黒木昭雄の「たった一人の捜査本部」

小原勝幸を容疑者とするこの事件は、言いようのない不正義な社会構造を見せつける事になった。遺作小説『神様でも間違う』完成。

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凶悪犯『検挙率62%

監視カメラ捜査の落とし穴
凶悪犯『検挙率62%』
ここ最近、「殺人列島」とさえ思える凶悪事件が相次ぎ、島根女子大生殺害事件も未解決のまま年の瀬を迎えそうだ。〈2009年12月20日サンデー毎日〉
そうした中、警察 OB は「警察の力が落ちている」と警告する。
一体、なぜか――。

島根県立大1年平岡都さん(当時19歳)が広島県内の山中で無残なバラバラ遺体で見つかった殺人事件死体遺棄事件――。平岡さんのものとみられる黒いスニーカーのような厚底の靴が11月30日、発見され、新たな局面を迎えている。
靴の発見場所は、平岡さんの自宅女子寮から数百メートルの地点。アルバイト先からの帰宅路(約2キロ)と交わる測道の側溝の中だった。島根県警などによると、靴に落葉があまりかかっていなかったことなどから、平岡さんが行方不明になった10月26日頃でなく、最近になって靴が置かれた可能性が高いとみられている。「平岡さんが防犯カメラに最後に写っていた際に履いていた靴とよく似ている。ただ、靴下を履いていると、靴からのDNA採取は難しそうです。(県警関係者)事件発覚から1ヶ月を経過したが、捜査は難航している模様だ。行方不明になった当日の帰宅ルートすら確定されていない。連れ去りの現場も不明のままだ。有力な目撃証言を掘り起こせていないうえ、ショッピングセンターから約500メートルのコンビニ店など、周囲に設置された複数の監視カメラにも、平岡さんは映っていなかった。
「平岡さんがカメラに映っていたのは、アルバイト先のショッピングセンター付近の1ヶ所だけ。それがそうそう難航させているとの声もある」(捜査関係者)

こうした「監視カメラ」は、最近の捜査になくてはならない存在になっているのだ。元警視庁巡査部長のジャーナリストの黒木昭雄氏が、バスサリ切り捨てる。
「昨今の刑事警察の捜査が、街中に溢れる監視カメラ抜きでは成り立たないことが、島根の事件を通してよく理解できます。監視カメラはたしかに犯人逮捕の有力な武器ですが、その反面、刑事の足腰を弱めていることは否めないのです」交番勤務の警察官らが、担当地域の過程や企業などを訪問することで、犯罪の予防、住民からの意見聴取を行う「巡回連絡」 ――これが軽視されるようになったことで、結果として監視カメラに依存し、捜査能力まで劣化した、というのは黒木氏の見方だ。黒木氏によると、「巡回連絡」は「職務質問」と並ぶ地域警察の二本柱。いわば「守り」と「攻め」だ。だが、検挙に直結することがある「職務質問」がより重視されることで、「巡回連絡」というもう1本の柱が崩れ始めていると言うわけだ。
「かつては巡回連絡によって地域のデータベースを構築していました。ところが、『検挙が最優先だ』と上から進軍ラッパを鳴らされる現場の警察官は職質に力を入れる一方で、巡回連絡を手抜きするようになる。そうなれば、巡回連絡で気づいたデータベースがどんどんやせ細り、身近な情報も入らなくなる」(黒木氏)

「監視カメラがネットワーク化」
その隙間を埋めたのが監視カメラ、と言うわけだ。『警察白書』(09年版)によると、刑法犯のうち重要犯罪(殺人、強盗、放火、強姦、略取誘拐・人身売買、強制わいせつ)の犯人検挙率は、08年で62.6%。10年前(1999年)から8.9ポイント下落しているとはいえ、50.2%まで落ち込んだ02年からは上昇傾向にあり、10年間の数字は緩やかなV字曲線を描く。ちなみに、08年では殺人が検挙率95.4%、強盗61.1%、放火74%、強姦83.8%、略取誘拐・人身売買91%、強制わいせつ50%「強姦を除き、10年前よりも最大13.4ポイントの下落だ。ここ4,5年の凶悪犯検挙の緩やかな「V字回復」に「監視カメラ網」が一助となっていることは間違いないだろう。何といっても、監視カメラは繁華街や空港・駅構内、コンビニ店、まで広まり、さらには今までは「死角」だった列車内や住宅街にまで「増殖」しつつあるからだ。では、日本国内にどれだけの監視カメラが設置されているのだろうか。じつわ、統計資料がなく、設置台数は不明だ。増殖し続ける監視カメラに異議を訴える「監視社会を拒否する会」共同代表で、上智大文学部新聞学科教授、田島泰彦氏は「数万台から数十万台」と推測する。田島氏が語る。「今後、該当の監視カメラがオンラインで警察と繋がり、カメラ網がネットワーク化される可能性が濃厚なのです。警察があらかじめ登録した手配犯などの顔をデータと合致する人物かどうかをカメラのネットワークで自動照合し、ヒットすれば警察に知らせる顔認証システムです。警視庁がテロ対策として導入を検討しています」
そうなれば「人間 N システム」とでもいうべき監視網が完成することになる。そもそも、公共空間を無差別に撮影する監視カメラ自体が、「プライバシーや肖像権の侵害に当たる」(田島氏)との指摘もあるだけに、ネットワーク化は大いに議論が必要だ。ともあれ、監視カメラの増殖が刑事警察に与える−を指摘するのは、前出の黒木氏だけではない。別の警察 OB も憂い顔でこう話す。
「取調べで黙秘されれば裁判で思わぬ苦境に立たされる。科学捜査に熱心なのは結構だが、取調べや聞き込みテクニックの教育・継承に失敗を繰り返してきたのが、昨今の警察組織なのです。捜査とは最後人間対人間の勝負。顔認識システムなどハイテク機器に依存体質が強まり、デカの基礎体力が落ちてしまうのではないかと不安です」
英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん(当時22歳)殺害事件で、死体遺棄・殺人容疑などで逮捕された。市橋達也容疑者(30)は、12月4日現在も黙秘のままだ。「最近では雑談にも応じなくなり、我慢比べの様相です。かつてなら、落としの神様と言われるベテランがいたものですが、今回はそういう存在が聞こえてこない」(別の捜査関係者)

監視カメラの大増殖でもたらされた捜査の「落とし穴」は、かなり深そうだ。
本誌・徳丸威一郎〈2009年12月20日サンデー毎日〉

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