黒木昭雄の「たった一人の捜査本部」

小原勝幸を容疑者とするこの事件は、言いようのない不正義な社会構造を見せつける事になった。遺作小説『神様でも間違う』完成。

連載 警察はなぜ堕落したのか

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屋上からの飛び降りはあり得ない
(p64)

 つづいて、京都府警がいまもなお主張している「屋上説」だ。

 まず、十四階から屋上までの階段は、完全に閉鎖されていて上がることはできないが、仮に岡村容疑者が屋上に上がることができたとして、広い屋上のどの部分から飛び降りれば、遺体が横たわる落下地点に到達することができるのだろうか。テレビ東京の『ニュースアイ』という番組の協力で日本住宅公団に析衝し、許可を得てはじめて実際に屋上に上がることができた。

 遺体が横たわっていた真上からシミュレーションしてみる。しかし、ここからも不可能だ。各階の踊り場に跳ね上げ式の小窓があり、岡村容疑者が飛び降りた当日もすべて開いていた。ここから落下した場合、この小窓が障害となるが、小窓には岡村容疑者が衝突した痕跡がまったくないのだ。しかも、頭が壁際に位置し、仰向けで落下しなくてはいけない。この位置から飛び降りたとは考えられない。

 それだけではない。遺体の状況も、岡村容疑者が屋上から飛び降りた可能性を否定しているのだ。『ニュースアイ』を制作しているプロダクションの人が、元東京都監察医務院院長の上野正彦氏に尋ねた。上野氏の答えはこうだった。

「検死報告書がない状況ですが、屋上から飛び降りたなら、まず大腿部が骨折し、骨盤が外れ、しかも肋骨が折れるでしょう。つまり、地上に突き刺さるように『べちやっ』と押しつぶされるのです」

 しかし、目撃者の証言では、岡村容疑者の遺体は「押しつぶされた、というよりも、両足を広げ、天を仰いで横たわっていた」という。

 つまり、京都府警の発表する「岡村容疑者はみずから屋上から飛び降りた」という可能性もゼロに近いのだ。

 他の階も十三階と同様に、岡村容疑者が壁際に沿って仰向けで落ちることが可能な場所は見当たらないが、じつは十四階部分だけはそれが可能な、他の階とちがった特徴がある。

 前述した「忍び返し」の存在だ。手すりから雨どい、さらに外側にせりだした「忍び返し」までの距離は七十センチほどで、岡村容疑者の身長は約百六十センチだ。雨どいを登り、外側にせりだした「忍び返し」を越えようとすると、自然に仰向けになる。したがって「忍び返し」を越えようとして失敗すれば、間違いなく仰向けの状態で転落することになる。

 そこで遺体転落現場とまったく同じサイズの踊り場で検証してみた。中廊下の手すりから忍び返しの先端までの約七十センチに岡村容疑者の身長分を足すと、そこはほぼ遺体転落現場の中心に位置することがわかった。
しかも、頭部は階段踊り場の壁際になり、仰向けの状態になる。じつに単純な検証ではあったが、この方法であれば岡村容疑者の遺体状況に説得力を待たせることができたのである。

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