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外部被曝の実効線量
日本原子力学会
1.実効線量
ICRP が線量評価に用いている「実効線量」は、外部被曝の場合は、各臓器の等価線量
に組織加重係数を掛けたものの総和として定義される。
等価線量は、放射線により各臓器の吸収された単位質量当り エネルギー (吸収線量:1J/kg =1 グレイ(Gy)) に放射線の種類による影響の効果(放射線加重係数)を掛けたもので、
単位は シーベルト(Sv)。 ガンマ線の場合、放射線加重係数は 1なので、臓器の吸収線量が 1 グレイの場合は、1 シーベルトとなる。
外部被曝による各臓器の吸収線量は、人体を模擬した人体 ファントム 全体に放射線が入射
したとして計算する。照射形状により 同じ種類、同じ エネルギー の放射線であっても、各臓器の
吸収エネルギーは異なる。
以下では、AP照射形状 (ICRPが設定した照射形状の内、人体前方からの入射で、同じ放射線
に対して 最も大きな実効線量となることから、放射線障害防止法で 線量評価に使用されている
照射形状)、放射性同位元素が広い領域の拡がっている福島等の現在の被曝に近いと
思われる ISO照射形状 及び ROT照射形状を対象として説明する。
また、各臓器の吸収線量の値は、体格が大きく異なるために、年齢により 同じ放射線でも
異なる値となる。ICRP の レポート でも、年齢(体格)依存があることは グラフで紹介されている
が、具体的な数値は示されていないので、年齢依存については、参考文献 1)に公開されて
いる実効線量を使用することとする。
組織加重係数は、確率的影響のリスク に対する各臓器の影響を表す係数。
現在、1990年勧告の放射線荷重係数が使用されている。 ICRP の最近の勧告では、原爆
被爆者の疫学調査の結果に基づいて値が若干変更されている。
2.空間線量として測定される線量
ICRP は、定義通りの実効線量は測定できないことから、空気中放射線量 (空間線量)の
測定は、ICRU が定義した 周辺線量当量を用いることにしている。周辺線量当量は 直径が
30cm の球形状の人体等価ファントム(人体の軟組織〔骨、肺を除く組織〕に近い元素組成を
持つ物質)に 放射線が 平行に 一様に入射したときの特定深さの線量当量で、全身の被曝
に対応する場合には 1cm の深さの値が使われる。 そのため、1センチメートル線量当量
と表現される場合もある。
周辺線量当量の定義通りの測定ができる測定器を作ることは、原理的に 不可能に近い
ので、周辺線量当量測定用の線量計(シーベルト表示の線量計)は、様々な工夫をして
( γ線の場合であれば、エネルギー情報を取り入れた「エネルギー補償型」や、各種の
フィルターを使用するタイプ等 ) 周辺線量当量のエネルギー応答に近い応答となるように
したもの。
空間線量の測定値として使用されている もう一つの線量は、空気の吸収線量。
空気吸収線量は、以前レントゲンという単位で使用されていた照射線量に対応する線量だ。
使用する検出器によるが、定義に近い測定が可能な線量で、多くの モニタリングポスト で測定 されている線量。
3.周辺線量当量と実効線量の比較
測定される線量である周辺線量当量当りの AP, ROT 及び ISO照射形状の実効線量 及び
空気吸収線量 ( 〔実効線量 又は空気吸収線量〕/周辺線量当量 ) は、下図のようになる。
図は 本文参照
どの照射形状 (AP, ROT, ISO)の実効線量も、周辺線量当量より 値が小さいこと、照射形状
により 値が異なることが判る。
※ 図より、 〔実効線量 又は 空気吸収線量〕/周辺線量当量 < 1
したがって、 実効線量 or 空気吸収線量 < 周辺線量当量
環境に放出された主要な放射性同元素 I-131, Cs-134 及び -137 に対する周辺線量当量
当たりの年齢毎の実効線量を下記に示す。表の値は、文献1の値を使用して計算したもので、
ICRP の実効線量についても 併せて示す。全ての値が 1以下になっており、周辺線量当量は
実効線量のより 保守的な評価値となる線量を与えることが判る。
表の詳細は 本文参照
周辺線量当量当たりの年齢別実効線量(AP実効線量)
0歳児 1歳児 5歳児 10歳児 15歳児 成人 ICRP
I-131 0.87 0.87 0.87 0.87 0.85 0.85 0.83 Cs-134 0.90 0.89 0.89 0.88 0.87 0.87 0.85
Cs-137 0.89 0.89 0.88 0.88 0.86 0.85 0.84
※ 年齢別実効線量(AP実効線量) < 周辺線量当量
4.線量の測定値を使用する場合に留意すべき点
4−1 被曝線量を評価する場合
これまでの説明で判るように、実効線量は、どの様な照射形状を適用するか、どの様な年齢
を対象にするかによって、無視できない違いが生じる。
地表に分布した線源からの被曝に近い自然放射線等からの被曝について、原子放射線に よる影響に関する国連科学委員会報告では、空気吸収線量(㏉)から実効線量への変換係数
として 0.7 を、 放射線医学研究所から出されている「大地(大気を含む)の自然放射性核種
からの空気吸収線量率と実効線量率 (全国及び都道府県別) 」では、0.748 が使用されて
いる。 また、文科省は ホームページで 毎日公開している全国の 「環境放射能水準調査結果」
では、1.0 が使用されている。
※ 実効線量 ≦ 空気吸収線量
同じ空気吸収線量の測定に基づいて評価されているが、実効線量への換算係数が違うので、
空気吸収線量が同じでも、実効線量としては異なった値になるので、注意が必要。
どの様な年齢の どの様な照射形状の実効線量よりも 高めの値となる周辺線量当量を
実効線量として リスク評価に使用することは、一つの合理的な考え方であると思われるが、
そうでない考え方をとる場合には、その根拠を含めて、丁寧な説明が行われることが必要。
4−2 放出量の推定に空間線量率の測定値を使用する場合
今回の事故では、環境に放出された放射能の総量が明確になっていないため、広い領域で
多くのデータがある空間線量率 と 大気中の拡散モデルから求めた 「線量」 との比較により
放出量が推定される場合がある。 この場合、拡散モデルで評価している 「線量」が 実測値
(周辺線量当量)と対応しているがどうかを確認してから行う必要がある。
拡散モデルで使用されている 「線量」が、ISO照射形状 や ROT照射形状の実効線量の場合、 周辺線量当量の測定値と対応しているとして評価すると、図から判るように、放出量を 2倍
近く過大評価する可能性があるので、注意することが必要。
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