黒木昭雄の「たった一人の捜査本部」

小原勝幸を容疑者とするこの事件は、言いようのない不正義な社会構造を見せつける事になった。遺作小説『神様でも間違う』完成。

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 接待・ゴマすりがあたりまえの選考・選抜試験(1) p182-183
 
 さて、こうしたお勉強一辺倒の一般昇任試験とは別に、世間ではあまり知られていないが、選考(推薦)試験、選抜試験制度というものがある。それは毎年おこなわれる一般昇任試験と異なり、各所属(警察署)単位に一定の基準を満たした「優秀な警察官」を選出し、特別枠として合格させようというものだ。
 
 選考試験というのは、巡査部長であれば四十歳以上で、実務経験十三年以上の者、警部補であれば五十歳以上で、巡査部長を五年以上勤めた者で、いずれも勤務成績が優良と認められた者が対象となる。これに対して選抜試験では、巡査を三年以上勤め、勤務成績が優良で、一階級上の階級に必要な能力を有するものと認められる者が対象となる。ひらたく言えば、選考試験は年功序列的であるのに対して、選抜試験は年齢が若くても優秀で実績があればチャンスを与えられる。
 
だから、選抜試験に受かるのは大変なことなのだ。
 
 
 これらの制度は、多忙で昇任試験勉強に着手できず、なかなか昇進できない「優秀な現場警察官」にも出世のチヤンスを与えようという発想から生まれたものだ。「現場のプロ」たちが現場で培った経験を階級昇任にも生かすことで、部下や同僚たちに剌激を与えることができる。その結果、警察組織を活性化させ、組織の骨組みを強くし、事件に強い体質をつくりあげることができるというわけだ。
 
 こうした制度の特殊性から、人事課が一手に握っている権限の一部を各所属(警察署)の「昇任適任者選考委員会」に委譲した。選考委員会の会長は警察署長、委員は副署長および課長である。各所属とも年間およそ十名程度の優秀者を選出し、彼らに受験の機会を与える。最終的に合格するのは選出された者のおよそ半分程度だ。
 
 ここでもまた、警察社会がお得意とするホンネとタテマエの使い分けが発揮される。タテマエ上、選考委員によって「昇任適任者」に選ばれた者はすべて平等ということになっているが、実際には選任された段階で序列がつけられていて、あらかじめ合格者も決まっているのである。残りの約半数は、いかにも厳正に試験をして選抜したということを装うためのダミーにすぎない。
 
 当初、この制度は現場で苦労をしている警察官にとって朗報だった。なにしろ日ごろの努力と苦労がまさに階級として反映されるのだから、励みも出ようというものだ。しかし、やがてこの画期的な制度も少しずつ形骸化し、公的であるはずの試験制度そのものが昇任適任者選考委員会の私物と化し、適正な選考がおこなわれなくなっていった。
 
 貢ぎ物や「相談」という名の接待、異常なまでのゴマすりが日常化し、あげくのはてに、それを要求する不届き者すら出る始末となった。その結果、真に実力ある者にとって、この制度の存在そのものが不満を影積させる原因となっていった。
 
 
 

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