私が山口県警に重大な判断ミスがあったと思いはじめたきっかけは、つぎのシーンだった。山□県の下松サービスエリア付近で「徐行」するバスから一人の男性乗客が飛び降り、捜査員に抱きかかえられるようにして保護されたことは読者も記憶にあるだろう(この直後に女性の乗客がふたたび剌されて致命傷を負った)。 私はこのシーンをテレビで見ながら、山□県警はなぜ、この下松サービスエリア(山ロ県警管轄)で、広島県警が小谷サービスエリアでおこなったのと同様の措置(バスを停車させて人質の救出をはかる)をとらなかったのだろうかと不審に思っていた。 すると、山口県警に勤務する私の古くからの友人A氏から連絡があった。(下松サービスェリアでの)山口県警の対応によっては、(死者を出すとぃう)最悪の惨事は避けられたかもしれない」というのだ。 私はA氏に会うため急遽、山□県に飛び、説明を受けながら現場を踏査した。 結論から言うと、山口県警のとった捜査手法には明らかに判断ミスがあった。 県警発表にもとづいて、ある新聞はこんな報道をした。 「バスが乗っ取られた九州白動車道の福岡県・太宰府インターチェンジから、いったん停車した(広島県)山陽自動車道の奥屋パーキングエリアまで三〇〇キロ余り。すべてのカーテンを閉め切ったバスは、徐行したり全速力で走ったりしながら、止めようとして並んだ警察のパトカーを突破した」 (『朝日新聞』束京版、五月四日付朝刊) つまりこの報道では、「突破」されたのが山□県警の阻止線だということを言っているのだが、山口県警の現職警察官であるA氏が怒りに震えながら、こう反論した。 「下松サービスエリアヘの進人路(流入車線)で、バスはいったん完全に停止した。 本部からの無線で車内に重傷者がいるとの情報が入っていたので、現場は緊張するとともに、負傷者救出のための完璧な態勢を敷いた。ところが、県警幹部は現場の意見を聞かず、独断で封鎖解除を決定し、犯人逮捕の難問を広島県警に押しつけただけ。人質款出の使命感に燃えていた現場捜査官には、信じがたい事態だった……」 「『現場無視』がまたもや繰り返された」A氏の話を耳にした私は、警視庁勤務時代の経験から、彼の無念さが痛いほど理解できた。「そうだったのか」やりきれぬ感情を私は抑えることができなかった。 A氏の説明によると、当日、下松サービスエリア付近には緊急配備された捜査員四十六人、パトカー十四台が集結し、そのうち七台のパトカーによる阻止線をつくっていた。 (図を参照) 山口県警下松警察署の署長および刑事官(刑事課長)が現場の指揮をとっていたが、県警本部の指揮室に陣取った杉江宏亮刑事部長が現場の頭越しに、突如「封鎖解除」を無線で伝えてきたというのだ。 A氏の証言でいちばん重要なのは、「徐行したがそのまま通過した」とされたバスが、実 際は本線から離脱して、下松サービスエリアの流入車線上に「完全に停止していた」とい うことだ。それが事実なら、先の警察発表にもとづく新聞報道はすべて誤報だったことに なり、山口県警に重大な「惰報操作」の疑惑が浮上することになる。 私はさっそく山□県警本部広報室の中津利幸室長に面会を求めた。中津室長は広報資料 を見ながら、悪びれるふうもなく、こう説明した。 「バスの前に一般車輛もいたので、渋滞に近い感じで滅速しましたが、完全停止ではないですよ、進入路に入った事実もありませんね」 当然だが、新聞報道とまったく同じ回答だった。しかし現地周辺を取材してみると、この説明がデタラメであることがわかった。 「ええ、パトカーに先導されるかたちでバスが進入路に入ったところで、五分くらいですが、ここから見るとバスとパトカーがにらみ合うように停車していました」 当日、下松サービスエリアに居合わせた目撃者の証言だ。さらにバスに乗り合わせた男性乗客の一人(七土二歳)もこう断言する。 「サービスエリアが近づいて、パトカーと警察官の姿が見えたので、『ああ、これで助かる』と思ったのをはっきり覚えている。バスが停車したのは二上二分くらいだった。ところが、すぐに封鎖が解除され、バスが動きだしたので、『簡単に(封鎖を)あけよるな』と失望しました」 |
連載 警察はなぜ堕落したのか
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