黒木昭雄の「たった一人の捜査本部」

小原勝幸を容疑者とするこの事件は、言いようのない不正義な社会構造を見せつける事になった。遺作小説『神様でも間違う』完成。

連載 警察はなぜ堕落したのか

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5 名古屋五千万円恐喝事件
 事件への対応を遅らせた真相は何か

 学校の責任

 p83-85



 中学生の五千万円恐喝事件? ウソだろ、五万円の間違いじゃないか。私はこの事件報道を耳にしたとき、驚くよりまず素直にそれを信じることができなかった。これは何かの間違いだと否定する気持ちの根拠は、「中学生がどうやって五千万円もの金を手に入れたんだ?」という、誰もが感じる疑問だった。

 しかし、その後のマスコミ報道によって事件の全容が明らかになるにつれ、被害金額こそ「目玉が飛びだす」ほどのものだが、そのメカニズムは「いじめの変化球」程度のことで、よくあるワルガキの恐喝集金システムと大差ないことがわかった。

 しかしそれにしても、五千万円という被害金額は少年犯罪史上、空前の高額被害にちがいない。
これだけは事件の全容が判明した今でも驚きである。

 さて、この事件もご多分にもれず警察の対応に落ち度があったことが問題となった。被害少年の母親が警察に相談に行っても、所轄の愛知県警緑(みどり)警察署に相手にされず、門前払いをくわされていたというのだ。

 事件捜査に手落ちがあれば、マスコミから警察が集中攻撃を受けるのは、もはやあたりまえのことになっている。新聞やテレビはこぞって問題点を指摘しつつ、「またもや不祥事か」と騒ぎたてた。たしかに、緑警察署が「民事不介入」の原則を盾に腰が重かったという点では、埼玉県警の「桶川ストーカー殺人事件」や栃木県警の「リンチ殺人事件」と共通する部分がある。しかし、愛知県警の肩をもつわけではないが、これらの事件とこの「名古屋五千万円恐喝事件」を同列に扱うのは、ちょっと酷ではないかと思う。

 この事件が埼玉や栃木の事件と明らかに一線を画するのは、学校を舞台に起きた事件であるという点だ。つまり被害少年と加害者側のリーダー格の少年は同じ中学に通う生徒だった。息子が恐喝されているという事実を知った被害少年の母親はまず、学校に相談に行ったという。

 元警察官の立場から言わせてもらえば、これはきわめて重要なポイントである。

 そもそも少年同士(とくに中学生)の恐喝は、「いじめ」から発展したケースがほとんどといっていい。しかも、警察が「門前払いした」といわれる時点では、まだ被害金額の全貌が明らかになっていなかった。

 世間には「警察沙汰」という言葉がある。これは少年法とのからみもあって微妙だが、まさに警察が介入した瞬間、子供の非行やいじめは「警察沙汰」になってしまう。もちろん、目の前の犯罪の事実を見逃すわけにはいかない。しかし、たとえ警察官でも、些細な金銭上のトラブルならなにも警察沙汰にすることはあるまいと考えるのが人情だ。まして舞台が中学校ということであれば、第一義的には、学校で問題解決をはかってほしいと願うだろう。

 にもかかわらず学校は、被害者側からの相談をまるで疫病神のように扱い、警察に責任を転嫁した。もちろん、その後の経緯や最終的な処理の方法など、愛知県警にも批判されてしかるべき部分はあるが、当時のマスコミ報道には「学校の責任」という視点が抜け落ちていたので、ここであえて指摘しておきたい。




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