p85-86 さて、恐喝事件のきっかけは、平成十一年六月一日から三日にかけておこなわれた名古屋市緑区扇台中学校三年生の修学旅行先での、わずかなトラブルだった。 被害少年がリーダー格のA少年の帽子に誤ってジュースをこぼしてしまった。これに腹を立てたA少年は、「帽子に染みがついた、どうしてくれるんだ」と、被害少年にすごみながら言いがかりをつけ、六月二十一日にまんまと現金十九万円を脅し取った。その後も暴行・脅迫が恒常的に繰り返され(七十〜八十回)、最終的に被害総額は五千万円に達した。 A少年は会杜員の父親と当時看護婦をしていた母親、そして姉の四人家族である。幼少の一時期、祖父母と同居していたことがあり、甘えん坊の「おばあちゃん子」だったという。小学生のころはクラスの人気者で、「将来、日本一のお笑い芸人になる」と卒業文集に夢を書きしるしている。その後、生徒数が一千人を超すマンモス中学校に進み、少しずつ荒んだ生活を送るようになる。 校内で携帯電話を使い、人前でわざとタバコを吸うなど人目を引く行為に走るが相手にされず、徐々に浮いた存在となり、粗暴な言動が目立つようになっていく。結局、遅刻、喧嘩、万引き、不登校を繰り返し、暴力がエスカレートし、弱者を対象とした恐喝行為をおこなう厄介者に転落していった。 一方、被害少年は母親と姉の三人暮らしである。父親が三年前に亡くなり、現在は母親がパートタイムで働いて生活を支えている。明るい性格で、笑った顔が物まね芸で人気のグッチ裕三に似ていることから、被害少年は「グッチ」と呼ばれ、友だちに親しまれていた。また今回の被害金となった約五千万円は、三年前に亡くなった父親の保険金や、母親が親類から借金をして息子を守るために用意したものだった。 |

- >
- 芸術と人文
- >
- 文学
- >
- ノンフィクション、エッセイ




