係をどうするか、その後の個別規定を追加す基準をどうするか、ここ次第であるという考えだ。
 そして、この点は、役所にとってだけでなく、今後役所を使って立法をしようと思っている各種の団体にとっても、立法の際には重要なポイントとして、あらかじめ考えておくべき部分になるだろう。


 ※ ちなみに、前回からここまでは、個別規定とフェアユース規定の、オーバーライドがあるかないか、ある場合には個別規定のメリットがなくなるかもしれないという前提で話してきているが、私は、知財本部のように49条の2に規定を置くのではなく、前回ちょっと触れた「第3の道」として「侵害でないとみなす行為」の規定を置く方法もあるのではないか、とも思わないでもない。(ちょっと細かい議論だが)

 今の著作権法だと、侵害でない範囲は、1.定義から除く、2.権利を与えない、3.権利制限する、4.非侵害とみなすと、様々な方法があるが、フェアユースは、その全部にまたがる概念だろう。だとすると、知財本部が検討しているような49条の2という考え方は中途半端だと思うのだが、皆さんはどうだろう。罰則との関係でも、個別規定のように範囲がしっかりしているものは、罪刑法定主義との関係で問題にされることは少ないだろうが、49条の2のように個別規定に受け皿を作って個別規定をオーバーライドする可能性があるというような状態では、なかなかに議論が難しくなるのではないか。役所で立法を行う立場からすると、内閣法制局の法案審査以上に、法務省の罰則審査というのは、クリアするのにしんどい作業が発生する場合がある難物なのだ。
「知」的ユウレイ屋敷さんは、むしろ罰則が広すぎることに伴うデメリットを解消する観点からファアユースを、という議論を立てているようだが、この主張などは、知財本部のような権利制限規定の一種としてフェアユースを考えるようなものより、私のように救済規定の中の一種としてフェアユースを考える方向に親和的だろう……と勝手に考えみたりもする。違っていたらすいません。)


 いずれにしても、各種ブログでは6月の段階でフェアユース論議が一度盛り上がりしたものの、その後はあまり議論が活発ではないようだ。そろそろ、フェアユースを導入すべし、すべきでないという議論から、どういう形でフェアユースを導入するかというフェーズに移っていくべきではないか。私も、フェアユース的な規定が好きな人間の一人だが、フェアユース規定を設けるためだけに血道を上げていると、後々苦しくなるだろうと心配になる。

 ※ ちなみに、フェアユース導入後のいろいろな基準を作ったりとか、後々を見据えた議論をしようとすると、必ず、役所(知財本部なのか文化庁なのかは分からないが)の生き残り策だという批判が出るだろうから、役所ではやりにくいだろう。同情してしまう。
 役人の端くれとして、ちょっと擁護的なコメントを書いておくと、前回以降書いてきたのは、フェアユース導入後も個別規定(事前のはっきりしたルール)も欲しいという要望が今後も出てくるのなら、そういう声が今後も機能するような仕組みとすべきという問題意識から出発した議論だ。仮に、こういう問題意識から役所が議論するなら、それは役所の生き残りのための議論ではないと思う。


◆次回予告、「ネット法」
 ということで、これで5回に渡ってフェアユース関係について書き込みんできたが、いろいろフェアユースについて検索する中で、気になった「ネット法」構想、これについても次回あたり、ちょっと触れてみたい。役人の目から見ると、この「ネット法」構想、どうにも理解不能なのだ。いや、他のブログでもさんざん叩かれているように、法の作り方自体が下手だということではなく、どうも提案者の腹には、単にネット権の導入でなく、目指しているものが実は別のところにあるのではないかという、疑問がある。
 役人の性だが、ちょっと、次回はその裏を探ってみたい。(うまくいくかどうかは分からないが)

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