黒木昭雄の「たった一人の捜査本部」

小原勝幸を容疑者とするこの事件は、言いようのない不正義な社会構造を見せつける事になった。遺作小説『神様でも間違う』完成。

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警部補と警部のあいだの厚い壁(2) p177-182
 
 
 
 巡査部長のつぎは警部補である。
 
大卒者の受験資格は現階級(巡査部長)の実務経験が一年、高卒者は実務経験が三年必要となる。
 
したがってともに一回目の試験で合格したとすると、なんと二十六歳前後の警部補が誕生することになる。私は警察の階級システムをよく知っているから「なんと」と表現したが、一般の人にはわかりづらいかもしれない。
 
とにかく「二十六歳の警部補」というのは、スゴイことなのだ。私の二十三年間の経験でも、そんな警察官に出会っていない。仮にいたとしても、そうした実務経験の浅い幹部が増えるのはひじょうに恐ろしいことになる。そこで、試験だけで出世した「優秀な警察官」がどうなるかについて話をしよう。
 
 巡査部長試験に合格すると関東管区警察学校に入校し、初級幹部として必要な実務および管理教養(私生活をふくむ部下の実態の把握)を受ける。その後、昇任配置という形式で新たな勤務先が与えられ、そこで交番の新任巡査部長(主任)として勤務する。
 
 交番勤務といえば、直接市民に接する場である。したがって、事件、事故の初動的な処理取り扱い件数は交番勤務員が圧倒的に多くなる。巡査部長は、そうした交番のなかで責任者としての実務能力と度胸、人柄が部下から求められる。しかし、うら若い新任巡査同然の巡査部長に、いったい何が求められるのか。
 
 ケンカの仲裁や酔っぱらいの取り扱いは日常茶飯事である。困りごとの相談から被害臨場、部下の実績管理など、現場の仕事は机上の試験に合格し、学校で学んだ程度ですべてをこなせるほど甘くはない。つまり警察現場で必要なのは、階級ではなく、まさしく経験と実力、そして勘である。
 
 警部補についてもまったく同じことが言える。警部袖は「係長」としての職を担うため、責任はさらに大きく、いわばプレーイングマネージャーとして、みずからも実績をあげなければならない。さらにりリーダーシップをとって部下をまとめる能力も必要だ。これまた経験のない者がその立場を維持するのはきわめて苦しい。
 
 下手を打って古参の部下にやり込められることもある。その場しのぎに「すいません」を連発する「上司」も多い。しかし、「すいません」で済めばいいが、そうもいかないことが少なくない。だから、本来、現場の責任者として対応する立場の警部補が、その場から逃げだしたりすることもある。
 
 勢いに乗って昇進をつづければ、将来、警察署長の椅子も夢ではないが、道に迷って挫折すると、「元若きエリート」という看板が負担となって自滅してしまうケースもある。
 
 過去の「若き幹部」を見ると、このあたりが上級幹部への正念場のようである。
 
 
 
 
 
 
警部補と警部のあいだの厚い壁 p177-182
 
 
 ノンキャリアの警察官が三十歳前後で警部になるというのは現実にはほとんど無理な話だということを述べたが、じつは、キャリアにとっても、そうであってくれなければ困る理由がある。
 
 なぜなら、キャリア警察官にとってノンキャリアは「支配の対象」であり、階級の高いノンキャリアが増えるのは、キャリアにとっては都合が悪い。だから、ノンキャリア警察官に対しては、なかなか階級が上がらないようなシステムが二重三重に用意してあるのだ。
 
 たとえば先にちょっとふれた昇任試験がそうだ。警察官(正確にはノンキャリア警察官)が昇任試験によって階級が上がるというのはよく知られている。試験によって出世がきまるというと、一見、公平のようだが、じつは逆だ。試験に受からなければ昇進できないということは、現場でいくら実績をあげても出世できないということになるからだ。これは、一般市民にとっては大きなマイナスである。日々の警察活動そっちのけで、試験勉強に励む不心得な警察官が必ず出てしまうからだ。
 
 しかし、私はそんな不心得者を責める気はない。警察官とて人間である。養わなければならない家族もあるし、面子もある。警察に階級身分制度がある以上、ひとつでも「上」に行きたいと思うのは人惰だ。問題は、システムそのものにあると思う。
 
 警察官の昇任試験制度には、一般昇任試験と、選考試験(従来の推薦試験)、選抜試験の三種類あるが、まず一般昇任試験制度について説明する。
 
 「巡査」からスタートするノンキャリア警察官にとって、まず突破しなければならないのは巡査部長試験である。
 
先にもふれたように、巡査部長になるための一般昇任試験の受験資格は高卒と大卒で異なり、高卒者は卒業配置(卒配)後四年間の実務経験が必要だが、大卒者は卒配後一年で受験資格が与えられる。
 
したがって、いわゆる「一発組(一発で合格した人)」の大卒者なら二十四歳前後で巡査部長になれるし、高卒者なら二十三歳前後という計算になる。ただ、巡査部長試験の競争率は二十倍をくだらないから、はじめての受験で合格するのはきわめてむずかしい状況にある。
 
 
 
 
キャリアとノンキャリアはこんなにもちがう【3】p173-177
 
 
 さて、第二の警察官は「準キャリア」と呼ばれる人たちだ。これは昭和六十(一九八五)年から警察庁が採用している国家公務員試験Ⅱ種に合格した警察庁の職員だ。準キャリアのスタートラインは巡査部長である。キャリアのスタートラインが警部補であるから、すでにキャリアにくらべて出遅れの感は否めない。しかし四十五歳前後で警視正に昇進し、退職時には警視長、場合によっては警視監にまでなれるから、これまた超スピード出世といえる。
 
 そもそも警察人事には、若くて優秀な警部補を抜擢し、警察庁に吸い上げる通称「推薦組」という制度があった。
 
「あった」と書いたが今も「ある」。
 
ただ、最近は推薦されても拒否する警察官が増える傾向にあるという。理由はいろいろ考えられる。推薦組に選ばれると地元を離れて東京やその他の知らない土地で暮らさなければならなくなる。しかも、国家公務員にくらべ、地方公務員のほうが給与が高いという現実もある。いずれにしても、こうしたことが原因で減少した推薦組を補う意昧で、新たにこの準キャリア制度が生まれたという話である。
 
 このキャリア、準キャリアは警察杜会のいわば「支配階級」だ。全国二十六万人の警察官に対して、キャリアは約五百三十人、〇・ニパーセント、準キャリア(百七十人)を合わせても、約七百人しかいない。この少数のエリートたちによって統一的、網羅的に管理されているのが、いわゆるノンキャリア警察官だ。ノンキャリア警察官は高校・大学を卒業し、各都道府県警が実施している警察官試験によって採用される。
 
 ノンキャリアの警察官が階級のステップを上がるには、いちいち昇任試験を突破しなければならない。採用されたらあとは自動的に階級が上がるキャリアとは全然ちがう。
 
 まず、高卒であれば十八歳、大卒であれば二十二歳(現役の場合)で巡査からスタートすることになる。高卒と大卒では巡査部長や警部補試験の受験資格を得るまでに必要な実務経験の期間に差があるので、出世には若干の開きがある。しかし、警部補昇進時から、ほぼ同じスピードで昇格し、最短で出世すれば二十九歳で警部になり、早ければ五十三歳前後で警視正になれるとされている。
 
 しかし、これはあくまで「計算上の話」である。こんなことはめったにない。実務経験を積んで受験資格を得ても合格までに何年もかかるのがふつうだし、退職まで巡査長のままの警察官も珍しくない。「三十歳前後で警部になれる」というのは、理屈の上では可能だが、ほとんどあり得ない話なのだ。
 
 
 
キャリアとノンキャリアはこんなにもちがう【2】p173-177
 
 
 前に述べたように、キャリアは警察庁に入庁した時点で警部補になり、警察大学校に人る。警部補という階級はノンキャリアなら少なくとも十年はかかる階級だ。警察大学校では、三ヶ月間、初任幹部課程教育を受け、その後、第一線の警察署で九ヵ月間の見習いを経て、警部へ昇格。ふたたび警察大学校で一ヵ月半の補習課程を受けてから、二年間警察庁で勤務して、またまた警察大学校で一ヵ月過ごすと、早くも一人前の警視となる。つまり、採用後わずか三年あまり、弱冠二十五、六歳で百人以上の部下を指揮監督することになる。
 
 キャリア警察官は国家機密にアクセスする立場にいる関係上、不祥事の発覚によって失脚しでも、必ず「国家的な救済」がある。
 
 一例をあげると、一連の警察不祥事の発端となった神奈川県警の前本部長、深山健男氏を覚えていられるだろうか。不祥事発覚のたびにマスコミの前で頭を下げた人物だ。東大、京大出身者が大多数を占める警察キャリアのなかで、数少ない私大(早稲田)出のキャリアだったが、結局、謝罪会見でウソをついたことがバレて県警本部長を辞任し、平成十一年十月七日に警察庁を依願退職した。
 
 ところが、それから約七ヵ月後の平成十二年六月一日、深山氏は「社団法人全国警備協会」に再就職したのだ。全国警備協会といえば警察庁傘下の外郭団体である。しかも、ポストは「専務理事」という要職だ。
 
全国警察の組織スキャンダルの火付け役となった責任をとって辞職したはずの人間が、いとも簡単に警察庁関連団体に返り咲いていたのである。このことからも、キャリア警察官にはまさしく国家的救済があると言える。
 
 
 
 
4 昇任試験制度のカラクリ
  実務能力主義を標榜する警察の大ウソ
 
キャリアとノンキャリアはこんなにもちがうp173-177
 
 全国の都道府県警では警察庁の指導のもとに統一的な警察官教育がおこなわれている。その警察官教育の基礎となっているのが、厳然たる階級身分制度だ。採用から退職まで、警察官人生のすべてがこの階級によって支配されていると言っても過言ではない。
 
 警察官の採用試験に合格し任官すると、まずは『巡査』の階級が与えられ、その後「巡査部長」「警部補」「警部」『警視』『警視正』『警視長』「警視監」「警視総監」と上がっていく。
このほかに『巡査長』という職名があるが、これは巡査経験の長い警察官に対して士気高揚を目的に与えられたもので、階級上の身分ではない。また、警察機構の頂点に立つ「警察庁長官」も階級でなく職名にすぎない。したがって、日本の警察の階級上のトップは警視庁(東京都警)の長たる警視総監ということになる。
 
 もっとも、警察庁長官の俸給は指定職十一号(月額百三十四万六千円賞与は別)で、すべての警察のなかでいちばん高い。つぎが警視総監の十号、警察庁次長の九号とつづく。
 
 各都道府県警単位で採用されるノンキャリア警察官は地方公務員だが、前に述べたように、警視正以上になると自動的に国家公務員となり、警察庁の人事下におかれる県警のトップは県警本部長だが、大きな県警と小さな県警では本部長の階級もちがう。大県警なら警視監、小県警なら警視長といった具合である。
 
 私が任官したての二十数年前は「『あなたも努力しだいで警視総監になれる』というキャッチフレーズにだまされて警視庁に入っちゃったよ」という先輩も少なくなかった近ごろは、「「三十歳前後で警部になれる」と錯覚させられるケースが多いという。さすがに、いまは十年以上前の採用パンフレットのような詐欺的誇大広告に惑わされる人はいないと思うが、察官募集の「甘百」を額面どおりに受け取ると、大切な人生設計を狂わせることになる
 
 警察にはその採用システムによって三種類の人間がいると考えるとわかりやすい
 
 が、最近よく話題にのぼる「キャリア警察官」であるキャリアは国家公務員試験1種に合格した警察庁採用のスーパーエリート警察官だ。世間では彼らの昇進スピードを。般警察官と比較して「新幹線並み」と表現されているが、二十三年警察官の職にあった私に言わせれば、ぞれはとんでもない話である。キャリアの昇進スピードは「新幹線並み」どころか「スペースシャトル」のようなものだからだ。
 
 
 

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