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中国経済は それほど強靭なのか 中国経済は、普通の国よりも はるかに強靭な体質を備えているように見えるときがある。 08年9月の「 リーマンショック 」発生で、世界経済が 米国経済にカップリングして 急激に悪化していった局面で、中国政府は 同年11月、総額4兆元( 1元=13円で計算する と約52兆円 )の大規模な景気対策を打ち出した。 中国の実質GDP成長率は 10―12月期は 前年同期比+6.8%、今年1―3月期は 同+6.1%へと急低下していたが、4−6月期になると、経済対策の効果が早くも発現し、 同+7.9%へと急速に持ち直した。 雇用を中心とする国内情勢の安定を確保できる、すなわち暴動など社会騒乱の頻発を回避する ために必要な最低ラインとされている+8%の成長率を、この段階でほぼ取り戻した。 さらに、7―9月期は前年同期比+8.9%へと、中国の経済成長率はさらに加速した。 欧米の政治家からは「 経済成長の潜在力が大きい 中国ならではのV字回復だ 」と、 驚嘆の声が上がった。 だが、厳しい言い方をすると、中国経済の高成長は 様々な歪みを 内包している。「 世界経済の救世主 」として、中国に過度に期待している一部の楽観論に 対し、筆者としては 違和感を覚えざるを得ない。 「 個人消費 」は メインエンジンにならない 一人っ子政策を取り続けてきたことによる 人口構成の歪みゆえに、高齢化社会の到来が 視野に入りつつあるものの、中国の社会保障制度整備は きわめて不十分なままである。 このため、中国人の間では 将来不安が強く、貯蓄率が高止まりしやすい。 したがって、 中国の場合、個人消費が 経済成長のメインエンジンになってこないという大きな弱点がある。 確かに「 家電下郷 」と呼ばれる農村部での家電普及策や、自動車の購入促進のための 減税・補助金政策は きちんとした成果をあげている。 だが、これらは 将来分の先食いを含む 耐久消費財の需要喚起策であって、消費全体を 持続的に上向かせる性質のものではない。 「 輸出 」の回復も 期待薄 一方、沿海部の高成長地域に立地している外資系企業は、かなりの程度 輸出に依存して いるが、頼みの米国経済が 構造不況に陥っているため、見通しは 明るくなりにくい。 中国の今年10月の輸出は 前年同月比 ▲13.8%で、12か月連続の減少。1〜10月の 累計は 前年同期比▲20.5%で、マイナス幅は なかなか縮まってこない。 中国当局は 鋼材などの品目について、輸出増値税の還付率を段階的に引き上げるという 減税措置を講じるなどして輸出を促しているが、国内で 過剰な製品の輸出を あまりに露骨に 促すと、貿易摩擦が激化してしまう。 また、管理変動相場制をとっている外国為替市場では、人民銀行が 人民元の対米ドル相場 の上昇を完全に止めている。 1ドル=6.38元前後の狭いレンジ内での推移が 1年以上も 続いており、事実上、ドルペッグ状態に戻っていると言えよう。 さまざまな通貨に対して ドル基調が続いており、人民元が ドルに連動していることから、 ユーロなど米ドル以外の通貨に対し、人民元は 結果的に切り下がっている。これも輸出促進策 の一つと受け止めることが可能だ。 実際、ユーロ圏では 人民元相場に対する不満が高まって いる。 ただし、グローバルな需要レベルが 米家計過剰消費崩壊によって 大きく下方シフト した後であるだけに、輸出押し上げ効果は 限られざるを得ない。 拡大する財政赤字の下では、公共投資は続けられない 中国の高度経済成長実現に 大きく寄与してきた輸出が 当面頼りにならない。消費にも メインエンジンとしての期待はしにくい。 消去法的思考の帰結として、中国の経済成長を 牽引するのは、固定資産投資(公共投資や設備投資)ということになってくる。 しかし、公共投資については、国や地方の財源調達の問題( 特に地方政府の資金調達の 困難さ )に加えて、財政赤字の膨張という副作用が伴う。 中国の財政赤字増大は、日本や米国、英国ほどではないにせよ、気になるところである。 今年3月の全国人民代表大会(全人代)に提出された、4兆元の景気刺激策の一部を反映した 09年度予算案で、国・地方の赤字額は 9500億元とされ、08年度予算の赤字額である 1800億元から大きく膨張した。 中国の名目GDPは、08年時点で30兆元強。この数字を使って 財政赤字の名目GDP比 を計算すると、3%を超える。単年度 財政赤字が3%以内というのは、EU加盟国が統一通貨 ユーロを使用する欧州通貨統合に参加するための基準(クライテリア)の一つであり、 健全財政の限界ラインとして 認識されることが少なくない。 むろん、09年上半期の名目 GDPは 前年同期比+3.8%という伸びになっており、通年でも プラス成長が確実な情勢な ので、09年度の財政赤字は 結果的に3%以内におさまるものとみられるが、中国の財政赤字 が警戒ラインに接近していることに変わりはない。 温家宝首相など中国政府当局者が 第2弾の景気刺激策を打ち出す可能性に 何度か言及 しつつも、実現に向けて動き出す兆候が いっこうに出てこない背景には、財政赤字が3%を 超えてしまうことへのためらいがあるのではないかと、筆者は推測している。 財政による 人為的な経済成長かさ上げの余力は、中国でも 意外に残されていないのではないか。 (つづく) |
現代の問題 3.
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オバマ米大統領が5日のチェコ・プラハでの演説で 核軍縮に向けた構想を表明した。 被爆地・広島では「 核兵器廃絶へ一歩近づく 」と期待が高まる。ただ、広島の目指す核廃絶 への具体的な道筋まで示されたわけではない。 元外交官の浅井基文・広島市立大広島平和 研究所長(67)は 「 ヒロシマの思いとの間には 相当な距離がある 」と指摘する。 オバマ演説を どう読み解くべきなのか聞いた。 ―― オバマ氏は 「 核兵器を使用した唯一の核保有国として核軍縮を進める道義的責任がある 」と述べました。 歴代の大統領にない発言で、一歩前進と言える。 ただ この言葉をもって、 彼が 原爆を 投下した 広島、長崎に対して 心から 謝罪したとみるのは 飛躍しすぎだ。 「 道義的責任はあったが、あの時点では 戦争を早く終わらせるために仕方なかった 」と 口にする可能性も十分ある。 彼の今後の発言を注視する必要がある。 ―― ブッシュ前政権で 崩壊の危機に瀕した核不拡散条約(NPT)体制を強化したい との 考え方も示しました。 ロシアとの交渉を始めるなど NPT加盟国の核軍縮問題を無視してはいないが、大きな ねらいの一つは、イランのように原子力の平和利用に乗り出そうとする国々への核拡散防止 と、ルールを守らない国への制裁強化だろう。「 一国主義 」だった ブッシュ時代と色合いは 異なるものの、オバマ氏も「 米国中心主義 」であることは明らか。 例えば、演説での北朝鮮への厳しい言及ぶりを見ても、米国を中心に 国際秩序を再形成 したいとの気持ちが非常に強く感じられる。 ―― 核抑止論の肯定と とれるくだりもあります。 核兵器を抑止力とみる考え方を、 彼は 牢固として 持っていると思う。 オバマ氏が言う「 核のない世界 」は、キッシンジャー氏ら米国の元政府高官4人の(07、 08年に発表した)提案と同じく「 核テロリズムを どう封じ込めるか 」が出発点になって いるからだ。 ―― 被爆地の核廃絶の願いとのずれは? 核テロリズムから出発した核廃絶論は 本来の姿ではない。 仮に テロを恐れずに済む時代が 来た後も、中国やロシアが脅威である と米国が認識する限り「 核抑止力は やはり必要だ 」と の声が台頭してくる可能性が高い。 広島、長崎が示した「 人類は 核兵器と共存できない 」 という考え方が根底にこない限り、オバマ政権で 核廃絶への道のりが 一直線で進むと期待 するのは、あまりに 現実離れした考え方だ。 ―― 広島は、オバマ政権に どう働きかけていくべきなのでしょうか。 「 生きている間に核兵器廃絶は難しい 」と言うオバマ氏と、2020年までの廃絶を掲げる 平和市長会議(会長・広島市長)のビジョンとの距離は大きい。オバマ氏に 広島訪問を求める だけでいいのか。オバマ氏を 広島の思想に近づけるために、核兵器廃絶に向けた具体的な ステップを積極的に提言していくことが求められる。オバマ氏任せにしていては だめだ。 ―― 被爆国・日本の政府が、オバマ氏の発言を大歓迎しているようには見えません。 日本の歴代政権は「 米国の核の傘の下で 安全を保つ 」との発想でこり固まっている。 まして 北朝鮮の核問題もある状況で、日本政府が「 オバマさん、そこまで おっしゃるなら 核兵器のない方向に突き進んでください 」と言うことはありえまい。 日本政府の 核に対する二重基準こそ、広島が これまで目をふさいできた点だと思う。 オバマ氏が「 道義的責任 」に言及した今こそ、日本政府に対し「 本気で 核廃絶に取り組め 」 と、広島が 強烈に働きかける好機にするべきだろう。 以上 ■ 平和賞にオバマ米大統領 核なき世界評価 産経新聞 2009/10/09 【ロンドン=木村正人】ノルウェーのノーベル賞委員会は9日、「核兵器なき世界」 の実現を掲げ、対話と交渉を通じた国際紛争の解決を目指すバラク・オバマ米大統領 (48)に、2009年のノーベル平和賞を授与すると発表した。 現職の国家首脳が受賞したのは、00年に韓国大統領だった故金大中氏が朝鮮半島 の南北和解への貢献が認められて受賞して以来。 米大統領経験者では、02年にカーター元大統領が受賞している。 授賞理由として ノーベル賞委員会は「 核兵器のない世界に向けたビジョンと 働きに 特別な重要性を認める 」とし、「 国際政治に 新たな環境をもたらした 」 と評価した。 国際的な外交と人々の間の協調を推し進めた努力も高く評価し、 「 世界に よりよい将来の希望を与えた 」と称賛した。 オバマ大統領は 昨年11月、ブッシュ前政権からの政策転換を掲げて、黒人初の 米大統領に当選した。 今年4月5日には、チェコの首都プラハで行った核拡散問題に関する演説で、 「 米国は 核廃絶に向けて行動する道義的責任を有する 」と、4年以内に 兵器用核物質の拡散を防ぐ体制を構築する方針を表明。9月の国連安全保障理事会 の首脳級会合を主導し、「 核兵器なき世界 」に向けた取り組みをうたった決議案を 全会一致で採択させた。 9月に開催された国連気候変動首脳会合の開幕演説では、「 先進国と途上国とが いがみ合ったまま、取り組みを怠ることはもはや許されない 」として、温暖化対策 の分野で 米国が世界を主導するとの強い意欲を示した。 賞金は 1000万スウェーデンクローナ(約1億3000万円)。授賞式は 12月10日にノルウェーの首都オスロで行われる。 核廃絶理念より 行程を 毎年八月になると、広島・長崎の原爆被爆に関連する報道に日本のマスコミは余念がない。 平和を祈願する日本国民の声には傾聴すべきものが大いにある。 だが、日本は 唯一被爆国である歴史を記憶するとともに、加害者であった歴史も合わせて 記憶すべきであり、そして 近隣の諸国とともに 戦争被害者の気持ちを分かち合う努力をして こそ、平和の祈願が近隣諸国と世界に伝わるだろう。 「核兵器のない世界を!」「戦争のない 世界を!」。 日本人のみならず 世界の多数の人は、同じ心情を持っているはず。 今年の四月五日、アメリカ大統領オバマ氏が、核廃絶に向けて、チェコのプラハで大勢の市民 に向けて演説を行った。「 今日、私は 明白に、信念とともに、米国が核兵器のない平和で 安全な世界を追求すると約束します 」と。世界をリード(または制覇)する米国の大統領 の演説であるだけに、人類に希望を持たせる面も確かにあるだろう。 しかし 核兵器をなくす理念を主張する時に「 では、なぜ核兵器は開発・拡散したのか? 」 を冷静に考えなければならない。 核兵器は 戦争と冷戦の産物にほかならない。 今日、私たちが暮らす東北アジア地域では、まだ 戦争も冷戦も終わっていない。朝鮮半島は まだ分断と「 停戦協定 」の状態にあり、中国と台湾は分裂状態にある。そして イデオロギー 対立は、今なお 少なからぬ人々の意識を支配している。 核実験を行った北朝鮮は 当たり前に非難を受けるべきかも知れないが、核兵器を大量に 保有し、または「 核の傘 」に守られる周辺の国が、他人に「 武器を捨てろ 」と言っても、 それは 説得力に欠ける話であり、実現不可能に近い。 核兵器をなくすためには、まず「 停戦協定 」を,「 平和協定 」を変えると伴に、「 核の抑止力 」 による安全保障から、核に頼らない「 東北アジア安全保障機構 」のようなメカニズム構築を 進めることが先決であろう。 南北統一をしたくてもできない朝鮮半島、両岸統一をしたくてもできない中国、「普通の国」
になりたくてもできない日本。 東北アジアは 孫悟空のように、未だにアメリカの「 如来仏の手 」から自由ではない。 以上 |
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※ 《・》内は kyomu-の文です。 経済危機の今こそ 温暖化対策を進めるべき── 昨年は、米国発の金融危機が 世界に波及しましたが、 温暖化対策も その影響を 少なからず受けたのではないでしょうか。 オットマー・エーデンホファー氏(以下敬称略): 直接的な影響が どの程度あったのかは わかりません。 しかし、こうした危機状況になると 企業は 投資回収を急ぎますし、 「 今は 温暖化対策を進める時期ではないのではないか 」といった意見も出てきます。 しかし、「 今こそが 対策を進める時期なのだ 」というのが私の主張です。 グリーンテクノロジーを促進することで 温暖化に立ち向かい、同時に 金融危機に立ち向かう という、両方の問題を一挙に解決する取り組みができると思うのです。 《 「 グリーンテクノロジーを促進することで 温暖化に立ち向かい、同時に 金融危機に立向かうという、両方の問題を一挙に解決する取組みができる 」 ――― ここは、「 温暖化 」ではなく,「 砂漠化 や 生物絶滅 や 酸性雨etc 」 と言うのが、より正しい言い方でしょう。 また、「 西欧産テクノロジーの放棄を促進することで・・・ 」と。 》 ── オバマ米大統領が提唱する、環境分野へ重点的に投資することで雇用を創出し、景気を 刺激しようという「 グリーン・ニューディール 」に注目が集まっていますね。 エーデンホファー: そうした経済効果などの点については、気候変動に関する政府間パネル (IPCC)の第5次報告書(AR5)のなかでも取り上げる予定です。 また 私は 現在、都市計画 や交通、メガシティ、インフラといった部門の特別報告書を出すべきではないかという提案も しています。 というのは、これらの分野は われわれの将来のライフスタイルに 重要な影響を与え、 二酸化炭素(CO2)の排出経路を 長期にわたり 決定づけてしまうからです。 また逆に、最近の干ばつや洪水など 異常気象の頻発が、インフラ投資の動きに与えている 影響を考えれば分かるように、こうした分野への投資資金の流れが、気候変動によって非常に 大きな影響を受けるということもあります。 ですから、この問題については 2つの視点から検討されるべきです。 一つは インフラ投資によって、将来の気候変動に どう適応していくのか という点。 そして もう一つは、そのインフラ投資が 将来の排出経路に与える影響は何か、低炭素経済 を支えるために その投資を どう使うべきなのか という点です。 かつてないほどの大幅な排出量削減を実現し、われわれが直面している歴史的な課題を乗り 越えていくには、現行の経済の仕組みそのものを、持続可能な形に変えていく必要があるのだ と思います。 《 「 現行の経済の仕組みを変えていく必要がある 」と 私も思いますが、 それが 「 持続可能 」であるとは、何が「 持続可能 」なのか? ――― 氏の言う「 持続可能 」は、先進国の政治経済的なヘゲモニーなので しょうか? それとも、現「 科学・技術文明 」なのでしょうか? 或は 「 民主主義 」なのでしょうか? しかし、これらを「 持続可能 」に したばかりに、「 温暖化 」は 緩和or回避できたが、地球環境を破壊し尽して しまう といったことになっては、おかしなことになります。 従って、何が 本当に「 持続可能 」にすべきものなのか? ということを もっと、我々は 深く検討してみなくてはなりません。 》 基本は「 適応 」ではなく「 緩和 」── ここまで、温暖化の緩和策について 主に伺ってきました。 今 インフラ整備による温暖化への適応という 話もでましたが、その他の適応策については、 AR5では どのように触れられる予定なのでしょうか。 エーデンホファー: 緩和と適応とを どのように扱っていくかというのは 非常に難しい問題 です。 注意しなくてならないのは「 この2つは 相互補完の関係にあるわけではない 」 ということです。 たとえば 今、緩和策によって 気温上昇を2℃にとどめるという目標があったが、実際には 3〜4℃上昇してしまったとします。 そのときに、「 その残り1〜2℃分の気候変動被害 に適応していこう 」というものではないのです。 これほど短い期間で 急速に地球の平均気温が上昇していくというのは、かつてなかったこと であり、その影響に関して われわれの持っている知識は 非常に限られています。 この複雑な状況に どう適応していけばいいのかは まったく分からない。 かろうじて 分かっているのは、どうやって CO2排出量を削減するか、緩和していくかということの方 だけなのです。 つまり、まったく 未知の分野である「 適応 」のための保険のような存在が 「 緩和 」だ と言えるでしょう。 《 氏は、地球環境に「 適応 」することよりも、人間の技術力で 危機を 「 緩和 」する方を選ぼう と言われている訳です。 「 適応 」は、その地の 自然環境に 深く依存・従属することによって、 その地独自の生活形態を それぞれに創造することですが、 これは 西欧普遍主義の放棄につながりますし、また 当面 金にならず 政治的なヘゲモニーも これでは得られないでしょう。 》 ── その他、AR5作成に向けての 今後の議論において、ポイントとなりそうな点を 予測してもらえますか。 エーデンホファー: 多くの人が 緩和策にかかるコストの問題に関心を持っていますので、 その点についての議論が行われるでしょう。 そこで、あまりに コストがかかりすぎる という意見が多いようなら、適応策について さらに議論をすることにもなると思います。 また、CO2排出削減のような緩和策を進めるには すでに時期が遅すぎる、成層圏への エアロゾル放出によって 気温を低下させるなど、地球工学の力を使うべきだ といった意見も 出てくると予想しています。かつて 気候変動の問題に関心を持っていなかったような人が、 逆に 現在は パニックに陥って、「 すべてが遅すぎる、われわれに残されたオプションは 地球工学だけだ 」と主張しているのです。 ── IPCCの共同議長に選出されて 半年あまりが経ちました。活動についての感想を 聞かせてください。 エーデンホファー: 気候変動は、人類にとって 真の脅威であり、世界中で 多くの紛争を 生み出す原因にもなっています。 これ以上の紛争、戦争を生み出すことなく、低炭素経済を 実現していくための方策を見つけ出すことが、 ノーベル賞受賞団体でもあるIPCCに 課せられた責任だと考えていますし、その作業部会の共同議長を務めることは、私自身に とっても大きな名誉です。 課題の克服のために最大限の努力をし、持てる限りの能力を 発揮したいと思っています。 全人類の平和と幸福などではなく、西欧文明の「 持続可能 」かもしれません。 「 人類にとって 真の脅威であり、世界中で 多くの紛争を生み出す原因 」 は、もしかすると、これを「 気候変動 」だと言わせて 氏に名誉を与えた 「 ノーベル賞 」だったかもしれません。》
以上 「ECOマネジメント」地球環境問題―新たなる挑戦― より
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インタビューIPCC WG3共同議長 オットマー・エーデンホファー氏 低炭素経済に向けたシナリオ【前編】 実現への道は 一つではない、複数の方策で 持続可能な経済にIPCC第3作業部会共同議長オットマー・エーデンホファー氏 @ 独ポツダム気候影響研究所(PIK)副所長兼チーフエコノミストを務め、 ベルリン工科大学教授として気候変動経済学の講座を受け持つ。 2008年9月より現職に就き、任期は 7年間となる。 聞き手/深尾典男、仲藤里美 構成・文/仲藤里美 2009年4月2日 ※ 《・》内は kyomu-の文です。 公開経済成長と温暖化対策は両立することを明示── 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第3作業部会の共同議長として、温室効果ガス の排出抑制と気候変動緩和策の評価を担当しておられますが、IPCCでは 2015年 までの第5次評価報告書(AR5)作成に向けての活動が始まりました。 この報告書の方向性を聞かせてください。 オットマー・エーデンホファー氏(以下敬称略) : まず最初に強調しておきたいのは、IPCCは公正中立なブローカー(仲介役)である ということです。 科学者間のブローカーであり、また企業や政策決定者、そして市民間の ブローカーでもあります。特定の国や企業に政策提言を行うのではなく、低炭素経済実現の ための道筋を調査し、国際的な枠組みや国際協調のあり方などの選択肢を政策決定者に示す ことを活動の目的としているのです。 《 政治・経済的な事柄に、人間が 「 公正中立 」ということがあり得る という氏の考え方は、きわめて偏っています。 》 低炭素経済に向けての方策は 一つではなく複数あります。科学者は 往々にして、一つの 「正しい」方法があるというふうに示しがちです。そうではなく、複数の可能な方策を提案 しなくてはならないのです。 AR5についても、こうした方向性のもとで 報告していきたいと考えています。 低炭素経済の実現に向けて、合理的かつ実現可能なシナリオを、コストやリスクなどを考慮 しながら作成しなくてはなりません。 ── 報告には どのような内容が組み込まれるのでしょうか。 エーデンホファー: まず、地球温暖化緩和のための方策の ポートフォリオを作成しなくては なりません。前回のAR4でも、エネルギー効率性や二酸化炭素(CO2)回収・貯留(CCS) 技術、原子力といった内容を含んだ ポートフォリオを作成しましたが、今回はさらに、 例えば 原油高が継続したらどうなるのか、燃料転換が急速に進んだらどうなるかといった、 ポートフォリオに大きな影響を与える問題についても 考慮しながら作成を進めていくべきだ と考えています。 《 世界経済 及び政治など、即ち 文明を計画しようという氏 及び IPCCの 考え方に、私は 人類の管理を為そうという 傲慢・不遜を感じます。 ここ(氏&IPCC)に、西欧文明の末期的な姿の一つを 私は見ます。 》 この5年ほどの間に 世界中で進んだ「 石炭ルネサンス 」も重要な問題です。 石油やガスの価格が高騰したために、米国や中国、インドでは 急激に石炭の使用が増加し、 この5年間は、過去30年間において もっとも単位エネルギーあたりのCO2排出量が増え ました。これは 重大な懸念事項であり、それに対する注意を喚起したいと考えています。 もし 今後 われわれが信頼性のある国際的な気候変動政策を確立できなかったり、適正な 石炭価格を設定できなかったりすれば、「石炭ルネサンス」を持続可能な形で維持していく ことはできないでしょう。 また、温暖化対策と経済発展の関係についても触れなくてはなりません。 アジア、特に中国では、温暖化対策を 経済成長に対する脅威だと見なす人が 非常に多い。 この半世紀ほどで、経済成長は CO2排出量の急激な増加を必ず伴うものだと、人類の記憶に 刻み込まれてしまったのです。 貧困問題の解消や富の蓄積は、常に排出量の増大とセット であり、経済成長は 化石燃料を消費して初めて可能になるという考え方です。 しかしこの、経済成長を犠牲にする温暖化対策、温暖化対策を犠牲にする経済成長という 「トレードオフ」の関係は、乗り越えることができるものです。 AR4においても そうした方向性は ありましたが、AR5ではより明確に、低炭素経済の 実現は 経済成長と両立するということを示していかなければならないと考えています。 《 この「 トレードオフを乗り越えられる 」と、氏は どうして断言できる のでしょうか? 氏 及びIPCCは、未来のことを予言できるという 人間を越えた能力を備えている 超人or狸なのでしょうか? 》 低炭素社会への3つの方策── では、低炭素経済の実現に向けて、具体的に どのような方法があるとお考えでしょうか エーデンホファー: 少なくとも3つの方策があると考えています。 1つは 省エネルギーです。 日本は、この点において とても成功していますね。 2点目が 再生エネルギーの比率向上。 これは、京都議定書の第一約束期間が終了する 2013年以降、どのような温暖化緩和策が策定されるとしても、その中の重要な要素になる でしょう。IPCCでも、風力、太陽光、海洋地熱、バイオマスなど 全ての再生可能エネル ギーについて、緩和策としての有効性やコスト、実現性を評価する特別報告書を 2010年 度末までに作成する予定です。 再生可能エネルギーは 大きな可能性を秘めていますが、それを活かすためには合理的な 政策ツールが必要です。既存の化石燃料のエネルギーシステムに こうした再生可能エネルギ ーを どういった形で組み込んでいくのかを検討したいと思っています。 そして、3点目がCCSです。CCSの促進なくしては 米国、中国、インドを、温暖化対策 のための国際的で実効性のある枠組みに参加させることはできないと考えています。 《 これは 皆、科学・技術の発展への 氏の 堅い信頼に根拠を置いています。 これが、かって 戦争に神風を期待した 日本人と同じ轍を踏んでいるのだ ということを、氏に忠告できるのは、日本人だけかもしれません。 》 ── しかし、CCSについては、まだまだ技術的に克服しなくてはならない問題が数多く あると言われます。あまり過度な期待はできないのではないですか。 エーデンホファー: そのとおりです。回収については かなり研究が進んでいますが、地中 や海洋への貯留については、今後さらなる調査が必要でしょう。現時点で すぐに商用化が 可能なほど成熟した技術だとは言えないと思います。 しかし、CCSの導入は、安価だがCO2排出量が多い石炭の活用につながるなど、非常に 大きな可能性を秘めています。欧州や中国など、石炭の大量埋蔵地域に その実証プラントを 建設する必要があるでしょう。 ── 原子力については、IPCCは どう評価しているのでしょうか。 欧州などでは、一度廃止した原子力発電を復活させるという動きも出てきているようですが。 エーデンホファー: たしかに、「 原子力ルネサンス 」という言葉は聞きます。しかし、 世界全体の使用電力における原子力発電の比率は、17%に過ぎません。今後の20年で 世界の電力需要は 2倍になると言われていますから、その中で この比率を保つためには、 さらに 300〜400基の原子力発電所が必要になるでしょう。それでもなお、8割の電力 は 他の化石燃料や再生可能エネルギーによるものだということになります。 ですから、仮に 現在建設中の原発が すべて完成し、問題なく稼働したとしても、 再生可能エネルギーや省エネルギー、そしてCCSといった他の方策を無視できるわけでは ありません。AR4のなかでも触れられたように、原子力は 緩和策のなかで 一定の役割を 果たすものですが、それが 他の方策と比べて 必ずしも大きい役割であるとは言えないと 思います。 《 氏は、原子力発電への自らの期待を 敢えて 控えめに言うことで、 その本音を隠し、「人を騙す 詐欺師」という非難を 巧みに 避けたつもりでしょうが、この化け狸のシッポは 誰の目にも明らかです。 》 ■解説委員室ブログ : NHKブログ | 時論公論 | 時論公論 温暖化 2007年 2月
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チェルノブイリ事故直後の3年間、私は IAEA(国際原子力機関)広報部長として ウィーンにいた。 ジャーナリスト出身で プロの広報官ながら、原子力界と無縁だった私に とって、新しい職場は 別世界だった。 原発をめぐって 国内世論が割れていて、チェルノブイリ事故(1986)を機に反原発運動が 勢いづいていた。 IAEAは 推進勢力の牙城だった。 私の任務は、“ エネルギー源としての原子力が 人類にとって いかに有用・不可欠か ” を客観的に立証し、各国に情報提供して 国内のPA(パブリック・アクセプタンス)に協力する というもので、ブリックス事務局長(当時)の下に タスクフォースが設けられ、理論武装 を開始した。 私は 「他流試合」を提案し、脱原発を唱えるグリンピースの論客を招いて 初の対話セミナーを ウィーンで開催した。 @ハンス・ブリックス(Hans Blix, 1928〜 ) スウェーデンの政治家。 1978〜81 スウェーデンの外務大臣。 また、1981〜97 国際原子力機関(IAEA)の事務局長を務める。 2004 レジオンドヌール勲章、 2007 シドニー平和賞。 グリンピースは、安全性をめぐる信頼の喪失、廃棄物処理の不確実性、軍事転用の可能性を 挙げて 猛然と攻めて来た。 経済性でも バックエンドを含めれば、原子力は 化石燃料に 比べて 割高になると、彼らは 数字をあげて主張した。 ここで 国際法学者でもあるブリックスが 発言を求めて 滔々と演説を始めた。いわく 「 エネルギー 問題は 人類社会の将来を見据えて世界的視野から議論すべきだ。どの エネルギー 源 も有限で、一長一短があるが、エネルギー 需要は着実に増えている。 その意味で 原子力は、大規模発電・長期安定供給・気候温暖化防止という点で 大きな利点が あり、化石燃料の温存と節訳にも貢献している ・・・ 」 グリンピースは沈黙した。 チェルノブイリ 事故直後、太陽熱の温室効果を例に挙げて 温暖化対策の必要を訴え、 最も有効な エネルギー 源としての原子力発電の効用を説いていた ブリックスは 先見の明 があったが、国際社会の潮流は 彼の主張する方向には動かなかった。 翌年の1987年、ブルントランド・ノルウェー首相を議長とする『環境開発世界委員会』が 報告書をまとめ、地球環境保全と開発を両立させる新しい パラダイム 「持続可能な開発」 を提示し、いわゆる “地球にやさしい”エネルギー 開発の必要を訴えたが、そこに原子力発電 の出番はなかった。 原子力は、核拡散・安全性・廃棄物処理に問題あり、というのが 報告の 骨子だった。 1992年、リオデジャネイロで開催された「 地球サミット 」は、参加者2万人を上回る 国連主催の史上最大の国際会議となった。 今年8月、南アフリカで 10年後の見直し会議が 開かれるが、このブルントランド報告が 一連の動きの基調となっている。 「地球サミット」に参加して、“地球にやさしい原子力”を見直すよう訴えたブリックスは 会議場の 意外に 冷淡な反応に落胆して帰国した。 地球環境保全、なかんずく温暖化対策には 原子力が有効という論理は、原発推進派以外には 通用しない。欧米の環境NGO(非政府組織)の大半が 反原発 少くとも脱原発派である。 EU(欧州連合)諸国も、加盟15カ国のうち 9カ国が原発運転国だが、フランスを除けば 新規建設計画は 全くなく、スウェーデン、ドイツ、ベルギー、オランダ、スイスなど ほとんどが 脱原発に向かっている。 最大の理由は 市民社会の成熟にある。自己決定権を主張する「市民」は スリーマイル島 、チェルノブイリと大事故が続き、安全神話が崩壊するのを目のあたりにして、原発と 市民社会は 相容れないことを悟ったのだった。 経済性を 度外視しても、大規模発電が 不可能でも、風力、太陽熱、水素、バイオマスなどの ソフトエネルギーを彼らは選ぶ。「 放射能よ、さらば 」と 彼らは叫ぶ。 筋金入りの反原発運動はなくても、中央集権国家でなく、市民主体の政治が機能している国 ほど脱原発色が強い。「 21世紀の世界の主役は、地球市民社会だ 」とコフィ・アナン 国連事務総長も断言する。 大資本が参入して「 国家プロジェクト 」として推進する原子力産業は、“重厚長大”が 発展のシンボルとなっていた時代の名残りである。 ウィーン時代の同僚、栗原弘善氏(現・核物質管理センター専務理事)は、原子力産業を恐竜に たとえたことがある。 恐竜は 氷河期に死滅したが、地球温暖化が進むにもかかわらず、世界が 脱原発に向かうというのは 何とも皮肉である。 以上
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