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当たり前の話だが、人間が生きていくためには、水が必要だ。スポーツや入浴などで汗をかいた後や暑い夏の日などは多量の水分が失われるので、すみやかに水分の補給が必要となるし、たとえ何もせずに生活していても、体の中の老廃物を外に出すために尿が作られ、体表などからも少しずつ水分は放出されるため、それに見合う分の水分の補給が必要だ。 最近では、水分を摂らずに長時間同じ姿勢でいると血管の中に血のかたまりができ、それが肺などに飛んでそこの血管をふさぎ重い症状を来たす、いわゆるエコノミークラス症候群になることが一般にもよく知られるようになり、国際線の飛行機の機内でもミネラルウオーターのボトルが配られる。また、毎日多めに水分を摂ることが、ダイエットや健康・美容の増進によいという考えが広まり、実際に毎日水をたくさん飲んでいるという人も多いのではないだろうか。 では水をたくさん飲めば飲むほど、健康や美容にはよいのだろうか。残念ながら話はそう単純ではない。生命の維持に不可欠で、無害なはずの水だが、多く飲みすぎると体には毒になってしまう。これは以前から統合失調症などで精神科で治療中の患者さんで時々みられていて、「水中毒」として知られている。僕も学生の頃この病名を初めて聞いた時は冗談かと思ったが、実際にあるのだ。 精神科で水中毒になる患者さんを実際に見ていると、とにかく水(水だけとは限らずジュースやコーラなども含む)を始終がぶ飲みしている。1日で体重が5キロも増えたりすることもあり、尿量を測定してみると、1日に10リットル(健康な人は大体1日1.5リットル程度)に及ぶことも珍しくない。尿がそんなに出るということは、それ以上の水分を1日で摂っているということになる。 水を飲みすぎても尿になるだけではないかとお思いの方もいるかも知れないが、腎臓が尿を作って排出する処理能力を超えて一気に水分を摂れば、血管内の水分が急に増えることになる。そうなると血液が薄まってしまい、これもまた生きていくために不可欠な血中の電解質のバランスが崩れてしまう。血管の中と外での電解質がアンバランスになると、両者のバランスをとろうとする働きで、血管の中から外へ水分が移動し、血管外にある細胞が水をどんどん吸い込んで膨れ上がってしまうことになる。 この現象が起こると、最初は体がむくんだり、何となくだるいといった症状しかないのだが、進行するにつれて精神状態が不安定となったり、悪心や嘔吐、けいれん発作、意識障害などの重い症状が出るようになり、早期に診断して適切な対応(水を制限し、電解質を含んだ点滴をして徐々に体液のバランスを元に戻す。意識障害やけいれんがあればそれらへの緊急の対処ももちろん必要)しなければ、死に至ることだってある。 ではこの水中毒、精神科の患者さんだけに特有のものかといえばそうではない。もともと健康な人でも、度を越して大量の水を一気に飲めば、誰でも水中毒になる可能性がある。今朝のテレビニュースで報じられていたが、アメリカで行われた「水の大飲みコンテスト」なる大会に出場した女性が、大会終了後に死亡したが、これも水中毒が原因だという。報道によれば、この女性は8リットルの水を短時間で、しかもトイレを我慢して飲んだと伝えられていて、排出を制限された状態で、大量の水が急激に体内に入り、一気に体液のバランスが崩れたものと思われる。 もちろんこれは極端な例であり、一般の人が欲求にまかせて一日に飲み続けられる水の量には限りがあるだろうから、水中毒になることを過度に心配することはないのだが、何ごともほどほどに、ということを常に忘れずに、自分に合った適切な水分量(体質や運動量などが個人個人で違うので、人と比較するものではない)を大体把握し、その範囲内で水を飲むように心がけたいものである。 話は多少それるが、同じようなことが、最近疲労回復に効果があるとされ、バーができたりコンビにでも買えたりする酸素でもいえる。確かに酸素を補給することで体は楽になるが、これも必要以上に吸入すれば、苦労せずとも体内に酸素が入ってくるので呼吸が抑制され、しだいに有害な二酸化炭素がたまってくるという弊害が出てくる。特に肺の機能が落ちたお年寄りや、タバコを多く吸う人の場合、重大な結果につながることもあり注意が必要だ。同じく体によいとされる健康食品などでも、多く摂りすぎて肝機能障害などの重い副作用が出たというケースもよくあり、やはり効果を過信することなく、適時適量を心がける必要があることをあらためて強調しておきたい。 尚、精神科の患者さんで水のがぶ飲みが生じた場合は、必ず水中毒というわけではなく、薬の副作用による口の渇きということもあるし、一部の抗精神病薬(主に統合失調症の治療に使われるが、その他の病気でも広く使われている)の副作用で糖尿病になることがあり、その場合も水をたくさん飲むという症状が出てくる。これらはそれぞれ対処の仕方も異なってくるので、水をたくさん飲む傾向が出てきた場合は、我慢することなく早めに医師に相談してほしい。
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