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あとがきp219-221
昨年の神奈川県警の事件以来、マスコミを中心に警察批判の声がやむことなくつづいている。日本の警察魂はいったいどこへ行ってしまったのか、警察官はなぜ堕落してしまったのか。
警察官僚あがりの保守系大物政治家が、汚職事件に関与していた「大物フィクサー」とやらから現金を受け取っていたのではないかとテレビで追及されると、「捜査二課長をやった人間にその質問は失礼千万だっ!」と憤ってみせていた。しかし私に言わせれば、わが警察の病巣は、まさしくこうした人々の存在にあるのである。
その一方で、現場警官の尊い命が、またひとつ奪われた。
今年の六月二十八日、午後二時二十五分ごろ、青森県内を通る国道338号線の路上で、青森県むつ警察署白糠(しろぬか)駐在所勤務の佐藤勝男巡査部長(五十二歳)が、職務質問をした男ともみ合いになり、刃物で腹部など九ヵ所を刺されて死亡した。目撃者の話によれば、佐藤巡査部長は男にナイフで剌されながらも、現場を通りかかって助けようとした会杜員らを手で払うようにして制止し、事件に巻き込まれないようにしていたという。
思えば、私も警視庁第二自動車警ら隊に勤務していたころ、練馬区にある中村橋交番で元自衛官の凶刃に倒れた同僚を看取ったことがある。このとき、亡くなったA巡査部長は、腹部を剌されたにもかかわらず、逃げ出した犯人を五十メートル以上追跡し、拳銃を取り出し、犯人に向かって全弾を撃ち尽くした。そして事件を通報するために交番に戻り、受話器を取ったところでカ尽き、倒れたのだ。
これら殉職した警察官は、その使命を十分すぎるほど果たしていた。そして、「世界一安全」といわれる日本の治安は、まさにこうした使命感に燃える現場警察官によって支えられているのである。
二十三年間勤務した警視庁を退職して、はや一年半が過ぎようとしている。
私は、いまでも警察を心から愛している。警察の責務を真に理解し、応援しているという自負もある。退職後の私の活動は、警察が本来あるべき姿を取り戻してほしいという願いからすべてがはじまっている。
みずからの危険をかえりみず、職務をまっとうしようとする警察官がいる一方で、現金受け取りの嫌疑をかけられながら恬として恥じない警察官僚OBがいる。どちらが国民にとって必要であるかは明らかだが、日本の警察組織は、後者によって支配されているのである。
現場警察官は長年にわたる警察組織の洗脳教育に冒され、時代遅れの内規・服務規程という武器を手にした監察・公安の「組織内秘密警察」の黒い影におびえ、真実を語れず、いぜんとして沈黙をつづけている。
世間が言う警察腐敗の根源は、じつはここにあると私は考えている。
地域の安寧と治安維持を具体的かつ実際的に担う警察官の人権---というほど大袈裟なものでなく、あたりまえの杜会人として生きる自由がまったくないがしろにされている。それが警察官個々の自立と自律を妨げ、上には絶対服従のロボット警察官を生みだしている。それが、国民にとってどれだけマイナス作用をもたらしているか。
たとえば一般警察官に課されている取り締まりのノルマを考えてみよう。ノルマがあれば、一見、警察官は働いているように見える。しかし、ノルマを果たすための取り締まりは、本来の警察活動を逸脱したものだといってもいい。ノルマに追われるあまり、あるべき警察活勤がおろそかになっているとしたら、それは国民にとっては途方もなく大きなマイナスであるのは明らかだ。ここ何年間か、相次いで発覚した警察の不祥事は、このノルマ制によって起こったといっても過言ではない。
こんなバカバカしいことは一日も早くやめるべきなのである。私が愛する日本の警察が一目も早く本来の機能を取り戻すためにも、一目も早くやめるべきだ。そのためにも、私は沈黙せざるを得ない現場警察官たちの代弁者になろうと決意したのだ。
二〇〇〇年七月一日
黒木昭雄
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三点セットを改善しないかぎり刷新はあり得ないp217-218
たとえ警察刷新会議がどれほど素晴らしく実態に即した解決策を生みだそうとも、この制度そのものを刷新しないかぎり、つねに幻影に怯え、みずから声を上げることを知らない警察官は「笛吹けど踊らず」ということになりかねないのだ。
仮に時代が変わって警察組織が改革されたとしても、子供さえあきれるこんなばかげた内規がある以上、現在の警察体質は絶対に変わらないだろう。このことは、実際に警察官を経験したものでなければわからない。つまり刷新会議のメンバーで、このことを知っているのは後藤田氏だけなのだ。
しかし、警察キャリアの右代表でもある後藤田氏が、この制度に手をつけるとは考えにくい。逆に言うと、こうした部分に手をつけるかどうかが、刷新会議が本物かどうかを見分けるリトマス試験紙になるともいえる。
警察改革のためにまず必要なのは、末端警察官の人権の回復と、安心して職務に邁進できる職場環境の確保である。その実現のため、警察官が労働組合をつくってはどうかという意見もあるが、たとえ組合があっても、組織に染みついた縦割り命令杜会では十分に機能しないだろう。そこで重要になるのが、警察的洗脳敦育の抜本的見直しと、幻影を生みだす監察制度の改革、警察内規の総点検だ。
この三点を警察構造の患部と認定し、改善しないかぎりは、たとえいかなる外科的手術を試みたところで、警察社会は立ち直ることはできないだろう。
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