捜査員には「職業的勘と犯人逮捕」という、いわば本能がある。今述べた通りに仕掛けていれば、たった一人の岡村容疑者を取り逃がすことは絶対になかったと断言できる。「京都府警は何という腰ぬけ集団なんだ、誰1人として体を張る警察官はいないのか」と失礼ながらその技量を疑った。しかしそのあと、京都新聞に掲載された、向島東公園で捜査員達が岡村容疑者を説得している写真を見て、捜査員の行動が極めて鈍く、あくまで任意同行にこだわった理由が理解できた。京都府警の動きは京都新聞に筒抜けで、京都新聞の記者が捜査員の動きを逐一見守っていたのだ。捜査員が京都新聞の記者の存在をあらかじめしていたなら、つじつまはあう。マスコミのレンズにさらされながらの容疑者説得は、マスコミアレルギーの強い捜査員にとっては、恐ろしく不自由で、重たい鉄の足かせをはめられているようなものなのだ。 脱兎のごとく逃走への疑問午前11時50分、捜査員に説得されていた岡村容疑者は、突然、彼らを振り切り、向島東公園から逃げ出した。そして50分後の12時40分、近くにある14階建ての公営団地から転落して死亡した。当日の午後7時に山科警察署で行われた記者会見で、京都府警と記者団との一文一答が行われた。ご覧いただけばわかるように、府警の回答は全くもって呆れ果てた内容である。 ――死亡した男性は被疑者なのか。 「我々は被疑者という認識を持って捜査している」 ――被疑者死亡のまま書類送検か。 「所定の捜査をして事実を固めた上で、そうなると思います」――逮捕状を用意していたのか。 「任意同行の段階では用意していない。動機については捜査中である」 ――日野小学校と関連のある人物か。 「わからない」 ――これまでに捜査本部の人間が本人と接触をしたのか。 「全くありません」 ――いつ頃捜査線上に上がったのか。 「1月の末。現場の聞き込み、ビデオに映った男の調べ、遺留品の販売先での捜査などから、容疑性が高いと判断した」――決め手は何か。 「一つが決め手とは言えない。総合的に判断した」――リュックから見つかった文章の中身は。 「日野の事件をやったという趣旨が書かれているメモのたぐい数枚」 ――リュックはビデオに映っていたリュックと同じか。 「ビデオの写真のものとは種類が違う」 ――捜査員何人で任意同行を求めたか。 「19人。家宅捜索と本人への出頭要請、関係者からの事情聴取の人数を合わせた人数だ」 ――捜査令状の内容は。 「殺人と銃刀法違反である」 ――家宅捜索の状況は。 「午前11時7分から捜査開始」 ――逃走の状況は。 「200メートルほど尾行したが、見失った。周辺を捜査していた」 ――公園での説得は。 「午前8時20分から始め、11時50分に逃走した。本人がベンチに座り、捜査員2人が向かい合って話をした。2人のほか4人、計6人の捜査員が周辺にいた」 ――周辺とは。 「公園の中だ」 ――説得の状況について。 「10時半頃から母親が加わった。彼女はそれまで、捜査員から事情を聴かれていた。そこから公園に移った。母親は本人に『いって話をしなさい。信じている』。それに対し、本人は、『行かない』と繰り返した」――本人の経歴は。「申し上げられない」 ――日野小学校出身か。 「承知していない」 ――逃走する可能性は考えなかったのか。 「当然、心構えはしていた。やむを得なかったと思っている。粘り強く説得をしていた」――自転車の購入者が被疑者である可能性が高い根拠は。 「防犯登録の筆跡と捜査上で入手したものを照合して判断した」――逮捕状は請求したのか。 「午前11時31分に請求のため出発。午後零時45分に交付された」 ――被疑者の氏名は公表しないのか。 「逮捕状を執行していないから言えない」 ――任意同行の過程に問題はなかったのか。 「問題点はなかった。我々は最善を尽くした」 ――逮捕状請求した根拠は。 「午前11時7分からを本人の部屋を捜索する過程で、犯行を示唆するメモが見つかった。自転車を買った店で使った偽名が書かれていた」――どんなメモか。 「2、3枚の紙切れのようなものだ」 ――今後の捜査については。 「遺留品と被疑者の接点や小学校、殺された児童と被疑者の関わりなどの捜査を尽くしたい」 (『朝日新聞』2月6日付朝刊より) この記者の会見の席上、京都府警は次のように付け加えた。「岡村容疑者は、逃走の可能性も想定していたが、脱兎のごとく逃げ、あまりにも突然のことだったので(捜査員は)取り押さえられなかった」と「突然の逃走」を強調した。ところが、「たくさんの捜査員がいながら、なぜ逃走されたのか」と、その不甲斐なさをマスコミから責められると、後日になって、「所持していたナイフを抜き、逃走を図った」と不可能だったと言わんばかりに発表を訂正した。 しかし本来、刃物を振り回した段階で銃刀法違反が成立し、当然、公務執行妨害代として現行犯逮捕の要件を満たしているのだ。それを言い訳の材料にするのは、お笑いぐさである。さらに、凶悪事件の重要参考人が刃物を所持して逃走したのであれば、自傷他害防止直ちに緊急配備を実施し、管下一斉の検問、検索が行われるはずだ。ところが、その時緊急配備は発令されなかった。これは、捜査上考えられない事であり、「所持したナイフを抜き、逃走図った」という。警察発表そのものに強い疑いを感じざるを得ない。 次回は、容疑者を見失ったのはどこなのか(p52)
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連載 警察はなぜ堕落したのか
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