p101-106
制服の話が出たついでに、警察官の制服について少しふれてみる。 一説によると、現在使用されている制服は、ある一流女性デザイナーによってデザインされ たものだというが、現場の警察官には評判がよくない。 上着の裾近くにあるポケットから拳銃と所轄系無線機をだらしなく外側に出すというそのスタイ ルが不評の理由だ。本来ならば拳銃は右の腰付近に着装するのだが、新しいスタイルだと、 どうしても前方に拳銃が移動してしまい、現場で働く者にとっては機能的でなく、窮屈このうえ ない。 また従来の拳銃の着装方法では直接腰に巻きつける帯革に補助帯革と呼ばれる追い革が 背後からクロスして拳銃の重さを軽減していたのだが、現在の着装方法にはそれがないため 、長時間の勤務で腰痛障害を起こす警察官も少なくないという。 しかし、日ごろ拳銃を着装しない事務職、つまり管理部門に勤務する者のあいだでは、この 制服はなかなかに評判がいい。ワイシャツに階級章をつけることが許されたので、その格好で の勤務が可能になったからだ。また、制服のデザインが以前のように暗いイメージではなくなっ たという意見もある。 とまあ、新しい制服に関しては賛否両論なのだが、それにしても評判のよかった「ニューナン ブ」をS&Wに変更してまでなぜ制服を変える必要があったのだろう。 聞くところによると、平成になってお目見えした現在の制服は、そもそも拳銃を外部に見せな いという発想からデザインされたというのだ。イギリスの王宮を守る警察官を例にとり、「拳銃を 外部から見えるように着装していては、近代国家における民主警察の名に恥じる」というのが 理由らしい。 そのため当初のデザインはサイドペンツ方式で、完全に拳銃が制服の下に隠れるというもの だった。しかし、あれだけの大きなものが、コートでもあるまいし、制服の下にスッポリと隠れて しまうはずがない。外見からも制服の腰骨付近が異様に盛り上がって映り、お世辞にも「スマー トな制服姿」とはいえなかった。 その当時、われわれはいく度となく試作品を着せられ、そのたびにアンケート用紙に「不適」 と記人したものだが、基本的な改善はなされなかった。お役所の予算主義からスタートした大 プロジェクトであったがためにすでに完成されたイメージをくずすことができなかったのだろう。 ここで問題なのは「拳銃モデルの変更」の理由である。 制服については、苦心惨僣のうえ、もともと飾りポケットのフタとしてあった左右の部分に穴を あけ、そこから拳銃と所轄系無線機を外部に出し、とりあえず制服のスタイルだけは従来にな いスマートなものにしようということになった。つまり、当初予定していた近代国家における民主 警察のイメージを断念したのである。 ところが、拳銃のほうは新しい種類に変更され、莫大な税金が使われることになった。仲間 内では「日米貿易摩擦の余波で警察が銃を輸入しなくてはならなくなった」と笑い話のタネに していたが、警察組織の予算構造は、捜査上の秘密と公務員法(守秘義務)に守られ、外部 に漏れることはない。 内部では、当時さまざまな噂がささやかれていたが、もし、このことによって「天上界」に住む 黒幕がまたしても莫大な利益を貪ったとすれば、ひじょうに腹立たしいことだ。 制服のデザイン、拳銃モデルの変更など、どれ一つをとっても直接国民に接する現場警察 官の希望よりも、日ごろ拳銃を着装することのない管理部門の意見が優先される。これは、まさ しく親方日の丸、つまりわがままな管理(キャリア)システムを象徴する出来事である。 |

- >
- 芸術と人文
- >
- 文学
- >
- ノンフィクション、エッセイ




