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「行政や専門家に 自らの運命を委ねまい」
―― これが、福島原発事故の 我々日本人の教訓ではないだろうか?
権限(権力)や資金力or知識ある者が、必ずしも 頼りになるものではなく、
かえって 大きく間違って、我々の運命を捻じ曲げることがあるのである。
リスク・コミュニケーションとは、
「 行政及び専門家の責任回避 & 住民愚弄(己が意思の巧みな押付け) 」
と同義語である。
中央行政及び専門家は、リスクコミュニケーションなどということに 力を入れる前に、
やるべきことがあるはずなのである。
それは、まず 事故を引き起こし 広汎な大地を放射能で汚した責任が 自らにある
という自覚であり、その責任を どのようにとるかという課題に 自らの立場を失っても
取り組むことである。
もし、これが十分になされたら、飯館村の住民は ずいぶんと救われるはずである。
また、飯館村の避難が遅れた責任は、何も専門家や国・県だけにあるのではない。
飯館村の意思決定機関の 状況判断の甘さもあったはずなのである。事態の責任を
他に転嫁している限り、住民は浮ばれない。
さらに、住民は 自己の運命を行政に委ね過ぎていたために、今日の事態を招いた
のである。中央・地方の行政の意のままにならず、自らの足で立ち上がることなしに、
運命の打開はありえない。
これは、自然災害ではなく、人災なのである。 これは、東電はもとより 中央・地方の
行政や政治家 或は専門家が引き起こした災害であるとともに、自らが招いたものでも
あるのだ。他の責任は 他に取らせるとしても、自らの責任は 他に転嫁してはならない。
合掌
男 2919人、女 2998人 計 5917人 (世帯数:1650戸)
平成25年12月1日現在 ※平成22年国勢調査に基づき増減された現住人口
「リスコミ」って何?
自分で決めるために、放射線のものさしを持つために、
腑ふに落ちるまで話を聞こう!
原発事故で突然登場した専門用語―― シーベルト、ベクレル、空間線量…。
私たちが「放射性物質」や「放射線」の専門家になっても仕方がありません。
むしろ、知識を生活に役立て、判断の基準として使いこなすことが目的です。
これからのことを自分自身で判断するために
飯舘村役場では、昨年11月から「 放射能に負けない身体と心のために 」と題し、
専門家を招いて、仮設住宅や避難先自治会で放射線の勉強会を実施してきました。これを 「 リスク・コミュニケーション 」、略して 「リスコミ」と呼んでいます。
「リスク・コミュニケーション」? 聞きなれない言葉です。「 リスク=放射線や避難による 健康影響 」と どう付き合っていくか、腑に落ちるまで話そう(意思疎通を図ろう)、
という趣旨がこめられています。
飯舘村民が抱える 「健康リスク」 の筆頭は、放射線の健康影響と、長きにわたる 避難生活の今後の見通しを得ることです。 容易に答えが出せる問題でないことは、
この 2年弱の歳月、村民全員が骨身に沁みてきたところでしょう。
健康影響を極力減らし、避難生活の今後に展望を切りひらくために、村も全力で 取り組んでいます。しかし、最終的に、何を決めどんな行動をとるかは、他人が
決められることではありません。飯舘村村民一人ひとりの判断が最優先されます。
しかし、専門家の真摯で親身なアドバイスがなければ、放射線のリスクを理解し、帰村の判断を検討することさえ難しいでしょう。 納得するまでとことん・・・リスコミ勉強会
今回の「リスコミ」は、少人数が車座になって専門家を囲む、小さな勉強会として
開催しました。テレビや新聞のように、情報が一方通行になることを避けたかった
からです。疑問や不安を 率直に口に出して専門家に質問し、他人の話に耳を傾け、
その中で理解を深め、納得すること。それが大切だからです。
放射線の健康影響や安全管理が専門の伴信彦さんを招き、リスコミ を開きました。 本号でその様子をご紹介します。
事故直後に聞いた専門家の発言
いまも消えない不信感 12月25日、NTT大森住宅で開かれた勉強会には 7名が参加しました。参加して
いた方(男性)の発言を きっかけに、議論はにわかに活気を帯びました。
「 事故が起きてから、大学教授が『100m㏜以下は住んでても、大丈夫ですから』 と言われた。それ聞いて安心して、家族にも安全だって言っていたが、その後、
避難しろって言われたんだよ! 」
別の方も 避難の時期に関して、思うことがあるようでした。 「 飯舘は一番、避難があとだったからな 」「 一番あとに 避難させられて、一番被曝 させられて。放射線強いとこさ、人間を置いたらどうなるかって、モルモットにされたん
じゃねえかって思ってんだよ。それくらい行政に不信感が強いなあ。だから色んな
話聞いてもまるっきり信用できねえ 」
避難指示と専門家の発言に わたしたちが感じた矛盾
事故後、飯舘村には 大学教授や医師が頻繁に訪れ、放射線の講演会が開かれ
ました。そこで 「 100ミリシーベルト以下の被曝は 心配ない 」という話を直接聞いた方
もいらっしゃるはずです。あのときの言葉を、みなさんは素直に受け止め、安心・
納得することができましたか? 事故は起きたが、このまま 飯舘村に住んで問題
ない ── そう言われていたにもかかわらず、村は 計画的避難区域に指定され、
まもなく 2年になるというのに、いまも避難生活が続いています。 村の汚染が心配
ないのものなら、なぜ避難しなくてはいけなかったのでしょうか。政府の決定と、
当時の専門家の話には、やはり 矛盾があったと言わざるを得ません。
100ミリシーベルト発言
その真意とは? あの 「100ミリシーベルト発言」 は、どういった意図から発せられたものなのでしょうか。伴さんは、専門家の立場からこう解説してくれました。
「 100ミリシーベルト以下の被曝では、人体への影響を検出できていません。原爆被爆 者などについて、病気の発生率や死亡率を調べても、線量が 100ミリシーベルト以下
だと、被曝していない人たちと 違いは見られないからです。 影響が全くないとは
言い切れないまでも、科学的には 立証できないほど小さいのだから、とりあえず
心配しなくていい ── 本当は そう言いたかったのだと思います。
ですが 『100ミリシーベルト以下は 安全で、それ以上は 危険』、みなさんに そう受け止
められてしまったのは、よくなかった。 同じ専門家として忸怩たるものを覚えますし、村の皆さんへの配慮が足りなかったと言わざるを得ません。」
「 判断は 人それぞれで、第三者が決めるものではないと思います 」
100ミリシーベルト以下の被曝で影響が出るという確かな証拠はないのですが、
全く影響がない と片付けてしまうのも乱暴です。 科学的に証明できないほど
わずかであったとしても、「がん」が増えるかもしれません。そういう事態は できる
だけ避けたいので、ある程度以上の線量を受ける恐れのある方々には、念のため
避難していただきましょう、というのが政府の方針でした。本来、安全とか危険とか
割り切れることではないのに、話が ものすごく単純化され伝わってしまったことは
残念だった、と伴さんに伺いました。
放射線の情報、とくに 100ミリシーベルト未満の低線量被ばくの問題は、伝え方次第 で まったく違う解釈がなされてしまいます。伝言ゲームのように、伝わるうちに脚色
されたり、大事な部分が抜け落ちたり、正反対の色が付いたり・・・。
中途半端で ときに センセーショナルになりがちな情報を雑多に仕入れていた のでは、混乱するばかりです。やはり、科学的に正確な知識が重要になります。
安全と危険の境界線
被ばくに対するイメージ また、参加した多くの方が気にしていたのは、安全な放射線量はあるのかという
ことです。
「 放射線の数値が高ければ帰れませんと言うのだから、これ以下なら安全という 基準があるんでしょ? 」「年間の被曝線量が どれ位なら帰村しても平気なんだべ?」村の除染は、当面の目標として 年間 5ミリシーベルト以下を目指し、長期的には年間
1 ミリシーベルト以下を目指しています。しかし、この数値(年間 5 ミリシーベルト)は、安全
と危険を分ける境界線ではありません。あくまで 除染で放射線量を下げる中での
目安です。
年間 5 ミリシーベルトと聞き、みなさんは 村に帰りたいと思居ますか? 或は 帰れる 線量ではないと お感じでしょうか。こんな意見もありました。
「 村に戻って、前の生活ができっか、できねえかによっては 戻っても ストレスたまり ますから。年間5ミリになって戻っても、畑のものも、いまいちわからん。山菜もキノコ
も、川の魚も食べられるか分らん。 避難生活は ストレスだけど、村に戻っても不自由
、コレ駄目だ、アレ駄目だって考えているようでは・・・余計に悩ましいんだ 」
「 私は 今 80歳だから、放射線の影響が出る前に 自然に消滅する歳です。被曝も 大して怖くない と思っちまう。で、こういう感情を持ってるようでは、若い人たちに
申し訳ないとも思うんだな。被曝の影響わかんないから、子供を持ってる若夫婦
なんか、遠いと 県外まで避難しちゃうわけだ。放射能〔放射線量〕の大きい小さい
じゃなく、被曝自体に ものすごく不安をもっているんじゃないか。そう思うんだよ 」
村が目指す年間 5 ミリシーベルトは
安全? それとも危険? 年間 5 ミリシーベルトの被曝とはどういう数値なのでしょう。100ミリシーベルトでも 被曝
と発癌などの健康被害との因果関係が特定できないのですから、年間 5ミリシーベルト
となれば、影響は 検出できないはずです。 実際、世界には 自然界の放射線による
被曝が、年間数ミリシーベルトから 数十ミリシーベルトにも及ぶ地域がありますが、そう
いった場所でも 「がん」が多いなどの報告はありません。引き続き 伴さんのお話を
伺いました。
「 100ミリシーベルト以下の低線量被曝で、健康影響が出たという確かな証拠はあり ません。だからといって、『 健康影響はない 』と決めつけるのは早計です。そこで、
たとえ 数十ミリシーベルト 或は それ以下でも 『健康影響は 皆無ではない ─ 具体的
には 発がんの確率が わずかに上がる可能性がある 』と仮定して 対策を講じる
のです。無用な被曝は できるだけ減らすに越したことはありません。 しかし 同時に、『年間数ミリシーベルトの被曝でも 危険性は ゼロとは言えないから、危ない、危険だ、
大変だ、とにかく避難すべきだ』となってしまうと、今度は別の問題が生じます。
避難生活の困難は 心身に大きな負担を強います。仮設住宅や借り上げ住宅に
暮らす みなさんが、誰よりも よくわかっておられます。経済的な問題も無視できま
せん。避難先で 長期間生活を支えてくれる援助や補償が十分得られるかどうかも
見通せません 」
安全か危険か、白か黒か、の二元論・二者択一ではなく、被曝を避けるメリット、
デメリットを考えた上で、自ら判断して欲しい、と伴さんは言います。
「 年間5 ミリシーベルトという数字を示されても、帰りたくない方もいらっしゃる。また、 帰ってもいいという人もある。判断は 人それぞれで、第三者が決めるものではない
と思います。どちらが正しいかではありません。ご当人にとって、帰るメリットがあるか
ないか。帰る意味があるかどうか、そこに かかってくると思います 」
リスクと上手に付き合う
これからも必要な話し合い 除染で、村に降り注いだ 放射性物質をゼロにすることはできません。放射線と
の長い付き合いは続きます。放射線について 分っていること、分らないことを整理
し、これからも繰り返し話し合い、理解を深めることがとても大切だと感じました。
まず 現状を知ること。そのために計測すること。その上で 自分で判断すること。 では、現在の村の放射線量は、どうなっているでしょうか。年末にお配りした「かわら版
道しるべ」第3号に一部書いたように、村の家屋の放射線量を 厳密に測定して
きました。裏面では、さらに詳しい調査結果をお伝えします。
C OLUMN コラム
Q&A: 初期被ばくと放射性ヨウ素
リスク・コミュニケーションの一環として開催された、飯舘村の講演会・勉強会「 放射能に負けない身体 と心のために 」の質疑応答をご紹介します。 特に、事故直後各地に飛び散ったはずの放射性ヨウ
素131 による内部被曝について、質問が集中しました。初期被曝として注視されている問題です。
質問1 放射性ヨウ素があった頃、子供達に安定ヨウ素剤を飲ませられなかった。県民健康管理
調査の甲状腺検査でひっかかっている人もいるけど、大丈夫なんだろうか?
伴さんの答え
/ 甲状腺検査の「A2」判定を気にされているのだと思いますが、これは超音波画像で良性
の小さな嚢胞(液体を含む袋)や結節(しこり)が見つかったというだけで、決して 病的なもの
ではありません。甲状腺癌の診断が下されたわけではないので、その点、誤解なさらないで
ください。
さて、子供たちが どれくらい甲状腺に被曝したか、それが一番気がかりです。残念なことに、 放射性ヨウ素131の半減期が短いこともあり、測定データ(実測値)が限られます。 実測値
として貴重なのが、事故から約半月後の、2011年3月26日から30日にかけて実施されたもの
です。いわき市保健所、川俣町公民館、飯舘村役場で、1,000人以上の子どもを対象に行われ
ました。首に放射線測定器をあてて、甲状腺に取り込まれたヨウ素からのガンマ線を直接測定
したのです。新聞などでも報道されたので、覚えておられる方もあるでしょう。ある児童(1人)の
甲状腺等価線量が 35ミリシーベルト、これが最大値で、他は その半分以下でした。
(甲状腺だけが 35ミリシーベルト被曝したという意味で、全身が35ミリシーベルトを被曝したという ことではありません。全身にわたって平均化した実効線量に換算すると、1.4ミリシーベルトに
相当します)。
簡便な測定ではありますが、この結果を見る限り、今後、甲状腺がんが増加することはないと 思います。ただ、いわき・川俣・飯舘の検査を受けなかった子供、或は 他の地域の子供はどう
なのか、その点が気になります。放射性ヨウ素131の半減期は 8日と短く、しかも 子供は代謝
が速いため、2〜3ヶ月もすれば 体の中から消えてなくなってしまいます。つまり、今となっては
測定によって確認することができないのです。
そこで、環境中の測定データと避難状況を基に、事故直後の放射性ヨウ素による被曝を「推定」 する作業が進められています。国内の専門家や国際機関などが並行して作業にあたっており、
いずれ結果が公表されるでしょう。 しかし、あくまで推定ですから、結果には どうしても誤差が
伴います。そのような状況で、福島県の「県民健康管理調査」では、念のため、すべての子供
について甲状腺に異常がないかどうかを継続的に調べることにしています。甲状腺がんが
増えないことを確認するため、そして 仮に甲状腺がんになったとしても、確実に発見し適切な
治療を行えるようにするためです。
質問2
子供が二人いて、甲状腺検査をしたのですが、一人は A2(20ミリ以下の嚢胞が発見され
たが、小さいので問題ないとする)で、もうひとりは出なかった。二人いて、同じように生活
していたはずなのに、こうして違いが出るのは、やっぱり体質とかの問題なんだろうか?
伴さんの答え
/小さな嚢胞が本当に心配なことかどうか、まず そこから考えましょう。 検査では、確かに
小さな嚢胞があると診断されたわけですが、診断にあたった医師は、即治療すべきだとか、
そんなことは言わなかったはずです。小さな嚢胞が ちょこちょこある というのは、ごく普通の
ことだからです。 お肌のシミやほくろのようなもの、と考えればよいと思います。真っ白な肌の
方が奇麗ですが、シミやほくろがあったからと言って、病気というわけではありません。それに、
シミやほくろのでき方は 人それぞれ違います。
そもそも、今、行われている検査の目的は、放射性ヨウ素による被曝の影響(異常)を検出する ことではありません。万が一、被曝によって子供の甲状腺癌が増えるようなことがあったとして
も、それまでには少なくとも 4、5年かかります。 今のうちに、全員の甲状腺の状態を把握して
おき、今後、変化が見られるかどうかを調べるのに備えておこう、というのが目的です。
当初の説明が十分ではなかったために、A2という判定に対して、不安や戸惑いを覚えられ たことと思います。 しかし、A2は 病気ではありませんし、放射線の影響でそうなったわけでも
ありません。そのお子さんは元々(原発事故とは無関係に)嚢胞を持っていたということです。
□ □ □ □
平成23年12月2日
今回のような大規模複合災害においては、行政の危機管理能力には 一定の限界があり、
コミュニティや住民自身の《自助》が不可欠となります。地域の安全において不可欠な役割を担う
行政、専門家、企業、住民、それぞれの役割を明らかにすること。そのために共通の意識を持ち、協力関係をつくること。…その方策として、互いに危機について意見や情報を交換し、共有し合う 「リスクコミュニケーション」が重要になります。
あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、この 「リスクコミュニケーション」 について、 今回の事故後の経緯を振り返りつつ、今後を考えてみたいと思います。その目的や役目は、
「平常時」「緊急事態下」「回復期」によって、異なります。
●発災から今まで―――緊急事態下のリスクコミュニケーション
東電福島原発事故直後、「避難区域」や「屋内退避区域」などの対策範囲は、原発から
10km,20km,30km以内などと、原発からの距離によって 同心円状に定められました
[第2回参照]。当時は、放射性物質の分布を予想するために必要な情報が まだ限られて
いたにもかかわらず、迅速に判断を下す必要に迫られていたことから、政府が専門家の
意見を参考にして決断したのです。また、その線引きの参考とする放射線量レベルは、
年間20ミリシーベルトに設定されました。これは、国際的な コンセンサスである ICRP(国際放射線
防護委員会)勧告[第5回参照]を根拠としたものでした。
こうした「緊急事態」下の判断に際しては、関係する全ての方の意見を伺い、時間をかけて 調整することはできません。そのため、意思決定プロセスを透明にし、タイムリーに説明する
ことで、判断の正当性を担保しなければなりません。これが緊急事態における リスク コミュ
ニケーションの役目です。
●そしてこれから―――回復期のリスクコミュニケーション
現在も原発内では、原子炉の冷温停止に向けた努力が急ピッチで行われています。原子炉
の冷温停止が達成できると、いよいよ回復に向かうことができるようになるでしょう。
この回復期においては、「食品の安全」「大規模除染」「福島県民の健康影響」などの課題に ついて、住民、行政、専門家などが話し合いながら 解決策を模索していくことが必要と考えます。
放射線に対する受け止め方は、人によって、社会環境によって、全く異なります。放射線に 対する知識、年齢、家族構成、どのような職業に従事しているか、どこに住んでいるか、何十年
その地に住んでいるか、など様々な因子がからんできます。また放射線の規制基準は、放射線
による健康影響等の《科学的な知見》を判断の根拠にしつつも 《社会経済学的・社会心理学的
な配慮》も合わせて総合的に判断する必要[第16回参照]がありますが、こうした価値観もまた、
個人によって大きく異なります。
このように、リスクの受け止め方や価値観がそれぞれに違う住民の方々と行政や専門家が、 どうすれば社会的な合意を形成することができるのか。その助けとなるのが、きちんと 「意見や
情報を交換し共有し合うこと」です。これが、回復期の リスクコミュニケーション の役割です。
●例えば―――食品中の放射性物質をめぐって
リスクコミュニケーションが必要な、重要な課題の1つに、食品中の放射性物質の濃度管理
に関することあります。
わが国の食品に含まれる放射性物質の濃度は、厳しく監視されています。基準値を超えた 食品は、一時的に市場に出てしまうことはあっても、早期に発見され取り除かれるので、長期間
にわたって流通し続けることはありません。
それでも 「 一時的にせよ市場に出てしまったら、その時に買って食べてしまうかもしれない ではないか 」と、不安に思われるかも知れません。しかし、食品中の放射性物質の基準値は、
「 仮に その食品を1回食べてしまったら 」ではなく 「 1年間ずっと食べ続けてしまったら 」という
仮定に立って、健康に影響が出るラインが設定されています。したがって、現在のような早期発見
体制がある限り、市販されている食品を食べることによって、放射線による健康影響が出ることは
、まず考えられないのです。
我が国の食品の暫定基準値は、諸外国の基準に比べて十分に低く設定されています。 日本人は、原発事故とは関係ない天然の放射性カリウムを毎日食品から摂取していますが、
それが体内に含まれている量と比べても、はるかに少ない値です。
しかし、低線量の放射線による健康への影響の出方が、科学的にまだ十分には解明されて いないことから、消費者の立場では、「 例えわずかでも 余分な放射線を浴びたくない 」という
食品に対する不安感・不信感は尽きません。 また、生産者の立場では、「 育てた作物が
売れるのかどうか 」が 大きな不安です。食品中の放射性物質の濃度は、今後 さらに安全
サイドに立った基準値(平常時の基準)に再設定される方向で、作業が進んでいるようです。
この際にも、国民の安全を前提に、消費者・生産者双方が納得できるよう、十分なリスク コミュニケーションを図る必要があります。 《今あるリスクを理解》 し、《無用な不安を低減》
するのも、回復期のリスクコミュニケーションの重要な役割の一つです。
●今、この危機を乗り切るために
放射線に関する知識不足自体は、必ずしも リスクコミュニケーションの障害にはなりませんが、 それでも、一度お読み頂くことをお勧めしたい物があります。最近 インターネット上で公開されている、小・中・高校生が使う放射線の授業用副読本です。放射線の利用、健康への影響などを分かり
やすく解説しており、特に教師用解説版がお勧めです。
「リスクコミュニケーション」という言葉には、適当な日本語訳がありませんし、日本人に とっては不得意な分野かもしれません。しかし、今のこの危機を乗り切るには、一般の住民
の皆さんの議論への参加は、どうしても必要です。
住民、行政、専門家、企業などが、互いの意見や価値観を尊重し合い、相互不信ではなく 相互信頼し合える関係を構築できるかどうか―― リスクコミュニケーションの成否は、それによって
大きく左右されるのです。
(遠藤 啓吾 京都医療科学大学 学長)
環境省 放射線健康管理
平成24年度「原子力災害影響調査等事業(放射線による健康不安の軽減等に資する
人材育成事業及び住民参加型プログラムの開発)」では、福島県及び近県6県(岩手県、
宮城県、栃木県、茨城県、群馬県、千葉県)にて、保健医療福祉関係者や教育関係者等
を対象にした人材育成を実施しました(述べ1,524名)。
また、放射線と健康に関する福島県及び県内市町村の専門家(アドバイザー)を対象
として、知見集積のための情報交換を目的とした研修会を実施しました。
リスクコミュニケーションとは、
原子力災害に際して、行政及び専門家(科学者)らが 国家に与えた巨大な損害を
矮小化して、直接の被災住民だけに 自らの過失の尻拭いをさせるように見せかけ、
全国民への 自己の責任を曖昧にしながら、責任追求を回避しようという 極めて
卑怯で 巧みな 行政の危機管理方法の一つである。
彼らにとって 「危機」 とは 住民の健康と生活の危機ではなく、まして 国の危機
でもなく、従来の己の立場が原発事故によって崩壊する危機なのである。
この 危機を乗り切るために 被災住民をスケープゴートにして、己が不始末の尻拭い
をさせようというのである。 行政や専門家が、原発事故に対する 自らの責任を 公明正大に明確にし、被災住民
及び全国民に 頭を下げて謝罪した後に、今後の善後策について 胸襟を開いて 日本語
で相談するならまだしも、外国から輸入したにわか仕立ての 「リスクコミューニケーション」という
横文字で、自己の責任を曖昧にするなど、断じて 許すべきものではない。
合掌
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2014年01月10日
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(6) のつづき
放射線の健康影響に関する専門家意見交換会(第3回)
ビデオ 2013年 12月21日(土)
講師:鈴木眞一氏、津田敏秀氏
講師、専門家(県・市町村アドバイザー)による意見交換 3:14〜
司会: 環境省環境保健部放射線健康管理担当参事官 桐生康生 (厚労省出向)
3.県民健康管理調査結果における 甲状腺癌の発生率について (続2)
**: ・・・(聞き取れない)400名に 十代前半に 甲状腺癌が 2例見つかっている。
もう一つ言うと、反核医師の会,青木(克明/広島共立病院医師)先生の資料
では、19歳以上の 137人に 4人の甲状腺がんが見つかっている。・・・
見といてください⋆。もう、後は言いません。
原発事故後、広島に移住された方 もしくは保養に来られた方からの依頼に
応えて、2012年4月から13年5月までの間に、8回の出張甲状腺エコー検査を
行い、315名の方に検査を体験していただきました。・・・
年齢と結果を記録している278人(10才以下 121人、11ー18才 20人、19才以上
137人;福島88人、東日本153人 広島等37人)について 福島方式で判定。
A1 210人、 A2 57人、 B 7人、 C 4人
C判定はいずれも乳頭癌疑い 成人女性3人(福島2人、仙台1人)
成人男性1人(福島)。 福島の女性2人は 手術終了し乳頭がんと確定。
全体では 福島の方が 27%、福島以外の東日本の方が 63%、広島の方
が 9%ですので、福島の割合が高いのが気になります。
検査当初は 小さな嚢胞は「異常なし」としていたので、A1が多くなっている。
B判定は 腺腫様甲状腺腺腫が 4名、慢性甲状腺炎が 3名。
悪性の可能性のある結節と悪性の可能性はないのう胞をまとめて 1つの
判定区分にすることには 私は賛成できない。 A2は「 たとえ悪性であっても
手遅れにはならんから次回検診まで検査する必要はない 」という検査して
やる側からの区分け。受診者のもとには A1,A2といった判定区分のみが
報告され、それが 1mmの嚢胞なのか4mmの結節なのかはわからない。
画像が欲しければ戸籍謄本をとって情報開示請求を行い、料金を振り込ん
でからでないと入手できない現状には怒りを感じる。 ・・・
4.今後の対策について
・・・
太神和廣(郡山医師会理事): 今までの議論を拝聴して、鈴木先生の立場 と 津田
先生の立場と 随分違いがあるということを、皆さんも感じられたと思うが、
私、やっぱり 臨床**は この間 チェルノブイリから 20数年経っているので、
その当時の エコー と 今の エコー は 全然 検出感度と違うので、そこでの
データを そのまま比較するというのは、そもそも ムリがある。
この問題に決着をつける 一番簡単な というか 明確にする方法は、福島県
以外の同じような 大規模な調査を シッカリ やるということに尽きると思う。
西日本で・・・。
それから、スクリーニング効果かどうかを ハッキリ させるには、経年的にやって
行けば、この 1年 2年の間に この問題に 必ず決着がつくと思う。
津田先生の当りか外れか と仰られるのは、私ども臨床家の感覚から
すれば、ちょっとムリがあるんではないか・・・。
(閉会)
傍聴の
井戸川克彦-前双葉町長: 大変 議論としては よかったと思う。 もっと 議論
を深めてもらいたいと思う。 ただ、注文があります。被害者側の意見が
入っていませんでした。今日来られた会場の中から 本当の被害者の
生の声が伝わっていない。議論の締めくくりの中には、2年で もう打ち切る
とか そういうことを勝手に決めているが、それは打ち切ったことの責任を
自覚しているだろうか、十分でない検査体制の中で、十分に検査されて
いる人がいない、まだまだ・・・。県民の健康を本当に考えているのなら、
速やかに残っている人、全年齢を含めて検査すべきであって、全国の検査
よりも 県内の検査を最優先して、どんなに お金をかけても 今すぐやる
べき・・。ちょっと残念な思いをした。
それから、今日 初めてきてみて、アドバイザーの人達の言葉に失望した。
何か 自分が 今まで指導してきたことを守るための理論武装の議論をして
いた。津田教授に攻撃していた人もいたが、何か感ずることがあって攻撃
したんだろう。そういう意味では 分かってしまった。
しかし、残念ながら 住民たちが 本当に求めている健康な体・・・、ドクター
というのは商品なんですね、病気した人が。しかし、病気させないため
の捉え方をしなければならない という津田さんの言うことに対して、
(彼らは)そうじゃなく 受け入れ態勢なんだ。
本来なら 甲状腺がんの手術をした人の人生は 惨めです。生きている
うち、ずっと ホルモン剤を飲まなくてはならない。疲れますし・・・。そういった
手術をすることによっての悪影響、これは やはり 県民は知るべきだ。
あなた任せではダメだと思った。頑張りましょ!
この専門家意見交換会が終った直後に
↓の「考える」会が催されました。
■ 2013/12/21
この最後のビデオを見てみて下さい。(2時間15分)
たいへん示唆に富む 真摯な対話が交わされています。
(おわり)
北海道反核医師の会運営委員 松崎道幸 2013年2月15日
福島の小児甲状腺癌の発生率は チェルノブイリと同じか それ以上である可能性があります
核兵器と原発、ダメだべさ - 反核医師の会 核戦争に反対する医師の会 2013年10月23日
本田孝也氏(長崎県保険医協会理事長) 木村真三氏(獨協医科大学准教授)
西尾正道氏(北海道がんセンター名誉院長) 松崎道幸氏(深川市立病院)
◆福島の小児甲状腺がんについて
福島小児甲状腺調査 と 広島共立病院乳がん検診での甲状腺ABC(穿刺細胞)を
比較してみた。福島では 1000人に 1人が 甲状腺ABCを受けて 21%が悪性だった。
広島共立病院では 1000人に 4.5人が 甲状腺ABCを受けて 73%が悪性だった。
甲状腺がんの 9割を占める乳頭がんは 特徴的な超音波像をしており、細胞診とよく
一致する。ABCは 採決に使用する注射針を腫瘤に刺し、針孔に入った細胞を顕微鏡
で観察して判定する。首に針を刺されるのは不快であり がんの疑いが高い場合に
限って実施している。福島で 悪性の割合が低かったのは、見つかった結節が悪性
でないとの確証を強く望んだ方が多かったためであろう。
多くの甲状腺がんが発見されたことについて、福島県立医大甲状腺内分泌外科の
鈴木真一教授は「 福島での線量は チェルノブイリに比べて圧倒的に低い。放射誘発
甲状腺がんの潜伏期間は 最短で 4〜5年だが、福島は まだ 2年しかたっていない。
被曝時年齢が若いほど リスクが高いが、今回の症例の平均年齢は15歳と高い。
被曝と関係なく、既に できていたがんが、精度の高い検診を行ったことによって、
小さいうちに発見された可能性が高い。これが福島の子供たちのベースラインの頻度
となる 」と述べている。・・・
がん登録は 自治体が任意に行う事業であり 福島県は実施していない。広島県は
原爆被爆者の調査を基礎にがん登録制度を構築している。2008年度の甲状腺がん
罹患者数は 女性が約400人、男性が約100人であった。人口10万人当りの年齢別
がん罹患数では 甲状腺がんは 10代前半が1.5人、後半が0.7人、20代では前半
が3.3人、後半が6.9人であり、20代では 最も多いがんである。
福島での小児甲状腺がん発見数は 10万人当りでは 原発近くが31人、中央部で
32人となる。今後見つかるはずの小さながんが超音波検査で根こそぎ見つかった
と説明されているが、経緯を慎重に見守っていく必要があろう。
甲状腺がんは 10代から発症して60代で最多となるが、死亡登録は50歳以上である。
2008年度の罹患登録数と死亡登録数の比は 15対1で 最も死ににくい がんである。
ただし、術後には 甲状腺機能低下症となり ホルモン剤の内服が必要となる場合が
多く、広島共立病院の場合は 2/3を超えている。
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2014年 01月 8日 JST
[仙台 8日 ロイター] 冬場の最低気温が氷点下にもなる未明の仙台駅。凍てつく
寒さをこらえながら、段ボールにしがみつくようにして眠る路上生活者たちを、ほぼ
毎日のように訪れていた人物がいる。 元 プロレスの興行師だったという この男性は生活困窮者を支援するケースワーカーではない。
放射能汚染が続く福島での除染作業などに ホームレスを送り込む手配師の一人だ。
「 俺のような手配師は 誰でもここに来て、作業ができそうな奴を探してきたんだ 」。
がっしりした肩を揺すり、寝込んでいる ホームレスの間を歩きながら、佐々誠治(67)
は ロイター記者に そう話した。除染やがれき処理などに作業員を送り込む手数料
として、佐々が受け取っていた謝礼は 作業員1人当り およそ1万円。始発電車も
まだ動いていない夜明けの仙台駅は、実は そうした「ホームレス調達」の拠点と化していた。
にも及ぶ。彼らが帰還するには、徹底した除染や復興推進が絶対条件だ。しかし、
ロイターによる政府資料の分析や多数の関係者への取材で明らかになったのは、
国から膨大な事業費が流れこむ除染や復興事業の一部が、作業員不足につけ込ん
だ不法行為の温床となり、暴力団関係者の資金源にもなっているという実態だった。
<暴力団関係者への依存>
ホームレス作業員の手配師として佐々が関与していた事業は、福島市の道路除染
を行うために発注された約1億4000万円の契約の一部だった、と佐々を職業安定
法違反容疑で逮捕した捜査当局者は話す。その主契約企業は大手ゼネコンの大林組。 佐々が仙台駅で調達したホームレスたちは大林組の下請けに連なっている業者4社
を経由して、福島での除染作業などに投入された。
「 自分は人を送ればいいだけ 」と、佐々は ロイターの取材に語った。「 送って、お金
と交換すればいい。その奥までは入れない。こっちは関係ないから 」。
だが、佐々が旨味を感じた手配師ビジネスが、ホームレスたちに過酷な結末をもたらす
ことも少なくなかった。佐々に送り込まれた作業員が受け取る賃金は、大林組の
下請けが 賃金予定額として支払う金額の3分の1程度しかない。
捜査当局などによると、残りの2/3は仲介する業者の懐に入る。食事と寝泊りする
場所の費用を差し引けば、作業員の手元に残る賃金は 時給600円程度。福島県
の最低賃金(675円)を下回る額だ。
作業員の中には、食費と宿舎費用を差し引かれて持ち金が底をつき、借金する羽目
になる例もあるという。
ある時、佐々は仙台駅で路上生活者を物色中、覆面捜査官に写真を撮られ、昨年
11月に宮城県警に逮捕されたが、その後、起訴猶予処分となった。彼の背後には
暴力団関係者も加わる 「ホームレス取引」 の ネットワークが存在しており、佐々の逮捕に
先立つ10月、違法行為に関与した他の業者が 労働者派遣法違反容疑などで一斉
に検挙されている。
その一人が、稲川会系暴力団元幹部で人材派遣業を営む西村満徳(67)だった。
関係者らによると、西村は 佐々の顧客で、本格的な除染作業への労働者派遣が
禁じられているにも関わらず、ホームレス作業員を仙台市のはずれの宿舎に住まわせ
て現場に派遣、毎月、彼らの作業の賃金として 政府が支払う金額の一部を不当
に手に入れていた。西村への直接の取材はできていないが、彼は 25万円の罰金
処分となった。
西村は地元では顔が広く、仙台市が出資している ホームレス自立支援施設、清流
ホームにも出入りしていた。同ホームは 2011年の震災の後、他のホームレス作業員
を復興作業に従事させるため、彼に紹介することもあったという。
「 彼(西村)は とても良さそうな人にみえた。運が悪かったね。全ての業者について
すべてを調べるのは とてもできないから 」と清流ホーム次長、五百澤洋太は西村
とのやりとりを振り返る。
西村と同時に、同じ事件に関与したとして、同市にある産廃物処理業者,伸栄クリーン
社長,長田俊明(64)と建設会社、フジサイ工建の社員である林文典(54)、元人材
派遣業の佐藤拓也(29)も逮捕された。
フジサイの統括課長である佐山健一は、自社の社員が 不法な労働者派遣に加担
したことについて、「 (暴力団が)絡まなければ、人(作業員)は増えない 」と ロイターに
本音を漏らし、「 結局、建設業界というのは、90%暴力団ですからね 」と付け加えた。
佐山によると、フジサイが労働者派遣で得た金額は 1人当り 1000円程度だった。
除染下請けの上位にある東京に本社のある建設会社、ライト工業から作業員確保
の依頼を受け、それがうまく進まないと分った時、フジサイは 伸栄クリーンに支援
を頼み、西村に発注が行ったという。
ライト工業は 大林組の下請け系列のトップにあり、日本国内だけでなく米国にも
子会社をもつ大手企業で、福島地域での除染に 約300人の労働者を送っている。
福島での除染について、同社は 現地での事業が深刻な人材不足に直面している
と認める一方、取引相手だった フジサイが 間接的にせよ暴力団とつながっていた
とは知らず、だまされていた、と訴える。「 下請け企業を チェックするにしても、彼らが
正直でなければ難しい 」と同社の広報担当者は話す。
大林組、ライト工業とも同事件において不正はないとされ、処罰も受けてはいない。
しかし、大林組の場合、自社が管理する事業に暴力団関係者の関与が表面化
したのは、この事件だけではない。
昨年3月、同社が手がけた福島での除染作業をめぐり、住吉会系暴力団元幹部
が山形地方裁判所で労働者派遣法違反の罪で執行猶予付き有罪判決を受け、
さらに 11月には同法違反容疑で山口組系暴力団幹部と その家族らが高知・福島
両県警合同捜査本部に逮捕されている。
大林組では、ロイターの取材に対し、「 我が社として、こうした事件が立て続けに起き
ていることを深刻に受け止めている 」(市川淳一広報担当)とコメント。下請け業者
との契約では 暴力団などの排除条項を盛り込む一方、警察との協力も徹底して
いることなどを強調した。
<弱者へのしわ寄せ>
福島地域での除染作業に膨大な国費が投じられている一方、現場で仕事をする
ホームレス労働者は、その恩恵が及ぶどころか、逆に 借金苦に陥る例もある。
「 多くの ホームレス作業員は宿舎に入るが、そこで 宿泊コスト や食費が賃金から自動
的に差し引かれ、月末には 1銭も残らないということになる 」と、ホームレス支援団体
「仙台夜まわりグループ」事務局長で バプティスト教会の牧師である青木康弘は言う。
実際の待遇に期待を裏切られ、作業員が 賃金未払い請求を起こす例も少なく
ない。兵庫県姫路市に本社をもつ周東興業も そうした トラブルを抱えている業者の
1つだ。同社は、政府による事業を請け負うため、佐々から ホームレス労働者の提供
を受けていた。
同社は 復興事業の需要をつかもうと 6000万円を投資。宮城県登米市にあった
ドライブインをがれき処理などの復興作業に従事する労働者の宿泊所に衣替え
した。そして、最も汚染のひどい地域の除染作業について、環境省から 2つの契約
も確保した。しかし、同社は 現在、雇用していた作業員から 少なくとも 2件の賃金未払い
請求を受けていると、息子とともに同社を経営する金田富士子(70)は話す。
これとは別に、50代の あるホームレス作業員は、周東興業で 1カ月働いたのに1000円
程の支払いしかなかったという。 ロイターが入手した この作業員の給与明細による
と、食費、住居、洗濯費用などとして 1カ月約15万円が引かれたため、彼には昨年
8月末時点での取り分は 1000円程度しかなかった。
金田は この男性が会社で働いていた事は認めつつも、待遇は正当だったと主張
する。彼女によれば、周東興業は 食費として 1日3500円は差し引くものの、少なく
とも 8000円の日当を払っていたという。 金田によれば、ある作業員は 福島で仕事
を始める前に 200万円を前借りし、その負債は減ったものの、昨年末の休暇のため、
さらに 20万円の借金をしたという。「 あの人は 借金を返すことはできないでしょう 」
と彼女は言う。
復興作業の経験者である西山静也(57)は、周東興業で短期間働き、がれき処理
の仕事をした事がある。今は 仙台駅で段ボール生活をする身の上だ。同社を去った
のは賃金を巡ってもめたからだ、と彼は言う。これまで 建設会社と賃金をめぐって
対立したことは何度かあり、そのうち2つが除染作業を巡るトラブルだったと話す。
西山が仙台で最初に働いた業者は、がれき処理に 日当9000円を支払った。しかし、
食費と宿泊費には 5000円が必要だった。働けなかった日も、日当がないのに
食費や宿泊費は徴収された。結局、増え続く借金に追われるよりも、路上生活の
方が暮らしは楽になると思い、西山は ホームレスを選んだという。
「 手配師にとって、ホームレスは 簡単に狙える標的だよ 」と西山は言う。「 身の回り品
をすべて持って、大きな荷物と一緒に動き回っていれば、すぐに ホームレスだと分る。
手配師連中は、ホームレスを見つけると、職を探しているのか、腹は減っていないか、
と聞いてくる。もし、腹を空かしているとわかれば、彼らが仕事をくれるんだ 」。
<実態不明な除染業者も>
福島の除染作業には 今も多額の税金が継続的に投入されている。しかし、それが
どう使われているのか、実態は不透明のままだ。大きな理由の1つは、大手企業
を頂点にして広がる 何層もの下請け構造の存在にある。複雑な請負契約を結び
ながら、末端の零細業者も含めて、除染事業には膨大な数の企業が関っている。
実際に除染事業を手がけている業者数は公表されていない。しかし、ロイターが
情報公開法に基づき昨年8月に環境省から入手した資料を調べた結果、もっとも
汚染がひどい 10市町村と その地域を通る常磐自動車道沿いで、733企業が除染
作業にあたっていることが分った。
公共事業への参加には 国土交通省の建設業者審査で承認される必要があるが、
それらの地域で除染に関わっている 56の下請け業者は、そのリストに名前がない
ことも明らかになった。
除染や廃棄物処理を推進する法的措置として、2011年8月30日に議員立法による
「放射性物質汚染対処特措法」が公布され、12年1月1日から施行されている。
しかし、厚生労働省によると、この法律は、除染作業などを行う業者の登録や審査
を義務付けておらず、誰でも 一夜にして 下請け業者になることが可能だ。
さらに、福島県内の最も汚染が ひどい地域での作業契約は 環境省から作業員
1人に対し 1日1万円の危険手当が支払われるため、不法な派遣 ビジネスを誘引し
かねない状況にあるとも言える。
ロイターの調査では、環境省が業務を発注している企業の内、5社については 総務省
での法人登録が確認できず、公表されている電話番号も ウェブサイトもない上、所有者
を示す基本的な企業情報も見つからなかった。信用情報機関である帝国データバンク
にも、これらの企業の実態を示す記録は存在していない。
「 一般企業として稼動していたのか、休眠会社なのか。その代表や取締役の経歴
にも注目すべきだ 」と、帝国データバンク東京支社情報部の阿部成伸は企業実態の
慎重な調査の必要性を指摘する。
だが、除染作業に関与している無数の中小、零細企業が どのように人材を調達し、
業務の安全性や安定性を どう確保しているか、その監視や責任体制が徹底して
いるとは言いがたいのが現状だ。
主務官庁である環境省は、「 労働関係の機関や警察と連絡しながら 必要に応じて
チェックしているが、元請け業者が除染工事という目的を達成するために、目的に
沿った体制を責任をもって完了するというのが基本的な考え方 」(水・大気環境局
除染チーム、工藤喜史課長補佐)と話す。つまり、現場での作業管理は 鹿島、大成
建設、清水建設などの元請け企業に任されているわけだ。
そうした大手企業が除染現場などの状況を細かく把握できているかと言えば、
現実は そうではない。何層もの下請け契約が介在しているため、末端に行けば
行くほど実態は不透明になり、大手建設会社が 直接に個々の仕事に関与できる
状況になっていないためだ。
公共工事に詳しい法政大学教授で弁護士の五十嵐敬喜は、菅直人政権で内閣
官房参与として初期の災害対応に奔走した。その経験を踏まえ、除染作業のため
に慌てて企業をかき集めた当初の経緯は、事態の緊急性を考えれば理解できる、
という。 しかし、今の段階では、不正入札など現場における悪質な行為を防ぐため
に、政府自らが監視を強化する必要があると指摘する。
「 公共事業で (法務局)登録していない業者は絶対にだめだ。税金を使っている
ので、使い道をハッキリするということが必要 」と五十嵐は言う。「 確かに 除染には
緊急性がある。しかし、多くの下請けがあって中間搾取されているのは大問題。
それはそれで監視すべきだ 」。
<先見えない除染事業>
2011年3月の東日本大震災で東京電力・福島第1原子力発電所が破壊され、
福島を中心に深刻な放射能汚染が発生してから 3年近くが過ぎようとしている。
「 福島再生に すべての責任を負う 」と宣言した安倍晋三首相は、復興加速化に
向け国費主導の姿勢を鮮明にし、被災者帰還の前提となる除染関連事業には
廃棄物の中間貯蔵施設の建設費用を含む 4900億円を確保するなど対応を強化
する構えだ。
しかし、深刻な労働者不足や不当雇用に苛まれる除染作業が 今後も順調に成果
をあげるかどうかは未知数だ。環境省は 昨年12月26日、最も汚染が深刻な地域
での除染終了までには、2014年3月を目標にした当初の計画よりも 2〜3年は長く
かかるだろうとの見通しを発表した。これらの地域からの避難生活を余儀なくされ
ている多くの人々にとって、かつての生活を取り戻せる日はまだ近づいてはいない。
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