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―― 無視され続けてきた がん以外の健康被害
崎山比早子 (4)
内分泌系の疾患
生体では,視床下部,下垂体,甲状腺,副甲状腺,副腎,副腎皮質,膵臓,卵巣,睾丸など から 分泌される 内分泌 ホルモン が お互いに協同して作用し合い はじめて身体は正常に発育し,
各器官も 正常に機能するのである。
チェルノブイリ 大惨事で 放射能汚染を受けた広範な地域において 全内分泌系疾患が増加した。
表3 で明らかなように 大人の事故処理者においても 事故後,内分泌系疾患数の増加は顕著
である。しかし,甲状腺ホルモン の異常をはじめ 内分泌疾患は、放射線による障害とは認められ
ず、生活環境や栄養の変化,重度の心労,より頻繁で綿密な検査と記録のためとされてきた。
甲状腺の放射線被曝は、甲状腺がん のみならず,がん以上の頻度で 甲状腺の腫大,自己
免疫性甲状腺炎,甲状腺機能低下を引き起こす。 特に 子供が 甲状腺被曝を受けると ホルモン
のバランスが崩れて機能障害,発育障害が増加する。
IAEA が 1991年に発表した国際チェルノブイリ・プロジェクトの結果は “ 検査した子供たちは 一般的に健康であった ” “ 事故後 白血病や甲状腺腫瘍の顕著な増加はなかった ” であった。
しかし,チェルノブイリ の子供たちの甲状腺組織標本は すでにあったし,子供たちの間に甲状腺
機能障害の有意な増加がある という報告はなされていた。 にもかかわらず これらは無視され
たのである。
笹川プロジェクトで 山下俊一らは ウクライナ,ベラルーシ,ロシア で 惨事が起きた時に 10 歳以下
であった子供 11万9178人を調べた。その中から 62例の甲状腺がんが見つかり,4万5873例
のがん以外の甲状腺疾患が見つかった。 即ち 62例のがんが発症する背景には 730倍にも
及ぶ甲状腺疾患があるということを示している。 しかし,山下氏は チェルノブイリ において急性障害
で死亡したのは 28人であり,子供の甲状腺がんが増えただけだと述べている。
表7― ベラルーシ,ゴメリ地方における チェルノブイリ 大惨事前後13年間の甲状腺がんの発症比較
年齢 1973〜1985年 1986〜1998年 増加 0〜18 7 407 58倍 19〜34 40 211 5.3倍 35〜49 54 326 5.6 倍 50〜64 63 314 5.5 倍 >64 56 146 2.6 倍 甲状腺がんは 高汚染地区に住む子供たちの間で 特に 急速に増加した(表7)。 甲状腺がん
の発症を年齢別に見ると、0〜18 歳の年齢層で 最も著しい増加を示している。
惨事当時 すでに大人だった人にも 甲状腺がんの増加は見られている。 日本では 甲状腺の
等価線量が 5㏜になると予想されない限り 40 歳以上には ヨウ素剤の投与を行わないことに
なっているが,この結果を見る限り,予防のためには 配布すべきである。
事故処理者における 種々の 血中ホルモン濃度も調べられており,全てのホルモンが対照群
に比べて異常値を示している(表8)。 高汚染地区に住む子供にも 事故以後,内分泌系疾患が
急速に増加している。 副腎皮質 ホルモン,テストステロン,インスリン などの分泌低下が報告されている。
テストステロンの低下は 身体の発達障害や生殖機能障害の原因となるし,インスリンの分泌低下
は 1型糖尿病を引き起こす。 子供 及び10代の青年の 1型糖尿病は 高汚染地区において
事故以後 顕著に増加している(表9)。
表8―男性事故処理者のホルモン濃度 すべて有意差あり
事故処理者 対照 アルドステロン 193.1±10.6 142.8±11.4 コルチゾール 510.3±37.0 724.9±45.4 インスリン 12.6±1.2 18.5±2.6 ACTH(副腎皮質刺激ホルモン) 28.8±2.6 52.8±5.4 プロラクチン 203.7±12.3 142.2±15.2 プロゲステロン 2.43±0.18 0.98±0.2 レニン 1.52±0.14 1.02±0.18 表9―ベラルーシ の高汚染地区と低汚染地区に住む子供 及び10代の青年における1型糖尿病の発症
(10万人当り) * p<0.05
1980〜1986年 1987〜2002年 高汚染地区(ゴメリ地方) 3.2±0.3 7.9±0.6* 低汚染地区(ミンスク地方) 2.3±0.4 3.3±0.5* 免疫系の疾患
ウクライナ,ベラルーシ,ロシア の調査で, チェルノブイリ大惨事による被曝で 生体防御システムである 免疫系が抑制されることが明らかになった。 リンパ系 (骨髄,胸腺,脾臓,リンパ節,パイエル板)
は、高線量であっても 低線量であっても 電離放射線の傷害を受ける。 その結果,リンパ球の
量や活性が変化し,抗体産生も影響を受ける。 免疫系の障害は 免疫力の低下をおこし,重篤
な急性,慢性の感染症を繰り返すことになる。
被曝による免疫力の低下は “チェルノブイリ・エイズ” として知られており,被曝した地域に広く観察される。多くの研究の結果,この免疫系の主要な原因は 胸腺機能の低下によるものである
ことが分った。 Tリンパ球,Bリンパ球の減少は 一般的に観察される。そのため 細胞性免疫も
液性免疫も傷害されることになる。子供たちに 特に多いのは 反復性の気管支炎,消化器疾患
である。
* *
二つの報告書を読むと,ここに紹介できなかった疾病も含め,これまで いかに甲状腺がん以外
の疾病の増加が無視されてきたか,改めて思い知らされる。 チェルノブイリ 大惨事による健康被害
は 甲状腺がんだけではないことは明らかだ。 しかし,この行き過ぎた過小評価は 何のため,
誰のためなのだろうか?
福島原発事故以後の汚染された環境で生きることを強いられた 多くの被曝者にも,これから
同じような力が働いて,同じような基準で 疾病の診断がつけられる恐れがあるのではないか。
その兆候はすでに明らかである。
例えば、文部科学省の「 放射線を正しく理解するために―教育現場の皆さまへ 」なる資料の
中に見える。 この資料には 問題が多々あるが,その一例として 次のようにある。
「 チェルノブイリ原発事故では,小児甲状腺がん以外のがんの増加は認められていません 」
といい,身体の不調は ストレスからと説明した上で 「 放射能のことを必要以上に心配しすぎて
しまうと かえって心身の不調を起こします 」と述べている。
まさに チェルノブイリ大惨事の時に 「放射線恐怖症」 といって 現に起きている病気を無視した
姿勢を彷彿とさせる。
市民は チェルノブイリの轍を踏まないために, チェルノブイリ 大惨事の実態をよく理解し,記憶して
行動する必要があるだろう。
(おわり)
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チェルノブイリ
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ICRPなど国際的な権威筋の放射線防護体系は、
チェルノブイリ大参事のリスク評価に まったく失敗しているのである。
それ故に、このリスク体系に準拠している日本政府の,
フクシマの放射能汚染への対処は 適切なものとは言えない。
政府当局者は、なぜ このような日本国民への背信行為を、
あえて為すのだろうか?
合掌
―― 無視され続けてきた がん以外の健康被害
崎山比早子 (3)
事故処理者の子どもたち
事故処理者の子どもの遺伝子には 沢山の変異が見つかっている。 同じ兄弟で,事故処理 に従事する前に生まれた子どもと比較すると 変異は 7倍にもなっていた例もある。 この変異は
直ちには病気を引き起こさないかもしれないが,これからの世代に引き継がれていく可能性は
ある。 変異の数は 事故後 すぐに妊娠した子どもに多く,時間が経つに従って減少した。
遺伝子異常のある子どもの父親の被曝線量は 50〜200 mSv であった。 また 事故処理者の
子どもに がん,白血病,先天性奇形,内分泌・代謝障害,精神障害が、他のロシアの子どもに
比較して多いという報告がある。
遺伝子損傷と先天性奇形
遺伝子の損傷をモニターするのは 困難である。 その理由の一つは 遺伝子の変化の大部分 が 数世代を経なければ 目に見えるようにならないからだ。
そのため 遺伝的障害の基礎知識は 世代交代の早いショウジョウバエなどを使って行われた 実験から得られてきた。 したがって,今見えている チェルノブイリ 大惨事が 人の遺伝子に与えた
影響は まだまだ 初期段階なのだ。
国連科学委員会(UNSCEAR)の報告によると 集団線量(被曝線量×被曝人口)は チェルノブイリ 地域よりも むしろ ヨーロッパの方が多い(表4)。 それは ヨーロッパ の方が人口密度が多いためで
ある。 これから考えると、チェルノブイリ 大惨事によって これから ヨーロッパでは 遺伝子損傷を
抱えた人間が 1万8000〜12万2000人誕生すると予測しなければならない。
表4― 北半球,チェルノブイリ地域 と ヨーロッパにおける チェルノブイリ大惨事以後の遺伝リスクの推定
地域 集団線量 子供をもつ年齢の 第1世代の遺伝 遺伝的損傷の総計
(人・Sv) 集団線量(人・Sv) 的損傷(10%) (100%)
北半球 600,000 240,000 3,300〜23,000 33,000〜230,000 チェルノブイリ地域 216,000 886,400 1,200〜88,300 12,000〜883,000 ヨーロッパ 318,000 127,200 1,800〜12,200 18,000〜122,000 染色体異常の頻度は、チェルノブイリの放射能に汚染された地域の全てで、他の地域よりも有意に
高くなっている(表5)。 例えば ベラルーシにおいて Cs-137 の汚染が 37〜555 kBq/m2 の汚染レベルの地域に住む
子どもを調べた結果,52% が非汚染地区の子どもに比べて 有意に高い染色体異常をもって
いた。 また,被曝時年齢が 6歳以下であると、染色体異常の頻度がより高く,その異常は 年を
経ると増加していた。
ウクライナでも、0〜3歳で被曝した5000人以上の子ども,胎児被曝した子ども,プリピャチ市
から避難した子どもの染色体異常は、対照群の子どもよりも有意に高かった。
ロシアでも、子宮内で被曝した子どもの方が、事故後時間が経ってから生まれた子どもよりも
染色体異常が多く起こることが報告されている。
また、汚染地区に住む子どものDNA 修復機能が低下しているという報告もある。染色体異常
の頻度は、土地の汚染度に比例し,汚染度が高くなると異常の種類も多くなる。 旧ソ連以外の国では,ユーゴスラビア,オーストリア,ドイツなどで 事故後 子どもや大人に 染色体異常が増加したことが報告されている。
表5―チェルノブイリ大惨事前後での異常細胞と染色体異常の発生頻度(%,平均)(リンパ球100個当り)
異常細胞 染色体異常 ウクライナ,1970 年代初期 n/a 1.19±0.06 ウクライナ1986 年以前 1.43±0.16 1.47±0.19 世界平均,2000 年 2.13±0.08 2.21±0.14 ウクライナ,キエフ,1998〜1999 3.20±0.84 3.51±0.97 30km圏内 1998〜1999 5.02±1.95 5.32±2.10 事故時に 5〜12週齢だった胎児に 特に先天性奇形が増加した。事故前と事故後における
先天性奇形の種類 と 発生頻度を 汚染程度別に表6 に示す。
明らかに 先天性奇形は 事故を境として増加しており,その影響は 1990年以後も続いている。 また,低汚染地区においても 奇形の頻度は上がっていることが読み取れる。
表6― ベラルーシのチェルノブイリ大惨事前後における高汚染地区と低汚染地区での先天性奇形の頻度
(出産1000 に対して)
高汚染地区 低汚染地区 年 1981〜1986 1987〜1989 1990〜2004 1981〜1986 1987〜1989 1990〜2004 全ての先天性奇形 4.08 7.82 7.88 4.36 4.99 8.00 無脳症 0.28 0.33 0.75 0.36 0.29 0.71 脊椎ヘルニア 0.57 0.88 1.15 0.69 0.96 1.41 多指症 0.22 1.25 1.10 0.32 0.50 0.91 ダウン症 0.89 0.59 1.01 0.64 0.88 1.08 複数の先天性奇形 1.27 2.97 2.31 1.35 1.23 2.32 新生児と死産児合計 58,128 23,925 76,278 98,522 47,877 161,972 先天性奇形をもった 小児と死産児 237 187 601 430 239 1,295 ミュンヘンでは 事故後9 カ月で ダウン症が 正常時の3 倍に増加し,ベルリンにおいては
9 カ月後通常では 2〜3 例生れるダウン症が 12 例に増加。
ダウン症の増加は スコットランド,スウェーデン でも報告されている。
また,東ドイツのJenaでは,1985年と比較して 1986年から1987年では 先天性奇形が 4倍
に増加した。当時 東ドイツでは 16歳以下の死亡と流産の場合は 法律で解剖が義務づけられ
ていたので,流産した胎児が奇形をもっていれば 検出できたのである。 主な奇形は 神経管と
腹壁の欠損であった。 ドイツ北部の 最も汚染を受けた地方では 1987年には 口唇口蓋裂が
1980年から 1986年までの平均に比べて 9.4% 増加した。1987年,バイエルン 州では セシウム
の汚染度が 最大の4 地区では 最低の4地区と比較して 先天性奇形の出生頻度が 4 倍高く,
死産も増加した。
胎児期の被曝により知能レベル(IQ)が下がるという調査結果は ノルウェーから発表されている。
ブルガリア,トルコ西部でも 1986年末には 無脳症や神経管欠損が増加したと報告されている。 ヨーロッパ全体のセシウムによる地上汚染図(IAEA 2006)
(つづく)
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―― 無視され続けてきた がん以外の健康被害
崎山比早子 (2)
事故処理者(リクビダートル)の健康問題
チェルノブイリ 大惨事の被害を最小限に押さえ込むために 膨大な人数の事故処理者が 投入 された。 彼らの大部分は 放射線のリスクを知らされず,その任務のために 命と健康を捧げた
のである。 それにもかかわらず,彼らの功績は 十分には評価されていない上に,被った健康
被害は 正しく認識されず,補償もされていない。 旧ソ連政府の下で 全国から事故処理者が
集められたために,旧体制の崩壊と共に 彼らは 方々にちらばってしまい,住所,氏名が
わかっているのは 全体の約半数に過ぎない。
このような欠陥はあるが,事故処理者の健康状態を調査することによって 放射線の影響を
全般的に把握し,理解することは可能である。 まず この被曝集団について考えてみよう。
被曝による がん以外の疾病については 広島・長崎原爆被爆者の生涯追跡調査でも線量に 比例して明らかに増加することは報告されている。 しかし,国際的な機関から出版される報告書
や論文では無視され続けている。
非がん ― 放射線被曝が原因ではない ― したがって チェルノブイリとは関係ない ― という
論争の繰り返しが行われてきた。
これが事実に反するものであることは,事故処理者が その後 どのような疾病に苦しめられて きたかを見れば明らかだ。
表3 は ロシアでの事故処理者に見られた疾患を 事故後 経年的に調べた結果である。 これからわかるように,事故の起きた1986 年以後調べられた12 の臓器系統での疾病が 年を
追うごとに著しく増加している。
表3 ― 事故処理者に見られる患者数の経年変化 (10 万人あたり)
疾病/臓器 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993
感染症と寄生虫症 36 96 197 276 325 360 388 414
腫瘍 20 76 180 297 393 499 564 621 悪性腫瘍 13 24 40 62 85 119 159 184 内分泌系 96 335 764 1340 2020 2850 3740 4300 血液及び造血器 15 44 96 140 191 220 226 218 心理的変調 621 9487 1580 2550 3380 3930 4540 4930 神経系及び感覚器 232 790 1810 2880 4100 5850 8110 9890 循環器 183 537 1150 1910 2450 3090 3770 4250 呼吸器系 645 1770 3730 5630 6390 6950 7010 7110 消化器系 82 1487 1270 2350 3210 4200 5290 6100 泌尿器系 34 112 253 424 646 903 1180 1410 皮膚及び皮下組織 46 160 365 556 686 747 756 726 チェルノブイリ大惨事前と比較して 増加の顕著なのは、
悪性腫瘍よりも むしろ 消化器系,内分泌系,神経系及び感覚器,泌尿器系などの疾患である。
ロシアで 2004 年に発表された報告によると,公式に “病気” と認定された事故処理者は, 事故後 0年で 0%, 5年で 30%, 10年で 90〜92%, 16年で 98〜99% になっている。 パリの
ウクライナ大使館でも 事故後 19年(2005年)には 事故処理者の 94%が 何らかの病気を抱えて
いると発表している。
2005年 9月に開催された チェルノブイリ・フォーラムで IAEA と WHOは 高線量被曝グループ
において,がんと白血病で 最大4000人の過剰死が発生するだろうと発表した。 この極端な
過小評価に対し,1992年 ベルリンで開かれた第2回被曝者国際会議で ミンスクのG. F. Lepin教授
は,7万人の事故処理者が健康を害しており,1万3000人が すでに死亡したと発表している。
A.Yablokov は,種々の調査を総合すると 2005年までに,11万2000〜12万5000人の事故 処理者が死亡した,と推定している。
ウクライナとロシアの死亡率調査によると,彼らの主要な死因は 非悪性疾患と重篤な複合的
な疾患で,次いで 多いのが悪性腫瘍である。一般に信じられているように,必ずしも 悪性腫瘍
のみによる死亡率の増加ではないのである。
事故処理者の病状で特徴的なのは 同時に 4種類から 5種類の疾病に罹るということである。
これは 被曝による 若年性老齢化 と分類され,約70%の事故処理者にみられる。
放射線被ばくによる加齢の促進
ベラルーシ,ロシア,ウクライナからは 放射線被曝が加齢を促進するという研究が 多数発表 されている。 事故処理者にみられる老化現象は 被曝を受けていない人よりも 10年から15年
早く現れる。 そのため 電離放射線による 老齢化の促進を研究することは,正常の加齢研究
のモデルにもなりえると考える研究者もいる。 なぜなら 電離放射線が 細胞に与える影響という
ものは 正常な加齢の過程で 細胞中に起きる事象と似ているからだ。
たとえば フリーラジカルの反応,DNA 修復の過程,免疫機能の変化,神経系に系統的に 起こる変化などである。 広島・長崎の被爆者でも がん以外の疾病による寿命の短縮は報告
されている。
加齢促進の特徴を挙げると
血管の老化の促進―特に脳,心臓血管系 血液・造血系疾患の増加 若年性白内障,眼底血管にみられる動脈硬化,若年性近視 中枢神経系の損傷による高度な知的認知能力の喪失 外来因子による遺伝子損傷修復に関与する抗酸化系の安定性消失 糖尿病の増加 血管の老化に関しては,WHOの調査で 事故処理者の心臓血管系疾患が有意に増加していた
という結果が 1996年に発表された。又,ロシアの事故処理者では 40%のリスク増加を示している。
また,中枢神経系の疾患については,被曝者の脳に基質的変性が現れる。 この事実は 1990年にすでに警告されていた。また,セミパラチンスクの核実験場(カザフスタン)周辺
住民は 神経系,感覚器の障害や頭痛に悩まされているという報告が すでに 10年も前に書かれ
ている。 しかし,西側では これらの障害を真剣には捉えてこなかった。
そればかりか “放射線恐怖症” なる言葉を捻出し,チェルノブイリ の後遺症で発生した多くの健康 障害は 放射線被曝のためではなく,根拠のないヒステリーだという考えを浸透させていった。
しかし これには反証がある。 例えば,多くの事故処理者が訴える めまいについても中枢神経
の損傷によるものだという証拠が示されている。
ペテルスブルグの病院で診察を受けた1600人の事故処理者の80% は心理的な問題を抱え, 治療を受けている人の40%は 記憶の喪失などの神経疾患に苦しんでいた。
また,数万人の事故処理者が失語症,鬱,記憶障害や集中力の低下などに苦しんでいる。
これらの疾患は被曝時年齢が若いほど重篤である。これらの患者の MRI や脳波の検査では
異常が認められている。 同様な症状は,アフガニスタン戦争,湾岸戦争,ボスニア戦争に参加
して,劣化ウランの粉末を吸い込んだ兵士たちにも報告されている。
(つづく)
東電、原発作業員の被曝記録を提出せず 2万人分 朝日 2013年2月28日
福島第一原発で事故後に働いた約2万1千人が浴びた放射線量について、東京電力が全国の
原発作業員の被曝記録を一元的に管理する公益財団法人「放射線影響協会」(放影協)に 全く
提出していないことが分った。東日本大震災による事故から2年近くたった今も、杜撰な被曝管理
は続いている。
原発作業員は電力会社を頂点に下請けが連なる多重請負構造の中で働いている。会社を転々 とする人も多く、一元管理を徹底しなければ被曝限度を超えて働き続ける人が続出しかねない。
被曝線量は一人ひとりが持つ放射線管理手帳に元請けや下請けが記入するとともに、電力各社 から放影協の放射線従事者中央登録センターに電子データで送られて 一元管理される。 各社は
新たな作業員が原発に入る際に 手帳で被曝線量を チェック し、手帳の中身を確認する場合は
センターに照会する。年間の照会件数は 6万〜9万件に上る。
年間被曝百ミリSv超、20代1.2% 福島第一作業員 2012年12月7日
東電は 6日、福島第一原発事故後1年間の作業員の年代別被曝量を明らかにした。発がん
リスクが上がる100m㏜を超えて被曝した割合が最も高いのは、20代で 1.22%だった。
30〜50代も それぞれ 1%近くが、100ミリより多く被曝していた。
東電が世界保健機関(WHO)に報告した データ を公表した。作業員の人数や被曝量の年代別
分布が明らかになるのは初めて。
100ミリを超えて被曝した作業員は 20代が 25人(全作業員 2057人)、30代が 40人(同
4179人)、40代が 49人(同 5893人)、50代が 46人(同 5409人)、60代は 5人(同 1858人)
10代 (同 64人)、70代〜80代 (同 26人)は 100ミリを超えて被曝した人はいなかった。
また、20代では 250ミリを超えて被曝した人が 3人。30代、40代、50代では それぞれ1人
ずついた。 2012年11月26日
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―― 無視され続けてきた がん以外の健康被害
崎山比早子 チェルノブイリ大惨事から25 年,第二のチェルノブイリ事故は チェルノブイリ自体から起こるかもしれない
と危ぶまれてきた中,福島第一原子力発電所に大事故が起きてしまった。 しかも 事故は まだ
収束からは程遠い。 1号機から 3号機まで 建屋の中は 数十から数千ミリシーベルト(mSv)/時
(8 月14 日付東京新聞) もあり,必要な作業を拒んでいる。
何時 大きな余震がきて 大量の使用済み核燃料を入れた冷却プールが倒れてくるのか,ようやく
低下した冷却 プール の温度コントロール が 一挙に破壊されるのか,何時また危険な水素爆発が 起きるのか,誰も予測がつかない。 そして いまなお 破壊された建屋からは減少したとはいえ
放射性物質の放出は続いているし,原子炉建屋の地下に溜まった汚染水処理は 大量の地下水
流入によって困難を極めている(9 月20 日付東京新聞)。 地下水が流入していることは 放射能
が 地下水に拡散しているということではないのか。
日本人の多くが放射能に汚染された地に住み,汚染された食べ物を食べることを強いられて
いる。 これまで 遠い国のこととして考えてきた チェルノブイリ大惨事が 突然に わが身の問題と
なってしまった。
チェルノブイリ大惨事については,2009年に ニューヨーク科学アカデミー から 『チェルノブイリ大惨事,人と
環境に与える影響』が,今年4 月には 核戦争防止国際医師会議(IPPNW)から『チェルノブイリに
よる健康影響―大惨事から25年後』 が出版された。
この両者に共通するところは,これまで国際原子力機関(IAEA),世界保健機関(WHO)や
国際放射線防護委員会(ICRP)が発表してきた チェルノブイリ大惨事による被害を過小評価である
として見直していることである。
過小評価の原因となったのは,西側が 主に英語で書かれた論文を評価し,ベラルーシ語,ロシア語,
ウクライナ語などで書かれた論文を無視してきたために,地域に密着した研究が抜け落ちていた
からである。 これら二つの報告書では この弊害を除くために,これらの地域で発表された論文
も網羅した。
核エネルギー利用を促進する機関である IAEAと 人の健康問題を扱うはずの WHOが協定を結ん でいるため,WHOは 本来の責務を果たせないでいることを両報告書は共に厳しく批判している。
また,最も重要であるはずの子どもの健康状態に関する報告は,甲状腺がん以外,これまで
ほとんど知られていなかった。健康な子どもの割合が 大惨事以前は 90% 以上であった高汚染
地域において,現在は その割合が 20% 以下に減少しているという。低線量放射線の影響研究
については これまで ほとんどが,がんを中心に行われてきた。
しかし,これらの報告書は 心臓血管系疾患,若年性の老化,先天異常,脳神経疾患,内分泌 疾患,免疫疾患等々,多種類の疾患の増加も示している。
人類が チェルノブイリ 大惨事の全体像を知るのは まだまだ 先のことなのだ。 とは言っても 国際原子力事象評価尺度(INES)が チェルノブイリ大惨事に匹敵する レベル7 と
なった福島の未来は,チェルノブイリ 大惨事から予測可能なはずである。 チェルノブイリ 地域よりも
人口密度が 15 倍も多い福島で,放射能汚染にどう対処するのか,その方策を考えるために
これらの報告書を参考にする必要があるだろう。
両報告書によれば,放射線被曝は 想像以上に 多岐にわたる疾患を引き起こす。 ここでは
これまで ほとんど無視されてきた がん以外の疾患で 比較的頻度の多いものに重点を置いて
紹介したい。
表1―チェルノブイリ大惨事により被ばくした人口
グループ 人数 事故処理者 ベラルーシ 130,000 ウクライナ 360,000 ロシア 250,000 その他の国 (約)90,0000
30km 圏内からの避難者・移住者
ベラルーシ 135,000 ウクライナ 162,000
ロシア 52,400
ロシア,ベラルーシ,ウクライナの高汚染地区 8,300,000
ヨーロッパの低汚染地区 600,000,000 ヨーロッパ以外 4,000,000,000
表2―1995 年におけるベラルーシ,ロシア,ウクライナの汚染地域別居住者数
Cs-137(kBq/m2) ベラルーシ ロシア ウクライナ 合計 37〜185⋆ 1,543,000 1,654,000 1,189,000 4,386,000 185〜555** 239,000 234,000 107,000 580,000 555〜1,480*** 98,000 95,000 300 193,300
合計 1,880,000 1,983,000 1,296,300 5,159,300
* 低汚染区域,放射能管理強化区域
** 中等度汚染区域,移住権利区域 *** 高汚染区域,移住義務区域 汚染の拡がりと被ばく者数
チェルノブイリ大惨事が人の健康にもたらした被害を知るためには,放出された放射能量,それ による汚染の拡がり,及び 被曝者数を 正しく把握しなければならない。しかし,ヨウ素(I)-133,
I-135,テルル(Te)-132 のような 半減期の短い核種は 後に計測された セシウム(Cs)-137 のレベル
よりも 桁ちがいに多かったと考えられるが,その量を推定するのは 困難である。
また,IAEA 及びWHOは,放出された放射能の57% が降り注いだ旧ソ連以外の国々を無視し,
汚染地域を ベラルーシ,ウクライナ,ヨーロッパ側ロシア のみに限定して健康被害を評価してきた。
しかし チェルノブイリ 大惨事では 地球の北半球が 広く汚染され,子どもを含む 6億人の男女が,
危険レベルである 37K㏃/m2 以上の汚染を受けた地域で 被曝したのである(表1)。
ロシア,ベラルーシ,ウクライナにおける汚染地域別の住民数を 表2 に示す。 このデータ は
1995 年のものであり,2009年に発表された報告書ではこの 3国の合計が違っている(表1)。
報告書の中で 表1の 特に 被曝線量が高かった 事故処理者(平均個人線量は 100mSv)と
避難者(平均個人線量は 55mSv),高汚染地区の住民(平均個人線量は 33mSv)の健康状態
は 非汚染地区住民の それと比較されている。
ヨーロッパで Cs-137によって 37〜185 kBq/m2 以上の汚染を受けた国々と その面積(km2)は:
スウェーデン 1万2000、 フィンランド 1万1500、 オーストリア 8500、
ノルウェー 5200、 ブルガリア 4800、 スイス 1300、 ギリシャ 1200、 スロベニア 300、 イタリア 300、 モルドバ 60
などである。 チェルノブイリからの放射能は その他に アジア(8%),アフリカ(6%),アメリカ(0.6%)
にも降下し,合計は 放出放射能量の14.6% にのぼった。
チェルノブイリ大惨事が公衆の健康にもたらしたもの
チェルノブイリ大惨事は 正しく評価されていないと二つの報告書は 共に主張している。その大きな 原因の一つは 事故から 3年半にわたる 旧ソ連当局による データの隠蔽と医療記録の偽造で
ある。 特に 80万人を超えるといわれる事故処理者に対して 事故後 1年間は 彼らの病気と
放射線被曝とを 公式に関連づけることが禁じられていた。 そのため,1989 年までの 彼らの
罹病率データは 永久に失われてしまった。 また,事故処理に参加した 6万人の兵士のうち
37% は 急性放射線障害の症状を示していたにもかかわらず,兵士の記録カード には 1人として
25 レントゲン(250 mGy)以上の被曝記録はなかった。
これらの事実に代表されるように,チェルノブイリ大惨事がもたらした公衆への健康影響を,正確
に評価するためには 多くの要因が障害となっている。 それにもかかわらず,疾病と被曝との
因果関係を より正しく推定する方法は存在する。
たとえば,
(1) 疫学調査で一般的に行われているように,死亡率や罹患率を比較する場合,調査集団と
対照集団で 被曝レベル以外では 社会的,経済的,環境等々の条件を極力一致させる
(2) 同一個人 または遺伝的な近親者の健康と染色体異常を 体内にとり込んだ放射性核種の
種類や量と関連して比較する
(3) 体内にとり込んだ核種の量と疾病の罹患率の関係を比較する (4) まれな疾患が時間的,空間的にかたまって現れた場合に その場所の放射能汚染度を
比較する
(5) 体内に蓄積した放射性核種の量と臓器の病理変化,それによって引き起こされる疾病の
関係を明らかにする
などである。
(つづく)
2011年末の時点で、環境放射線量のレベルが年間1m㏜を超えているとして、放射性物質特別措置法
の「汚染状況重点調査地域」に指定されている 柏市、松戸市、流山市、我孫子市、野田市、鎌ケ谷市、
印西市、白井市、佐倉市 の9市の放射線管理課などの職員ら。主に健康調査などの問題について、
復興庁の担当者と 1時間程懇談を行った後、9市の市長連名の要望書を水野靖久参事官に手渡した。
要望書では、子ども被災者支援法に定められている「支援対象地域」への指定名どを求めている、 平成25年2月26日
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ウクライナにおける放射線影響
(1997年) ドミトロ・M・グロジンスキー
ウクライナ科学アカデミー・細胞生物学遺伝子工学研究所
(4)
放射線影響に関する放射線生物学的研究
ウクライナ国民の健康を悪化させている 真の原因が何であるかは, 様々な実験材料を用いて
なされている 放射線生物学の研究から 明らかにできる. 我々は,確率的 及び 非確率的影響
を引き起こす上で,低線量の慢性被曝が どのような役割を果たすかを明らかにするために,
植物を材料として実験を行なった. 実験は,チェルノブイリ の放射性降下物で 汚染された地域に
おいて,管理された条件下で行なった.
減数分裂の時の “遺伝子交叉(crossing-over)” と 被曝との間に 密接な関係があることが,
特定の植物の突然変異系で証明された. チェルノブイリ 事故によって受けるのと 同程度の被曝
によって,花粉細胞のDNA修復プロセスが まず 阻害されたり 抑制されたりする.
現在までに行なわれた一連の実験の範囲では, チェルノブイリ による継続的な被曝をうけてきた
樹木の現世代の花粉は,遺伝子の正確な修復ができなくなっている.
内部被曝,及び 分裂組織内部に取り込まれた ホットパーティクル に対して,形態発生の期間に
起こる 後生的な変化が 大きな感受性を示している.細胞が慢性的な被曝を受けると,DNA断片
の移動性に変化が起き,そのことは,体細胞ゲノムの安定性にとって,低線量の放射線被曝が
重要な意味を持っていることを証明している.
こうした基礎的な生物学的研究から得られた知見を,被曝した細胞内で起きる変化,及び
チェルノブイリ 事故による厖大な病気の増加のメカニズム を理解するための試みにおいて活かすべき
である. チェルノブイリ 原発周辺で行なわれてきた放射線生物学的な研究結果から, 最近,大変
重要な新しい事実がみいだされている.
低線量被曝に関する最も重要な生物学的効果が,以下の点で明らかになった.
1.低線量率においては,生物学的効果の線量・効果関係が 直線的でない.
2.異なった植物種を放射能汚染土壌で育て,DNA クロマトグラフィ による実験的研究を行なった
結果, 低線量被曝において ゲノムの不安定が引き起こされることが明らかになった.
3.DNA分子の繰り返し構造の変化にともなう位置 コントロール 機能の破壊が,低線量被曝の
格好の標的と考えられる.
4.細胞内のDNA修復機構が正確さを失う. 我々は今日まで,予定外のDNA合成を調べて
きたが,チェルノブイリ事故後 第1世代の花粉の場合,シラカバ の木の花粉では DNA修復機能
が完全に失われていることを見出した. 同じ場所から採取した シラカバの木の第2世代の
花粉では,予定外DNA合成の阻害は減少していた. しかしながら,それ以降の世代の花粉
では 適切なDNA修復を行なえなくなっている.そのことは,低線量率での慢性被曝の場合,
隠された障害が,DNA修復機構のどこかに依然として残っていること を示唆している.
大麦の “鑞様変異(waxy reversion)”と“色素変異(pigment mutant)”を実験の指標として,
管理された環境中で 長期にわたる突然変異発生の実験を行なった.これらの実験結果の一部
を 表17に示す. 突然変異のような 確率的影響は,細胞内に蓄積された 放射性核種からの
内部被曝と密接に関連していることが分かった. この場合, 内部被曝の生物学的効果は
外部被曝のものに比べてはるかに大きい.
表17 オオ麦花粉の鑞様変異の頻度
チェルノブイリ事故で放出された放射性核種に 55日間被曝させた場合と,
純粋なγ線照射場で被曝させた場合との比較
※ ? = ±
土壌が 放射性核種で汚染されている場合, 植物細胞の突然変異誘発効果は,測定された
線量を基に外挿できないことが明らかである.低線量の被曝では,染色体異常の誘発率は
慢性被曝で とても大きくなる. このことは,表18に示す実験結果も示している.
表18 植物の毛根頂部分裂組織に慢性被曝を加えた場合の染色体異常の誘発率
(放射性物質濃度,7万Bq/l)
クロロフィルの突然変異も,放射性物質汚染による被曝によって増加する.ライ麦と大麦の
アルビノ変異(白化現象)についての実験結果を表19に示す.
表19 30kmゾーンのライ麦におけるクロロフィルのアルビノ変異誘発率
上に示したデータは,組織内に取り込まれた放射性核種による低線量被曝が 強い遺伝的な
影響を与えることを結論づけている.放射線の突然変異誘発機構と細胞変異機構は 植物細胞
でも動物細胞でも同じであるといってよい. 細胞内に蓄積された放射性核種からの被曝が,
高い生物学的効果を持つことは疑う余地がない.低線量被曝に素早く反応する植物細胞を
試験試料とした結果を,放射線の危険度評価に適用できることもまた疑う余地がない.
考察
1986年4月26日に チェルノブイリ 原発事故は発生した.疫学データを解析した結果は,環境の
放射能汚染によって,人々の健康が著しく悪化していることを示している. 健康の悪化は 非常
に さまざまな病気として現われている.
社会心理学的な影響もまた 大変深刻である.事故が起きて 初めの数年間に 人々が見たり
聞いたりした経験は,多くのことに対する信頼を,時として 完璧に また長期間にわたって失わせ
た. そして,巷には,罹病率の増加を ひたすら放射能汚染とは 別の原因(化学物質,重金属,
そして 主として社会心理学的な症状の発生) に求めようとする傾向が存在している.
原子力推進の当局側に属している専門家達は,事故の初日から,リクビダートルや放射能汚染
地域に住む住民の間に起きる すべての健康破壊が,放射線に直接的に関係しているのでは
ないと証明しようとしてきた. チェルノブイリ大災害の被災者たちの病気発生率と,彼らの被曝量
との関連について, どうして そのような疑いを考え出すことができるのであろうか? 疑い深い
人達は,この関連性については,信頼でき,かつ充分な証明がなされていないと言うのである.
このように考える人たちの根拠は 以下のようなものである.
こうした否定的な見解に応えるために,疫学データを解釈する上での少なくとも 2つの方法が
ある. その2つの考え方を紹介しよう.
第1の考え方.汚染地域での被曝グループ には 余りに厖大な数の人が属しており,他グループ
と有効に比較することが困難である. そのため,適切な対照グループをみいだせない.しかし,
実際の問題としては, ウクライナ全体の死亡率の地域分布をみてみよう.
事故以前において,汚染地域は ウクライナ の他の多くの地域と比べて,死亡率が かなり低い地域
であった.それ故,罹病率と死亡率の比較のために, ウクライナ全体を対照地域として考えること
には合理性がある. 別の方法は,罹病率の経年的な変化傾向を分析して 比較評価することである.
第2の考え方.人々の健康悪化の真因を解析するために,放射線生物学的な研究データを
活用すべきである. 生物学的実験においては,適切な対照を選ぶことが十分に可能である.
また,生物学的な効果をもたらす 最初の出来事は,主要な細胞 及び 分子遺伝子プロセスであり,
私たちは,その線量・効果関係を評価するのに適した生物学的な試験系をたくさん知っている.
結論
1986年4月26日に チェルノブイリ原発事故は発生した. 疫学データを解析した結果は,環境の
放射能汚染により,人々の健康が著しく冒されていることを示している.冒された健康の結果
として,非常に 様々な病気が広がっている. チェルノブイリ周辺の子供たちの甲状腺ガン発生率
を疫学的に予測した値は,実際の増加率ときわめてよく一致している.しかし,巷には,罹病率
の増加を放射線被曝でない原因 (化学物質,重金属,そして 主に 社会心理学的症状の発生)
に求めようとする傾向がある.
チェルノブイリの大惨事は ウクライナにとって重荷となった.あらゆる生態系の中で,空気,水,
野菜が汚染された.人々の健康には,長期にわたる影響が現れ,耕地と森林が失われた.
汚染地域の何1000にも及ぶ集落が集団で移住を余儀なくされ,数100万人の人々が重い心理的
なショックに陥り,そして 痛苦に満ちた予期せぬ悲劇を被ることになった.
事故から11年,原因と結果の両者で悲劇的であった この出来事は,社会と環境との関わり合
いを示しただけでなく,原子力社会に生きる人間の倫理的な側面について 極めて重要な教訓
を与えてくれた.
(おわり)
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