黒木昭雄の「たった一人の捜査本部」

小原勝幸を容疑者とするこの事件は、言いようのない不正義な社会構造を見せつける事になった。遺作小説『神様でも間違う』完成。

連載 警察はなぜ堕落したのか

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きれいにそろえられていた靴の謎
(p62)

 また京都府警は岡村容疑者の転落の瞬間を目撃していないと主張しているにもかかわらず、それが「自殺である」と主張している。そのいい加減さについて検証する。

 まず、岡村容疑者がビルから転落して自殺したというと、真っ先に思い浮かぶのは「飛び降り」である。しかし、仮に一般的な飛び降り自殺の方法で岡村容疑者が自殺を図ったとすると、岡村容疑者の遺体の位置や状況は、それを裏づけるどころか、むしろ否定するものになる。

 私はあらゆる可能性を考えて検証してみた。まず、京都府警が事件当日に発表した「十三階」という可能性である。とりあえず私は、十三階の白殺現場とされていたところをくまなく見分したが、岡村容疑者が飛び降りた痕跡はなかった。それどころか、自殺する気であれば、十三階でなくてもよい。しかし、なぜ京都府警は当初、十三階という発表をしたのか。

 事件発生当ロの記者会見では、マスコミに配られた報道資料に「飛び降り現場は、屋上」と書かれていたにもかかわらず、中倉捜査一課長は飛び降り現場は十三階と口頭で訂正している。二月十七日の記者会見では一転して、「その後の鑑識の調べで、屋上に足跡とナイフが発見されたので、飛び降り現場は屋上と断定した」と三たび飛び降り場所を変更しているが、当初、飛び降り現場を十三階と発表した理出については、「十三階で足跡が途切れていたので、十三階から飛び降りたと発表した」と、なんともあやふやで、歯切れが悪い。

 じつは、事件当ロ、京都府警が飛び降り自殺の現場を十三階であると断定した際、まさにこれから白殺しようとするかのように左右がきれいにそろえられた岡村容疑者の靴が十三階部分にあったと、ご丁寧にも写真付きで発表している。おそらくこれが、京都府警の言うところの「十三階説」の根拠なのだろう。

 しかし、捜査員に追いつめられている岡村容疑者が靴を脱いだときの状況を考えると、両方の靴をきれいに並べている余裕などあるはずがない。事件後すみやかに何者かによって現場が変更された可能性が考えられるが、もし、仮に岡村容疑者が靴を並べたとしても、それは十三階ではない。

 それは私と同行取材をした週刊朝日の山ロ一臣記者によって暴かれた。写真の信憑性に疑問を持った彼は、問題の現場写真を撮影した共同通信社の記者にこう尋ねた。「間違いなく十三階だったのですね?」

 すると驚くべき返事が返ってきたのだ。「すべてのネガを確認したら、十一階を示す階段の踊り場が写っています」

 この岡村容疑者の靴の写真は「寄り」と「引き」の二種類があったのだが、「引き」の写真は建物全体が写されている。この写真に写された岡村容疑者の靴がある踊り場は、下から数えていくと十一階部分だったのだ。

 当日の京都府警は、左右がきれいにそろえられた靴の「寄り」の写真に十三階という説明をつけ、自分たちの発表の信憑性を強めるように「よけい」な努力をしたわけだ。「白殺者は身支度してから死ぬ」という先入観を利用し、国民を映像的に信じ込ませようとしたのだろうか。

 京都府警がみずから撤回したとおり「十三階説」の根拠はボロボロだ。

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