黒木昭雄の「たった一人の捜査本部」

小原勝幸を容疑者とするこの事件は、言いようのない不正義な社会構造を見せつける事になった。遺作小説『神様でも間違う』完成。

連載 警察はなぜ堕落したのか

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京都府警の二つの大ウソ
(p67)



 私の推理が正しいとすれば、岡村容疑者の死と捜査員の追跡とのあいだには因果関係が発生する。そのことを追及されるのを恐れた京都府警は、最後まで「捜査員は飛び降りの瞬間を見ていなかった」と事実を否定しているのだろう。

また、仮に私の推測が誤りならば、京都府警は納得できる事実を発表するべきである。まあ、どっちに転んだところで、この状況では国民に信頼される警察とはほど遠い存在であることは間違いない。これだけの疑惑を残した発表はヽ警察は保身しか考えていないということを物語っているからだ。

 しかし、なぜ私がここまで辛辣な表現を使うかというと、岡村容疑者の死に関連して京都府警が二つの大きな問違いを犯したからだ。

 一つは当然、岡村容疑者を死亡させたことだ。

警察のミスによって岡村容疑者を死なせなければ、事件の解明はできたはずだ。それらは膨大な資料となって残り、神戸の連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇聖斗事件)と並んで、今後、第三の若者による猟奇殺人事件を未然に防ぐ材科になり得た可能性が高い。

 さらに、京都府警が容疑者を死亡させた事実を隠すために、実況見分の「偽造」をおこなった可能性が高いということだ。

それは、調書作成という司法制度を拒う一機関としての警察の存在意義が問われる重大な問題だ。鑑識技術がいかに向上しようとも、実況見分にウソがあったのでは話にならない。

実況見分の捏造は直接、裁判にも犬きく影響し、日本の司法制度そのものを危うくしかねないのだ。「屋上からの自殺説」を補強するために、機動鑑識に屋上で作業をさせた行為(風雪にさらされる場所であるから、真っ先に見分してしかるべきなのに、屋上の実況見分が開始されたのは、容疑者の飛び降りから三時間二十分もたった午後四時であった)は、むしろ岡村容疑者を死に追いやったことよりも責任は重いかもしれない。


 警察は、岡村容疑者の死から時がたてば国民の関心は薄まり、やがてなくなるとタカをくくって、いっさいのアクションを起こさず、ひたすら首をすくめているのだろうか。
しかし、被疑者が死亡し、本件の公判がなくなった以上、つねづね警察が使う「捜査上の秘密」という言い訳は通用しない。

 容疑者の死亡という最悪の事態で幕をおろしたこの事件も、いくつもの疑惑を抱えながら風化の道をたどっていったが、それは国民が許したのではなく、あまりにも警察不祥事が頻発するためにマスコミ的に薄れてしまっただけだ。この事件に関して、京都府警本部と警察庁の責任が消えてなくなったわけではない。

 私の質問に答えた京都府警の広報担当者は、目を潤ませ、かすれた声で、「真実はただ一つです」と辛うじて話すだけだった。

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