大飯原発運転差止請求事件判決要旨全文 2014年5月21日
大飯原発3、4号機運転差止請求事件判決要旨 主文
1 被告は、別紙原告目録1記載の各原告 (大飯原発から250キロメートル
圏内に居住する166名) に対する関係で、福井県大飯郡おおい町大島1字
吉見1ー1において、大飯発電所3号機及び4号機の原子炉を運転しては
ならない。
2 別紙原告目録2記載の各原告 (大飯原発から250キロメートル圏外に居住
する23名) の請求を いずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第2項の各原告について生じたものを同原告らの負担とし、
その余を被告の負担とする。
理由
1 はじめに
ひとたび深刻な事故が起これば 多くの人の生命、身体や その生活基盤に
重大な被害を及ぼす事業に関わる組織には、その被害の大きさ、程度に応じた
安全性と高度の信頼性が求められて然るべきである。このことは、当然の社会的
要請であるとともに、生存を基礎とする人格権が 公法、私法を間わず、すべての
法分野において、最高の価値を持つとされている以上、本件訴訟においても
よって立つべき解釈上の指針である。
個人の生命、身体、精神 及び 生活に関する利益は、各人の人格に本質的な
ものであって、その総体が人格権であるということができる。人格権は 憲法上の
権利であり (13条、25条)、 また 人の生命を基礎とするものであるがゆえに、
我が国の法制下においては これを超える価値を他に見出すことはできない。
したがって、この人格権 とりわけ 生命を守り生活を維持するという人格権の根幹
部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは、人格権 そのものに基づいて
侵害行為の差止めを請求できることになる。人格権は 各個人に由来するもの
であるが、その侵害形態が 多数人の人格権を同時に侵害する性質を有するとき、
その差止めの要請が強く働くのは理の当然である。
2 福島原発事故について
福島原発事故においては、15万人もの住民が避難生活を余儀なくされ、この
避難の過程で 少なくとも入院患者等 60名が その命を失っている。家族の離散
という状況や劣悪な避難生活の中で この人数を遥かに超える人が命を縮めた
ことは想像に難くない。 さらに、原子力委員会委員長が 福島第一原発から250
キロメートル圏内に居住する住民に避難を勧告する可能性を検討したのであって、
チェルノブイリ事故の場合の住民の避難区域も 同様の規模に及んでいる。
年間何 ミリシーベルト以上の放射線が どの程度の健康被害を及ぼすかについては
さまざまな見解があり、どの見解に立つかによって あるべき避難区域の広さも
変わってくることになるが、既に 20年以上にわたり この問題に直面し続けてきた
ウクライナ共和国、ベラルーシ共和国は、今なお広範囲にわたって避難区域を
定めている。 両共和国の政府とも 住民の早期の帰還を図ろうと考え、住民に
おいても 帰還の強い願いを持つことにおいて 我が国となんら変わりはないはずで
ある。それにもかかわらず、両共和国が 上記の対応をとらざるを得ないという事実
は、放射性物質のもたらす健康被害について 楽観的な見方をした上で 避難区域
は最小限のもので足りるとする見解の正当性に 重大な疑問を投げかけるもので
ある。 上記 250 キロメートル という数字は 緊急時に想定された数字にしかすぎない
が、だからといって この数字が直ちに過大であると判断することはできないという
べきである。
3 本件原発に求められるべき安全性
(1) 原子力発電所に求められるべき安全性
1、2に摘示したところによれば、原子力発電所に求められるべき安全性、信頼性
は極めて高度なものでなければならず、万一の場合にも 放射性物質の危険から
国民を守るべく 万全の措置がとられなければならない。
原子力発電所は、電気の生産という 社会的には重要な機能を営むものではある
が、原子力の利用は 平和目的に限られているから (原子力基本法2条)、原子力
発電所の稼動は 法的には 電気を生み出すための一手段たる経済活動の自由
(憲法22条1項)に属するものであって、憲法上は 人格権の中核部分よりも 劣位に
置かれるべきものである。 しかるところ、大きな自然災害や戦争以外で、この
根源的な権利が 極めて広汎に奪われるという事態を招く可能性があるのは原子力
発電所の事故のほかは想定し難い。かような危険を 抽象的にでもはらむ経済活動
は、その存在自体が 憲法上容認できないというのが 極論にすぎるとしても、
少なくとも かような事態を招く具体的危険性が 万が一でもあれば、その差止めが
認められるのは当然である。 このことは、土地所有権に基づく 妨害排除請求権
や妨害予防請求権においてすら、侵害の事実や侵害の具体的危険性が認められ
れば、侵害者の過失の有無や請求が認容されることによって受ける侵害者の
不利益の大きさという侵害者側の事情を問うことなく 請求が認められていることと
対比しても明らかである。
新しい技術が潜在的に有する危険性を許さないとすれば 社会の発展はなくなる
から、新しい技術の有する危険性の性質や もたらす被害の大きさが明確でない
場合には、その技術の実施の差止めの可否を裁判所において判断することは
困難を極める。 しかし、技術の危険性の性質や そのもたらす被害の大きさが
判明している場合には、技術の実施に当たっては 危険の性質と被害の大きさに
応じた安全性が求められることになるから、この安全性が保持されているかの
判断をすれば よいだけであり、危険性を 一定程度容認しないと社会の発展が
妨げられるのではないかといった葛藤が生じることはない。
原子力発電技術の危険性の本質及びそのもたらす被害の大きさは、福島原発事故
を通じて十分に明らかになったといえる。
本件訴訟においては、本件原発において、かような事態を招く具体的危険性が
万が一でもあるのかが判断の対象とされるべきであり、福島原発事故の後に
おいて、この判断を避けることは 裁判所に課された 最も重要な責務を放棄する
に等しいものと考えられる。
(2) 原子炉規制法に基づく審査との関係
(1)の理は、上記のように 人格権の我が国の法制における地位や条理等によって
導かれるものであって、原子炉規制法をはじめとする 行政法規の在り方、内容
によって左右されるものではない。 したがって、改正原子炉規制法に基づく新規制
基準が原子力発電所の安全性に関わる問題のうち いくつかを電力会社の自主的
判断に委ねていたとしても、その事項についても 裁判所の判断が及ぼされるべき
であるし、新規制基準の対象となっている事項に関しても 新規制基準への適合性
や原子力規制委員会による新規制基準への適合性の審査の適否という観点から
ではなく、(1)の理に基づく 裁判所の判断が及ぼされるべきこととなる。
4 原子力発電所の特性
原子力発電技術は 次のような特性を持つ。すなわち、原子力発電においては
そこで発出されるエネルギーは 極めて膨大であるため、運転停止後においても
電気と水で原子炉の冷却を継続しなければならず、その間に 何時間か電源が
失われるだけで 事故につながり、いったん発生した事故は 時の経過に従って
拡大して行くという性質を持つ。このことは、他の技術の多くが 運転の停止という
単純な操作によって、その被害の拡大の要因の多くが除去されるのとは異なる
原子力発電に内在する 本質的な危険である。
したがって、施設の損傷に結びつき得る地震が起きた場合、速やかに運転を停止
し、運転停止後も電気を利用して水によって核燃料を冷却し続け、万が一に異常
が発生したときも 放射性物質が 発電所敷地外部に漏れ出すことのないように
しなければならず、この止める、冷やす、閉じ込めるという要請は この3つが
そろって初めて 原子力発電所の安全性が保たれることとなる。
仮に、止めることに失敗すると わずかな地震による損傷や故障でも 破滅的な事故
を招く可能性がある。福島原発事故では、止めることには成功したが、冷やすこと
ができなかったために 放射性物質が外部に放出されることになった。また、我が
国においては 核燃料は、五重の壁に閉じ込められているという構造によって初めて
その安全性が担保されているとされ、その中でも重要な壁が 堅固な構造を持つ
原子炉格納容器であるとされている。 しかるに、本件原発には 地震の際の冷やす
という機能と閉じ込めるという構造において 次のような欠陥がある。
5 冷却機能の維持にっいて
(1) 1260ガルを超える地震について
原子力発電所は 地震による緊急停止後の冷却機能について 外部からの交流
電流によって 水を循環させるという基本的なシステムをとっている。1260ガルを
超える地震によって このシステムは崩壊し、非常用設備ないし予備的手段による
補完も ほぼ不可能となり、メルトダウンに結びつく。この規模の地震が起きた場合
には 打つべき有効な手段が ほとんどないことは 被告において自認しているところ
である。
しかるに、我が国の地震学会において このような規模の地震の発生を 一度も
予知できていないことは 公知の事実である。地震は 地下深くで起こる現象である
から、その発生の機序の分析は 仮説や推測に依拠せざるを得ないのであって、
仮説の立論や検証も 実験という手法がとれない以上 過去のデータに頼らざるを
得ない。確かに 地震は太古の昔から存在し、繰り返し発生している現象ではある
が その発生頻度は 必ずしも高いものではない上に、正確な記録は近時のもの
に限られることからすると、頼るべき過去のデータは 極めて限られたものになら
ざるをえない。 したがって、大飯原発には 1260ガルを超える地震は来ないとの
確実な科学的根拠に基づく想定は 本来的に不可能である。 むしろ、
① 我が国において記録された既往最大の震度は 岩手宮城内陸地震における
4022ガルであり、1260ガルという数値は これをはるかに下回るものであること
② 岩手宮城内陸地震は 大飯でも発生する可能性があるとされる内陸地殻内地震
であること
③ この地震が起きた東北地方と大飯原発の位置する北陸地方ないし隣接する
近畿地方とでは 地震の発生頻度において有意的な違いは認められず、若狭地方
の既知の活断層に限っても 陸海を問わず多数存在すること
④ この既往最大という概念自体が、有史以来世界最大というものではなく 近時
の我が国において最大というものにすぎないことからすると、1260ガルを超える
地震は 大飯原発に到来する危険がある。
(2) 700ガルを超えるが 1260ガルに至らない地震について
ア 被告の主張するイベントツリーについて
被告は、700ガルを超える地震が到来した場合の事象を想定し、それに応じた
対応策があると主張し、これらの事象と対策を記載したイベントツリーを策定し、
これらに記載された対策を順次とっていけば、1260ガルを超える地震が来ない
限り、炉心損傷には至らず、大事故に至ることはないと主張する。
しかし、これらのイベントツリー記載の対策が 真に有効な対策であるためには、
第1に 地震や津波のもたらす事故原因につながる事象を余すことなくとりあげること
第2に これらの事象に対して 技術的に有効な対策を講じること
第3に これらの技術的に有効な対策を 地震や津波の際に実施できる
という 3つがそろわなければならない。
イ イベントツリー記載の事象について
深刻な事故においては 発生した事象が新たな事象を招いたり、事象が重なって
起きたりするものであるから、第1の事故原因につながる事象のすべてを取り上げる
こと自体が 極めて困難であるといえる。
ウ イベントツリー記載の対策の実効性について
また、事象に対するイベントツリー記載の対策が 技術的に有効な措置であるか
どうかはさておくとしても、いったんことが起きれば、事態が深刻であればあるほど、
それがもたらす混乱と焦燥の中で 適切かつ迅速に これらの措置をとることを
原子力発電所の従業員に求めることはできない。特に、次の各事実に照らすと
その困難性は 一層明らかである。
第1に 地震は その性質上 従業員が少なくなる夜間も昼間と同じ確率で起こる。
突発的な危機的状況に直ちに対応できる人員がいかほどか、或は現場において
指揮命令系統の中心となる所長が不在か否かは、実際上は、大きな意味を持つ
ことは明らかである。
第2に 上記イベントツリーにおける対応策をとるためには いかなる事象が起きて
いるのかを把握できていることが前提になるが、この把握自体が極めて困難で
ある。福島原発事故の原因について 国会事故調査委員会は 地震の解析に
カを注ぎ、地震の到来時刻と津波の到来時刻の分析や従業員への聴取調査等
を経て津波の到来前に 外部電源の他にも 地震によって 事故と直結する損傷
が生じていた疑いがある旨 指摘しているものの、地震が いかなる箇所に どの
ような損傷をもたらし それが いかなる事象をもたらしたかの確定には至って
いない。一般的には 事故が起きれば 事故原因の解明、確定を行い その結果
を踏まえて 技術の安全性を高めていくという側面があるが、原子力発電技術に
おいては いったん大事故が起これば、その事故現場に立ち入ることができない
ため 事故原因を確定できないままになってしまう可能性が極めて高く、福島原発
事故においても その原因を 将来確定できるという保証はない。 それと同様
又は それ以上に、原子力発電所における事故の進行中に いかなる箇所に
どのような損傷が起きており それが いかなる事象をもたらしているのかを把握
することは困難である。
第3に、仮に、いかなる事象が起きているかを把握できたとしても、地震により
外部電源が断たれると同時に 多数箇所に損傷が生じるなど 対処すべき事柄は
極めて多いことが想定できるのに対し、全交流電源喪失から炉心損傷開始まで
の時間は 5時間余であり、炉心損傷の開始から メルトダウンの開始に至るまで
の時間も 2時間もないなど 残された時間は限られている。
第4に とるべきとされる手段のうち いくつかは その性質上、緊急時にやむを
得ずとる手段であって 普段からの訓練や試運転にはなじまない。運転停止中
の原子炉の冷却は 外部電源が担い、非常事態に備えて 水冷式非常用ディーゼル
発電機のほか 空冷式非常用発電装置、電源車が備えられているとされるが、
たとえば 空冷式非常用発電装置だけで 実際に原子炉を冷却できるかどうかを
テストするというようなことは危険すぎてできようはずがない。
第5に とるべきとされる防御手段に係るシステム自体が 地震によって破損さ
れることも予想できる。大飯原発の何百メートルにも及ぶ非常用取水路が一部
でも 700ガルを超える地震によって破損されれば、非常用取水路に その機能を
依存している すべての水冷式の非常用ディーゼル発電機が稼動できなくなること
が想定できるといえる。また、埋戻土部分において 地震によって段差ができ、
最終の冷却手段ともいうべき電源車を動かすことが 不可能 又は 著しく困難と
なることも想定できる。
上記に摘示したことを一例として 地震によって 複数の設備が同時に あるいは
相前後して使えなくなったり故障したりすることは 機械というものの性質上 当然
考えられることであって、防御のための設備が 複数備えられていることは 地震
の際の安全性を 大きく高めるものではないといえる。
第6に 実際に 放射性物質が 一部でも漏れれば その場所には近寄ることさえ
できなくなる。
第7に、大飯原発に通ずる道路は限られており 施設外部からの支援も期待
できない。
エ 基準地震動の信頼性について
被告は、大飯原発の周辺の活断層の調査結果に基づき 活断層の状況等を
勘案した場合の地震学の理論上導かれるガル数の最大数値が 700であり、
そもそも、700ガルを超える地震が到来することはま ず考えられないと主張する。
しかし、この理論上の数値計算の正当性、正確性について論じるより、現に、
全国で 20箇所にも満たない原発のうち 4つの原発に 5回にわたり想定した地震動
を超える地震が 平成17年以後 10年足らずの間に到来しているという事実を重視
すべきは当然である。
地震の想定に関し このような誤りが重ねられてしまった理由については、今後
学術的に解決すべきものであって、当裁判所が立ち入って判断する必要のない
事柄である。これらの事例は いずれも 地震という 自然の前における人間の能力
の限界を示すものというしかない。本件原発の地震想定が 基本的には 上記4つ
の原発におけるのと同様、過去における地震の記録と周辺の活断層の調査分析
という手法に基づきなされたにもかかわらず、被告の本件原発の地震想定だけが
信頼に値するという根拠は見い出せない。
オ 安全余裕について
被告は 本件5例の地震によって 原発の安全上重要な施設に損傷が生じなかった
ことを前提に、原発の施設には 安全余裕 ないし安全裕度があり、たとえ基準地震動
を超える地震が到来しても 直ちに 安全上重要な施設の損傷の危険性が生じる
ことはないと主張している。
弁論の全趣旨によると、一般的に 設備の設計に当たって、様々な構造物の材質
のばらつき、溶接や保守管理の良否等の不確定要素が絡むから、求められる
べき基準を ぎりぎり満たすのではなく 同基準値の何倍かの余裕を持たせた設計
がなされることが認められる。このように設計した場合でも、基準を超えれば設備
の安全は確保できない。この基準を超える負荷がかかっても 設備が損傷しない
ことも当然あるが、それは 単に上 記の不確定要素が比較的安定していたことを
意味するにすぎないのであって、安全が確保されていたからではない。
したがって、たとえ、過去において、原発施設が基準地震動を超える地震に耐え
られたという事実が認められたとしても、同事実は、今後、基準地震動を超える
地震が大飯原発に到来しても 施設が損傷しないということを なんら根拠づける
ものではない。
(3) 700ガルに至らない地震について
ア 施設損壊の危険
本件原発においては 基準地震動である700ガルを下回る地震によって外部電源
が断たれ、かつ主給水ポンプが破損し 主給水が断たれるおそれがあると認められる。
イ 施設損壊の影響
外部電源は 緊急停止後の冷却機能を保持するための第1の砦であり、外部電源
が断たれれば 非常用 ディーゼル発電機に頼らざるを得なくなるのであり、その名
が示すとおり これが非常事態であることは明らかである。福島原発事故においても
外部電源が健全であれば 非常用ディーゼル発電機の津波による被害が事故に
直結することはなかったと考えられる。 主給水は 冷却機能維持のための命綱で
あり、これが断たれた場合には その名が示すとおり 補助的な手段にすぎない
補助給水設備に頼らざるを得ない。
前記のとおり、原子炉の冷却機能は 電気によって 水を循環させることによって
維持されるのであって、電気と水のいずれかが 一定時間断たれれば 大事故に
なるのは必至である。原子炉の緊急停止の際、この冷却機能の主たる役割を担う
べき外部電源と主給水の双方が ともに 700ガルを下回る地震によっても 同時に
失われるおそれがある。 そして、その場合には (2)で摘示したように 実際には
とるのが困難であろう限られた手段が 効を奏さない限り大事故となる。
ウ 補助給水設備の限界
このことを、上記の補助給水設備についてみると 次の点が指摘できる。
緊急停止後において 非常用ディーゼル発電機が正常に機能し、補助給水設備
による蒸気発生器への給水が行われたとしても、
① 主蒸気逃がし弁による熱放出、② 充てん系によるほう酸の添加、③ 余熱
除去系による冷却
のうち、いずれか一つに失敗しただけで、補助給水設備による蒸気発生器への
給水ができないのと同様の事態に進展することが認められるのであって、補助給水
設備の実効性は 補助的手毅にすぎないことに伴う不安定なものといわざるを
得ない。 また、上記事態の回避措置として、イベントツリーも用意されてはいるが、
各手順のいずれか一つに失敗しただけでも、加速度的に深刻な事態に進展し、
未経験の手作業による手順が増えていき、不確実性も増していく。
事態の把握の困難性や時間的な制約のなかで その実現に困難が伴うことは (2)
において摘示したとおりである。
エ 被告の主張について
被告は、主給水ポンプは 安全上重要な設備ではないから 基準地震動に対する
耐震安全性の確認は行われていないと主張するが、主給水ポンプの役割は
主給水の供給にあり、主給水によって冷却機能を維持するのが原子炉の本来の
姿であって、そのことは 被告も認めているところである。安全確保の上で不可欠
な役割を 第1次的に担う設備は これを安全上重要な設備であるとして、それに
ふさわしい耐震性を求めるのが健全な社会通念であると考えられる。
このような設備を安全上重要な設備ではないとするのは 理解に苦しむ主張である
といわざるを得ない。
(4) 小括
日本列島は 太平洋プレート、オホーツクプレート、ユーラシアプレート及び
フィリピンプレートの4つのプレートの境目に位置しており、全世界の地震の1割が
狭い我が国の国土で発生する。この地震大国日本において、基準地震動を超える
地震が大飯原発に到来しないというのは 根拠のない楽観的見通しにしかすぎない
上、基準地震動に満たない地震によっても 冷却機能喪失による重大な事故が
生じ得るというのであれば、そこでの危険は、万が一の危険という領域をはるかに
超える現実的で 切迫した危険と評価できる。
このような施設のあり方は 原子力発電所が有する前記の本質的な危険性について
あまりにも楽観的といわざるを得ない。
6 閉じ込めるという構造について(使用済み核燃料の危険性)
(1) 使用済み核燃料の現在の保管状況
原子力発電所は、いったん内部で事故があったとしても 放射性物質が原子力
発電所敷地外部に出ることのないようにする必要があることから、その構造は
堅固なものでなければならない。
そのため、本件原発においても 核燃料部分は 堅固な構造をもつ原子炉格納
容器の中に存する。 他方、使用済み核燃料は 本件原発においては 原子炉格納
容器の外の建屋内の使用済み核燃料プールと呼ばれる水槽内に置かれており、
その本数は 1000本を超えるが、使用済み核燃料プールから放射性物質が漏れた
とき これが原子力発電所敷地外部に放出されることを防御する原子炉格納容器
のような堅固な設備は存在しない。
(2) 使用済み核燃料の危険性
福島原発事故においては、4号機の使用済み核燃料プールに納められた使用
済み核燃料が危機的状況に陥り、この危険性ゆえに 前記の避難計画が検討
された。 原子力委員会委員長が想定した被害想定のうち、最も重大な被害を
及ぼすと想定されたのは 使用済み核燃料プールからの放射能汚染であり、他の
号機の使用済み核燃料プールからの汚染も考えると、強制移転を求めるべき地域
が 170キロメートル以遠にも生じる可能性や、住民が移転を希望する場合に これを
認めるべき地域が 東京都のほぼ全域や横浜市の一部を含む250キロメートル以遠
にも発生する可能性があり、これらの範囲は 自然に任せておくならば、数十年は
続くとされた。
(3) 被告の主張について
被告は、使用済み核燃料は 通常40度以下に保たれた水により 冠水状態で
貯蔵されているので 冠水状態を保てばよいだけであるから 堅固な施設で囲い
込む必要はないとするが、以下のとおり失当である。
ア 冷却水喪失事故について
使用済み核燃料においても 破損により 冷却水が失われれば 被告のいう冠水
状態が保てなくなるのであり、その場合の危険性は 原子炉格納容器の一次冷却水
の配管破断の場合と大きな違いはない。 福島原発事故において原子炉格納容器
のような堅固な施設に甲まれていなかったにもかかわらず 4号機の使用済み
核燃料プールが 建屋内の水素爆発に耐えて 破断等による冷却水喪失に至ら
なかったこと、あるいは 瓦礫がなだれ込むなどによって使用済み核燃料が大きな
損傷を被ることがなかったことは 誠に 幸運と言うしかない。使用済み核燃料も
原子炉格納容器の中の炉心部分と同様に 外部からの不測の事態に対して堅固
な施設によって防御を固められてこそ 初めて万全の措置をとられているということ
ができる。
イ 電源喪失事故について
本件使用済み核燃料プールにおいては 全交流電源喪失から 3日を経ずして
冠水状態が維持できなくなる。我が国の存続に関わるほどの被害を及ぼすにも
かかわらず、全交流電源喪失から 3日を経ずして危機的状態に陥いる。
そのようなものが、堅固な設備によって閉じ込められていないまま いわばむき出し
に近い状態になっているのである。
(4) 小括
使用済み核燃料は 本件原発の稼動によって 日々生み出されていくものである
ところ、使用済み核燃料を閉じ込めておくための堅固な設備を設けるためには
膨大な費用を要するということに加え、国民の安全が何よりも優先されるべきで
あるとの見識に立つのではなく、深刻な事故はめったに起きないだろうという
見通しのもとに かような対応が成り立っているといわざるを得ない。
7 本件原発の現在の安全性
以上にみたように、国民の生存を基礎とする人格権を放射性物質の危険から
守るという観点からみると、本件原発に係る安全技術 及び設備は、万全ではない
のではないかという疑いが残るというにとどまらず、むしろ、確たる根拠のない
楽観的な見通しのもとに 初めて成り立ち得る脆弱なものであると認めざるを得
ない。
8 原告らのその余の主張について
原告らは、地震が起きた場合において 止めるという機能においても 本件原発
には欠陥があると主張する等 さまざまな要因による危険性を主張している。
しかし、これらの危険性の主張は 選択的な主張と解されるので、その判断の
必要はないし、環境権に基づく請求も 選択的なものであるから 同請求の可否に
ついても判断する必要はない。
原告らは、上記各諸点に加え、高レベル核廃棄物の処分先が決まっておらず、
同廃棄物の危険性が極めて高い上、その危険性が消えるまでに数万年もの年月
を要することからすると、この処分の問題が 将来の世代に重いつけを負わせる
ことを差止めの理由としている。幾世代にもわたる後の人々に対する 我々世代の
責任という道義的には これ以上ない重い問題について、現在の国民の法的権利
に基づく差止訴訟を担当する裁判所に、この問題を判断する資格が与えられて
いるかについては疑問があるが、7に説示したところによると この判断の必要も
ないこととなる。
9 被告の その余の主張について
他方、被告は 本件原発の稼動が 電力供給の安定性、コストの低減につながる
と主張するが、当裁判所は、極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と
電気代の高い低いの問題等とを並べて論じるような議論に加わったり、その議論
の当否を判断すること自体、法的には許されないことであると考えている。
このコストの問題に関連して 国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件原発
の運転停止によって 多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失
というべきではなく、豊かな国土と そこに国民が根を下ろして生活していることが
国富であり、これを取り戻すことができなくなることが 国富の喪失であると当裁判所
は考えている。
また、被告は、原子力発電所の稼動が CO2排出削減に資するもので環境面で
優れている旨主張するが、原子力発電所で ひとたび深刻事故が起こった場合の
環境汚染は すさまじいものであって、福島原発事故は 我が国始まって以来最大
の公害、環境汚染であることに照らすと、環境問題を 原子力発電所の運転継続
の根拠とすることは 甚だしい筋違いである。
10 結論
以上の次第であり、原告らの内、大飯原発から250キロメートル圏内に居住する者
(別紙原告目録1記載の各原告)は、本件原発の運転によって 直接的に その
人格権が侵害される具体的な危険があると認められるから、これらの原告らの
請求を認容すべきである。
福井地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 樋口英明
裁判官 石田明彦
裁判官 三宅由子 |
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2014年05月22日
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長野県の放射能検査で、事故から3年経って はじめて長野市で採れた
「こしあぶら」から 基準値100㏃/kgを超える放射性セシウムが検出された
ということである。
過去2年間の県の検査では、長野市の山菜は 平成24年度4月30日に採取
された「こごみ」一点しかなされていない。即ち、一昨年も昨年も「こしあぶら」
は検査していなかったのである。
このことから言えることは、
長野市の「こしあぶら」は 本年 はじめて基準値を超えたのではなく、
今まで 検査をしていなかったので、当然 基準値を超える数字は出ることは
ないのである。 そして、県は 基準値の数字がないことをもって、
長野市で採れる 「こしあぶら」 は基準値に満たないと判断し、
「 安全性が確認されています 」とアナウンスしていた という詐欺のような
ことをしていたことになる。
――― これは 長野県に限らないことで、
他の県でも やはり同じく、検査したものしか 出荷制限というものはかからない
ということになる。つまり、検査結果は 「 汚染の実態 」を反映しているという
よりも、「 検査の仕方 」を反映しているということになるのだ。
もし、もっと詳細に検査をすれば、多くの市町村が出荷制限の対象になる
可能性が高く、また 他の色々な種類の農産物で その対象になる可能性
があるだろう。
今日 各県や市町村で行われている 放射能検査は、ザルで水を掬うような
ものなのであろう。
長野県北佐久郡 軽井沢町[YAHOO地図]
地図画面右上の「地図 ▽」を開いて
「情報を重ねる」欄の「 放射線情報[災] 」に✔を入れる
と、詳細な汚染地図になります。
(参考)県内産山菜の放射性物質測定結果
更新日:2014年5月21日
長野県内産の山野に自生する山菜からは、食品衛生法の基準値を超える放射性
セシウムが検出されている場所がありますので、当該市町村(長野市及び軽井沢町
のコシアブラ、及び軽井沢町のタラノメ)の山菜については、採取、出荷及び摂取の
自粛をお願いしています。
(単位:Bq/kg)
【不検出について】
検出下限値より低い場合は「不検出」としています。 長野県環境保全研究所における下限値は、おおむね3〜5Bq/kgですが、検体により 変動します。 検体ごとの検出下限値は、( )書きで示しています。 ☝
平成25年度の測定結果 2013年10月25日
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平成24年度の測定結果 2013年7月1日
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平成23年度 の測定結果 2014年5月17日
2013年12月18日
長野県からの野生きのこの自粛要請について
小諸市、佐久市、小海町、佐久穂町、南牧村、軽井沢町及び御代田町の7市町村に対して、
採取、出荷及び摂取の自粛を要請しています。
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(1) のつづき
東京電力が2011年3月14日、福島第一原発3号機で高濃度の放射性物質を
人為的に外気に放出する ドライベントの準備を進めていたことが分かった。 国は
この時、混乱を避けるため 3号機の危機を報道機関に知らせない 「情報統制」
をしており、多数の住民が 何も知らないまま 大量被曝する恐れがあった。
ベントは 原子炉格納容器が 圧力上昇で壊れて 放射性物質が大量放出されるのを防ぐ
ため、格納容器内の気体を 人為的に抜いて 圧力を下げる最後の手段。 水を通して抜く
ウエットベントと比べ、水を通さないドライベントは 100〜1千倍、濃度の高い放射性物質を
外部に出す。今回の事故対応では 実施されなかった。
吉田調書などによると、3号機は 14日未明、注入する水が枯渇して危機を迎えた。
ウエットベントで格納容器の圧力を下げようとしたが下がらず、14日午前6時23分、次善の策
として ドライベントの検討を始めた。
国から午前7時49分に 情報統制に入ったと通告された後も、ドライベントを実施した場合の
放射性物質の拡散を予測していた。
通告直前の予測は、午前7時前の時点で 甲状腺がんを起こす放射性ヨウ素が南南東の風
に乗って北北西方向に広がり、3時間で 福島県北部の相馬郡付近が 250m㏜になると予測。
この値は 甲状腺被曝の影響を防ぐため安定ヨウ素剤を飲む 当時の国の目安100m㏜を超えて
いた。
吉田氏は 政府事故調の聴取で ドライベントを検討していたかと質問され、
「 それは もちろん しています 」 と明言。 一方、それに先立って ウェットベントの操作を
している間に 「 爆発してしまって 何か圧力が下がってしまったんですね 」と述べた。
これは、3号機建屋の爆発が 偶発的に起きた後に 圧力が下がり、ドライベントを実施する
必要がなくなった経緯を説明したものだ。
この建屋爆発で放出された放射線量は、ドライベントの実施時の試算よりも 少ないが、
その後の原子炉の状況を考えれば 単純に影響度を比較するのは難しい。
当時、国は 3号機の圧力上昇を報道しないよう、東電と福島県に要請。この情報統制
について、吉田氏は 聴取で 「 そんな話は 初耳 」とし、
「 広報が どうしようが、プレス(報道発表)をするしかないか、勝手にやってくれと。 現場は
手一杯なんだから。 」と証言。
住民への周知にまで 気を使う余裕がなかったことを打ち明けていた。
東電が ドライベントを検討していたのは、情報統制の最中だった。
「 今 プレスをとめてるそうです 」
3月14日午前7時49分、吉田所長は 東電のテレビ会議システムを通し、本店の
官庁連絡班から そんな報告を受けた。
3号機の原子炉圧力が急上昇している事態について、当時の原子力安全・保安院
が 報道機関に発表してはならないという情報統制を敷いているというのだ。
政府事故調の報告書によると、その数分後 原子炉の圧力が設計上の最高使用
圧力を超えた。原子炉の危機が高まっていた。
東電は、報道発表について 首相官邸の了解を得るため、官邸に派遣されていた
本店社員が 保安院の担当者を探し回り、手間取っていた。
一方、福島県も 住民へ周知するため 報道発表をしたいと要請したが、保安院は
「 絶対にダメだ 」と返事した。
保安院は、圧力が下がり、原子炉に冷却水を注入できるようになることを期待
していた。 住民に危機を知らせるよりも、原子炉の暴走を止めることを優先した
のだ。 原子炉の状況が自治体や住民に的確に伝わらないなかで、住民が安全
に避難することは難しい。
※ 2011年3月の事故当時、国には どのような状況でベントの実施が許される
のかというルールがなく、電力会社に任せていた。 ドライベント と ウェットベント
の区別もはっきりしていなかった。
東電の事故時操作手順書では、「格納容器圧力が最高使用圧力の2倍」
または「温度200度」に達した場合に、緊急時対策本部長(発電所長)の
最終判断でベントすることになっていた。
福島第一原発で最終判断をするのは、吉田氏だった。
その際、周辺住民の避難情報を確認することが必要で、「 国や自治体等
関係機関と最大限に情報を共有しながら、実施について調整していく 」
としていた。
しかし、東電の資料によると、実際には 1,2,3号機のベント実施の際に
「通信手段の不調」で連絡できなかった自治体もあった。
原子力規制委員会は 13年、原発を運転する前提となる 新しい規制基準
を作った。福島第一と同じ沸騰水型炉は 新たにフィルター付きベント設備の
設置を義務付けられるなど 設備面の強化策が打ち出された。
しかし、どのような状況で ベントの実施が許されるかという運用面に
ついては、相変わらず、自治体と電力会社が結ぶ「安全協定」という法律に
基づかない協定に委ねられたままだ。・・・
東日本大震災発生3日後の 2011年3月14日午後6時。福島第一原発2号機は、
重大な危機にさらされていた。1号機、3号機でも手こずった原子炉格納容器の
ベントが、2号機では 本当に どうやってもできなかった。
原子炉の中心部である圧力容器の水蒸気を逃がす「SR弁」を人為的に開けて、
圧力が下がったところで 消防車で注水し原子炉を冷やす試みも、なかなかうまく
いかなかった。
——— この後ぐらいに、要するに、SR弁が なかなか開かないというところから、
夜に行くぐらいの頃、本店も含めてなのかどうかはともかく、実際の退避は 2F
の方に行っていますけれども、退避なども検討しなければいけないのではないか
みたいな話というのは出ていた?
吉田 「 出ています、というか、これは、あまりに大きい話になりますし、そこで
うちの本店から言ってきたわけではなくて、円卓で言いますと、円卓があります
けれども、廊下にも協力企業だとかがいて、完全に燃料露出しているにも
かかわらず、減圧もできない、水も入らないという状態が来ましたので、私は
本当に ここだけは 一番思い出したくないところです。ここで 何回目かに死んだ
と、ここで 本当に死んだ と思ったんです 」
「 これで 2号機は このまま水が入らないでメルトして、完全に格納容器の 圧力をぶち破って 燃料が全部出ていってしまう。そうすると、その分の放射能
が全部 外にまき散らされる最悪の事故ですから。チェルノブイリ級ではなくて、
チャイナシンドロームではないですけれども、ああいう状況になってしまう。そうすると、
1号、3号の注水も停止しないといけない。これも遅かれ早かれこんな状態に
なる 」
2号機では いったん 13日に、格納容器から排気塔につながる ベントライン上の
弁を2つとも開け、いつでもベントできる状態にしていたのだが、14日午前11時1分
の3号機の爆発で、うち一つが閉じて、開かなくなってしまった。
午後4時15分に 原子力安全委員会委員長の班目春樹から直接電話があり、 ベントができないなら 原子炉圧力容器のSR弁をすぐに開けろと言われた。が、
これも作業を始めてから 1時間たったが開かなかった。
ベントの弁と同様、平素は簡単な操作で開くのだが、125ボルトの直流電源を 供給するバッテリーが上がってしまったのか、うんともすんとも言わなかった。
第一原発では、所員の自家用車からはずしてきたり、福島県内のカー用品店で 買ってきたりして、12ボルトの自動車用バッテリーをかき集めていた。東電本店
や、新潟県の柏崎刈羽原発など ほかの発電所からも送ってもらった。それらを
10個直列につないで 120ボルトのバッテリーにして装着してみたがうまくいかない。
——ー 「 ここで何回目かに死んだと、ここで本当に死んだと 」
10個では 電圧が定格より 5ボルト足りないからと 11個つなぎにすれば良い
のではないか、いや、これは 電圧でなく電流が足りないから 120ボルトのバッテリー
を もう1セットつくり、2セットを並列つなぎにしたほうがいいのではないか、と
試行錯誤を繰り返したがなかなか開かなかった。
このまま SR弁が開かないと 圧力容器内の圧力は高止まりし、消防車の低い ポンプ圧力では、いつまでたっても 炉に水を注ぎ込むことができない。
早く水を入れて冷やさないと、炉は ますます高温高圧になる。水が蒸発して 水位が下がり、核燃料が水面から顔をのぞかせることになる。
核燃料は 水からむき出しになると、そこから 2時間で 自らが発する高熱で 溶け落ちる。いわゆる メルトダウンだ。さらに 2時間で 圧力容器の壁を溶かして
穴を開けてしまう。 メルトスルーと呼ばれる事態だ。
吉田が口にした「チャイナシンドローム」とは、アメリカの原発がメルトスルーし、
高温で どろどろになった核燃料が格納容器をも突き破り、接するものを 次々と
溶かしながら、重力により 地球の中心に向かい、さらに突き進んでちょうど地球
の裏側の中国に到達するという仮想の話を主題にした、ジェーン・フォンダ主演の
米映画の名前だ。
そこまでの惨事となるかどうかはともかく、打つ手がない以上、2号機は メルトスルー に向かっていく。格納容器が破られれば、プルトニウム、ウラニウム、アメリシウム
など猛毒の放射性物質が、生活環境に大量にばらまかれる。
その際には 膨大な量の放射線が 所員を一気に大量被曝させるであろう。 吉田は、となると、1号機と3号機も原子炉の冷却作業ができなくなり、3機とも
メルトスルーするという恐ろしい事態が起きてしまうと思い、ある行動に出た。 東日本大震災発生3日後の2011年3月14日午前11時01分、福島第一原発
の3号機が爆発した。
分厚いコンクリート製の建屋を 真上に高々と吹き飛ばしたところを無人テレビカメラ に捉えられ、ただちに放映された、あの爆発だ。
——— 水が欲しいと きっとなるだろうから、そうだったら、何はともあれ 外との間のパイプラインをつくってしまえ という指示を どこかで出したのかなと思っていたん
ですが、パイプラインを 何でもいいから作ってくれと、そんなことまでは 頭が
動かないのか、それとも、言っても 先ほどのように。
吉田 「 それはわからないです。私は この中にいましたので、外から どういう
動きをしていたかは ちっともわからないんで、結果として 何もしてくれなかった
ということしかわからない。途中で 何かしてくれようとしていたのかどうか、一切
わかりません 」
——— わかりました。 私は そこまででいいです。
吉田 「 逆に 被害妄想になっているんですよ。 結果として 誰も助けに来なかった
ではないかということなんです。すみません。自分の感情を言っておきますけれ
ども、本店にしても、どこにしても、これだけの人間で これだけのあれをしている
のにもかかわらず、実質的な、効果的なレスキューが 何もないという、ものすごい
恨みつらみが残っていますから 」
——— それは 誠にそうだ。 結果として 誰も助けに来てくれなかった。
吉田 「 後で またお話が出ますが、消防隊とか、レスキューだとか、いらっしゃった
んですけれども、これは あまり効果がなかった ということだけは付け加えて
おきます 」
3月12日午後の1号機の爆発に続き、日本史上2度目の原発の爆発も、ここ
福島第一原発で起きてしまった。
外で作業にあたっていた人が怪我をした。当時、原子炉への注水は、3号機の 海側にある逆洗弁ピットというくぼみにたまった海水を、消防車で汲み上げて
おこなっていた。その屋外作業に大勢がかかわっていた。
また、自衛隊が ちょうど給水車で 原子炉に入れる水を補給しにきていた。作業 をしていた6人は 被曝し、何人かは怪我もした。
福島第一原発では 所長の吉田昌郎以下、所員の落ち込みようは激しかった。 吉田は サイト、即ち 発電所のみんなの声を代弁し、午後0時41分、テレビ会議
システムを使って、声を詰まらせて 東電本店に 次のように訴えた。
「 こんな時になんなんだけども、やっぱり、この……、この二つ爆発があって
ですね、非常に サイトもこう、かなりショックっていうか、まあ、いろんな状態あって
ですね 」
社長の清水正孝の答えは、次のようなものだった。
「 あの、職員のみなさま、大変、大変な思いで対応していただいていると 思います。それで、確かに 要員の問題があるんで、継続につき検討してますが、
可能な範囲で 対処方針、対処しますので、なんとか、今しばらくは ちょっと
頑張っていただく 」
東電本店は ヒトだけでなく モノの面でも福島第一原発を孤立させていた。 OurPlanetTV
2011年3月12日深夜から15日未明にかけての音声付き「テ レビ会議映像」
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