黒木昭雄の「たった一人の捜査本部」

小原勝幸を容疑者とするこの事件は、言いようのない不正義な社会構造を見せつける事になった。遺作小説『神様でも間違う』完成。

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桶川ストーカー事件


写真週刊誌に先を越される(p35)

しかし、その後の捜査はさらに異様な展開を見せる。
事件発生から2ヶ月がたった12月19日、詩織さん殺害の実行犯である久保田祥史被告
が逮捕され、その事業にもとづき、翌20日、小松武史被告ら3人が埼玉県警本部に逮捕された。しかしこの4人の居場所を突き止めたのは、冒頭でふれたように、写真週刊誌「フォーカス」だった。しかも複数の「フォーカス」関係者の証言によれば、この時取材を継続していたのは、実質的にはベテラン記者1人だけだったという。つまり埼玉県警は、たった1人の週刊誌記者に先を越されてしまったわけだ。県警は、いったい何人で捜査をしていたのだろうか。私は当初、警察の捜査能力の低下もここまで来たかと、暗澹たる気持ちになっていた。
 ところが、取材を進めるうちに、捜査能力の低下だけが原因ではないと思うようになった。それは、埼玉県警詰めの記者から聞かされた、こんな話がきっかけだった。「捜査本部は当然、事件発生当初から詩織さんとトラブルのあった小松和人をホシと見て、捜査をしていたのですが、12月に入っても、現場の捜査員からは、『行方が全く掴めないんだ・・・・・・』という声しか聞こえてこなかったんです。しかし、捜査本部が彼らの居場所を知らなかったはずはないんです。なぜなら、小松兄弟らが詩織さん宅に押しかけたとき、彼らが柳の会社の名刺を置いていたため、事件当日、埼玉県警は柳の会社にガサ入れして、小松和人の兄(武史)の携帯電話や自宅の電話 FAX などの連絡先を発見し、入手していたのです」
 考えてみれば、おかしな話だ。詩織さんらに対する名誉棄損は複数犯であることが分かっていたのだから、捜査本部は当然、実行犯の割り出しのために、小松和人の人間関係のチャートを作っているはずである。しかも9月21日の時点で、小松和人の戸籍謄本を詩織さんの母親に見せているのだから、当然、警察は詩織さん殺害時に、小松和人の親兄弟まで把握していなければおかしい。そして、事件に関わった柳の会社から小松和人との兄、武史被告の連絡先が見つかっているのだから、このルートをたどっていけば、容易に実行犯グループまでたどり着けたはずである。にもかかわらず、なぜか週刊誌に先を越されている。警察上層部において何かおかしな判断があったのではないかと疑いたくなる。

次回は、なぜ主犯を確保できなかったのか(p37)

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