黒木昭雄の「たった一人の捜査本部」

小原勝幸を容疑者とするこの事件は、言いようのない不正義な社会構造を見せつける事になった。遺作小説『神様でも間違う』完成。

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殺害された梢Bさんの身元が確認されたのは、2年前の7月3日です。
鵜の巣断崖に置き去りにされた小原勝幸の遺留品がみつかったのもこの日でした。
 
殺人犯の家族となった小原家にとって、また、何の前触れもなく娘を殺害された佐藤家にとって、この日は生涯忘れることのできない一日となりました。
 
 
 
 
小原の遺留品が鵜の巣断崖の突端で見つかったのは、この日の午後3時30分過ぎでした。鵜の巣断崖の掃除に出かけた田野畑村の職員がたまたま見つけたのです。
断崖の柵の外側に点々と残されていた遺留品は、車の鍵、黄色のハンカチの上に財布、缶コーヒーの空き缶、7本残っていたタバコ(セブンスター)、裏側に梢と書かれた腕時計、携帯電話の電池とAUカード、サンダルです。
もし、この職員が小原の遺留品に気づかなければ、小原がこの地にいたことさえ明らかにならなかったでしょう。
おかしくはないでしょうか。
前日の昼ごろ、久慈署の千葉刑事は小原の末の弟に、小原の言として、小原が鵜の巣断崖にいることを伝え、佐藤梢Aからも、「カツ(小原)が鵜の巣にいます。死ぬような事を言っていたので見に行って下さい」と連絡を受けていたからです。
 
自殺をほのめかす言動があれば、ただそれだけで現場に急行するのが警察官であり、まして岩手県警は、佐藤梢B殺しの犯人と目していたからこそ、小原の車を押収したのです。それなのに岩手県警は当日の捜索を見送り翌日の扱いにしました。そして、早々と「自殺偽装」と断定しながらまともな山狩りもせず、マスコミも、そんな不審な警察の捜査を指摘しません。
 
これまで何度も指摘したように、鵜の巣断崖から誰の目に触れることなく、歩いて逃げ出す事は不可能です。仮に、闇夜に紛れて脱出できたとして、その先どこに逃げられるというのでしょう。そんな時、素人でも思い描くのが「支援者」の存在なのです。
遺留品の多さに加え、親戚の車から降りた中途半端な場所と携帯で通話を始めたシーン。持ち合わせていなかったはずのタバコなど、小原が支援者と接触した可能性を疑う状況証拠はたくさんあるのです。
 
この日以後、警察が関係者への事情聴取を始めました。
押し寄せるマスコミの為に、人口4千人の田野畑村は蜂の巣を突いたように騒々しくなり、憶測が憶測を呼び、疑心暗鬼に陥ったのです。一方、いきなり飛び出した「タトゥ」報道の為に、被害者遺族への同情さえもが吹き飛びました。
警察とマスコミが一体になるとは、こういう事なのです。
 

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