p97-100 事件のほとぼりが冷めた七月、私は「油揚げをさらわれた」緑警察署を訪れた。 応対してくれたのは副署長の吉見民也警視だった。 当初、けげんな表情をしていたが、水を向けると、しだいに口が滑らかになっていった。 以下は、私の質問に答えた副署長の本音だ。 --じつは今回の五千万円恐喝事件で、いくつか知りたいことがあるんです。 まず第一に今回の事件を解決に導いた、暴力団組長の息子のK氏の位置付けなんですが、報道によると「警察と学校が見捨てた被害少年を彼らが救った」という美談になっていますが、どうも当時の状況から推測すると、何か裏があるような気がするのですが、警察では何かその辺を把握していませんか。 吉見副署長は笑いながら答えた。 「その辺の証拠はないんですが、どうも彼のやり□は素人じゃないんだよね。 まるで警察の書類とくに金品の押収品目録のような形式で、訂正箇所に指印させてるでしょ。 その辺が説得力あるし、ふつうじゃないんですよ。 先を読んでいた可能性は否定できないんですが、ただ、A少年の親は、今でも『K氏から脅迫された』とは言っていないんですよ。 しかし、積極的に加害者側から警察に事実の申し出があったというのも、ちょっとおかしいですよね。 K氏らは、結構乱暴な口調で押しかけたらしいから、何か(恐怖)を感じてはいたでしょうがね……。 今となってはなんとも言えないんですよ」 --警察の捜査が鈍った原因はなんだったと思いますか。 「まあ、こちらもいろいろ事情があるのですが、結局、何を言っても言い訳にしかならないですし……」 --私も警察に長いこといましたから、経験上わかりますが、同一の学校内での出来事であれば、まず第一義的には学校側がしっかりと全体を把握して、それでもラチがあかなければ警察に帽談するのが筋だと思うのですが、それって事実の隠蔽ではないと思うんですよね(と水を向けた)。 私もそう思いますよ、以前はそれがあたりまえだったですからね。 先生が両方の親を呼んで事実の確認ができて、被害金品の返還ができれば、無理に事件にしたくないでしょう。 まして、相手は少年で、子供同士、毎日顔を合わせるんだから、学校のなかで噂が飛んだりすれば、それだけで、他の子供たちにいい影響はないでしょう。 いわばそれこそ内々のことですから……もっとも、それもケースバイケースですがね」 --なるほど……。しかし、いきなり本部から連絡がはいった? 「そうなんです。こっちだってやる気は十分にありましたよ」 --以前、署長がマスコミにコメントしてましたよね、「トンビに油揚げさらわれた」って。 あれは本当ですか。 「(笑いながら)そうなんですけど、しかしあれを週刊誌に書かれちゃって、まいりましたよ。 でも、正直言って、あれはホンネだったと思います。 本来、当署が中心になって捜査を進めるはずだったのが、結局は他署の応援をする側にまわった…… 悔しいですよ」 その後、吉見氏からこう聞かれた。 「黒木さん、今の警察不祥事は、いったい何が原因だと思いますか?」 私がこの本で主張したような持論を展開すると、彼は聞き入っていた。 たしかに、警察の不手際はいくつもあったが、少なくともこの事件は、栃木、桶川などと同列に扱っては警察問題の本質を見失うと、あらためて思った。 事件そのものは重大だが、警察は被害者からの再三の要請を無視したわけではなかった。 被害金額が最終的に五千万円に膨れあがったことと、マスコミの警察バッシングの波に乗って一連の警察不祥事と同列に報道されたことが背景にあったといえるだろう。 そして、誰も指摘しないが、私は被害少年の母親にも責任があると思う。 「お金がなくなったら子供を道連れに……」という涙ぐましい記事を目にし、母親を責めるには忍びないと承知しているが、しかし、この母親はあまりにも弱すぎた。 カネを払いつづけることよりも、子供といっしょに戦ってほしかった。そう強く思ったしだいだ。 |

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