警察庁主導の学力偏重主義p188-191
手元に一冊の小冊子がある。かつての同僚である現職警察官のA氏から「これを見てほしい」と送られてきたものだ。表紙には『通信教育講座平成12年度開講講座案内 警察庁長官官房教養課』と書かれている。ぺージをめくるとまっさきに目に飛び込むのは「通信教育講座のおすすめ」という文字である。扉には通信敦育の仕組みと題して受講申し込み、受講料納入、学習開始、リポート作成、リポート添削、合格、最後は実務応用と展開されている。内容を簡単に説明すると、基礎的・個別的能力開発分野、管理・監督分野、語学分野、OA分野、資格取得分野に分けられている。
さらに、講座名、受講期間、受講料等の記載があり、一見して生涯学習の色彩が濃い。ペン習字基礎講座に並んで、「ペスト講座」(THE BEST〈日本公法〉主催)という見慣れない講座が目に飛び込んできた。「ペストは『昇任試験合格を目指す警察官』に必須の講座です」と書かれている。
以下、その内容をあげてみる。
1. 基礎法学講座・実務講座 基礎学力のかん養を目的とした体系的な基礎法学、実務能力の向上を目的とした実務講座
2. 実戦講座・簡記論文講座
3. S・A(ショートアンサー)学習
4. 全枝にわかりやすい解説を付け、理解を深め、応用力を高めるS・A学習
5. 合格ナビゲーター 判例で見るS・A過去問、論文ブロック、直前対策など、受験のノウハウを提供
6. CHALLENGE模擬試験(無料で添削、採点)
○ 論文試験 出題傾向の高い問題を毎月4科目を選択して出題
……中略
受講期間/12ヵ月 受講料/2万900円 注:ベスト法学・実務編をもって教材一ヶ月分とする。
〔毎月25日一括発送〕
「おいおいこれはいったいなんなんだ?」と驚きを通り越し、あきれてしまった。もう一度繰り返すが、表紙にはたしかに「警察庁長官官房教養課」と書かれている。
少々乱暴な言い方をすると、「ふざけたこと言っちゃいけないよ、アンタたち本当に国民の安全を考えてるのかい?」となる。昨今の警察不祥事を背景として、これほど現場警察宮の実務能力の低下が叫ばれていながら、生涯学習講座のなかに昇任試験講座を忍び込ますなど、いったいどこからこんなばかげた発想が生まれてくるのだろうか。実力主義といいながら、その裏で、警察庁主導でこうしたことが公然とおこなわれているのである。
再三述べているが、警察組織そのものがすでに頭デッカチの様相を呈していて、年々「警察職人」とでもいうべき捜査のプロが姿を消し、代わって学力偏重主義に偏った実務に役立たない警察官が増えているというのに、よりにもよって警察庁みずからがこんなものを奨励するとは、いったいどういうことだ。
本当にS・A学習や論文ブロックで現場警察官の実務能力が向上し、国民を危険から守れると思っているのだろうか。ついでに言わせてもらうと、THE BEST〈日本公法〉というのは民間企業だから、生涯学習をテーマにした一般の資格試験受験講座なら話がわかるが、これはれっきとした警察内部における昇任試験対策講座なのだ。記載されている内容を見れば、それが部外秘のものであることがわかる(○秘となっているはずの過去に出題された試験問題とそっくりのものを使っている)。にもかかわらず、判例で見る「S・A過去問」などとよくも書けるものだ。
ちまたではさかんに警察監察が叫ばれているが、これを見るかぎり、警察庁以下日本の警察にはまったくもって自浄の意思を感じとることができない。それどころか、警察庁と民間企業である日本公法とのあいだにいかがわしい関係(汚職)があるのではないかと想像したくなってしまう。つまりこれが、変わらない警察の体質であり、警察庁という管理部門が警察の現場を知らない証明である。
そんな彼らが警察官を採用し、現在の昇任試験制度を維持している以上、日本の警察は将来よくなることは絶対にあり得ないだろう。今回、私にこの小冊子を託した現職警察官のA氏は、こう語った。「警察の現場執行力の低下はたしかにいちじるしい。警察の昇任試験制度を変えなければ、いずれ日本の警察そのものが現場で機能しなくなるでしょう」
そうなってからでは遅いのだ。
|