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早野龍五、坪倉正治氏らの
福島県内における大規模な内部被ばく調査の結果
― 福島第一原発事故 7–20ヶ月後の成人および子供の放射性セシウムの体内量 ―
についての疑問 (6)
4.預託実効線量というものの問題性(続3)
前記事(7) で、放射線の健康影響について 社会の混乱の原因を、
「日本保健物理学会 暮らしの放射線Q&A活動委員会 」は、まず
「 明確でないから安全 」「 明確でないから危険 」とする立ち位置の違い
としていました。
この「明確ではない」について、「Q&A」の論旨では、
ICRP の言う 「明確ではない」 というのは、
「 リスクは小さいとはいえ 0ではない 」「 確率が小さいので、その他の確率に埋もれてしまって
よくわからない 」
すなわち、「 低線量では 影響がよくわからない 」という意味で「明確ではない」
と。 「影響」とは、勿論 実効線量(㏜)で表された数字での 生体リスクのことです。
ところで、先に引用した 放射線防護の専門家・小田 啓二氏は、
ICRPは 実効線量を、
・ 放射線リスクの疫学研究には用いない
・ 被曝した特定の個人の発ガンや死亡確率の評価には用いない こととしている、と注意しておられます。
( 早野氏らの論文が 「疫学研究」と言えるのかどうか、シロウトには分りませんが、
ご本人たちは どう思われているのでしょうか? )
そうすると、どうなるのか?
「Q&A」では、㏜で表された低線量被曝のリスクが 「明確ではない」 としていますが、
小田氏は、㏜で表された実効線量の数字を 「特定の個人」の「評価には用いない」と
指摘されていて、被曝した個人のリスクは ㏜では「明確ではない」のは、はじめから
当然のことだとされています。
氏いわく、放射線影響や リスクを表現する役目を期待することには無理がある と。
したがって、
実効線量の数字が小さければ(低線量なら) 個人のリスクがわからないのではなく、
そもそも 実効線量は、個人のリスクを言い当てることを 初めから問題としている概念
ではなかったわけです。
つまり、 「日本保健物理学会 暮らしの放射線Q&A活動委員会 」が 混乱の原因とする
: 「 明確でないから安全 」「 明確でないから危険 」とする立ち位置の違い
という問題設定が 間違っているわけでしょう。
本当は、
実効線量を 個人のリスク評価に用いるという 不適切な使用が 混乱の原因である
と言わなくてはならなかったのでしょう。
なぜ、放射線防護の専門学会が、このような 初歩的な誤りをするのか? 不思議です。
しかし、「Q&A」の文を さらに読み進めると、その謎が解けてくるように思います。
それが、混乱の原因の②として 「日本保健物理学会 暮らしの放射線Q&A活動委員会 」が
挙げている 「 政府によるデメリットに対する補償 」という奇妙な考え方です。
以下、この考え方を 検討します。
まず、「Q&A」は、
ICRPでは、100mSv以下の低線量の不確実さを踏まえ、被曝は できるだけ低減するように
努力しなければならないとしている。
”低減”の度合いの考え方は、2007年勧告に詳しいが、
その人が生活する上でのメリットとデメリットをかんがみて決めることになる。 危険に見合う便益
があることが基本である。 ・・・
と言っています。
ICRPは、「 放射線防護の目的 」を
(1)放射線被曝を伴う行為であっても 明らかに便益をもたらす場合には、
と定義し、これらの目的を達成するために、放射線防護体系に
@ 行為の正当化: 放射線被曝を伴ういかなる行為も、その導入が 正味でプラスの便益を生むこと
を制限すること(ALARA)
個人の線量限度: 実効線量限度の概念が導入され、放射線被曝影響に関する知見を踏まえて
線量限度が改訂されてきた
----- 1977年勧告(ICRP Publication 26)
※ 各国政府に このように勧告する ICRPの思想or立場を、KEK 放射線科学センターは、
放射線の利用は、学術の進歩や産業の発展などに役立つ反面、人体に対し、放射線障害を
引き起こす危険(リスク)をあわせ持ちます。 この危険を避けるためには 放射線の利用を
すべて断念すれば良いのですが、一方 私達の社会は 常に発展を望んでいます。
放射線の利用から得られる利益を考えると 放射線障害の発生を最小限におさえつつ、
その利用を効率的に進めていく必要があります。
このような観点から 放射線防護の基本的な考え方を 世界中の専門家で議論しているのが
国際放射線防護委員会(ICRP)です。 ―――放射線防護の考え方 より
と、明確に述べています。
国家を破滅させるような事故を起す可能性のある原発をも、
① 私達の社会は 常に発展を望んでいる
② 放射線の利用から得られる利益を考えると 放射線障害の発生を最小限に
おさえつつ、その利用を効率的に進めていく必要がある
という観点(立場)に立つ 「世界中の専門家」 集団が、ICRPだというのです。
彼らは、ずいぶん頭のよい人たちなのでしょうが、チョット ふつうの感覚をもった人たち
とは言えないようです。 否、何か 根本的に 感覚がずれている・・・。
国が破滅しても、なお 「発展する社会」とは 一体 どんな社会なのでしょうか?
人々が国を失くして、なお 「放射線の利用から得られる利益を考え」 られる人とは、
一体 どんな人でしょうか?
――― この異常ともいえる考え方を、
私は 「 科学・技術信仰 」 と名付けたいと思います。
ICRPは、オウム真理教と変わらない,科学・技術信仰を奉ずる狂信者集団
とは言えないでしょうか?
( 米ソを中心に核兵器開発競争をしていた冷戦期、人類絶滅の可能性があった
にもかかわらず、彼らは このような観点・立場で その仕事をしていました。
誰かが 「一人殺せば 殺人だが、1000人殺せば 英雄だ」 と言ったそうです。
我々人間の思考能力の根本的欠陥を 言い当てた言葉でしょう。 オウムは 政府
からテロ集団として捕えられ、ICRPは 政府に勧告する権威をもっている・・・。
――― この めくるめく アンバランス!
かの安全委員会委員長・班目氏は、この科学・技術者の立場を 率直に
「 そんなことを想定していたら、原発を造れないんですよ 」と。 科学・技術は
破局的な事態を 「想定外」 にすることで、はじめて成り立つものでしょう。)
※ 又、ICRPの 「行為の正当化」 という尊大な概念にさえも、原発や核兵器、或は 医療被曝など
が該当するのかどうか?
行為の正当化に際して 「正味でプラスの便益」を生むかどうかを判定するために考慮
しなければならない要因は 極めて多岐に及ぶため、「すべての便益と損害」を それぞれ
どのように定量評価すれば 合理的な正当化が可能であるかについては、未だ 十分な
合意が得られていない。そこで、ICRPは 個別の選択肢の便益と損害を評価し、プラス
の正味便益があることを確認する作業までを 「正当化」の範囲としている。
最終的な意思決定には 放射線以外の要素を考慮する必要があるため、放射線防護
の領域を超えた判断を要すると考えられている。 (ATOMICA)
だそうで、科学者(専門家)の, 火をつけて 火事場の外に立つ無責任が、ここによく表れています。
(閑話休題)
ICRPの「線量限度」概念について。
線量限度は、個人が様々な線源から受ける実効線量を 総量で制限するための基準
として設定されている。 線量限度の具体的数値は、確定的影響を防止するとともに、
確率的影響を 合理的に達成できる限り小さくする という考え方に沿って設定されている
・・・
線量限度は、このうち 医療を除く 計画被曝状況(平常時)のみに適用され、非常時の
被曝状況には適用されない。 平常時においては 職業被曝と公衆被曝に線量限度を設定
している(表4)。 これらの線量限度の値は 1990年勧告値が維持されているが、適用に
対しての条件はやや変化している。
医療行為によって 患者が被曝するケース も 計画被曝状況に含まれるが、患者が健康上
の便益を受け、それが 被曝による不利益を上回る(正味にプラスの利益がある)ことを前提
に行われるので、線量限度は適用されない。
緊急時被曝状況 (事故などの非常事態での職業被曝と公衆被曝) と 現存被曝状況
(非常事態からの回復、復興期を含めて 既に被曝が存在する事態) においては、表5に
示すように、計画被曝状況とは異なる防護体系が適用される。非常事態では 線量限度
や線量拘束値を用いずに 状況に応じて適切な参考レベルを選定して、防護活動を実施する。
なお、参考レベルとは それ以上の被曝が生じることを計画すべきでない線量 又は リスクレベル
をいう。
2007年勧告では 1mSv以下、1〜20mSv、20〜100mSvの3つの枠を定義し、状況に応じて
それぞれの枠内で 適切な線量拘束値 又は 参考レベルを設定し、防護活動を行うことを
勧告している。 緊急時の公衆被曝の参考レベルとしては、表6に示すように、20〜100mSv
の枠内で状況に応じて選定することとしている。
2011年3月の福島第一原発事故において、周辺住民の被曝限度として、国は20〜100mSv の枠のうち最小の値である 20mSv/年を選定した。ICRPは、この枠内で 参考レベルを選定
する場合、放射線のリスクと線量低減活動について 住民に説明し、個人の線量評価を実施
することを勧告している。
――― 以上、ATOMICAより (つづく)
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「100mSv以下は安全だ」と言う専門家や、「1mSv以上は危険だ⋆1」という専門家がいて、異なる見解
が乱立していることが 大きな混乱を社会にもたらしているように思われる。 「100mSv」や「1mSv」は、
ICRP勧告を基にした数値である。 以下に 「100mSv」や「1mSv」についての ICRPの考え方を整理した。
1mSv、100mSv共に数値の出所は ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告である。これは、国際的な
放射線防護のための取り決め⋆2 であり、日本の法律は 1990年勧告を取り入れている。
なお、2007年勧告が最新版として公表されているが、現在、放射線審議会基本部会で法令への取り
入れについて検討が行われている。
ICRP勧告では、一般公衆が 1年間に計画的に受ける放射線の線量は、自然からうける放射線の影響
を除いて、1mSvとするとされている。 これは 様々な研究の結果や世界中で人々が通常生活していて
自然に受ける放射線の線量などを総合して、ICRPが公表したものだ。
一方 100 mSv以上の線量を受けた場合、将来 がんになる確率が明確に高くなるとしている。従って、
この値(100mSv)を超える被曝が想定される場合は 基本的に防護対策を考える必要があるレベルとして
いる。つまり、100mSvは 線量が体に悪影響を及ぼす しきい値 (これ以上受けると確実に影響が
現れる線量) ではなく、放射線防護対策を決めるための参考値である。
「100mSv以下は健康に影響がない」という説は、放射線を受けた集団と受けていない集団を比較する
疫学調査を元にしたものと考えられる。疫学調査では、放射線が原因で将来がんになるリスクは 原爆
での被曝のように ごく短期間に 200mSv以上受けた際に 影響が統計的に確認されると報告されている。
しかし、これは 200mSv以下では がんになるリスクがない ということを約束するものではない。人間は
生活習慣や遺伝等、いくつも がんになるリスクを持っている。
200mSv以下の場合は確率が小さいので、
その他の確率に埋もれてしまってよくわからない、というのが本当である。
一方、「1mSv以上は危ない」というのは、上述の 200mSv以下の低線量では影響がよくわからない、
リスクは小さいとはいえ 0ではない ということを根拠として述べられていると考えられる。
端的に言うと、「 明確でないから安全 」「 明確でないから危険 」とする立ち位置の違いによって、意見
が分れていると考えられる。
ICRPでは、100mSv以下の低線量の不確実さを踏まえ、被曝は できるだけ低減するように努力しなけ
ればならないとしている。
”低減”の度合いの考え方は、2007年勧告に詳しいが、その人が生活する上
でのメリットとデメリットをかんがみて決めることになる。 危険に見合う便益があることが基本である。
たとえば、レントゲン撮影では、被曝リスクを受け入れるというデメリットの代わりに、体の悪いところが
分かるという対価(メリット)を得られるので、その被曝は許容できる、ということになる。
ICRPは 福島原子力発電所事故のように放射性物質が一般環境に蓄積し、これによる被曝が明確な
状況においては、年間の線量を 1mSvとした場合、多数の人に移住等の重大な デメリット が生じるので⋆3
、20mSv以内で調整することを勧告している。
つまり、1mSvの被曝の状況では、1mSvの線量を受ける
デメリット よりも 移住等による デメリット の方が明らかに大きいので、移住しなくていいようにある程度線量
の値を緩和する必要が生じる⋆4。 ICRPの勧告は、その調整の上限値を 20mSvまでで行いなさい という
意味である。
今回は 事故なので、この制限を迫られる住民には デメリットしかない。だから、この調整
は 国が そういったデメリットに対する保障も含めて責任を持って行うべきだが、現在それがなされて
いるとは言えない状況であるために、このような情報の氾濫を招いていると考えられる。
( 2011年10月27日 )




