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2010年3月30日
それから もう一つ申し上げたいのは、社長業を最終的に男冥利に尽きる仕事にするためには、現在の業績と将来
の業績のバランスが重要だということです。 高成長の時期には 新聞などのマスコミが、 「 なぜ 新日鉄は もっと
成長路線に走らないのか 」「 もっと 企業を買収しないのか 」「 もっと 設備投資をしないのか 」と指摘しました。
しかし、もし その時期に 過度の投資をしていたら、今頃は 「 なぜ あんな無駄な投資をやったのか 」 と叩かれて
いるに決まっています。 世間の評価や外部から聞こえてくる 色々な話は、一つの参考にしかすぎない訳であって、
好不況にかかわらず、 自分の会社として 心地いいペースを守るべきだと思っております。
短期業績と長期業績についていえば、旧来の日本の経営は長期業績至上主義でした。 しかし、これはおかしい。 短期業績が大切なのは、言うまでもありませんね。 短期業績は 大切だけれども、短期業績にウェイトを置きすぎる
のも良くありません。 例えば、設備投資をしなければ 減価償却は増えませんから、短期業績が上がる訳ですよね。
逆に、たくさん生産して在庫を持てば コストが下がり 短期業績が上がりますが、不良資産がある訳だから中期的な
業績が下がる。 これは ちぐはぐですね。 だから そのバランスが必要だと思います。
ただ 私が ちょっとだけ申し上げたいのは、日本の旧来の経営者は、やったことに対する説明責任を 何ら問われ ない限り、長期業績至上主義をずっとやってきた。長期業績至上主義でも結構ですけれども、一つひとつの手段が、
どうして 会社のためになるんだ ということを きちんと説明しながら、そういう手を打つべきだと思っております。
例えば、我々は 株の持ち合いをやっておりますけれども、これが 長期安定的な経営を実現すると説明する義務が
ある。 こういう手段だと思っております。
国益という視点が抜けた日本
もう一つ、日頃 考えている経営者のバランスは、企業益 と 国益 のバランスです。 「 なんだ 古臭いことを 」と
言われるかもしれませんが、ある決断を下すときには、「 これが 結局は 国の発展に役立つのかどうなのか 」という
視点を持つことは 大切だと思っています。 どんな企業も国の発展なくしては、やはり生きられない。外国に進出
しようとしまいと、最終的に 色んな法問題でも、あるいは ほかの大きな問題が起こってきても、日本に無関係では
ないわけで、国益と企業益のバランスというのは、どうしても 考えなければならない。
昔の新日鉄は、やや 国益に傾斜した態度を取りました。 当時の私は これに対しては 非常に批判的でした。 しかし、いざ経営者になってみると、大きな事業については 国益に合致しているのかどうなのか、 こういうことは
非常に大事なことであります。 私は もし 新日鉄、或は 他の企業でも、国際競争力がないような会社であれば、
日本に存在する意義が まったくないと思っております。
国益を主張すると 「 何と古臭い右翼的な考え方だ 」ということで、やや非難されてしまいます。 しかし 国益の 大部分は、国民の利益と一致します。 しばらく前までの日本では、国益というのは 辺境なナショナリズムと一緒くた
にされてきました。 軍事大国、軍国主義のようなイメージでした。 したがって、そういうイメージがあるがゆえに、
国益というものを みんなが議論するということを まったくなくして、最近のように善意に満ちたユートピア的な世界観
がのさばっています。
日本が頑張れば 他が みんな付いてくる。 国際社会が そんなに甘いものであるはずがない。例えば CO2 削減の問題にしても、中国は 実に 腹ただしい動きを取っております。 しかし 中国の動きは、 よく考えてみると
中国の国益を 100%体現したものです。 その意味からすると、地球益というものを 余りにも考えなさすぎる 国益
の発表の仕方でありますが、 それに比べて 日本の総理大臣は 国益を一切考慮しない。 言ってみれば 地球益が
すべてであるという態度です。 財界活動というのは、国益 と 財界益 と 企業益、この三つの利益のバランスを どう取るのか、そういうことを議論する場でも あるわけです。
鍛えられた現場とは
戦略と実務についても 申し上げます。 経営者は 戦略に専念するという意味で、事務は 下に任せるべきである
ということが よく言われていますけれども、私は これはとんでもない誤りだと思っています。 企業によって 性格が
違いますけれども、日々の業務 あるいは具体的な内容を知らないで、戦略なんか立てられるはずがないというのが
私の考えであります。 あるいは、一つひとつ目の前にある 色んな仕事を、真面目に前向きに、全身全霊で取り組む
こと、その繰り返しによって、自ずと 一つの筋が見えてくる。 その筋を 会社の方向性として提示し、議論して どちら
かの方向に持っていくということが、私は 非常に大切な 社長の働きではないか と思います。
私自身は、会社の事業に 重要なポイントは 二つあると思います。 その一つは、よく鍛えられた現場です。 よく鍛えられた現場というのは、日々の与えられた生産量や販売量を着実
に こなすということではありません。 現場には 様々な課題が 時々刻々と起こるわけであります。 こういう 色んな
課題もスムーズに解決しながら、 なおかつ 現場では解決できないような課題は、できるだけ早く 上司に上げる
という意味も含めた、鍛えられた現場です。 もう一つは、方向性の確かな経営層です。 この二つの組み合わせが
会社を育てる要因でしょう。 よく鍛えられた現場 と 経営層の距離を縮めることも、大切な役割です。
私の場合には、日々の 色んな課題を真剣に取り組み、その上で 経済危機から回復する中、日本に基地を持って 世界の増大する需要に対処するグローバルサプライヤーとなる。 グローバルプレイヤーに変えるということを 一つの
キャッチフレーズとして、全社が 今 動いております。 4000万トン程度の生産能力を 国内に持ちながら、2000万トン
は ブラジル あるいはアジアで生産し、競争相手と伍していくということを、一つの方向性として打ち出しています。
おそらく これは、従業員の全面的な支持を受けているはずです。
さて、最後になりますけれども、景気変動 と 経営 ということについて お話したいと思います。 私は 今でも よく
海外出張しております。 2月は 中国、シンガポール、インドネシア、オーストラリアに行ってまいりました。 去年は
ブラジルにも行っております。 その時 つくづく感じた点は、ここに いらっしゃる方々にとっては 常識かもしれません
が、日本に比べて これらの国が 何と明るいか ということです。
ブラジルでは、石油が採掘されかけています。 ありとあらゆる資源があるにもかかわらず エネルギーだけない というブラジルに 石油が発見されたものですから。今は むしろ 石油輸出国に転じようとしています。オーストラリアの経済指標では、2期連続で 対前期比マイナスになったら 不況ということになっていますが、1期だけで済んで
います。 中国は ご存知の通り、経済が活性化しています。 インドネシアは、不況を まったく体験しないですね。
ベトナムも同様です。
要するに 今 我々は 国内で 「 大変だ大変だ 」「 不況だ不況だ 」ということで、閉塞感に苛まれていますけれども、 実は 一歩外に出てみると、不況を体験していない国も 沢山ある訳です。 我々の関心事は いつ不況から脱出
できるのか というところにある訳ですけれども、 これらの国々の関心事は 新しい時代に 世界経済の中で どの
ような地位を占めるのか、そのために 何をやっておくべきなのか ということです。 つまり、他国は 必死になって
一歩先を考えている。 それが、今の状況です。
最近は 中国、韓国の攻勢がすごいと、インドネシアで聞きました。 韓国は 1997年のタイに端を発した経済不況を 経験しました。 あの時、韓国は大変だったんですね。国を挙げて 不況を乗り切ろうとして動いた。今回の金融危機
・経済危機は、韓国にとって、97年当時の不況に比べれば はるかに規模が小さく、なおかつ 期間も短かった。
私たち新日鉄も そうですけれども、本当に 大きな不況を乗り越える、その経験があるわけで、乗り切ることに自信
を持つことができる。 ということで、アジアにおいては、韓国、中国の攻勢が極めてすごい。
しかし アジアの国々は、一様に 日本に好意的です。 別に 中国を嫌っているというわけではありませんけれども、 ただ 中国のマーケットの大きさに対して これとつき合わない気はない。 しかし、どのようにつき合ったらいいのか
ということについては、アジア諸国の経済人は 一様に疑問を持っている。「 日本は 早く自信を取り戻して、一つの
対抗勢力として きちんと機能しておく必要がある 」と何回も言われました。
こういう学習もそうですが、喜んで海外に行って、海外の経済が発展している状況を体験して、そして 何をなす べきかを考えることも大事です。 決して 世の中は 暗くありません。 海外にも どんどん営業をかけていく。
例えば シンガポール事務所は、テリトリーとなっている インドおよび中近東に、1カ月に1度はみんな出ていきます。
国内の需要は 先細りしておりますけれども、海外に出て 人々が生き生きとして仕事をしている ということを 目の当たりにして帰れば、これは 一つの経験になります。
よく考えてみれば 不況というのも 一つの役割を果たしている。 「 不況はイノベーションの母である 」と言われます。困ったからそれを切り抜けるため 色んな知恵を出すわけです。 したがって、不況があるからこそ、各々の企業、あるいは国が どうやって 次の新しい世界を生き抜くかを考え、イノベーションが社会を発展させるということです。 こういうときの経営者の態度は極めて大事です。物事にはすべて、必ずたくさんの面があります。これを明るい面と暗い面に仕分けして考えればわかりやすい訳ですね。 どんな事実にも、どんな時代にも、必ず明るい面と暗い面がある訳です。 経営者として最低なのは、深く考えないで 暗い面だけを指摘する。経営者だけでなく、マスコミも そうです。今回の大不況が来たときに、「 100年に1度の不況 」とよく言われました。 すると 「 100年に1度の大不況 なら、どうあがいてもしょうがない 」と、諦めの境地に至ってしまうじゃないですか。 100年に1度といっても、1929年
の世界恐慌のほうが 圧倒的に不況の規模が大きかった訳です。 よく考えない悲観論は 大問題だと思います。
先程申し上げましたように、どんな事象にもどんな事実にも明るい面と暗い面がある訳です。不況はイノベーション の母である とも申し上げましたが、色んな企業も 数十年に 1度は、自分の会社を 大変革せざるを得ないような
局面に陥ります。 むしろ、この不況を 大変革のためのエネルギーとして使う。 こういうことが よく考えた楽観論だ
と 私は思います。
完
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グローバル化のメリットは、多くのこと、多様なことを学ぶチャンスが有ると言うことですね。内に籠っていては遅れを取る、また、考えすぎも程度問題でしょう。
2012/5/1(火) 午後 8:12 [ 琵琶湖研究室 ]
「琵琶湖研究室」さんへ。こんばんわ。
記事、読んで下さり有難うございます。
ちょっと質問です。
> グローバル化のメリットは、多くのこと、多様なことを学ぶチャンスが有る
――― 「琵琶湖研究室」さんは、向学心にあふれていらっしゃいますね。どういうことを、
例えば 学ばれたいんですか?
また、
> 内に籠っていては遅れを取る
――― 「遅れを取る」とは 何に遅れを取ると思われているんですか?
以上の質問は、私が考え過ぎだからではなく、「琵琶湖研究室」さんが仰っていることが
見えないので、考えたくても 私には 何も考える手がかりがないんですね。
お答えを よろしく お願いします。合掌
2012/5/2(水) 午前 1:06 [ kyomutekisonzairon ]
39819です。
江戸時代の商人の
自分良し・相手良し
世間良しと言う
三方良しの考え方に
近いと思います。
2012/5/3(木) 午後 6:38 [ 39819 ]
「39819」さんへ。こんばんわ。
三村氏の「 国益 と 財界益 と 企業益、この三つの利益のバランスを・・・ 」という所に
ついてのことでしょうか?
そうですね〜、現代において、これがバランスできると考えている所に、財界人の思想の浅さ
があるのだろうと、私は思っています。この度の原発事故への経済界の姿勢を見て、この確信
を深めました。
江戸時代は 士農工商と身分制社会でしたが、それでも 各身分には それぞれ 高い教養を
もった人たちがいましたね。 いわゆる差別社会というよりも、職能別社会だったのでしょう。
そして、その社会の基本を 農本社会としましたから、必然的に 商人の活動を抑制するために
その社会的発言力を制限しておく必要がありました。
今日の経済も、金融や商社 そして 三村氏の工業の暴走を抑えるために、「職に貴賤なし」
という近代合理主義の考え方を捨てて、江戸時代のような職能社会をヒントにするのも 一案
ですね。合掌
2012/5/4(金) 午前 0:14 [ kyomutekisonzairon ]