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チェルノブイリ

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放射線障害は 癌だけではない!
                         エレーナ・B・ブルラコーワ他15名
                                ロシア科学アカデミー・生物化学物理研究所(ロシア)
 
                            (5)
 
 放射線被曝の影響を議論するためには,被曝量との関係を明らかにすることが重要である.
しかし 残念ながら,検査した リクビダートルたちが チェルノブイリ 原発事故 ゾーン で受けた被曝量に
ついて 確かな情報がないために,直接的な線量測定結果を用いて 検査データを解析すること
はできない.
 そのため,抗酸化状態に関する検査と平行して, 調査対象者全員について 血液中 リンパ 球
の染色体異常を調べた ( 細胞分裂中期にある培養リンパ球を観察する標準的方法 ) .
対象者1人当り およそ300個の細胞分裂中期を観察し,すべての染色体異常の数, 2動原体
染色体 や リング染色体といった染色体異常の数を調べた.
よく知られているように, 
 ある範囲の被曝量では,血液 リンパ球における染色体異常全体の出現頻度 や 2動原体染色体 と
 リング染色体を合わせた出現頻度は,被曝量と伴に 単調に直線的に増加する
このことにより,細胞遺伝学的な観察結果から 生物学的な線量推定が可能となっている.
                   ※ 染色体異常 - 放射線影響研究所     放医研ニュース No.97  
               E6 染色体の構造の異常
 そこで 我々は,リンパ球の染色体異常 レベルの観察結果を基に,検査対象者を幾つかのグループ
に分類した. この グループ 分けは,彼らの被曝量に対応していると考えることができる.
  リクビダートルは 5つの グループに分けた.対照グループ と 最初の リクビダートルグループ(Aグループ)は
染色体異常頻度が 細胞当り 0.5%以下の人々である.残りの4 グループは,染色体異常頻度に
応じ,0.5〜1%Bグループ),1〜1.5%Cグループ),1.5〜2%Dグループ),2%以上Eグループ)
である.
 検査した リクビダートル全体の平均染色体異常頻度を基に,生物学的手法により 彼らの平均
被曝量を推定すると 15 センチグレイ となった ( 2動原体染色体と リング 染色体を合わせた頻度を
用いると 15.9 センチグレイ ). これらの値は,チェルノブイリ に関する ロシア国家放射線疫学登録に
おいて,1986年に作業に従事した リクビダートル に記録されている平均被曝量 15.9 センチグレイ
とよく一致している.        ※ 1センチグレイ=1/100 ㏉   15 センチグレイ=0.15㏉=150m㏜
 A グループ から E グループ へと染色体異常頻度が増加すると, それに伴って,彼らが受けた
被曝量も増加していると考えてよい.
 
 リクビダートル の グループ 分けに基づいて 抗酸化状態に関する データ を整理した結果が 表5で
あり, リンパ 球の染色体異常 レベル と抗酸化状態 パラメータ との関係を示している.各パラメータ の
変化のようすは すべて単調なものではない. 先に述べた照射実験において観察されたのと
同様に,抗酸化状態に関連する各パラメータ の変化は,複雑な線量・効果関係を示している.
 
表5 染色体異常頻度で分けたリクビダートルの抗酸化状態に関する生化学検査結果
パラメータ
対照
リクビダートル
A
B
C
D
E
血清中脂質の2重結合
:脂質mg当りの1018個単位
0.34
0.29
0.31
0.31
0.27
0.34
赤血球中脂質の2重結合
:脂質mg当りの1018個単位
0.33
0.25
0.26
0.31
0.29
0.30
ビタミンE
23.07
19.80
17.95
20.54
16.13
21.24
ビタミンA
2.99
2.65
2.50
3.20
3.05
3.22
還元型グルタチオン
16.70
23.82*
17.57
24.50*
21.98*
25.66*
SOD(超酸化物不均化酵素)
113.12
115.23
120.09
101.08*
136.5
106.76
GP(グルタチオン酸化酵素)
6.91
10.02
9.82
9.26
12.2
7.648
GR(グルタチオン還元酵素)
5.61
4.57
5.87
4.66
4.93
4.5
GP-GR
1.34
2.28
1.91
1.88
2.05
1.97
赤血球溶血反応1
6.78
7.86
11.14*
5.59
7.74
6.70
赤血球溶血反応2
(脂質酸化後の溶血)
7.27
9.22
10.99*
5.88
6.86
8.17
MDA(赤血球中のMDA
:マロン酸ジアルデヒド)
2.08
2.41
2.74*
1.88
2.67*
1.83
MDA
(脂質酸化後の赤血球中MDA)
2.07
2.58*
2.58*
2.10
2.88*
1.85
赤血球膜脂質の電子常磁性
共鳴緩和時間(τ
1.01
1.37*
1.24
1.39*
1.15
1.50*
赤血球膜脂質の電子常磁性
共鳴緩和時間(τ2
2.20
1.51
1.66
1.99
1.48
2.08
CP(セルロプラスミン
:血清中の抗酸化タンパク質)
1.16
1.01*
0.92*
1.15
1.18
1.20
TF(トランスフェリン
:血清中の抗酸化タンパク質)
0.77
0.82
0.82
0.85
0.72
0.65
g値2.0のフリーラジカル
0.69
1.20*
1.05
1.02
0.92
1.04
リンパ球の染色体異常
0.11
0.18
0.68
1.15
1.66
2.64
 
                  判別分析とパターン認識(1) − マハラノビスの汎距離
 表5に示した パラメータの多くは, グループ 間でさまざまなバラツキを示している. しかし,これら
の パラメータ全体を 1つの データセット とみなして総合的に解析することが肝心である. そうした
総合的な解析には,複数 パラメータ の変化を扱う マハラノビス の距離統計量 (ホテリングのT統計量)
を用いた. この方法では 実験データ であれ 疫学データ であれ,複数 パラメータ の変化を データセット
全体に対する 1個の総合的統計量で表すことができる.抗酸化状態に関する 15個のパラメータに
着目して,対照グループ のデータ を 各リクビダートルグループ の データと順次比較した.
 
 最も興味ある結果が得られたのは, リンパ 球の染色体異常レベル が低い(0.5%以下)の リクビ
ダートルAグループと同じく 染色体異常レベル が低い(0.5%以下)対照グループとの比較であった.
 15個の パラメータをセットにして比較した結果,Aグループ と 対照グループ との間に統計的に有意な
違い(p<0.05)が認められ,その有意差 レベルは,他の リクビダートルグループ を 対照グループ と比較
した場合よりも 強いものであった.
先に述べた染色体異常頻度と被曝量の関係に基づくと,染色体異常頻度が小さい リクビダートル
グループの被曝量は小さかったと考えてよいであろう.しかし,彼らの抗酸化状態に関するパラメータ
の検査結果は,実質的な変化を示しており,低線量の被曝においても 脂質の抗酸化調節システム
に 重大で恒常的な乱れが生じている可能性を示している
 他の リクビダートルグループ についても,生体の抗酸化状態に関するパラメータ の解析結果から,
よく似た結果が得られている.
 
 観察された変化が,ある具体的な病気と結びついているのではないことを指摘しておく.
脂質の抗酸化調節システムの変化,その結果としての生体全体の バランス調整システム の変化は,
おそらくは,臨床的には明らかでないままに その影響が補償されており,「前病気状態」とでも
いうべき状態であろう. そして 「前病気状態」は,条件次第で さまざまな病気へと進展する.
リクビダートルの検査データ は,低線量被曝を受けた人々において,様々な病気に進展するリスク
が大きいことを示している
 
 
 抗酸化状態とよく似た規則性が,リクビダートルの免疫特性の研究においても見出されている.
 免疫に関係する パラメータ の線量依存性 と 抗酸化状態に関する パラメータの線量依存性とが
似ていることは興味深い. 免疫パラメータの解析結果では,15 センチグレイ 以下の被曝量 グループで
最大の変化が認められ,一方 20〜25 センチグレイ の被曝量グループ では対照グループ の レベルに
近くなっている.
 
 こうした データ も,低線量率被曝に伴う線量・効果関係は複雑な性質のものである,という我々
の考え方を支持している. 
 抗酸化と免疫に関する生体の状態が,健康に影響する色々な損傷要因に対する抵抗力を
担っていることを強調しておきたい. いくつもの実験結果は,抗酸化状態を変化させることで
免疫特性をある方向に コントロール したり,或は 逆に免疫特性を変化させて抗酸化状態をコントロール
できることを示している.それ故,抗酸化能力 と 免疫力の不足は,低線量に被曝した人々に
おいて 将来の疾患発生を予測する重要な指標となる
 以上のことは,生体の抗酸化状態に関する一連のパラメータ の総合的な解析評価によって,
さまざまな疾患の リスク が増えている グループ を明らかにできることを示している.
 
 本研究の結果は また,低線量被曝を含めて,放射線被曝を受けた人々に対し, 天然 或は
合成の抗酸化剤を投与することの必要性を よりいっそう明らかにしている.
 
                              (つづく)
放射線障害は 癌だけではない!
 
                         エレーナ・B・ブルラコーワ他15名
                                ロシア科学アカデミー・生物化学物理研究所(ロシア)
 
                            (4)
 
リクビダートルの血液検査結果
 様々な被曝集団に共通して認められる規則性は何かという問題の解明は とても興味深い
ものである. しかし 残念ながら,この問題に対して 定量的な結論を導けるほどのレベルで 実施
されている疫学的調査は非常に少ない.そこで  我々は,リクビダートルの血液を用いて細胞と
細胞質の抗酸化状態を調べる調査を実施した.
 
               生命維持のために体内に取り込まれた酸素は、エネルギー代謝過程において スーパーオキシド から
            過酸化水素、さらには ヒドロキシラジカル を経て H2Oとなる。 しかし、全ての酸素が H2Oになるわけ
            ではなく、数%が化学反応性の強い活性酸素(フリーラジカル) として残存する。体内で発生した
            活性酸素の多くは 内因性 及び外因性の抗酸化物質により無害化されるが、生体内の抗酸化能力
            を超える過剰な活性酸素が発生し、バランスが崩れて 酸化に傾いた状態を 酸化ストレス という。
            酸化ストレス度の亢進は、脂質、タンパク質、酵素、DNAを酸化変性させ、細胞や組織を障害する
      ことにより、老化を促進するのみならず 各種生活習慣病など 多くの疾患形成に関連しており、
            病的疲労状態を 客観的に評価できる可能性が考えられる。
                                                   種々の疲労状態における酸化ストレス値/抗酸化力値の評価
 
 1986-1987年に作業に従事した リクビダートル 104人と 今まで 放射線と何の接触もなかっと記録
されている 34人( 対照グループ )を対象に,脂質酸化反応の調節システム に対する放射線の
効果を調べた.
        脂質過酸化反応とは、フリーラジカル細胞膜脂質から電子を奪い、結果として細胞
        に損傷を与える過程のこと。 この過程は、フリーラジカルの連鎖反応のメカニズムによって
        進行する。 脂質過酸化反応は、通常、多価不飽和脂肪酸に しばしば影響を与える。それは、
                 多価不飽和脂肪酸は 特に反応性の高い水素を有する メチレン基に挟まれた複数の二重結合  
          を有しているためである。他のラジカル反応と同様に、脂質過酸化反応は、開始、進行、停止
                 の3つの主要な反応で構成される。・・・
                           http://pub.ne.jp/hatakenotayori/image/user/1346076987.jpg
                           
 
 リクビダートル の検査は,病気の有無とは無関係に実施されている,1992-1993年の定期検診の
時に行なった.検査した リクビダートル は 全て健康であると判断されたが,彼らの多くは 検査時に
(疲れ,苛立ち,頭痛,風邪に罹り易いといった) 概して ありふれた様々な症状を訴えた.
 リクビダートルグループ  と 対照グループ の平均年齢は,それぞれ 43歳と45歳で ほぼ同じであった.
検査方法には,よく知られている標準的な生化学的,生物物理学的方法を用いた.
血液サンプルは,胃が空っぽの早朝に 検査対象者の静脈から採取した.
 
 検査によって得られた,脂質酸化反応調節 システム (生体の抗酸化状態)に関する 各パラメータ
の検査結果を表4に示す.
 
表4 リクビダートルと対照グループの抗酸化状態に関する生化学的検査結果
パラメータ
対照グループ
平均値
リクビダートル
平均値
ウィルコクソン検定の
有意レベル
血清中脂質の2重結合
:脂質mg当りの1018個単位
0.32
0.33
0.017*
赤血球中脂質の2重結合
:脂質mg当りの1018個単位
0.303
0.30
0.000*
ビタミンE(任意単位)
20.90
19.05
0.034*
ビタミンA(任意単位)
2.99
2.85
0.056
還元型グルタチオン
19.53
22.19
0.001*
SOD(超酸化物不均化酵素)
125.41
115.11
0.682
グルタチオン酸化酵素
7.20
8.87
0.001*
グルタチオン還元酵素
5.12
4.86
0.760
赤血球溶血反応1
7.23
7.19
0.784
赤血球溶血反応2
(脂質酸化後の溶血)
7.62
7.81
0.830
MDA(赤血球中のMDA
:マロン酸ジアルデヒド)
1.93
2.22
0.008*
MDA
(脂質酸化後の赤血球中MDA)
1.95
2.24
0.003*
赤血球膜脂質の電子常磁性
共鳴緩和時間(τ
1.08
1.29
0.000*
赤血球膜脂質の電子常磁性
共鳴緩和時間(τ2
1.94
1.77
0.022*
CP(セルロプラスミン
:血清中の抗酸化タンパク質)
1.23
1.10
0.046*
TF(トランスフェリン
:血清中の抗酸化タンパク質)
0.78
0.80
0.084
g値2.0のフリーラジカル
0.69
1.08
0.362
リンパ球の染色体異常
0.81
1.15
0.605
 
 検査データの統計的解析には,スチューデント検定,ウィルコクソン検定,マン・ウィットニー 検定,コルモゴロフ
検定,記号検定, マハラノビス の多変量距離検定 (ホテリングのT統計量) などを用いた.
 
 検査パラメータの大部分において, リクビダートルグループ と 対照グループ の間で有意な違いが
認められた. 天然の抗酸化剤の中で 最も活性の大きい ビタミンE (トコフェロール) の血清中濃度
還元型グルタチオンとが,リクビダートルと対照とで 有意に違っていた.
また,抗酸化タンパク質であるグルタチオン 酸化酵素セルロプラスミン,及び血清中脂質の不飽和度
にも 有意な違いが認められた.
赤血球膜の検査では,脂質酸化プロセスの副産物 マロン酸ジアルデヒドの量膜脂質の微小領域
粘性,及び 脂質の不飽和度が対照グループと有意に違っていた(表4).
 図6 膜による細胞代謝でのフリーラジカル調節システム
 
 これらの検査結果は,色々なレベルの放射線被曝を受けた人々において, その後 長い間
(被曝後5〜6年) 脂質酸化反応の調節システムに変化が残っていることを示している.
 
生体の膜が,細胞代謝を調節するための物理化学的機能をもっていることはよく知られている.この代謝調節 システム に関連しているのは,脂質の過酸化 ラジカル の発生,抗酸化物質,脂質
の組成,膜脂質の流動性(微小領域粘性),膜にある タンパク質受容体,多くの酵素,その他の
特殊 タンパク 質などである. 通常の条件では これらの パラメータ の全ては,構造的にも機能的
にも 相互に関連しあっていて,1つの パラメータ の変化が 他の変化をひき起こす(図6).
互いに拮抗する相関性( 脂質酸化の速度が上がると 酸化抵抗性のパラメータ も大きくなる.或は
その逆の関係 )は,互いのパラメータを変化させて 細胞代謝のバランスを維持し,環境変化や損傷要因に対する細胞,器官,および生体での適応反応として機能している.
 
 この調節 システム の対応時間 (訳注: 攪乱ファクターの出現に対して システムが対応するめやす時間)は,
その組織(生体、器官、膜) に依存し,100秒から1万秒程度である. 各パラメータ の相関性が
なくなったり 変化した場合或は 損傷要因が長期間にわたって作用している場合には,この
システム は 通常の状態へ戻れなくなる膜の脂質酸化反応調節 システム は,細胞中の他の調節
システム と相互に関係しながら,損傷要因への細胞の抵抗性に寄与したり,免疫系老化の過程,
腫瘍の発生と成長,循環器系疾患の進展,神経・精神系の障害などとも関連している
 
 すでに示したように,放射線照射によってフリーラジカルの濃度が増し,抗酸化物質が減り,
脂質に レシチン と スフィンゴミエリン訳注:ともに脂質の1種が多くなり,脂質は より堅く微小領域
粘性τ1が大きく) なり,逆に 膜の親水性領域は柔らかく τ2が小さくなる 超酸化物不均化
酵素(SOD),グルタチオン 酸化酵素 訳注:還元型グルタチオンを酸化型グルタチオンに変える触媒で,
その際に過酸化水素H2O2を消費する,グルタチオン 還元酵素訳注: 酸化型グルタチオン を還元型
グルタチオンにもどす酵素の活性も変化する 各パラメータ の相関性の破壊は,照射効果の後の
方の段階で生じ,抗酸化状態を示す パラメータ が互いに逆方向に変化したり,τ1とτ2が互いに
同じ方向に変化したりするといったことが起きる.正常な場合には,抗酸化パラメータ は 並行して
変化し,τ1とτ2の変化は逆方向である.
 
 
 放射線障害が起きる レベル に比べ 数10分の1の被曝しか受けていない リクビダートルたちを対象
に,赤血球の脂質酸化調節システム に どのような変化が起きているのか確かめることは重要な
意味をもっている. この調節システム の各 パラメータ 間の相関性に関する これまでの実験データ を
考慮し,フリーラジカル濃度の増加,溶血の強まり,抗酸化物質濃度の低下,膜脂質の堅さ
(微小領域粘性)の増加といった変化が予想される.
 
 表4に示した結果では,予想通り, リクビダートル の血液サンプル においては 天然の抗酸化剤で
あるビタミンE と 抗酸化物質である セルロプラスミン の濃度が減り,フリーラジカル や マロン酸ジアルデヒド
(MDA)が増えている. 又,膜2つの相の脂質の粘性は,同じ方向への変化(τ1とτ2が増える)
を示している. これらすべては, リクビダートル の生体組織で抗酸化状態に変化が起きていること
を示している.
 
                             (つづく)
放射線障害は 癌だけではない!
 
                         エレーナ・B・ブルラコーワ他15名
                                ロシア科学アカデミー・生物化学物理研究所(ロシア)
 
                            (3)
 
 また,低線量照射後には,定常的な照射,2回目の照射,及び 放射線効果増強剤や放射線
防護剤に対する感受性も変化を示した.
 低線量照射の後,6,7,8 グレイといった大きな線量での 2回目の照射を行なった動物の脾臓
と骨髄の細胞を これまでと同じ方法で調べた. 低線量で いったん照射された細胞は,2回目
の照射に対しては 異なった感受性を示した.
 低線量照射の長期的効果を予測するための基礎データを得る目的で,照射後の初期効果の
時間変化を生体高分子レベルで調べた. マウスを低線量照射し,照射停止後の27日間,DNA
や膜の構造特性の変化,また 酵素反応の速度パラメータ の変化を観察した.
すべての生体高分子の構造変化は、照射後に 非直線型の変化を示し,徐々に ゼロ線量レベル
へ戻る傾向を示した.
 
 図4は,マウスを 1.2センチグレイで照射した後,脾臓DNAのCNフィルターへの吸着特性 と 核膜脂質
の微小領域粘性に関する時間変化のデータ である.電子常磁性共鳴プローブ 1の照射後の変化
(2の線)は プローブ2の変化(3の線)よりも大きく,線量・効果関係を観察した場合(図2)と同じく
DNA構造の変化とは 逆報告の変化を示す.   ※ 1.2センチグレイ=0.012グレイ=12m㏜
図4 1.2センチグレイ照射後に観察されたDNA構造と核膜脂質粘性の時間変化
(線量率:0.6 センチグレイ/日)
1.   DNAのCNフィルターへの吸着割合
2,3. 膜脂質の電子常磁性共鳴緩和時間
 こうした実験結果は,照射の過程においても 照射後においても,低線量照射によって 膜に
生じる プロセス と ゲノムに生じる プロセス とが 相互に密接な関係にあることを示している.
 
  低線量域で凸を示す非直線的な線量・効果関係は,生体物質への損傷が始まる線量と その
修復システム が作動を開始する線量との間に ギャップがあるという アイデア で説明できよう 図5 
). この関係では,修復(適応)システム が十分に機能しない 最初の線量域では,照射効果は
線量とともに大きくなり,そして 修復 システム が強く働くようになると 照射効果は小さくなる(或は
、同レベルにとどまる). ときには,照射効果がなくなってしまったり,或は 効果が  マイナス側にまで
行ってしまう. さらに 線量が上がると,損傷作用が修復作用を越えて 再び照射効果が増加する
図5 B). この考え方を支持する一連の実験事実にもかかわらず,低線量率かつ低線量領域
での線量・効果関係のメカニズムについては,最終的な結論には いまだに至っていない.
  この現象には,別の説明も可能である. 例えば,低線量率の照射に対して とくに敏感な細胞
の一群が存在しているという説 や その他のアイデアである.
 
  図5 放射線による損傷,修復,総合結果の概念モデル(A)と観察される線量・効果関係(B)
 
  一方,照射線量率が小さくなると,細胞全体の損傷において 膜の役割が相対的に大きくなり,
膜の損傷と関連する細胞内構成要素の変化に 新たな現象が生じることを考慮せなばならない.
 
 低線量域における照射効果を解明するためには,線量・効果関係と照射線量率の役割を
明らかにすることが非常に重要である. しかし,凸型といった非直線型の線量・効果関係に
おいて,照射線量率の役割を明らかにすることは難しい.
 この問題を調べるため,いくつかの照射効果 パラメータ を選んで,照射線量率を 10倍変えて
その影響を調べる実験を実施した. 線量率の変化に伴う効果を,以下の4つの指標について
比べてみた.
 1) 線量・効果関係の最初の立ち上がり部分での 単位線量(センチシーベルト)当りの効果
 2) 線量率が違ったときに 同じ効果がみられる線量
 3) 低線量凸部での最大値(最小値)
 4) 低線量凸部の最大値(最小値)を示す線量 と それに至る時間
 
 表3に示したのは,CNフィルターに吸着したDNAの割合赤血球膜脂質の微小領域粘性(τ1)
赤血球膜脂質のMDA(マロン酸ジアルデヒド.訳注:脂質酸化物が分解されてできる物質の1つ)  を
観察したデータである.
  
表3 さまざまな生化学パラメータ変化の線量率依存性
指標
生化学パラメータ
照射線量率(センチシーベルト/日)
0.6
6
1センチシーベルト当りの
効果量
DNA吸着割合
脂質のτ1
MDA
1
2000
900
0.3
750
300
同じ大きさの効果が
あらわれる線量
(センチシーベルト)
DNA吸着割合
 
 
脂質のτ1
 
 
MDA
0.6
2.4
5.4
0.6
5.4
9.6
0.6
5.4
9.6
2.0
12
30
12.0
20.0
26.0
7.2
18.0
18.0
低線量凸の最大値
(最小値)
DNA吸着割合
脂質のτ1
MDA
2.2
1.2
1.2
3.0
1.8
2.1
最大値を示す線量
(センチシーベルト)と
それが現れる時間(日)
DNA吸着割合
脂質のτ1
MDA
1.2 (2)
2.4 (4)
2.4 (4)
6 (1)
12 (2)
24 (4)
 
 表3から明らかなように,線量率が小さくなると,1センチシーベルト当りの効果は大きくなり,等しい
効果を生じる線量も小さくなる.そして,着目している パラメータ の低線量凸の最大値は減少する.
                       ※ 1センチシーベルト=0.01㏜=10m㏜
 膜脂質の酸化反応に対し,直接的に関与(MDA) 或は 間接的に関与(τ1)しているパラメータの
変化が,線量率の変化と逆になる事実は,照射に伴う過酸化物生成の理論的計算が 線量率
との逆依存性を示していることを考えると驚くことではない.
 これらのデータすべては,低線量照射に対する生体の反応が,線量,線量率,照射開始からの
時間の関数であることを示している.
 
 これまでの結果は 以下のようにまとめられる.
 1) 検査を行なった すべてのパラメータは,低線量において 非直線的な線量・効果関係を示した.
 2) 低線量照射により,生体高分子,細胞,器官,生物がもっている損傷要因への感受性に
   変化が生じる.
 3) 照射後の効果は 長期間継続する.
 4) 多くのパラメータにおいて,線量率の変化とは 逆方向の依存性がある.
 5) 低線量率の照射では,膜機能の変化が 放射線効果において 重要な役割を果たしている.
 
 低線量照射により,酸化“ストレス”に関係する すべてのパラメータが変化することを実験データは
示している. 低線量での ストレス反応の レベルは,それより 20〜30倍も大きな線量と同じ程度
である. その線量・効果関係は,単調な変化を示さず,直線的ではない.
  こうした線量・効果関係の パターン は, チェルノブイリ 事故の リクビダートル や被曝住民に生じている
いろいろな疾患の原因究明において考慮されるべきであろう.
 被曝した人々において 疾患の原因となっているのは, 精神的・情緒的な ストレス では
なくて,低線量率被曝にともなう ストレス要因である.
 
                            (つづく)
 放射線障害は 癌だけではない!
 
                         エレーナ・B・ブルラコーワ他15名
                                ロシア科学アカデミー・生物化学物理研究所(ロシア)
                            (2)
 
 
マウスを用いた低線量照射実験
 放射線被曝は, 色々な反応の直接的な原因になるだけでなく, “ストレス”要因であることも
よく知られている. その “ストレス”の程度は 恐らく,直接的な効果と同じく,放射線量や線量率
に関係しているであろう.
 しかし,細胞死,細胞の変異,1本鎖や2本鎖のDNA損傷,DNA・タンパク質結合などいったこと
の線量・効果関係が熱心に調べられているのに比べ,被曝ストレスについては ほとんど研究
されていない.
我々は 長い間,様々なストレス要因に対して 生体が示す“酸化ストレス”の研究を続けてきた.
そこで 我々は,“酸化ストレス”や その他の生化学的 或は 生物物理学的な指標を用い,放射線
被曝という ストレス要因の線量・効果関係,及び その放射線量率への依存性を明らかにする研究
に着手した.
 我々が着目した検査指標(パラメータ)は,細胞や生体器官における,酸素活性,脂質の酸化度
や抗酸化状態に関するものである. なぜなら,こうした パラメータ の変化が,病気の原因,病気
の重さ,治療の可能性,悪性度の診断,放射線障害,神経系の障害,糖尿病,循環器系疾患,
呼吸器系疾患,消化器系疾患などの特徴として現れるからである.
 
 具体的には マウスに γ線を照射して,肝臓とリンパ球のDNAのアルカリ溶液への溶出速度
脾臓DNAの中性溶液への溶出と その硝酸セルロースフィルター (CN フィルター)への吸着特性 及び
電子常磁性共鳴〈EPR〉の緩和時間測定に基づく脂質の微小領域粘性といった)核膜,ミトコンドリア膜,
シナプス膜,赤血球膜,白血球膜といった生体膜の構造特性  に関する実験を行なった.
 又,細胞機能については,アルドラーゼ ( 訳注:糖代謝に関係する酵素の1つ )と 乳酸脱水酵素
活性 及び それらの アイソザイム (訳注:同じ機能をもつ酵素で構造が少し違うもの)の形態 
アセチルコリンエステラーゼ( 訳注:神経伝達物質である アセチルコリンを分解する酵素 ),超酸化物不均化酵素
SOD,訳注:超酸化物イオンO2-を減らす反応の触媒となる酵素 ),グルタチオン 酸化酵素訳注:グルタチオンは生体内の酸化還元反応に関係する細胞内物質 )といった酵素の活性  超酸化物 イオンラジカル の
生成速度  上記各種の生体膜に含まれる脂質の組成 と その抗酸化状態 及び その他の
損傷要因が 細胞,生体膜,DNA,各種器官へ及ぼす効果
といった検査を実施した.
 
 検査を行なった すべての パラメータ において,2つの山をもつ(bimodal)線量・効果関係が認め
られた.即ち,放射線量ともに 放射線の効果は まず増加し,低レベルでの最大値に至る.
それから 効果が減少し (ある場合には マイナス側にまで減少し),その後 再び,放射線線量
増加ととも 効果が増加する,という関係を示した.
 
 例えば 図1は, センチグレイ/日の線量率で マウスをγ線照射した実験から得られた 脾臓DNA
のCN フィルター への吸着割合(図中の2)に関するデータと,  肝臓細胞の核膜に含まれる脂質
の微小領域粘性(図中の1)を、電子常磁性共鳴の緩和時間(τ1)測定によって調べたデータ
である.  DNAの構造特性( CNフィルター への吸着割合 ) と 核膜脂質の微小領域粘性は ともに,
照射線量とともに極端な変化を示し,6〜12 センチグレイの線量で最大値となる.センチグレイの線量
で見られる効果の大きさは,それより 20〜30倍も大きな線量での効果に匹敵していることに
注意したい.        ※ 6センチグレイ=0.06グレイ=60m㏜、  60m㏜/日=2.5m㏜/h
図1 放射線照射後のマウスに観察された脾臓DNAのCNフィルターへの吸着割合(2の線)
と肝臓細胞核膜脂質の微小領域粘性(1の線) (照射線量率6センチグレイ/日) 
 
 
 低線量域での山の高さの値 と その最大値に対応する線量は,研究対象としている指標の
性質と線量率に依存する. 
 図2の データ は,線量率が もっと小さい条件(0.6センチグレイ/日)で,ゲノム( 訳注:DNAや遺伝子
全体をさす用語 )構造 と 核膜の変化を調べた実験結果である.
図1との比較から明らかなように, 照射線量率を下げると 最大値を示す線量が 低線量の側
へ シフト している.  このような山の位置の シフトは,検査した パラメータにおいて共通して観察
された現象である.     ※ 0.6センチグレイ=0.006グレイ=6m㏜、 6m㏜/日=0.25m㏜/h
 
 中性溶液に DNAを溶出して CNフィルター への吸着特性を調べる実験結果は,ゲノムの構造に
変化が起きたことを示している.  さらに 制限酵素を使って DNA塩基配列の特性を調べること
ができる. 図2に示したように,0.6センチグレイ/日の照射線量率では,脾臓DNAのCNフィルター
への吸着割合(図2の1)は, 1.2センチグレイの線量で 最大値を示し,5.4センチグレイでは 対照
(線量ゼロ)と変わらなくなる.
 マウス脾臓のDNA配列を制限酵素EcoRI を使って調べた分析結果においても,DNA鎖の
塩基配列に繰り返し現れる部分である MIF-I の量の変化(図2の2)が認められ, この結果も
ゲノムに構造変化が起きていることを示している.この パラメータ の線量・効果関係は,線量率
の減少とともに 山の位置が 低い側へ移動した,DNAのCNフィルター吸着特性とよく似ている.
 方向は反対であるが,リンパ球DNAのアルカリ溶液への溶出速度(図2の3)も,1.2センチグレイ
で最小値となり,似たパターンを示している.
図2 照射後のマウスに観察された各種パラメータの線量・効果関係(照射線量率0.6センチグレイ/日)
1. 脾臓細胞DNAの CNフィルターへの吸着割合
2. 脾臓細胞DNAの 塩基配列中 MIF-1量
3. リンパ球DNAの アルカリ溶液への溶出速度
4, 5. 膜脂質の電子常磁性共鳴の緩和時間
 核膜脂質の微小領域粘性を調べる 電子常磁性共鳴測定用のプローブ( 検査端子 )は, 膜の
2つの相 ( 膜の疎水領域(Ⅰ)と親水領域(Ⅱ) ) においた. 脂質の微小領域粘性を指標とする
核膜の構造特性(図2の4と5)は,2.4センチグレイの線量で 極値を示すが,2つのプローブ(4と5)
では 微小領域粘性の変化の方向は 互いに逆であった.  DNAの構造特性( CNフィルターへの
吸着 )の場合とは違って,この膜の2つ相での 微小領域粘性は,6〜9.6センチグレイの線量に
おいて 対照(線量ゼロ)とは 顕著に異なっている.
 DNAの構造変化と 膜の構造変化に関する 以上の実験結果は,線量率が小さな実験において
山の位置が同じように移動することを明らかにしている.
 
 図3のデータは,マウスの赤血球膜を対象に その脂質の微小領域粘性の変化を調べたもの
である.これまでのすべてのケースと同じように,低線量域で 最大値がみられる.
図3 照射マウスの赤血球の膜脂質に観察された微小領域粘性の変化(線量率:6センチグレイ/日)
 
 
 
 細胞機能の活性を評価するため, 照射した動物の細胞膜と細胞質にある 幾つかの酵素に
ついて,それらの酵素が関係する反応の速度パラメータを調べる実験を行なった.
酵素反応の速度パラメータの変化は 1.2〜2.4 センチグレイの線量ですでに観察された.しかも,
1.2センチグレイ の線量で生じた速度パラメータの変化は 長い間保持された.
  また,酵素機能のバランスの乱れとして,乳酸脱水素酵素と アルドラーゼでは それらの アイソザイム
の相対比の変化が認められた.          ※ 1.2センチグレイ=0.012グレイ=12m㏜
表2は,超酸化物不均化酵素(SOD)と その基質( 訳注:酵素反応を受ける物質,この場合は
超酸化物 イオンラジカル ) の相互関係の変化データである.
 以上のことも,低線量照射にともなう細胞機能の活性に関する線量・効果関係が非直線的な
ものであることを示している。
 
  表2 照射マウス肝臓細胞のミクロソームとミトコンドリア粒子に観察された
超酸化イオンラジカル生成(VO2-)と超酸化物不均化酵素活性(Asod)の比
(照射線量率:0.6 センチグレイ/日)
線量
センチグレイ
ミクロソーム
VO2-/Asod
ミトコンドリア
VO2-/Asod
0
1
1
0.6
1.8
1.6
1.2
3.4
0.8
2.4
1.7
1.8
5.4
2.0
1.2
 
 重要なことは, 低線量照射の後に,個別の生体高分子,細胞,器官の 様々な損傷要因
に対する感受性が変化していることである
例えば,マウスに 低線量照射を行なった我々の実験では,赤血球の溶血反応(赤血球のパンク)
は増加し,神経伝達物質,興奮剤,抑制剤に対する感受性も変化を示した.
 
 
 
 
                           (つづく)
  放射線障害は 癌だけではない!
  フクシマの人たちの被曝量は 下の記述の範囲内に入る可能性があります。
      0.6μ㏜/h×24時間×365日×2年=10512μ㏜=10.512m㏜
      
              ↓ 書かれた日付がないが、参考文献からすると 1996年以降の論文である
                         エレーナ・B・ブルラコーワ他15名
                                ロシア科学アカデミー・生物化学物理研究所(ロシア)
 
                           (1)
                 
はじめに
 チェルノブイリ原発事故がもたらした破局的事態の特徴は,放出された放射能の総量,汚染地域
の面積,住民や事故の処理に参加した人々の大量の被曝だけではなく,事故初期の非常に
強力な “ヨウ素の打撃” と,以前には 絶対的に安全と考えられていた低レベルの慢性的被曝
を 数100万の人々がうけ続けていることにある.
 
  それゆえ、低線量被曝の作用メカニズム と医学・生物学的な影響を明らかにすることが,放射線
の安全性基準を確立するために必要な基本的問題の 1つとなっている.
 最新の研究によると,低レベル被曝は 細胞に 長期間継続する さまざまな変化をひき起こし,
その結果 細胞機能に変化をもたらすこと,そして  低 レベル 被曝で生じる プロセスは 高 レベル被曝
によるものとは異なっている ことが明らかになっている.
低レベル被曝では,線量・効果関係,つまり 被曝量の増加にともなう効果量の変化の仕方が
直線型とは顕著にずれており,それ故, 高 レベル被曝で得られた結果を外挿して 低 レベル被曝
のリスクを評価することは不適当である.
 こうした事情から,チェルノブイリ事故以前の放射線生物学は,事故がもたらすであろう健康影響
を予見できなかったし,また 子供や大人における病気の増加に対して 有効な予防手段をとる
ことができなかった.
 ここ数年の医学的な調査と基礎的な研究の結果は、これまで 絶対的に安全だとしていた
低 レベル被曝に対する我々の考え方に変化をもたらし,また,原子力産業や放射性廃棄物埋設
などの問題に関する態度にも変更をせまるものであった.
 
リクビダートルの健康状態に関するこれまでのデータ
 旧ソ連最高会議の チェルノブイリ事故調査委員会の活動を通じて,リクビダートル(事故処理作業)
に従事した人々,および 放射能汚染地域に住む子供と大人たちの健康状態について,様々な
医療機関からの報告を入手した.そのデータの詳細は,「 チェルノブイリ原発事故:原因と結果 」の
第2巻1 に示してある.
 ここでは,そうした報告の基本的な結果について簡単に述べておこう。 1986-1990年のすべて
のレポートには,放射能汚染ゾーンでの作業の後に リクビダートルに観察された健康状態の
変化が報告されている.
たとえば,サンクトペテルベルグの軍医学 アカデミー 病院では,数100のリクビダートルの検査が
行なわれている. チェルノブイリ での作業の後 彼らに現れた疾病で 最も多かったのは,高血圧症
20.8%),慢性胃炎(14%),神経系失調(12.2%),虚血性心疾患(3.7%),慢性肝炎(1.8%),
慢性気管支炎(1.8%),胆汁管障害(1.2%)などである. 軍医学 アカデミー には,すべての
リクビダートルの健康状態について 事故以前の何年か分の情報があるため,これらのデータ
の信頼性は きわめて大きい.
モスクワの研究所 (ロシア保健省・診断治療研究所,泌尿器科研究所) もまた,軍隊に動員
され リクビダートルとして作業にあたった人々を調べている.最も頻繁に現れた疾病は,内分泌
・神経系,心臓循環器系,消化器系,骨格筋系,男性生殖器系などの障害である.甲状腺機能
の長期間観察では,調べられた人々の 10%に機能変化がみられた.
 アルメニア共和国保健省の放射線医学研究所では,約1100人のリクビダートルが登録され,
健康状態の追跡調査が実施されている. 1987-1990年の観察結果は,神経系疾患の増加傾向
(1987年に 31%、1990年に 51%) を示している.また,消化器系や呼吸器系の疾患も増加して
いる.さらに,リクビダートルの免疫状態に 規則性をもった変化が生じている.細胞の免疫力が
明らかに低下しており,これには T細胞性免疫の低下が関係している.
 ウクライナの国家登録には 18万人のリクビダートルが登録されている.内分泌系と免疫系の
疾患が,とくに 男性において 毎年顕著に増加している.1990年の男性の罹病率は,1988年に
比べ 3.7〜7.1倍になった. 血液・造血器官の疾患は,男女ともに増えていて, 1990年には
1988年の5倍になった.神経系と循環器系の疾患は 1988年の 2〜3倍に増加している.
 
 当時の医師たちが,被曝量 10〜20センチグレイのリクビダートルたちに対して,被曝の影響
をみいだせなかったことに注意する必要がある多くの場合,25センチグレイ以上をうけた
リクビダートルのグループでは,かなり大きな罹病率がこれまで述べた疾患で認められている
ところが,リクビダートル全体では 明白な線量・効果関係を示していない.リクビダートルに関する
当時の最も大きな情報源は,ソ連時代に設立された全ソ地域登録で,そこには ロシア、ウクライナ、
ベラルーシの リクビダートル 22万6900人が含まれていた. 全ソ地域登録データによると,リクビダートル
の全罹病率は,個別の国ごとでも CIS(独立国家共同体)全体でも,統計的に有意に増加して
いる(1.5〜2倍).              
 次の5つの疾患については,被曝量との相関性が認められ,被曝量 30センチグレイ以上の
グループの罹病率は 被曝量 0〜5センチグレイのグループの値よりも有意に大きい.
1)神経系疾患,2)精神障害,3)血液・造血器官の疾患,4)消化器系疾患,5)自律神経失調症.
      @ 1Gy(グレイ)=100cGy(センチグレイ)   30センチグレイ=0.3グレイ=300m㏜
                                5センチグレイ=0.05グレイ=50m㏜
 この当時の医療当局は,被曝が リクビダートル の健康状態に悪影響をもたらしているとまじめ
には受け取らなかった.罹病率が本当に増加したというより,それまで明らかでなかった病気
が確認されただけだ という説明を試みた.又は,健康状態の変化は すべて“放射線恐怖症
,すなわち 実際の被曝とは関係のない精神的ストレスの結果であるとした
 しかし,最近のロシア国家放射線疫学登録の データでは,リクビダートル や被曝住民において,
さまざまな種類の病気の増加が記録されている.
 まず第1に注目されるのは,癌が一貫して増加していることで,1990年に 10万人当り 151件
であったものが,1991年に 175件,1992年に 212件 (同年のロシア男性全体のデータを リクビダートル
の年齢構成に当てはめた値は 128件),1993年に 233件(同140件) であった.リクビダートルの
癌発生率は,ロシア全体の値に比べ 1993年には 65%大きかった.
 リクビダートルの内分泌系疾患は,対照レベルに比べ 18.4倍,精神障害は 9.6倍,循環器系
疾患は 4.3倍,全疾患では 1.5倍になっている.表1に示すように,リクビダートルでは 様々な病気
の罹病率が増え続けている.
 
表1 リクビダートルの罹病率(1986-1993年,10万人当り)
病気の分類
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
感染症,中毒
36
96
197
276
325
360
388
414
腫瘍
20
76
180
297
393
499
564
621
悪性腫瘍(ガン)
13
24
40
62
85
119
159
184
内分泌系の疾患
96
335
764
1340
2020
2850
3740
4300
血液・造血器官の疾患
15
44
96
140
191
220
226
218
精神障害
621
9487
1580
2550
3380
3930
4540
4930
中枢神経系,感覚器官の疾患
232
790
1810
2880
4100
5850
8110
9890
循環器系の疾患
183
537
1150
1910
2450
3090
3770
4250
呼吸器系の疾患
645
1770
3730
5630
6390
6950
7010
7110
消化器系の疾患
82
487
1270
2350
3210
4200
5290
6100
泌尿器系の疾患
34
112
253
424
646
903
1180
1410
皮膚および皮下組織の疾患
46
160
365
556
686
747
756
726
 
  チェルノブイリ事故の影響を被った人々の大部分に 免疫系に変化が認められている.この変化
は 主に,免疫系の中心的器官である胸腺と胸腺の中で発達する Tリンパ球に関係している.
これらの細胞の機能が害されると,ウィルスや微生物に対する防御,腫瘍に対する抵抗性,
免疫反応のバランス維持といった機能が損なわれ,その影響は広範な形で生じる.
被曝した人々の血清中の胸腺ホルモン量は 平均して 1/3 〜1/5に減少し,それにともなって
Tリンパ球の防御機能も 1/3〜1/4 に低下している.被曝をうけた人々では,免疫力低下が
起きやすく,その結果 免疫による防護機能も低下し,それが 癌や感染症の増加へとつながる.チェルノブイリ事故の被災者には,老化の際に現われるような,免疫力の変化が認められている.
 
 以上のように,リクビダートルの健康に深刻な変化が生じていることは疑いない. しかし 病気増加
の原因については,被曝の影響なのか,あるいは事故ゾーンで働いたことにともなう精神的問題
なのかといった議論が続いている. リクビダートル や子供たちの甲状腺癌については,国際機関
(WHOやIAEA)も 現在は,その主な原因は 事故直後のヨウ素131による被曝であると認めて
いる.しかし,甲状腺以外の病気については,人々の精神的心理的な反応によりひき起こされた
と国際機関は考えている
 
                             (つづく)

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