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日本経済新聞 2013年11月11日
トルコへの原発輸出が注目を集めている。三菱重工業などが参加する国際コンソーシアムが
10月30日、トルコ政府と原発建設のフィージビリティースタディー(FS=事業化可能性調査)の
枠組みについて正式合意に達した。
5月と10月、半年間で2回も同国を訪問して プロジェクトを後押しした安倍晋三首相は レジェプ
・タイープ・エルドアン首相との会談で 「大変喜ばしい」と笑顔で握手を交わした。
ただ、盛り上がる政府側とは裏腹に「 今後ファイナンスの枠組みや電力販売契約などについて
交渉を詰めていく 」と 三菱重工が同日公表したコメントは 慎重。
今後 FSに2年程度時間をかけ、採算性などに問題がなければ正式に契約を結ぶという。
確かに 「受注確実」 と手放しで浮かれられない事情が同社にはある。 米国での補修トラブルを
めぐる巨額賠償問題で浮き彫りになった「原発輸出リスク」である。
■首相が受注の旗振り
トルコの原発プロジェクトの予定地は 北部の黒海南岸シノプ地区。 ここに 三菱重工と
仏アレバ社が共同開発した出力110万キロワット級の加圧水型軽水炉(PWR)「ATMEA
(アトメア)1」を 4基建設する。 2023年に 1号機が稼働予定で、総事業費は約220億ドル
(約2兆1700億円) を見込んでいる。
事業母体となる国際コンソーシアムには 三菱重工と伊藤忠商事、フランスの電力・ガス大手GDF
スエズ、トルコ国営電力会社(EUAS)の4社が出資する。
出資額は 合計約66億ドル(約6500億円)で、コンソーシアムの株式持ち分比率は EUASが
最大 49%、伊藤忠が 10%超とみられる。 出資額を超える事業費は 日本の国際協力銀行
(JBIC)や民間金融機関からの借入金などで賄う方針だ。
トルコにとっては、地中海沿岸のメルシン地区で ロシア国営原子力企業ロスアトムの傘下企業
が受注しているアックユ原子力発電所 (120万キロワット級を4基建設。20〜23年に1基ずつ
稼働予定。 総事業費200億ドル) に続く 2カ所目の原発プロジェクトになる。
トルコは 昨年の1人当たり国内総生産(GDP)が 1万500ドル、10年間で 3倍の水準になる
など経済成長が著しく人口も増加。 発電用エネルギーの約7割を輸入に依存しており、03年の
就任以降、目覚ましい経済成長を実現してきた エルドアン首相は 電力安定供給を掲げて 一時は
中断していた原発建設に舵(カジ)を切り、現在は 30年に国内発電量の15%を原子力にする
計画を打ち出している。
アックユ、シノプに続く 3カ所目の原発もトルコは予定している。建設地は未定だが、日本勢が
FSを実施することを 日本、トルコ両政府間で決定済み。 この3カ所目の原発について、トルコ
政府は 海外勢に全面発注するのではなく、国内勢の参加を想定。 そのための人材育成や技術
力強化に日本の協力を求めている。
先の安倍、エルドアン両首相の会談で署名された共同宣言に、両国の科学技術協力が盛り込まれ
たのはこのためだ。
トルコの原発プロジェクトの総事業費は 1カ所あたり2兆円規模。 3カ所なら総額6兆円。
世界の原発メーカーが色めき立つのも無理はないが、一方で リスクの多さも際立っている。
まず、トルコは 日本と同様に地震多発国である。過去半世紀に 1000人以上の死者が出た
大地震が7回発生。このうち 1999年8月に イスタンブールを含む北西部で発生したマグニチュード
7.6の地震では約1万7000人が死亡した。 この北西部地震からほぼ1年後の2000年7月、
当時のエジェビット首相は 地震専門家らの反対を受け、1997年から進めていたアックユ原発
の計画を白紙撤回している。 また、2011年3月11日の東日本大震災とそれに伴う福島第1
原発事故の直後には ギリシャのパパンドレウ首相(当時)が エルドアン首相に電話をかけ、トルコ
の原発計画を中止するよう要請したこともあった。
■地震国トルコ、原発反対運動も
トルコ国内にも当然、原発反対運動がある。 シノプ地区は 1986年のチェルノブイリ原発事故
で 小麦や生乳に放射能被害が及び、黒海産の水産物も風評被害に遭遇した経緯があり、
地元の農業、漁業関係者を中心に根強い反対運動がある。
原発建設で生まれる雇用や地元への助成金、さらに高い経済成長などで 反対運動の広がりは
限定的だが、その抑制効果も エルドアン首相率いる現政権の指導力に左右される。
今年5月末にイスタンブールで起きた反政府デモは 五輪誘致をにらんで進められた都心の
再開発計画に対する環境活動家らの抗議 (公園の樹木伐採に反対する座り込み)がきっかけ
であり、そこに 現政権の強権政治に不満を持つ世俗派市民が合流して規模が拡大した。
高速道路や原発の建設にも批判の矛先が向いており、エルドアン 政権の リーダーシップ が揺らげば
これらのプロジェクトの先行きが 不透明になることは十分考えられる。
さらに トルコの原発プロジェクトで懸念されるのは 度重なる計画変更やシビアな契約交渉。
シノプ原発を巡っては 2010年以降、最初に優先交渉権を持っていた韓国が 受注に際して
トルコ側の政府保証を求めたため 同年11月に決裂、次に 東芝や東京電力を中心にした日本勢
が交渉相手となったが、11年3月の福島第1原発事故で東電が撤退したため受注活動は白紙
に戻った。
12年2月 韓国の李明博大統領(当時)が トルコを訪問して韓国との交渉が再開したが、これも
首尾よくいかず、同年4月には エルドアン首相が訪中して原子力協定を締結。 一時は原子力
関係者の間で 「シノプは中国で決まり」 とまでいわれたが、昨年末から年明けにかけ、三菱・
アレバの日仏連合が新たに浮上。今年5月には 受注内定にこぎ着けた。
背景には、サルコジ前政権時代には 欧州連合(EU)加盟問題などを巡って悪化していたフランス
と トルコの関係が オランド政権になって劇的に改善したことに加え、日本でも原発輸出に前向きな
安倍政権が誕生したことがあると解説されている。原発プロジェクトの政治色の濃さを象徴する
エピソードといえる。
相手を目まぐるしく替える交渉術は 条件面のどん欲さの裏返しでもある。一部報道によると、
ロスアトムが受注した アックユ原発は 建設費が ロシア側の全額負担で 電力供給計画の保証義務
も負わせた。 トルコ電力卸売公社が 原発稼働後15年間の電力購入契約を結び、建設費相当額
を支払っていく。 スマートフォンやタブレット(多機能携帯端末)の分割払いの仕組みに似ており、
トルコ側の資金負担(調達コストなど)は 大幅に軽減される。これから本格化するシノプ原発の
ファイナンス交渉でも 同様の要求があると見て間違いなさそうだ。
こうした原発セールスをめぐるディスカウント交渉は トルコだけの専売特許ではない。欧州や
アジア、中東などの各国の原発市場に フランス、ロシア、日本、中国、韓国、それに米国のメーカー
が ひしめき、それぞれ政府を巻き込んで 熾烈な受注競争を繰り広げている。
昨今、受注獲得が目立つのは ロシアと中国で いずれも国ぐるみの手厚い資金支援を売り物にし
ている。例えば、今年8月に決まった パキスタン南部カラチの原発計画(100kW級2基を建設)は
中国核工業集団(CNNC)の受注が見込まれ、1兆円近い建設費の7割強を中国が融資する
と報じられている。
そのCNNCは 10月半ば、中国国有企業である広核集団(CGN)と共同で英国南西部ヒンクリー
ポイント の原発新設計画 (仏アレバ社製の欧州加圧水型炉〈EPR〉を2基建設、23年稼働予定)
に参入することが明らかになった。 CNNCは 東芝傘下の米原発大手 ウエスチングハウス(WH)社
から技術導入して 中国国内で原発建設を進めている。
これまで 英政府は 安全保障上の問題から中国企業の原発事業参入に難色を示していたが、
福島第1原発事故などをきっかけに 英国内の原発プロジェクト から撤退する企業が相次ぎ、暗礁
に乗り上げるケースが続出したことから 従来方針を転換。中国企業に門戸を開くことになった。
ヒンクリーポイント原発は 当初、英電力・ガス会社セントリカ社 と フランス電力公社(EDF)の
共同事業だったが、今年2月に 「 コストと建設計画が不透明 」 との理由で セントリカ社が撤退。
残ったEDFが 新たな パートナーを探していた。 同原発の総事業費は 160億ポンド(約2兆5400億
円)。 EDFが 45〜50%、仏アレバ社が 10%を それぞれ出資予定で、新たに加わった中国企業
2社の出資比率は 計30〜40%になる見込み。
このほか、エーオン、RWEのドイツ電力大手2社が 昨年3月、英国の原発事業から撤退。
両社合弁で設立した英原発会社ホライズン・ニュークリア・パワー社(英国内2カ所で最大6基の
原発新設を計画)は、日立製作所が 昨年11月、約890億円で傘下に収めた。
■原発離れ進む欧州の電力市場
また、英国中部セラフィールド で 最大 360万KW(2〜3基)の原発新設を計画していた英ニュー・
ジェネレーション(ニュージェン)社は 10年に 仏GDFスエズ社と スペイン電力大手イベルドロラ社、
英スコティッシュ・サザン・エナジー社が 共同出資で設立した原発会社だったが、11年 スコティッシュ
が撤退。 ここに来て イベルドロラも 保有株(50%)を すべて東芝の子会社WHに売却する方向
で交渉が進んでいる。東芝は GDFスエズ の保有株も一部買い取り、百数十億〜200億円を投じ
て年内にも ニュージェンを傘下に収める方針。
欧州の電力ビジネス市場では フランスを除く各国の企業が原発から距離を置き、その空白を
日本や中国のアジア勢が埋めている構図が浮かび上がる。
日立は 3.11以降、日本国内での原発新設が見込めなくなったため、英国内で 4〜6基の
新設計画を持つ ホライズン社買収に踏み切った。 だが、建設費だけで 投資額は 約2兆円と
巨額なため、17〜18年に予定している着工までに、現在100%保有しているホライズン社株を
投資ファンドや電力会社に売却して出資比率を 50%未満に下げたい考えだ。
ただ、欧州勢は及び腰な上、中国勢も 本来は メーカーのため製造が主体。「 ものづくりのうまみ
が無いし、ただでさえ日中合弁は難しい 」 と関係者は話す。 ホライズン社株売却が難航すれば、
日立は過大なリスクを抱え込むことになる。 「自動車メーカーが 需要確保のためバス会社や
タクシー会社を買うようなもの。うまくいく可能性は小さい」(重電担当アナリスト)との指摘もある。
原発メーカーの リスク管理に大きな影を落としているのが、三菱重工が遭遇している米国での
巨額賠償問題だ。 同社は 09〜10年に米カリフォルニア州にあるサンオノフレ原発に交換用の
蒸気発生器を納入したが、その配管が摩耗し 12年1月に放射性物質を含む微量の水が漏れ、
稼働を停止するトラブルがあった。
同原発の事業母体である南カリフォルニア・エジソン社(SCE)は 再稼働を目指したが地元住民らの
反発で断念。今年6月に 2基の原発の廃炉を決め、損害賠償を 三菱重工に求める方針を通告
してきた。 10月半ばに明らかになったSCEの賠償請求額は 40億ドル(約3900億円)。
三菱重工は「 不適切な内容で根拠がない。契約上の責任上限は 1億3700万ドル(約135億円)
だ 」と反論しており、双方は 国際的な仲裁機関である国際商業会議所(パリ)で争う構え。
三菱重工のみならず、原発メーカーにとって衝撃だったのは、契約で定めた賠償の上限を超えた
金額を請求されたことだろう。 この件では 米原子力規制委員会(NRC)も今年9月、三菱重工が
細管の摩耗を予測する シミュレーションで使用した「 コンピューターモデルが不適切だったことが、蒸気発生
器の設計の欠陥につながった 」 と文書で指摘している。
海外の原発プロジェクトで 一旦 トラブルや事故を起こせば、国民の関心が強いだけに、官民
そろって責任追及に動くという現実を原発メーカーは見せつけられた。
サンオノフレのケースは 原発先進国の米国が舞台であり、交換用部品の納入がトラブルの端緒
だったが、昨今の日本勢が受注活動に熱心な 欧州やアジア、中東の原発市場では事業母体に
出資を余儀なくされたり、数十年間の運転保証を求められるなど、各社が背負う リスクは膨らむ
一方だ。
インドでは 9月 法務長官が原発事故による損害賠償の請求権について「 行使を希望するか
どうかは原発の運営者が決められる 」との法解釈を示し、同国での原発推進のネックになって
いた「 厳格な製造物責任の追及 」が緩和されたと歓迎する声が 世界の原発関係者の間に
広がった。 ただ、この発言が インドでの原発ビジネスのハードルを下げることになるというのは
早計かもしれない。 一旦 深刻な事故が起き、多大な犠牲者が出れば、責任追及は“政治”の
色彩を帯びてくるからだ。
■「原子力事業、商業的には成り立たない」
運営者が トラブルや事故を起こした原発のメーカーに 寛大な対応をすることは考えにくい。
国民感情を考慮するなら、メーカーが 外国企業の場合は 特にそうだろう。サンオノフレのケースで
いえば、運営者は巨額の賠償請求を突きつけたSCEであり、監督当局のNRCも同調している。
三菱重工の責任追及には 地元カリフォルニア州選出の上院議員も暗躍した。
原発ビジネス は セールスから リスク管理に至るまで 政治の関与が ますます不可欠になりつつある。
「 今の原子力は 『国家事業』だ。 つまり商業的には成り立たない 」(10月10日付日本経済新聞
朝刊「真相深層」)。米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルト会長兼最高経営責任者
(CEO)のこの指摘は 確かに的を射ている。 日本政府や原発 メーカー の経営者は どう解釈する
だろうか。
ニュージェンはイベルドローラとフランスの大手公益企業GDFスエズの合弁企業。英北西部
海岸沿いのセラフィールドに原発建設を予定し、用地も確保している。
英国は新たな原発の建設プロジェクトを進めているものの、福島第1原発事故後の規制上の
変更の影響を受けている上、公的資金の投入規模をめぐる議論もあり、計画が進んでいない。
日立製作所も昨年、英国で原発建設を計画している事業会社 ホライズン・ニュークリア・パワー を
買収している。
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リスクは、税金で払い、
利益は、三菱へ、
これはオイシイ、ビジネスだ
2013/12/22(日) 午後 5:29
「水がめ座」さんへ。お早うございます。
三菱重工などの製造業は、その製品の性能や機能など利便性には責任をもつが、
その社会的影響については責任を負わないことになっています。そして、
自らの行為が引き起して、彼らが負わない責任は 社会やその使用者が負う
ことを組織的に構造化して成り立っているのが、今日の文明ですね。
しかも、次々と新たな製品を更新して、需要を喚起していくことで、己の営みを
持続可能にしていく・・・。
この製造業の営みは、市場原理で動いていくかに見えて、その多くは 国家
の誘導なしには成り立たない。自動車にしても 道路網を作ることなしには、
自動車産業は成り立ちません。IT産業も また然り。
膨大な国家予算や法律の創設が それを可能にします。
国家の支えなしに成り立たないのは、原発も その例外ではないわけで、ただ
事故が起きた際の被害の大きさが、他の産業とは 格段に違うように見える
(その被害の影響は 正しく見積もられていない)ため目立つわけですね。
ミナマタ病やイタイイタイ病、或は 薬害なども その被害規模は大きなものです。(続)
2013/12/23(月) 午前 10:02 [ kyomutekisonzairon ]
自動車事故による死傷者数は、累積では 巨大自然災害や戦争を遥かに凌駕
してトンデモない数になります。この現実に 我々は鈍感ですが、これを
一見 華やかな自動車産業が産み出しています。
こういう非倫理性の上に 人権を基礎とした近代国民国家が成り立っており、
市民社会がなり立っている・・・。この矛盾!
こういうことを容認している以上、原発事故による被害だけを甘受できない
と言っても、それは ヨクジョウというものでしょう。経済界や国家の主導者
たちは、そういうことを見切って、事を進めているわけですからね。
原発・原子力を云々しているだけでは、近代国民国家or資本主義経済という
ものの破滅的性格の呪縛は解くことができない・・・。電気を必要とする
あり方を是とすることそのものに切り込んでいく必要があると思っています。
合掌
2013/12/23(月) 午前 10:31 [ kyomutekisonzairon ]