黒木昭雄の「たった一人の捜査本部」

小原勝幸を容疑者とするこの事件は、言いようのない不正義な社会構造を見せつける事になった。遺作小説『神様でも間違う』完成。

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 盗人に十手の警察刷新会議p205-206
 
 警察不祥事に共通するのは、まずマスコミ報道が先行し、警察はいったん否定するが、最後は隠しきれなくなってシブシブ認める、というパターンである。
 
それが、最近は多少なりとも学習したのだろうか、「不祥事も隠さず出す」という傾向にある。しかし、警察が積極的に表に出すのは下っ端警察官の個人的な不祥事で、組織の根幹にかかわる部分については、あいかわらずガードが固い。
 
 共同通信杜の調べによると、平成十一年九月の神奈川県警の不祥事を皮切りに、平成十二年三月までの半年間に全国で起きた警察官による不祥事は百六十六件にのぼり、のべ百十三人の警察官・警察職員が逮捕、書類送検され、監督責任を含めた懲戒免職や減給などの行政処分を受けた者が四百三十四人もいたという。
 
しかし、これらの数字は「氷山の一角」にすぎない。問題を起こしても、正式な処分手続きを踏まないまま、「闇から闇の退職」に追い込まれる警察官が少なくないからだ。
 
 警察官が一般の社会人以上に高いモラルを求められるのは言うまでもないが、現在のような状況では、国民の信頼が揺らぐとか揺るがないといった生やさしい問題ではすまされない。メチャクチャとしか言いようがない惨状だ。
 
 つぎつぎに噴出する警察ネタをマスコミが追いかけ、国民も警察の不祥事に沸騰する。しかし、すぐにつぎのスキャンダルを欲するという異様な状況がつづき、国民は明らかに警察問題に麻痺しつつあるという、きわめて異常な事態を迎えようとしているのだ。
 
 こうしたなか、「警察刷新会議」なるものが生まれた。
 
しかし、この刷新会議が警察の分厚いベールを突き崩し、真に実効性のある提言ができるかというと、はなはだ疑問だ。座長は日本テレビ放送網杜長の氏家斉一郎氏、委員には中坊公平氏(元日弁連会長)、樋□広太郎氏(アサヒビール名誉会長)、大宅映子氏(ジャーナリスト)ら錚々たる顔ぶれがそろっているが、この人たちが警察の内部事情を把握することはむずかしい。必然的に、顧問として会議に参加している後藤田正晴氏が取り仕切るようになるのは明らかだ。
 
 これでは盗人に十手を持たせるようなものではないか。
 
後藤田氏は警察庁長官から政治家に転身したキャリア中のキァリアである。
 
いま警察が問われているのは、個々の警察官の犯罪や不祥事ではなく、不祥事を引き起こす警察組織の体質や制度なのだ。
 
ところが採用試験に合格しさえすれば能力実力に関係なく出世していくキャリアにとっては、杜会正義の実現よりも制度防衛のほうに関心がある。はたして後藤田氏がそんなキャリアの既得権益といえる制度そのものの刷新にまで手をつけられるか。私は大いに疑問に思っている。
 
 
 
おわりに
  警察は立ち直れるか p204-206
 
 神奈川県警厚木署集団警ら隊分隊長らによる集団暴行事件の発覚が、一連の警察不祥事の発端だった。その後、「証拠品、無断持ち出し/神奈川県警相模原南署/巡査長、懲戒免に」という記事が新聞をにぎわしたと思ったら、あれよあれよという間に、新潟、京都、埼王、愛知……と全国に広がる一大警察スキャンダルヘと発展していった。
 
 本書では、それらの警察不祥事について、第一部では少年事件を通してあぶりだされた問題のありようを、第二部では警察の堕落の構造について述べた。
 
読者の方々はどう受け取られただろうか。あまりにも絶望的な状況に嘆息をつかれた方も多いのではなかろうか。そこで最後に、警察はどうしたら立ち直れるかについて述べ、本稿を終えることにしたい。
 
 
 
警察からの「自衛」に立ち上がった住民 p201-203
 
 「取り締まり対象の店で飲むな。節度ある飲酒を心がけろ。
ハシゴ酒をするな。酒を飲んでも飲まれるな。飲酒時に職務執行するな」これは、われわれが警察官になりたてのころから、耳にタコができるほど上司に言われつづけてきた言葉だが、今回の鷹巣警察署の件では、そのすべてが守られなかった。
 
管轄する警察署長みずから管内になじみの店をつくり、事前に計画されていた「立ち入り検査」としながらも、その三時間前まで検査対象の店のひとつで飲食し、あげくトラブルを起こしていたのだから、言い訳はいっさい通用しない。
 
 A署長とB次長は事件発覚後、秋田県警本部長から「本部長訓戒」を受け、A署長はほぽ同時に辞表を提出。それは県警幹部の慰留発言もなくあっさりと受理されたのだが、当人は退職理由をつぎのように述べた。
 
 一言でいえば『個人として組織が嫌になったから』です。事件がきっかけだとあなたたちは見るでしょうが、そんなことはありません。『懲戒処分』が下っての退職ならわかりますが、今回は『本部長訓戒』ですよ。(言ってみれば)『注意』みたいなものですから……」
 
 今回の事件でどうしても解せないことがある。
 
警察側は「鷹巣警察署管内の秩序が乱れていた」と主張するが、近所の飲食店主らは口をそろえて、「鷹巣警察署管内は静かな町で、過去に風俗がらみの事件が起きたなんて聞いたことない」と証言するのだ。
 
 しかもB次長は秋田県警管内で最大規模を誇る秋田警察署から同署に栄転してきた人物で、秋田警察署時代には生活安全課長だったというから、その主管である風俗営業に関して当然詳しい情報を得られる立場にいた。
 
そして、鷹巣警察署管内の風俗営業店で警察による「立ち入り検査」がおこなわれなかったのは、管内が平穏で安全な町だったからだ、ということを知っていたはずなのだ。とにかく、県警の主張と町の実情は矛盾だらけだった。
 
 事件後、「警察の横暴に個人では勝てないから」と、今までなかった飲食店組合結成の動きが持ちあがっているというが、「警察から身を守る」ために組合が誕生するのだから、まさに本末転倒である。
 
 一方、異例ともいうべき監察官を起用した調査活動の桔果、秋田県警本部は素早く対処し、両名に「本部長訓戒」を与えて事の終息をはかったが、事の仔細を私に説明した広報官ですら「今年の人事異動も終わっているし、実質今の段階では全員を動かすことはできません」と、苦りきっていた。
 
 全国的に吹き荒れる警察不祥事の嵐はいっこうに衰えを見せない。
 
前項でとりあげた警視庁本富士警察署の指印偽造の不祥事といい、この秋田県警による組織的隠蔽・捏造事件といい、危機管理の欠如が生みだした構造的な不祥事なのかもしれない。もしそうであるなら、これからもこうした不祥事の再発を防止できるとは思えない。
 
 
 
 
監察官を使った隠蔽工作p200-201
 
 
 その四日後、この騒動に関して「これは警察の嫌がらせではないか」という匿名の投書が地元マスコミに寄せられた。そのため秋田県警本部は「事実調査」を開始することになり、その日のうちに四、五名の監察官が鷹巣警察署に入ったという。騒動の当日同席していた署員全員から事情聴取をおこない、後日、秋田県警本部監察課は、こんな監察結果を発表した。「同署は事前の計画にもとづき今月(四月)一日、五日、七日の未明に管内の飲食店約百十店の取り締まりをしており、トラブル直後のスナック立ち入りは偶然だった」
 
 この秋田県警の発表が不自然だということは警察官でなくてもわかることだろう。私は急遽秋田に向かい、県警本部の捜査状況を追うことにした。
 
 三人の警察官が一組となって立ち入り検査にあたっていたというのは県警発表のとおりであるが、鷹巣警察署管内に約百十店舗の飲食店があり、それらすべてに対して立ち入り検査を実施したとしているのは、大いに疑問だ。たしかに町には百十店舗ほどの飲食店があるが、ラーメン屋、そば屋、寿司屋など、風俗営業でない店もふくまれているからだ。
 
 しかし、いちばん驚いたのは、騒動の現場となったスナックに居合わせた二十五名の一般客に対して、県警監察官の事情聴取がおこなわれていたということだ。そのうちの一人の男性はつぎのように語った。
 
 「『県警本部の監察だ』なんて言って、三人の警察官が突然、おれの仕事場に押しかけてきたから、そりゃ驚いたさ。てっきり口止めの脅しか、それとも『投書者探し』に来たかと思ってね」
 
 監察官が一般の事件捜査に加わり、聞き込みにまわることはまずあり得ない。
たとえばこのスナックで現職の警察官が傷害事件を起こしたとしても、まず最初に事件を捜査するのは所轄の刑事なのである。監察官はその調査資料から当該警察官処分のために警察内部で動くのだ。まして今回は事件でもなんでもない。
 
 だとしたらなぜ、監察官が三人一組となって、現場に居合わせた客から目撃状況を聞きだそうとしたのか。これは警察の常識に外れる、前代未聞の「捜査」なのだ。その必要性はいったい何だったのか、理解に苦しむ。止めの脅しか、それとも投書者探しだったのか。繰り返される警察不祥事に臆した県警本部がその不祥事を隠蔽・提造するためと考えるのがいちばん自然だ。
 
 
 
 

週刊朝日11月19日号

 
亡くなった直後に駆けつけてくださった
『週刊朝日』 編集部・山口一臣、小宮山明希さんが書いてくださった追悼記事は
PCや携帯端末で読むことができるそうです。(有料)
 
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