鳥獣戯語

[散歩道]を新設。俳句のネタにと思いながら果たせなかった写真をどうぞ・・・

全体表示

[ リスト ]

69.もずが枯れ木で

 朝の澄んだ空気を切り裂いて、モズがひと声鳴いた。いよいよ冬に入る。

 モズは寡黙である。スズメやツバメのように饒舌ではない。葉を落とした高い木の梢に止まって、
キィーとだけ鳴く。それなのに、昔の人はどうして「百も舌をもつ鳥」などという名前をつけたのか。
 モズは孤独である。群をつくらず、ひとり寂しさに耐えている。目立ちはしないが、冬の厳しい寒さにこそ似合う鳥である。

 ところで、ぼくはサトウハチロウの『もずが枯れ木で』が好きだ。

 もずが枯れ木で鳴いている
 おいらは藁をたたいてる
 綿挽き車はおばあさん
 コットン水車も廻ってる
 みんな去年と同じだよ
 けれども足んねえものがある
 兄さの薪割る音がねえ
 バッサリ薪割る音がねえ
 兄さは満州へ行っただよ
 鉄砲が涙で光っただ
 もずよ寒いと鳴くがよい
 兄さはもっと寒いだろ

 ここにはお父もお母もでてこない。おそらく冬の間はどこか出稼ぎに行っているのだろう。去年までは兄さがお父の役を果たしていた。年老いたおばあさんと二人だけの冬は、火が消えたように寒く、寂しい。兄さは満州で鉄砲をかついで、どんな思いでいるだろう。

 昭和10年、軍部の厳しい思想統制下で書かれたこの短詩は、そんなたくさんの思いを、ただ耳に聞こえる音だけに凝縮させて表現した名作である。だが、原詩は最後の2行が違ったという。

 もずよ寒いと鳴くでねえ
 兄さはもっと寒いだぞ

 これが原詩である。この方が断定的で、むしろ豪胆なサトウらしい気がする。それはともあれ、「もず」を「自分」と置き換えてみるとふたつの違いがはっきりする。
 原詩は「泣くな!」と自分を叱っている。「兄さは歯を食いしばって耐えているんだ!」と。しかしもう一方は「泣いてもいいぞ」と癒している。「きっと兄さも泣いているだろう」。
 どちらが詩として完成度が高いか、ぼくにはわからない。どちらも捨てがたい味があると思う。

閉じる コメント(2)

顔アイコン

昔の文学や詩を読んでいると、その音感の素晴らしさに驚くことがあります。
音律の美しさというか、読んでるだけでそこにリズムが存在する心地よさに気付きます。今、小林多喜二の『蟹工船』を読んでいて、その朴訥としたリズム感に浸っているところです(笑)。

先日、鎌倉文学館の館長さんと飲む機会があって、『中原中也展』の招待券もらいました。中原中也もまた、切れのある詩ですよね。ちょっと楽しみにしてます。

2007/10/26(金) 午後 3:40 [ 納屋 ]

顔アイコン

中原中也は昔買いこんだまま倉庫に眠っています。やっと暇ができたことだし、ゆっくり読んでみます。

2007/10/26(金) 午後 7:32 [ 鳥獣子 ]

開く トラックバック(1)


.
鳥獣子
鳥獣子
男性 / A型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

最新の画像つき記事一覧

標準グループ

Yahoo!からのお知らせ

よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事