軍事評論家熊谷直の社会評論

アジアを中心にした社会・軍事の情勢やニュースの分析

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 南スーダンへの自衛隊PKO部隊の派遣が、実施の方向で準備に入った。アフリカでは過去に、平成6年に2ヶ月余行われたルワンダ難民救済のための自衛隊医療衛星関係者の活動があったことや、平成20年から昨年まで、国連のスーダンPKOの司令部要員として2名の陸上自衛官が派遣されていたことが、自衛隊PKOの活動としての歴史に残っている。スーダンは長い内戦を経て南部がキリスト教系黒人国家としてこの7月に独立したので、その国家建設を国連が支援している。北部はアラブ系であり、南北が対立するのは当然のことであったが、第二次大戦後の植民地独立のなかで資源を持つ南部がイスラム系の北部に取り込まれたことが、問題の発端になった。
  現在のところ約300人の陸自施設部隊を南スーダンの首都ジュバに派遣して道路建設などに携わらせることになっているが、現地が完全に平穏になったわけではなく、大型機が着陸できる飛行場がないことが派遣を難しくしている。ルワンダ難民救済のときも同じような問題があったが、飛行場と現地の輸送の問題は、南スーダンの場合よりは、距離が短かったのでどうにか解決された。しかし今度は、ケニアやウガンダといった隣国に航空自衛隊の輸送機の根拠地を置き、そこに日本から大型機や船で運ばれてきた人員と物資をまず集積する。そこから600キロメートルぐらい離れたジュバに、自衛隊の輸送機または地上の悪路で輸送することになる。そのためウガンダ国内での輸送であったルワンダ難民救済よりも、もっと条件が悪いことになる。
 自衛隊は半数が東日本大震災に動員されていた最中にも、中米カリブ海のハイチに約300人を派遣してハイチ地震の復興作業をしてきた。ようやく第5次隊が任務を終えて帰国したばかりであるが、次は南スーダンということになる。ハイチの任務は国際救援隊としてのものであり、警備をヨルダン軍が務めてくれた。しかし南スーダンへの派遣はPKOと呼ばれる平和維持軍の延長線上での行動であり、場合によっては反対勢力から攻撃される可能性もある種類のものである。同じような作業をしていても、二つの場合は意味が違う。ハイチの場合でも他国からみると軍隊である自衛隊の部隊が、自前の警備力を持たずにヨルダン軍に守ってもらうというのは、恥ずかしいことである。施設部隊は工兵隊であり、本質は戦闘部隊だからである。
 ましてPKO軍の一部として参加する南スーダンでは、最小限の自前の警備ができなければ、自衛隊が参加する意味がない。そのために武器の使用制限をゆるめ、他国のPKO軍が近くで行動していて攻撃されているようなときは、自発的に防御戦に参加できるようにする必要がある。それができなければ、国際的な信義に反する。またこれまでPKOに派遣された自衛隊の部隊が持参していた兵器や装備品は、法的に見て一時的に武器を輸出した形になっていた。そのため移動のためにややこしい手続きが必要になり、たとえば古くなったブルドーザーを現地に残しておいてほしいという現地政府の要望にこたえることもできなかった。
 世界の軍隊では常識になっていることが、自衛隊は憲法上の軍隊ではないという理由で、厳しく制限されてきた。そのために一緒に行動している他国の指揮官から白い目で見られたり、危険を感じても発砲できないという自衛官自身の身を守る行動にも制約が加えられていた。国内ではそれでよいとしても、紛争地ではその常識は通用しない。
 政府は問題点を改善する方向で動き出したが、政府だけでなく平和憲法絶対という護憲派の人々も、日本のためを思って危険な土地で行動している自衛官の心情に配慮して改善に賛成してほしい。積極的に行動することが戦争につながるというのであれば、自衛官は、国内でも防衛出動をして攻撃されたときに、戦争への事態の拡大を避けて、逃走することになりかねない。自衛官が心情的にそうではないことが、大震災での行動をはじめとしてこれまでのPKOへの派遣時の、彼らの行動に表れている。日本人は自衛隊を危険視するのではなく、自分たちのものとして信頼・信用すべきではないか。敗戦のトラウマから、抜け出すべき時期になっている。
 

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