黒木昭雄の「たった一人の捜査本部」

小原勝幸を容疑者とするこの事件は、言いようのない不正義な社会構造を見せつける事になった。遺作小説『神様でも間違う』完成。

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自力での捜査  <3>(p18)
11月9日、担当刑事が不在だった。

そこで応対に出た生活安全課の女性事務員に「なんとか息子を見つけていただく参考にしてください」と、光男さんが作成した正和君の捜索記録を渡し、両親の切なる思いを伝えた。

しかし、刑事部屋の奥でパソコンを打っていた刑事が、はねつけるように光男さんに言った。

「警察は事件にならないと動かないんだよ」

 須藤さん夫妻たちは、いくら話し合ってもしょせんは素人である、名案などあるはずない、結局は警察の力に頼るしか方法はないということで意見が一致し、その足で宇都宮東警察署に向かった。

しかし、応対に出た刑事は「石橋署に捜索願を出しているのなら、石橋署に相談したほうがよい」とたらいまわしにされ、しかたなく石橋警察署に向かったが、ラチがあかなかった。

 そして11月30日、再び石橋警察署を訪れたところ、対応した先日の刑事は、
「この騒ぎはなんだ、日産からも大勢人をよこしたり、今日もこんなに人を連れてきて」と怒った口調で言った。

「刑事さん、息子が誘拐されて、足利銀行かの丸の内支店で現金をおろしている証拠の姿が防犯カメラに撮影されているんです。

足利銀行がフイルムを提供してくれると言っているから、すぐに取り寄せて捜査してください」
 光男さんは必死に頼み込んだ。

しかし、
「だから言ったでしょ、事件じゃないと警察は動かないんですよ。ビデオだって取り寄せられないですよ」と、この時も刑事は捜査をしぶった。

「今日は車の持ち主(少年C)の親と、息子といっしょにいる人間(少年E)を親も連れてきました。

だから、ビデオはダメでも、せめて車の捜索手配をお願いします」と食い下がる。

刑事は、「わかった。じゃ、車はすぐに手配しましょう」と約束した。

 しかしこのあと、この刑事の不用意な発言がきっかけで正和君は殺されてしまった。

正和君から光男さんの携帯に連絡が入ったのはその直後だった。

母親の洋子さんはとっさに、「刑事さん、知人ということで電話にでて息子と話してください」
と頼んだ。

うなずいた刑事は、光男さんから電話を受け取って話しはじめる。

「須藤君か? 早く帰ってこなくちゃだめじゃないか、みんな心配しているぞ」

そして、少し間があいた。

相手方からの質問に刑事は、「俺か? 石橋だ、石橋の警察の者だ」と正直に身分を明かしてしまったのだ。

そのとたん電話が切れ、以後、正和君からの電話は一度もかかってこなかった。

正和君が殺害されたのはその2日後だった。(p20)



次回は、殺害から逮捕まで
http://blogs.yahoo.co.jp/kuroki_aki/7308426.html
自力での捜査  <2> (p17)

その後、光男さんはたった一人で調査をはじめ、数々の証拠を集めた。

 10月下旬、光男さんは正和君の須佐木中学当時の同級生に電話をかけたところ、「今日、正和君と会う約束をしている」との情報を得た。
光男さんはさっそく、この同級生の父親といっしょに、すでに独立して住んでいた彼のアパートに向かった。
「じつは、親には絶対に内緒でという約束で貸した31万円(25万円と6万円に分けて貸した)を今日、正和君が返しに来る。」と同級生が語った。
正和君を奪い返す絶好のチャンスと思った光男さんは、「正和が来るまで待たしてくれ」と申し入れたが、「それでは約束を破ることになる。逆恨みが怖い」と懇願され、やむなく少し離れた場所から様子をうかがうことにした。

 午後9時ごろ、一台の乗用車がアパートの前に止まった。
光男さんはすぐにでも飛び出して行こうと思ったが、「正和の友だちに迷惑がかかる」と考えて思いとどまった。
「とにかく車のナンバーがわかれば警察も動いてくれる。
正和は解放される」と考え、急いで車のナンバーをメモした。
たしかに「8760」と書かれていた。
あたりは薄暗く、車内ははっきりと見えないが、二人の人影が確認できた。

 それから5分後、正和君はBらしき男と同級生のアパートから出てきた。
正和君はBに促されるように車に乗り込むと、そのままどこかに姿を消した。

 光男さんが同級生に様子を尋ねると、彼はこう話した。
「Bといっしょに来て3万円だけ置いていった。右腕に包帯をしていた」

 11月になって光男さんは石橋警察署に電話をかけた。
応対したのは先日対応した刑事である。
独自に調べあげた調査状況をまとめて、刑事に伝えた。

「刑事さん、息子は監禁されて誰かに連れまわされています。
ケガもしています。
包帯もしていました。
犯人の車のナンバーも控えてあります。
なんとか捜査して捕まえてください。
息子を助けてください」

 しかし刑事は
「息子さんも一人で一人でいるときがあるだろう。
そのときに逃げようとしないのは息子さんも悪いんじゃないか」と、取り合わない。

その後、刑事に伝えた車輌ナンバーから、この乗用車はCが所有するインテグラであることが判明した。
しかし、このときもまた、警察はこれ以上動かなかった。
しかし、須藤さん夫妻はめげずに石橋警察署に日参した。(p18)


次回
自力での捜査<3>
http://blogs.yahoo.co.jp/kuroki_aki/6795536.html
自力での捜査  <1>(p15)

前年10月5日以降、正和君が行方不明になった状況にはじめて異変を感じたのは、勤め先の上司だった。

拉致監禁の可能性を感じた上司は、10月14日、正和君と同期入社のBを呼び出し、正和君の居場所を聞いた。
しかし「僕はなにもしらない、拉致なんかするはずがないでしょう」とBは顔色一つ変えずに言ってのけた。

10月18日になって、正和君の母親は日産自動車の上司と石橋署を訪れ、生活安全課の巡査部長に正和君の家出人捜索願いを出したが、翌19日、日産自動車の上司から「息子さんが同期入社の友人から100万円も借りている」と再度の連絡を受けた。

正和君が多額の借金をしていることを知った両親は途方に暮れ、頼みの綱は警察だと信じ、その足で再び石橋署を訪ねた。

「息子が誰かに監禁されているみたいです。
日産の報告だと、正和は一人ではなく、他の数人といっしょにお金を借り歩いているようです。
なんとか見つけてください」

 前日に捜索願を受理した巡査部長(担当刑事)にすがる思いで捜索を要請したが、この刑事は、「捜索願を受理したから、職務質問などで見つかることがある。
でも、今回の場合、息子さんは自分が悪く、『他の人間たちに金を分け与えている』。
警察は、ちゃんと事件にならないと動けない」と非情な言葉を返してきた。

 その後も正和君の借金は続いた。
「正和がむやみに人に金を借りるはずはない」と信じて疑わない両親は、友だちにそのときの状況を克明に尋ねた。

そして両親は数日後、再び石橋署を訪れ、
「正和が友だちから金を借りたとき、誰かが必ず後ろにいて様子を監視しているようなんです。
正和は監禁されているみたいなんです」と助けを求めた。

しかし、担当刑事は、
「あんたは憶測でものを言うな。あんたのせがれがこんなに金を借りているのは、麻薬の取引でもやっているからじゃないのか?
とにかく警察は事件にならないと動かない」と須藤さん夫妻に怒った口調で言い放ったのである。

「これじゃラチがあかない」と思いあまった光男さんは、
「それなら、刑事さんが言うように麻薬の線で(犯罪者として)捜査してください」
光男さんは愛しい息子の名誉をも引き替えにして訴えた。

しかし結局、刑事は
「事件になっていない、動けない」の一点張りだった。(p16)



次回
自力での捜査<2>
http://blogs.yahoo.co.jp/kuroki_aki/6790623.html
      
岩手県警捜査本部は事件の流れを次のように説明します。

1 梢Aに逃げられた勝幸は、未練の為に梢Aを追って宮城県に向かった。
2 ところが、頑強に復縁を拒否され知人の梢Bに相談。
3 更に、帰りの交通費の工面を申し入れたが拒否されたために激昂し絞殺。
4 勝幸の右手は、この時抵抗されて負傷。
4 梢Bから奪取した金で岩手県の故郷に逃げ帰ったが、遺体はその道すがら遺棄。
(いずれも小原父に担当刑事が説明)


検討議題<5>  遺体遺棄現場の疑問

盛岡から勝幸が目指した田野畑村に向かうルートは大きく分けて2つあります。
一つは、国道455線から岩泉町経由で田野畑村へ
二つめは、国道106号線から宮古経由で田野畑村へ

ところが、梢Bさんの遺体は国道106号線の川井村から県道171号線に入り3キロほどの松草沢に遺棄されていました。この県道の延長線上に岩泉町があります。
http://blogs.yahoo.co.jp/kuroki_aki/1357509.html
そうなると、誰がみても、梢Bさんを宮城県内から連れだした勝幸が、田野畑村に向かう途中で殺害、その後遺棄したとなります。

疑問1 そもそも、勝幸が梢Bさんを殺害したとするなら、すぐに自分の犯行とバレるような状態で偽装もせずに梢Bさんの遺体を遺棄するでしょうか。
普通なら穴を掘って埋めたり、深い谷底に投げ捨てるのだと思います。

疑問2 警察の読みでいえば、遺棄した時間は真夜中ということになります。
    周囲は一点の光さえない暗闇です。そんななか、勝幸はどうやって県道171号線を走ったのでしょうか。
付近を知る方ならすぐに気づくはずです。171号線は非常に道幅が狭く、場所によっては崖淵のS路カーブが連続するのです。
しかも勝幸の車はセルシオという名の大型車です。利き腕の右手に重傷を負った勝幸が選ぶルートでしょうか。昼間でさえ2時間はかかる道のりなのです。

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