黒木昭雄の「たった一人の捜査本部」

小原勝幸を容疑者とするこの事件は、言いようのない不正義な社会構造を見せつける事になった。遺作小説『神様でも間違う』完成。

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3 警察学校での洗脳教育 
  ロボット警察官はどのようにつくられるか
 
一生つきまとう警察学校での成績 p163-165
 
 一連の警察不祥事によってキャリア制度(少数のエリートにょる支配)に対する批判が強まっているが、話はそうは単純ではない。キャリア制度そのものは霞が関の多くの官庁が採用しているシステムで、なにも警察に限ったことではないからだ。

問題の根本は、警察的キャリア支配を背後で支える「階級身分制度」にある、と私は考えている。

 警察は徹底した階級杜会だ。「上」の考えや指示に逆らうことは不可能に近い。

「上」はキャリア(有資格者)と置き換えてもいいし、そのときどきの上司と見立ててもいい。ときには指示や命令がなくとも、「下」が「上」の意思を推し量って事態に対処することを求められる組織ともいえる。

その場合、結果に対する責任は「下」がとる。

うまくいけば、もちろん「上」の手柄となる。

日本の組織にありがちな傾向だが、警察社会はその徹底ぶりが異常である。率直に言うと、「下」は一握りの警察幹部のために命がけで働かされている奴隷のような存在なのだ。

 そして、私白身、組織を離れ、その異常さに気づくまでに一年以上の時間を要した。

 全警察官を奴隷化し、あらゆる不祥事を隠し通すために欠くことのできないものが警察的洗脳教育の徹底である。

洗脳教育は「組織の団結強化」という、もっともらしい言葉に置き換えられ、まだ杜会の汚れを知らない新卒採用時から、繰り返し何度も何度も施される。

その出発点が、警察学校における「初任科教養課程」である。

 ノンキャリア警察官は、採用試験に合格すると、全員が県警本部にある全寮制の警察学校に人校することになる。高卒および短大卒は一年間、大卒は八ヵ月間、そこで初任科教養(一教育)期間を過ごす。

 各学生は、それぞれの教官の名前がついた「○○教場」と呼ばれるクラスに組み入れられ、そこでまず徹底した主従関係を叩き込まれる。

敬礼、直立不動、整列、行進などの基本的な警察礼式、さらに警備訓練などの部隊活勤などを通じて、上官は絶対であり、疑問に思うことも反論もいっさい許されないということが徹底的に「訓練」される。

 第二段階では、これと並行して思想敦育がはじまる。

具体的には、愛国心など世間でいう「右翼思想」というか「アンチ左翼的」な考え方が植えつけられる。もともと警察官志望者の多くは、国を愛し、社会の役に立ちたいと考えているので、ひじょうに洗脳されやすい。

 昨今のドライな若者であっても、警察学校入校時は相当に緊張するものだ。右も左もわからない学生たちが、必死になって教官のあとを追う……その姿はまるで母鳥を追うカルガモの子のように微笑ましく見えるが、その裏では警察的洗脳教育が着々と進んでいるのだ。

 期間中は、教官(警部補)、助教(巡査部長)が各学生への面会者や電話、手紙、さらには学生間の言語情報(学生が日常、どんな単語を口にしているか。

たとえば「人民」などは要チエック)などをもとに、交友関係、思想などを個別に調査し、それが平常点(教官、助教が日ごろ学生に接して感じる評価点数=主観的で基準が不明確)となって学科試験、実技試験などの結果に加味され、各人の初任科成績順位を決定づける。

さらには体力測定という名の人物評価、作文という名の思想調査などが盛り込まれ、教官の判断で容赦ない学生のクビ切りもおこなわれる。

 この初任科教養での成績は、警察官に一生涯つきまとうことになる。人事はもちろん、将来を左右する各種講習(公安、刑事、白バイなど専門家になるための登竜門)や昇任試験の選考材科としても、この成績が参照される。

「俺は刑事になるための捜査講習に行きたかったけど、初任科の成績が悪かったからダメだ。警察学校で成績が悪かった者は最後まで交番から離れられないんだ」多くの警察官の真実の嘆きである。

 配属先であげた実績よりも、初任科の成績が重視される。だからこそ、学生は教官、助教の主観で採点される平常点を少しでも上げておこうと「努力」する。

生殺与奪権を握っているに等しい「上」の顔色をつねにうかがいながら、みずからの言動を決めるという警察官特有の「癖」は、すでにこの段階から育まれはじめている。
 
 
 
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