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ある時、 山中に 大火事が起こりました。
火は 勢い すさまじく 広がっていきました。
多くの獣kemonoたちは 逃げて行くことに 死に物狂いになりました。
しかし 逃げようとすれば、 深い渓谷taniになっていて 容易に逃げることができませぬ。
猛火は 次第に 背後から迫ってきます。
多くの獣たちは、 泣き狂っても 救われません。
何とも致itaし方kataなく 困り抜いている時、
一匹の 大きな鹿sikaが 現れてきました。
彼は 向うの崖gake と こちらの山 とに 前の二足 と 後の二足 とで 渓谷の上に踏みまたがって 橋となり、
一同に向って 急seき立てました。
「 一時も早く みな わが背を渡って 逃げよ! 早く 早く! 」 と。
群がる獣たちは よろこんで、先を争って 鹿の背を渡って 逃nogaれました。
無残にも 鹿の背は、 皮は 破れ 肉は 千切れ、 血潮は だらだらと流れて 全身を染めています。
哀れに 力尽きて、 彼は 動くことができません。
その時、 最後の一匹の兎usagiが 逃げてきて 助けを求めました。
鹿は 「 早く渡って 逃げよ 」 と言いました。
兎が 渡ってしまった時、
彼は 力尽きて 渓間tanimaに落ちて、 哀れな死を 遂げてしまいました。
この大きな鹿とは 釈尊の前身であり、
兎というのは 須跋陀羅syubatudaraという長者choujyaの前身であります。
釈尊が 八十の老齢となり、涅槃の雲に隠れようとする時、
病重くして 談話さえ難しい。
その時、 最後に はせ参sanじて 道を求めたのは、 須跋陀羅でありました。
阿難ananは、 病が重いので 彼の申し出を断りました。
しかし、 釈尊は これを聞かれると、
彼を呼んで 最後の説法をされた。
彼は 解脱することができた。
彼の前身は 山火事の時の 兎だ と言うのである。
( 住岡夜晃全集 第五巻 )
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