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学生スパイまで使ったふるい落とし作戦p166-168
警察学校での生活を二言でいえば、プライバシーのない刑務所のようなものだ。周囲は塀で囲まれ、夜になると宿直の教官や助教が率いる学生たちが「練習交番」という名の訓練を通じて二十四時間交代で警戒勤務についているため、外出は絶対に不可能だ。
もしそれがバレたら即刻退校処分になる。やむを得ない理由があるときは、必ず教官、助教の許可が必要となる。その際は、外出簿冊に出人りの時間を正確に記入しなくてはならない。校内には衣食住のあらゆる設備が用意されているため、よほどの理由がないかぎり、外出の必要が生じない仕組みになっている(休目の外出も、教官の腹の虫の居所によって、しばしば取り止めになることがある)。ちなみに、東京都中野区にある警視庁警察学校の場合は、校内に診療所があり、簡単な入院設備まであった。
警察学校での生活は、ほとんどの学生がそれまでに昧わったことのないほど厳しいものだと思う。最初の一週間は仮入校期間で、「世話係」と呼ばれる先輩学生がつき、分刻みの生活スケジュールが待っている。たとえば人浴時間や食事の時間も「何時から何時まで」と決められていて、当然、時間厳守だ。
仮入校期間が終わりに近づくころ、制服の採寸がおこなわれる。学生たちは夢にまで見た制服のサンプルを着用し、互いに敬礼しあうのである。もたつく学生に対して、「いい加滅に早くしろ」と怒鳴るのは助教だ。「制服が体型に合いません」と痩せた新米学生が言うと、「何を言ってるんだ、制服に体を合わせるものだ、もっと飯を食え」と助教に怒鳴られ、ダブダブの制服を着ることになる。
そんな仮入校が終わると、晴れて警察官の仲間入りとなる。しかし、警察学校での教養期間はあくまでも仮採用の身分である。在学中の厳しい訓練に耐えられずに脱落する新人警察官もいるが、逆に本人の意思に反して退校を求められる者もいる。
教官には教官としての仕事(学生たちに警察の実務を教えること)のほか、新卒採用者のなかから警察官として「不適格」な者を見つけだし、警察現場に送りだす前に退校を勧奨するという重要な任務を帯びている。早い話が「クビ切り役人」である。
彼らは目的のためには手段を選ばない。場合によっては学生のなかにスパイを養成し、学生内部の情報を集め、日ごろの言勤、態度などから不適格者を探りだし、みずから退校(退職)していかざるを得ないように、陰険で執拗な個人指導がおこなわれる。
たとえば、休日外出時の服装、スタイルに文句をつけ、外出禁止を言い渡す。本人を教官室に呼びつけ、本人宛てに届いた手紙を読ませる。また、面会に訪れた外来客の面会票をもとに、面会者の身元を洗う。とくに異性関係には必要以上のチエックをおこなう。
私と同期の友人はガールフレンドの存在を個人調査票に記載しなかったという理由だけで退校を勧告され、泣く泣く故郷に帰るはめになった。肩を落とし去っていく彼を送りだしたあと、教官は残った学生に向かってこう言った。「本人には言わなかったが、たとえ仮採用の身とはいえ、すでに警察官としての職歴がつく。もしも彼が悪いことをして警察に捕まるような事態になれば、『元警察官』として名前が出るんだ……」
警察学校の学生は、もちろん採用前に十分な身元調査をおこなっていることになっているが、まだ正式採用ではない。仮入校の早い段階で警察官不適格者を発見することは、組織防衛上必要なこととされているのである。
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