黒木昭雄の「たった一人の捜査本部」

小原勝幸を容疑者とするこの事件は、言いようのない不正義な社会構造を見せつける事になった。遺作小説『神様でも間違う』完成。

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警部補と警部のあいだの厚い壁(3) p177-182
 
 
 警部昇任試験の受験資格は、高卒大卒ともに警部補として四年以上の実務経験が必要とされている。したがって最短であれば「三十歳前後の警部」が誕生するわけだが、前にも述べたように、そんな警察官は滅多にいない。しかし、このあたりまでくれば、出世をめざす若者にとって一応の安心感が生まれる
 
 なぜなら、警部補当時のように、実務能力がないからといって、部下からの突きあげをくらうことも少なくなるからだ。つまり、警部という職制が現業部門から管理部門に移行し、実務能力よりも管理能力が要求されるようになるということである。くわえて、ここまでくれば、将来ある若き警部として組織上もてはやされ、特別扱いを受ける立場になるから、下々にとって目くじらを立てる相手ではなくなるのだ。
 
 警部昇任試験はそれまでとは試験の様式が一変する。
 
ショートアンサー形式の試験はなくなり、もっぱら管理論文(部下を管理するための能力を問う論文)と面接試験になる。したがって必要とされるのは知識ではなく、官僚的な政治力であり、警部になろうとする者は必然的に組織の派閥構成に敏感になる。つきつめれば、将来有望な誰(キャリア)にぶら下がるかが以後の出世に影響するのだ。
 
 むろん、組織も彼らに配慮をする。警察署の課長代理の職を転々とする、通称「人工衛星」と呼ばれる定年前の警部と比較すれば、その扱いは歴然としている。「若き警部」には本部勤務が約束され、管理職試験(警部が受ける管理職への昇格のための試験。同じ警部でもこの試験に合格しなぃと警視への道は開けなぃ)合格への道が近づき、「人工衛星」とはかけ離れた待遇を受けることができる。
 
 以上の一般昇任試験は主に法律問題を中心としたペーパーテストだ。だから、試験が近くなると警らをさぼって街路灯の下で参考書を読んだり、トイレに逃げ込んで問題集をこなしたりするようになる。
 
 警察関連の業界誌には、「楽して合格! 昇任試験マル秘対策」などという企画が組まれ、一人前の警察官がまるで予備校生のようにみずからの合格体験を語っているというありさまだ。試験直前は、夜中までお勉強。翌日は、寝不足で勤務。とても一般の国民に読ませられるシロモノではない。
 
 
 

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