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さらに捜査は、実行犯グループの逮捕後も異様な展開を見せる。主犯とされる小松和人を逮捕できずに死亡させてしまったのだ。小松和人容疑者の遺体が発見されたのは実行犯ら4人が殺人容疑で逮捕されてから実に1ヵ月以上も経過した平成12年1月27日のことだった。場所は北海道釧路市から80キロほど離れた屈斜路湖畔。−30度を下回るという場所だ。第1発見者は地元のアマチュアカメラマンで、白鳥を撮影していたところ、氷の固まりから人間の足が飛び出しているのを見つけたという。 地元新聞の社会部記者はこう語る。 「グレーのシャツに黒いズボン。首の周りには旅館から持ってきたらしい浴衣の紐が巻かれており、腕にはためらい傷、遺体からは大量の睡眠薬が検出されました。さらに遺書めいたものも発見されたため、埼玉県警は早々と『自殺の可能性が高い』と発表してしまったのです・・・・・・」 しかし、この「自殺」という発表にもいくつかの疑問が指摘されている。 死の直前に小松和人がタクシーの領収書を受け取っていたこと(自殺を考えている人間が領収証を必要とするだろうか)や、全国を転々としながら約半年感も逃げ続けていたことなどを考えると、自殺と決め付ける根拠はあまりにも乏しい。にもかかわらず、なぜ埼玉県警は早々と「自殺」と断定したのか。 いずれにしても、小松和人の死によって事件の重要部分が解明できない恐れが出てきたことは確かである。 現在、裁判では詩織さん殺害を誰が決定したのかが争点となっている。久保田祥史被告の単独の判断によるものなのか。或いは、死亡した小松和人容疑者から兄の武史被告を経由し、実行犯の久保田祥史被告に殺害を依頼したのか、或いは小松武史被告が久保田被告に依頼したのか。 久保田被告は小松武史被告から依頼されたと主張しているのに対し、武史被告は直接の殺人依頼について真っ向から否定している。罪状認否の際、久保田被告を睨みつけ、「いい迷惑だ。いい加減にして欲しい」とまで言い切っている。久保田被告は、担当の国選弁護士に対し、「やったことはたしか。でも(武史被告の)指示があったこともたしか。ただ、自分は裁判で最悪の判決が出ても構わない」と多くを語ろうとしないという。 いったい、どっちが真実なのか。どんな証言が出てこようとも、真実を知る小松和人がすでに死亡している以上、水掛け論になるだろう。埼玉県警はなぜ、事件のカギを握る小松和人の「保護」という大きな使命を全うできなかったのか。 ビラまきなど詩織さんに対する名誉棄損が行われていた平成11年7月当時、小松和人は、アリバイ作りのために土地勘のある沖縄に滞在していた。その後、東京や北海道などを転々としていたため、その所在が掴みにくかったことはたしかだ。しかし、そのことを差し引いて考えても、なぜ実行犯グループの逮捕から1ヶ月以上も小松和人が逃げとおせたのか不思議でならない。 というのも、逮捕された実行犯グループの4人は、小松和人が逮捕されなければ自分たちの罪が重くなる可能性があるからだ。弟の和人に出てきてもらうしかないのである。当然、警察の調べに対して、小松和人の居所に関する有力な情報提供していたはずである。 じつは、私の手元に一通の文書がある。小松武史被告が、弁護士に話した内容の記録だ。これを読むと、なぜ埼玉県警は、小松和人を逮捕できなっかったのかという疑問がますます膨らむ。以下にそれを引用する。 <弟が北海道の札幌に住んでいると話したのは、最初が12月26、27日にしもだ(刑事)に話している。名古屋に車を置いてから(その前に加藤と親と越谷法律事務所にいったことも話している)、北海道にアパートを借りにいったと話した。「ススキノの飲み屋や漫画喫茶に毎日行っている」と弟が行ったので、刑事にも、その「そばに住んでいる」と話した。弟のアパートの名義も加藤だと話したし、数とか事件後仕事をしていた場所も川上が紹介した店だとも話している。 沖縄に逃げていた時も加藤の名義だと話したし、(中略)私は1月3日からの検事調べでも、検事には右記の内容を話したし。この20日間の勾留の時、上尾署の護送(黒沢留置管理係長、及川巡査部長)の前で、「誰も私の話しを信じてくれないから、お巡りさん聞いてください」と右記内容を話して、「放っておいたら死んでしまう、死んだら私も困る」と話しても、(中略)大笑いして相手にしてくれなかった。弟が死んだ後に、及川巡査部長という人が、私と一緒に検察庁にいった時、はっきりと私に「あの時に捕まえていればな」と話している(以下省略)>(原文ママ) つまり、埼玉県警は12月にはすでに小松和人の所在に関する有力な手がかりを得ていたにもかかわらず、なぜかそれを握り潰したと、兄の武史被告は主張しているのだ。 詩織さん殺害に至る経過から、殺害や実行犯グループの逮捕、そして小松和人の死亡に至るまで、埼玉県警は事実上、職務放棄をしていた疑いが極めて濃厚である。 次回は、あまりにもズサンな報告書(p40)
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