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今年の防衛大卒業者の任官辞退が昨年より22名多い47名であったことが問題になっている。安保関連の施策のせいだという人もいるが、自衛官が望んでいた改革が野党の反対で骨抜きにされたことを考えると、その影響は小さいだろう。外交政策のおかげでPKOなどのために現地に派遣されながら、目の前で日本人がゲリラに攻撃されていても救出のために銃を撃つことができないのは、これまでとほとんど変わらない。軍隊ではないので警察行動しかできないからだ。結局は指揮官が処罰されるのを覚悟して、命令ではなく指導的に「日本人を保護しよう」と呼びかけ、隊員がそれぞれの判断で射撃をするほかはない。突発的な事態発生の現場で、躊躇することはできないからだ。
野党が「安保法制は戦争法だ」といっているのは、自衛隊を不完全なものにすることを目的にしている左翼的な宣伝のためと言って差し支えあるまい。昭和34年に防大を卒業し幹部航空自衛官として当時1佐の定年であった55歳まで務めた経歴を持つ私は、入学時からずっと、国民に知られないところで日本の防衛のために励み粉骨砕身してきた経験をもっているのでそのように断言できる。そのような世間の無理解反応のおかげで、防大出にかぎらず自衛官は、常に自分の身を犠牲にする覚悟が必要になっているのである。現場でそのように教育されまた、後輩の部下を指導してきたおかげで、大震災のときも自分の家族がどうなっているのかわからないままに、個人的にたまたま濁流の中にいた下級の自衛官さえ、人々の救出のために行動したのである。ただこれは国内での行動であり、警察官や消防官と同じように国内保安任務としての働きをしただけであった。しかし国外で、場合によっては軍隊的に行動することを要求されるPKOなどの現場では、もう少し厳しいものを要求される。そのための精神教育が、防大では行われるべきだ。
問題は防衛大を普通の大学並みにすることだけに力を注ぎ、精神面の教育をなおざりにしてきたここ20年来の防衛省や防大の一部の役人や学者たちであろう。京都大学教授から招かれて就任した猪木正道校長時代に、文科系の学生を採用することを始めたが、当時助教授(準教授の2佐)としてこれに関わった私は、施策としては悪くなかったと思っている。防大発足以来このときまで、防大では理工学中心の教育が行われてきていたが、東京オリンピック後の学園紛争の中で、理工学重視の日本の大学の傾向は医学部重視に変わり、理工学系だけでは偏差値の高い学生を集めることが難しくなっていた。しかしこの施策で全体の一割強の文科系学生は、偏差値としては良好な質の学生になった。また文科系出身の高級官僚に対抗して予算など政策面で企画ができる自衛官を中央で服務させる必要性もあったので、それに応ずることもできた。そのような時流の中で自衛隊の医官不足に対応するため防衛医科大学校を発足させることも行われ、東大医学部に並ぶ偏差値の医学生を防衛庁で採用することも可能になった。昭和30年に入学した私の時代はまだ理工系全盛時代であったので、偏差値としても国立有名校に合格できる能力を持つ学生が一割以上いた。下限は岡山大や金沢大の平均的な学生程度であった。当時は戦死した軍人の子弟など経済的に問題があるため、進学の手段として防大を志望する学生も多かったので、偏差値としては優れたものが多かった。ついでに、今の受験生の中には偏差値的に防大などを志望できるかという疑問を持つ者がいるようだが、どうしてもというものは、理工系の地方国立大を目指して勉強すればよかろう。ただし成績が下のレベルだと入ってから苦労するし、自衛官としての出世も望めないことは覚悟しておくべきだろう。また防衛医大の医学生は原則として自衛官になるのであり、看護科は原則として技官として務めるものと、自衛官看護師として務めるものなどの区別があり4年制なので、6年制の医学生とは違うことを知って受験する必要がある。なお歯科医や薬剤師は別に一般から募集している。
こうして複雑な体系を持つ自衛隊内の学閥として、猪木以来の京大系と初代校長の槇以来の慶応が有力である。初期に多かった理工系の東大の伝統も残っている。平成19年から5年間、校長を務めた五百籏頭真は、学者として勤務したいという望みを口にして、猪木に押されるような形で校長に就任したので、学生の精神問題などに熱心ではなかったらしい。しかし事務方の要請で中途退学や任官辞退者からの学費返還(最高250万円)と6年間の服務の義務年限の設定に道をつけ平成26年度の入学生から実施することになったので、それを前にして任官辞退者が多くなったと考えられないでもない。五百籏頭時代に芽が出たと思われる学生の不祥事件(保険金詐取事件で当時10名が退校)の余波で、現在の慶応出身国分校長が振り回されたという推定もなりたつ。
従来、学生の任官辞退問題が、世間で大きく取り上げられたことは多い。国費で教育されながらなぜ任官しないのかという税金無駄遣い論者の発言である。しかし一般の大学生で無利子の奨学金を受け、さらに経済的な状態などから返還を免除されているものもいるので、防大だけが特別ではない。防大に入学してくる学生には、他の大学を受けたが不合格になり、たまたま合格した者が多い。そのような学生は最初から厳しい生活に耐えられず、最初の年に脱落していく。1室6人で自由が制限され、外出も制限され、起床から就寝までラッパの合図でする生活に耐えられないものは多い。その後も卒業だけはしたいと頑張って卒業したものの、自衛隊幹部として部下を引っ張っていく自信がなく、続く幹部候補生学校での1年足らずの修業中にやめる者もいる。そのような人物は、早い時期にやめるほうが自衛隊に悪い影響を与えなくて済む。どこかの会社で技術者として働けば、それなりに国防に貢献することもできるだろう。私の同期生で早い時期にやめたものも、普通の大学生活を送ったものよりもリーダーシップを身につけているのが普通なので、防大や自衛隊で得たものは大きいというべきだ。
卒業式の映像を見ると、髪をGIカットにしている学生がほとんどである。忙しい生活を送っているとこのほうが楽だ。自衛隊を見る目が変わったので世間の目を意識して髪形を変えたのであろう。私の学生時代には日曜の外出中にも制服で行動するように決められていたので、髪形は関係なかった。しかし私のように丸刈りにしている学生は全校で数名にすぎなかった。自衛隊が少しずつ社会に認知されたなという感じがしている。しかし学生ももう少し自分たちの精神鍛錬に目を向けてよいのではないかと思っている。同時に文官も自衛官も学校職員はすべて、学生を将校の卵を養成しているという自覚を持って自身の行動を律してほしいと思っている。
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