黒木昭雄の「たった一人の捜査本部」

小原勝幸を容疑者とするこの事件は、言いようのない不正義な社会構造を見せつける事になった。遺作小説『神様でも間違う』完成。

連載 警察はなぜ堕落したのか

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警察は飛び降りの瞬間を目撃していた
(p60)

 以上が私の推理である。京都府警もここまで詳細には発表していない。しかし、京都府警が岡
村容疑者を見失ったと発表するあやふやな部分にこの推理をあてはめると、「なるほど」とうな
ずけるにちがいない。
 しかし、あれだけ発表内容が変わっているにもかかわらず、京都府警は一貫して「捜査員は飛
び降りの瞬間を見ていなかった」と主張している。それは「真実であるから」ということではな
く、「見ていなかった=追いつめなかった」というウソを糊塗するために、京都府警はつじっま
合わせのウソを繰り返したのだろう。つまり京都府警は、岡村容疑者は捜査員に追いつめられて
死んだのではない、と言いたいだけなのだ。
 この推理を裏づけるためには、まず岡村容疑者を見失ったあとの捜査員の配置状況がポイント
になる。私はそれを確認するために、岡村容疑者が死亡した十四階建て公団住宅の住民に聞き込
みを開始した。その結果、最終的に岡村容疑者を挟み撃ちにしたと推測される高所配置員の存在
を、十三階に居住する主婦の証言から確認することができた。
「あれはお昼すぎでした。洗濯物を取り込もうとして窓をあけたら、三十歳くらいの男の人が真
っ青な顔でハーハ一つて息を弾ませて、下のほうをキョロキョロ見てたんです。あれはやっばり
刑事さんだったんですね」
 この証言は、当日の正午すぎには、すでに十四階建て公団住宅に捜査員が配置されていたこと
を裏づけるものだ。
 京都府警は「岡村容疑者が飛び降りる十分前に捜査員が屋上に居る岡村容疑者を発見した」と
二月十七日に訂正しているが、このときの捜査員の数が、なぜか四名なのだ。
 つまり、岡村容疑者の最後を見届けた四人とは、ごみ集積所で岡村容疑者を発見し、階段を追
跡した捜査員一名と、近商ストアから追跡を開始した捜査員二名、そしてあらかじめ高所配置と
して公団住宅の上階にいた捜査員一名だ。警察の 「報告癖」から考えても、この人数は実際に追跡した捜査員の数にもとづいて発表したと考えられる。
 さらに、こんなことも明らかになった。「十二時四十分ごろ、ドスーンつて音がしたので、少ししてから窓をあけると、上のほうから人の話し声が聞こえてきたんです。そして近所の奥さんが『また飛び込みよー』 っていうので、吹き抜けの下を見ると人が倒れていたんです。でも、そのときはすでに灰色っぼいシートで覆われていて、足しか見えませんでした」
 この証言によって挟み撃ちにした捜査員の存在はもちろんのこと、岡村容疑者の遺体をシートで包んだ手まわしのよさが明らかになった。
 そう、捜査員たちは岡村容疑者が転落する可能性を知っていたのであり、その一部始終を目撃
していたのだ。

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