軍事評論家熊谷直の社会評論

アジアを中心にした社会・軍事の情勢やニュースの分析

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 専門の軍事史の話題として沈没艦武蔵発見のニュースが飛び込んできたが、このような軍艦マニアが喜ぶ話題は、私はそれだけを取り上げるつもりはなく、ツィッターにひとこと触れるだけにしてしておいた。ただそれで思うのは、そのようなマニアは兵器の細かいことは、防衛庁で軍事史を講義した経験がある私などよりもよほど詳しく、細かいことはそれ専門のマニアに解説を撒かせておけばよいということを感じています。
 私は国家戦略や一般的な戦略・戦術については過去の戦史をまじえつつ指揮官・参謀養成のための講義をすることができ、防衛庁で教官を務めていたこともあって、英語で言うとプロフェッサーです。しかし個々の兵器の取り扱いについては、もし教壇に立つとすると少なくとも何日かの準備と専門的な実習が必要になる。つまり大学レベルと小学校低学年レベルの教育の内容程度は全く違うので、大学教授と名がつけば、あらゆることに精通しておりその方面の技術を含む専門家だと思うのは誤りだと言いたいのです。なお自分自身や指揮官・幕僚勤務仁造詣が深い仲間の能力、実績からみて、一般の管理者経験者、それも経営者の身内からの抜擢のような経験者や一般の先生職に比べて、若いときに数十人、数百人を動かしてきた自衛隊組織出身の管理者は、組織管理者としては優れていると考えています。これは戦争中に、海軍の二年現役経理部将校として組織管理の体験を積んだ人たちが、戦後の実業界などでも活躍している事実からも納得できると思います。
 群馬大学病院の手術の失敗は、一般の人の、大学の先生だからなんでも分かっているというような思い込みが起こした結果でしょう。それでいて病院内では細かい専門が決まっているので、担当者の手術の腕が小学校中学年担当並みであっても、手術だけはうまい後輩や他の専門分野の院長などが口を出すことはタブーというのが一般的な雰囲気ではないでしょうか。自分が何度も一応の大病院で手術をしてもらったり診察してもらったりした経験からも、そのように感じています。 それでいて一般の人は口コミでしか医師の評価ができないのが問題でしょう。
 同じことが私の専門の軍事部門でも言えます。今の日本では、政治家も含めて軍事は一般の人になじみがないものになっています。また軍事組織の専門分野が細かく枝分かれしているので、自衛隊の中でも、戦車について学んだことがあるジェットパイロットは珍しい存在です。その逆はいません。むしろ数は少ないにしても防衛省担当の新聞記者のほうが、浅くても広く防衛ニュースを扱っているので、戦車もジェット機も一応は知っているといえるかもしれません。防衛省の経験がある政治家や官僚なら、記者よりもよく知っているでしょう。しかしそのような人は一握りだけですし、中谷防衛大臣のようなどちらも知り尽くした政治家は稀です。
 そのうえ直接の戦闘部門で戦う自衛官は全体の1割前後で、多くは医事衛生、調達補給、整備や気象など、後方・支援的な配置で日常の勤務をしていたりします。私のように防衛大卒業後まもない若いころは第一線の指揮官勤務をしても、後半生の自衛官生活をプロフェッサーや教育管理者として送って来たものもいます。役人務めを主としたものもいます。もちろん90パーセント以上の自衛官は部隊の中下級勤務者として、それぞれの専門の分野で精進し、ときには必要な教育を受けながら、才能に応じてそれなりの役割を与えられて自衛隊生活を終えています。ただ年間数十発の小銃射撃をしたり体力検定受験を義務付けられている点が、一般の人と違います。
 そのような軍事専門家である私の目で見ると、兵器または戦力に関係する特殊な装備品の調達にまで、一円でも安くという入札を建前にしているのに違和感を覚えます。調達と政治の資金関係の問題から、入札制度がさらに厳格に推進されようとしている点は考え直してみるべきでしょう。ただし政治資金に化けないように。
 防衛省関係でも文房具や一般の糧食を厳格な入札にするのは当然でしょう。競争が成り立つからです。しかし敵よりも1パーセントでも高い性能を発揮できるような兵器部品を、特別の業者に発注したほうが国防の目的を達成できるのは、歴史が教えています。世界二番目ではどうしていけないのですかという、予算だけの問題ではありません。ゼロ戦(零戦)やレーダーがよい例です。もっとも大和や武蔵のように大艦絶対の海軍専門家集団が全体の雰囲気に流されて、改革ができずに無駄な支出をしたり、いつまでもゼロ戦にとらわれて失敗した教訓には学ばねばなりません。
 軍事的な理解が十分ではない国民の声を背景にして、政治家が選挙を気にして建前だけをいいたてると、国防はおかしなことになるでしょう。アメリカとの経済関係だけで安全保障に関係する政策が決められると、日本にとって大切な防衛力の整備がおろそかになりかねません。
 専門家とは何か、特に軍事の専門家とは何かを一般の人にも理解してもらうために、視座が違う多くのことを述べてきましたが、国会の安全保障問題の議論をするにあたって、この程度の軍事組織の基本を理解してからにしていただきたいと思うので、不十分ですが、あえて世間の話題まで持ち出していろいろと述べた次第です。
 
 
 

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