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次に、活断層の認定を争うための方策として、取消訴訟ともうひとつの選択肢として、
国家賠償請求による誤った活断層認定等の違法の訴え
というのがあるのではないかと思います。これは、高野氏の「ポスト・ノーティス命令取消の訴えの利益」に関する解説の中で、制裁的な「公表」行為の意味合いについて述べられていたのに触発されてのものです。
よく、ペナルティとしての企業名公表や、調査結果に基づく企業名公表というのが見られます。あの「公表」行為は、間接的に企業側の行為を促す効果はあるとしても、「行政処分」ではなく、事実行為だとするのが一般的理解です(塩野宏教授らのように、公表行為の取消も認められるのではないかとの説もありますが、判例としては見当たらないようです)。
●それで、これに関しては、様々は判決例があり、次の学習用サイトが、学説、判例を多数、コンパクトに紹介してくれていて、重宝します。
これをみていると、原電敦賀の活断層審議・認定とオーバーラップして見える事例が多数あるのではないかと思います。幾つか紹介してみます。
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○本件各報告の公表は、なんらの制限を受けないものでもなく、目的、方法、生じた結果の諸点から、是認できるものであることを要し、これにより生じた不利益につき、注意義務に違反するところがあれば、国家賠償法1条1項に基づく責任が生じる(O−157東京控訴審判決)。
○むろん違法な公表によって名誉、信用等を段損された者は、国家賠償を請求することができる(合成洗剤不足の原因についての地方公共団体の調査が不当な推測によるものであり、その公表が洗剤メーカーの名誉致損となるとして損害賠償を命じた事例があった(東京地判昭和54・3・12判時919号23頁)が、損害賠償だけでは救済が十分とはいえない。→原田尚彦「行政法要論全訂第四版増補版」
○東京地判昭54・3・12(洗剤パニック事件)
東京都物価局が家庭用合成洗剤の不足の原因についての報告書を公表したことはメーカーに対する名誉毀損に当たり、損害賠償が認められるが、名誉回復の適当な措置としての謝罪広告をなすべき義務はない。
○東京高裁昭和54・2・22
消費者保護基本法に基づき神戸市が設置した神戸市生活情報センター所長が、同市センター条例に基づき市政記者クラブにおいて情報提供を行うことは国家賠償法一条一項の「公権力の行使」に当たる。
○O−157東京控訴審判決
関係者に対し、行政上の制裁等、法律上の不利益を課すことを予定したものでない情報提供としての公表は、現行法上、これを許容し、又は命ずる規定が見あたらないものの、これをするについて、明示の法的根拠を必要としない。
内容が正確な公表であっても、目的、方法、生じた結果の諸点から、是認できるものであることを要し、本件は公表方法に違法があるので、国家賠償法1条1項に基づく責任が生じる。
厚生大臣が、記者会見に際し、一般消費者及び食品関係者に『何について』注意を喚起し、これに基づき『どのような行動』を期待し、『食中毒の拡大、再発の防止を図る』目的を達しようとしたのかについて、所管する行政庁としての判断及び意見を明示したと認めることはできない。
かえって、厚生大臣は、中間報告においては、貝割れ大根を原因食材と断定するに至らないにもかかわらず、記者会見を通じ、前記のような中間報告の唆昧な内容をそのまま公表し、かえって貝割れ大根が原因食材であると疑われているとの誤解を広く生じさせ、これにより、貝割れ大根そのものについて、O-157による汚染の疑いという、食品にとっては致命的な市場における評価の毅損を招き、全国の小売店が貝割れ大根を店頭から撤去し、注文を撤回するに至らせたと認められる」。
公表に伴う貝割れ大根の生産および販売等に対する悪影響は容易に予測できたにもかかわらず、「上記方法によりされた中間報告の公表は、違法であり、被控訴人は、国家賠償法1条1項に基づく責任を免れない」。
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公表行為は、「行政処分」ではないけれど、国家賠償の対象である「公権力の行使」に当たるということです。原電は、公開質問状では、ずっと有識者会合の審議は「公権力の行使」である旨を繰り返し指摘してきています。そこで問題があるような運営や判断をするのであれば、責任が問われる旨の警告だったとおもいますが、規制委側、有識者会合側には全く通じませんでした。
敦賀有識者会合の活断層認定に関して、最も似ている例としては、「合成洗剤パニック事件」のような気がします。間違った調査結果を発表することによる損害の賠償責任を認められたものです。「O-157の貝割れ大根」の事例は、中毒の原因が貝割れ大根であるかのような誤解を生じさせる中途半端な中間報告を公表したことに伴う損害賠償責任ですので、少しケースが違うかもしれません。
●合成洗剤パニック事件について、判例を見てみようと思って、判例データベースに当たったのですが、ヒットしませんでした。判例時報にしか載っていないようです。それでネット検索すると、次の論文があり、そこに判決内容が紹介されていました。
『地方公共団体における消費者情報提供制度の法的諸問題
一事業者名等の「公表」麟度を中心にして一』(中井勝巳)
「(イ)花王石鹸株式会社対東京都事件
昭和48年のオイルショックを契機として生活関連物資の不足、急激な値上りが起こり全国的に大きな社会問題となった。東京都は、翌昭和49年2月15日に制定、公布された東京都緊急生活防止条例第4条と都議会の要請にもとづいて、洗剤パニックの原因調査(本件調査)を実施し、「家庭用(衣料)合成洗剤調査報告」と題する報告書(本件報告書)を作成した。同報告書は、「本件調査結果を総合的に判断すると、洗剤不足が起こった第一の原因は、やはり業界などによる生産制限、出荷操作にあったのではないかと疑わざるを得ないと結論づけた。東京都は同報告書の調査結果を昭和49年3月27日の都議会で報告するとともに、同報告書を報道機関に配布し記者会見を行ない、翌28日付の各新聞で一斉に報道された。
これに対して、本件の原告にあたる花王石鹸株式会社は、そのような事実は全く存在しないのであるから、被告東京都の報告書の公表には重大な過失があり、それによって原告の名誉が肇損されたとして、被告に対して100万円の損害賠償請求と謝罪広告の掲載を請求して訴えを起こした。
第1審東京地方裁判所は、昭和54年3月12日に、謝罪広告の掲載請求についてはこれを棄却したが、損害賠償請求については、被告東京都に対して100万円の支払いを命じる判決を言い渡した。その判決理由は多岐にわたるが、地方公共団体の民事責任に関する点を整理すると次のようになる。
まず第1に、本件報告書が原告の名誉を毅損したか否かについて、判決は本件報告書で述べられている『業界等とは、メーカーすなわち原告会社及び訴外ライオン油脂を意味し、その旨社会一般が受けとめたであろうことは容易に推認できる」と述べ、原告の名誉段損を認めた。また、判決は、本件報告書の「公表」と原告の名誉段損との間の因果関係の存在も認めている。
第2に、本件報告書の「公表」に名誉段損の違法性阻却事由があるか否かについて、判決は『本件報告書の公表事実は、その主要部分において真実性の立証がないことになるので、本件報告書の公表事実が公共の利益に係わり、その目的が専ら公益を図るものであることは当事者間に争いがないものの、…本件報告書の公表は違法性を阻却されないと判示した。
第3に、『公表」にあたって現実的悪意(「公表」した事実が虚偽であることを知っていたか、または虚偽であるかどうかについて全く無関心な態度)がなかったという被告東京都の主張について、判決は、「本件において、被告主張の如く、行為者において摘示された事実の真実性について重大な疑問を抱いていたことを被害者が主張、立証しない限り、不法行為が成立しないものと解すべき筋合いのものではないと考えられる」と述べ、被告東京都の主張をしりぞけた。
第4に、本件、「公表」に際しての被告東京都の過失の有無について、判決は、本件調査目的の家庭用(衣料)合成洗剤の生産出荷状況の実態を把握するにあたり、粉末洗剤の資料を基礎とすべきであるところ、被告は通産統計の粉末洗剤と液体洗剤の合計数量をもって家庭用(衣料)合成洗剤の生産出荷を論じて本件報告書を作成し、「それを公表したことは…物価局の所轄事務内容からして、明らかに被告に重大な致命的過失であるといわざるを得ないとした。
以上のような判決理由に基づく原告勝訴判決に対して、被告東京都が控訴したが、その後、両者の間で和解が成立した。」
これはもう、ほとんどそのまま、敦賀有識者会合の活断層認定〜委員会での了承〜報告徴収命令の一連の行為(=公権力の行使)の問題と重なります。アナロジー的に書くと、
①有識者会合報告書記載の内容は、その主要部分において真実性の立証
がない。
②公表が公益目的であっても、違法性を阻却されない。
③記載内容の真実性に疑問があることを被害者が立証しなければ、不法行為が成立しないわけではない。被害者は立証しているのだから、それに反証しなければ違法性は阻却されない。
④調査手法、判断内容、判断過程の杜撰さは、重大な致命的過失である。
●敦賀有識者会合の活断層認定〜委員会での了承〜報告徴収命令の一連の行為は、報告徴収を除き行政処分ではありませんが、全体は一連の公権力の行使になります。そこで、この行使における違法性による名誉棄損、営業権侵害について損害賠償を求める国家賠償請求が有力な選択肢としてあるのではないでしょうか。
今年5月の過程だけでなく、昨年12月の第1回での評価会合での認定と記者会見、規制委への報告も、一つの違法性ある公権力の行使です。その双方を視野に賠償請求してもいいのです。
その違法性の認定は、行政処分の違法性の認定と変わるわけではありません。伊方原発訴訟での最高裁判決の違法性認定の考え方は、規制委の一連の公権力の行使でも当てはまることでしょう。
<伊方原発訴訟最高裁判決>
行政庁の処分が違法になるのは、以下のいずれか。
(1)現在の科学技術水準に照らして、安全基準自体に不合理な点があ
る場合
(2)調査審議や判断過程等で看過しがたい過誤、欠落がある場合
敦賀有識者会合の活断層認定が、このいずれにも該当することは明らかです。
合成洗剤事件での原告たる花王石鹸は、損害賠償は名誉棄損の100万円と謝罪広告を求めています。賠償を求めるというより、名誉回復を図ることが直接の目的だと思われます。
謝罪広告は認められませんでしたが、100万円の賠償は認められています。
以前、ブログ記事でご紹介した国立マンション訴訟でも、国家賠償請求訴訟を提起した明和地所は、勝訴して得た国家賠償金数千万円は、直ちに国立市に寄付しており、目的は名誉回復なり営業権侵害の排除にあったと思われます。
この国家賠償請求訴訟であれば、活断層認定の手続き及び内容の不当さを直接論点として争うことができますから、原電としても目的を達する上で、直接的かつ実効的ではないかと思います。金額の多寡を争うことが目的ではありませんから、請求額は百万円なり1千万円なりでもいいでしょう。謝罪広告までは難しいかもしれませんが、公開質問状もすべて悉く無視し、違法行為を放置していたわけですから、謝罪広告も求めたいところです。
●ついでに言えば、国家賠償請求であれば、国立市長の場合と同様、その違法行為に直接携わった者に、「故意又は重大な過失」がある場合には、後ほど求償がなされることになります。島崎委員長代理や田中委員長その他の原子力規制委員の各氏に、「故意」はないかもしれませんが、「重大な過失」があるのは明らかでしょう。「未必の故意」は島崎氏にはあるような気もしないでもありません。判断材料が足りないと有識者自身が言い、原電が重要論点に関わる部分の最終調査結果が出るのを待たず唐突に審議を打ち切り、公開質問状にを一顧だにせず、というのは「重大な過失」に他なりません。
その責任はきっちり取ってもらいたいものです。辞任は当然でしょう。謝罪広告まで行けば万々歳・・。ここまで来ると、半沢直樹の世界になってきますが・・・。週刊誌的にも格好の話題になるかも・・・。
いずれにしても、原電が、上記のような形で、
①報告徴収命令取消訴訟の提起
②国家賠償請求訴訟の提起
を並行して行うことによって、活断層認定の科学的不合理性、法手続き的不公正性による違法な公権力行使であることを司法に早期に認めさせることによって、規制委の暴走にブレーキがかけられます。その違法行為を働いた責任追及を通じて、現行の異常な規制委の体制と運営を変える契機にすることができることでしょう。
そういう意味で、これは、電力業界、事業者の代表訴訟的位置づけにもなると思います。
(注)貝割れ事件についても、参考になりそうな点があれば追記します。
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