(新名称) 法と公正手続きへの基本的理解が欠如した原子力規制委

(旧名称) 九州電力第三者委員会、郷原委員長、そして枝野経産大臣への疑問

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 原子力規制委員会の敦賀の破砕帯評価会合が、1119日の会合で、敦賀2号機直下の破砕帯を、活断層と改めて認定する評価書案をとりまとめました。
 
◎日本原子力発電株式会社敦賀発電所の敷地内破砕帯の評価について(その2)(案)
 
 規制行政の暴走も極まれり、というところでしょう。前回の轍をまた踏むのか?とつくづく感じます。当事者の原電からすれば、あきれるだけでは済まず、死活問題です。
 島崎委員から石渡委員に変わってどうなるかな、と思いましたが、流れが変わることはありませんでした。今後、他の有識者によるピアレビューがなされた後、原子力規制委の了承手続きに進むものと思われます。
マスコミ報道の中では、産経新聞が批判的な論調ですが、他のメディアはそういうトーンはあまり感じられません。
 
産経新聞の記事の中で、法律学者として著名な森嶌教授のコメントを載せていたのが目にとまりました。
 
「名古屋大の森嶌(もりしま)昭夫名誉教授(民法・環境法)は「被規制者(原電)にとって不利な判断をする場合には十分な反論の機会を与えなければならない。規制委は原電側に『提出した資料は不十分』とするばかりで、何が足りないのか、どういう資料を示せばよいのかが分からない」と規制委の対応に首をひねる。
 さらに、森嶌名誉教授は法律的な位置づけのない専門家会合を問題視。「専門家会合では、メンバーに法律上の権限がなく責任も負わない。専門家会合の法的な根拠を明確にし、責任を負わせて判断させるべきだ」と指摘する。」
 
 森嶌教授は、原子力関係とは無縁の法学者で、環境行政や消費者行政などの面ではよく知られている方かと思いますが、同教授の感想が普通のリーガルマインド的センスだと思います。
原子力規制委は、巨大で強力な規制官庁であるにもかかわらず、法律的センスの点ではほとんど素人同然で、各種評価会合や基準作りの会合等でも、規制行政のイロハを踏まえない運営を続けてきました。その集大成というか、その縮図というか、それが敦賀の破砕帯評価会合とそれに関連した原子力規制委の対応でした。
原子力規制委の委員には、そういう法的手続きの面での専門家がいません。事務局にいるかといると、これもまたいません。本来は、規制庁長官なり次長なりが仕切るべきでしょうが、警察官僚出身のせいでしょうか、刑事法しかわからず、憲法の大原則や行政手続きの基本を理解しているとは思えず、存在感がありませんでした。
 
森嶌教授が述べるところの、「専門家会合に法的位置づけがなく、責任も負わない」という点は、この会合での議事なり評価なりが、一連の行政法に基づき、その可否を争い得る行政手続きや行政処分と位置づけられないということと同義だろうと思います。
これだけ、原子力事業者の存亡に関わるような評価をするとしても、その是非を争う法的手段がありません。評価の内容や手続きを争うことができないため、それにも基づき報告徴収や再稼働申請不許可(あるいは不作為)という行政処分として現れた場合に、初めてそれを争う形で、実質的にその評価内容、手続きを争う形になります(「名誉棄損」で訴えるという方法もありますが、本筋ではありません)。しかし、そこで最終的に訴訟となり、勝訴するまでには膨大な時間と労力とがかかるわけであり、その間の様々な経済的、社会的不利益は甚大なものとなりかねません。企業倒産など最悪の事態もありうるわけです。
これは、別に原子力規制委のせいではなく、法制度上の問題ですので、規制委に言っても仕方ないのですが、しかしだからこそ、規制委はそういう点を考慮において、行政手続、行政処分に準ずるものとして、慎重の上にも慎重に審議を進めるべきでした。
 
 この原電敦賀破砕帯評価会合の評価内容と手続きに関しては、多くの問題点を内包しています。それに基づいて再稼働申請不可となれば、取消訴訟で、瑕疵のある違法な手続きと内容だとして、取消になるでしょうが、憲法及び行政法の観点から、悪しき事例として記憶されることでしょう。
 公正手続きということを多少なりとも知っている人ならば、誰しも森嶌教授と同じような印象をもつことでしょう。
 
「事業者の存亡を左右する話が、こんな杜撰な手続きで評価されるなど、あり得るのか?!」
 
 ということです。
 いくつかの重大な論点があるかと思いますが、ざっくりと問題の所在を述べると次のようなものになるかと思います。かなり多岐にわたります。
 
【論点1】何のために評価しているのか?―原発の重要施設への安全上の影響評価のはず
 もともと、破砕帯評価は、バックチェックから始まった話の延長だったはずです。破砕帯が活断層なのかどうか、活断層だとしてどういう構造で、それが動いた場合にどういう影響を原発の重要施設に及ぼすのか、ということが根本的な問題意識だったはずです。浦底断層が活断層だということがわかって、それとの連動がどうなるのかというのことが、基本的出発点だったはずです。
 
 ところが、それは何ら評価されないままに、基準上の「今後動く可能性のある断層」の定義に当てはまるかどうかの、いわば矮小な議論に終始しました。
平成18年9月の耐震設計審査指針の改訂に伴い、各事業者に対して、耐震バックチェックを指示している中で、東日本大震災が発生し、その教訓を踏まえて、意見聴取会での議論がなされ、平成23年11月に更に深堀りした調査指示がなされたという流れです。それに応じて、調査が行われてきたということです。何を目的として、どこでどういう手法で何を調べるのかといった点を盛り込んだ調査計画書が、保安院と原子力安全委員会で承認され、それに即して調査が行われてきたというのが、原子力規制委に引き継ぐ時点までの話です。
 平成23年11月の最初の保安院指示には、次のように書かれていました。
 
「貴社敦賀発電所については、文献調査から天正年間に若狭地域に大きな津波が到来した旨が記載された古文書の存在が明らかとなったこと及び地震・津波に関する意見聴取会において周辺斜面の安定性評価も必要であるとの指摘があったことを踏まえ、当院は、同地域における既往津波に関する調査とそれを踏まえた津波の影響評価及び基準地震動の変更に伴い、周辺斜面の安定性の再評価と当該再評価を踏まえた安全上重要な施設等への影響評価が必要であると考えます。
また、貴社は、耐震審査の改訂に伴う耐震安全性評価結果中間報告書において、同発電所敷地内を通る浦底断層及び原子炉建屋直下に存在する破砕帯の活動性については、地形・地質調査の結果に基づき否定しているところです。
しかしながら、当院は、当該地震に伴う想定以上の地殻変動により、広域にわたって応力場に影響を与え、正断層型の地震も発生していることを踏まえ、浦底断層の活動に伴う破砕帯も含めた地盤の変位について原子炉建屋等への影響について評価すること、また、貴社東海第二発電所については、従来、耐震設計上考慮していなかった断層についても、活動性の再評価が必要であると考えます。」
 
ここに書かれている通り、調査の目的は、「重要施設への影響評価」だったはずです。ところが、新基準に、重要施設の直下に活断層がある場合には立地不可とする旨が盛り込まれ、既存原発に対しても、規制行政としては極めて異例のことながら、即時に遡及適用するとの措置が取られたことにより、実質的に新基準適合性審査に変質してしまいました。
約12万年前以前の断層(=活断層)かどうかだけが焦点となり、その活動性はどうなのか、どの程度の地震が生じるのか、その場合重要施設にはどの程度の影響があるのかというもっとも肝心な点は、ほとんど議論されることはありませんでした。
それまでは、規制内容が厳しくなった新基準が制定されても、法的には遡及適用はせず、バックチェックの形で耐久性をチェックし、必要あれば補強する、という形で、安全と利用のバランスがとられてきました。立地後に活断層が直下に見つかっても、その重要施設に与える影響を評価して判断する、という本来目的に即した運用方針が公式に取られていました(国会での質問主意書への答弁書)。
しかし、新基準で、活断層と認められた場合には、直上にはともかく設置不可とされたことにより、活断層だとしても、それがどのようなメカニズムでどの程度の地震を生じ、それがどういう影響を重要施設等に与えるのか?それは運転を継続できないほどのものなのか? あるいは代替的な補完策があるのかどうか?といった当初のバックチェックの本来目的とするところが吹き飛んでしまって、それらについての議論が何らなされないという異常な展開となってしまいました。
 自分で出した指示にもかかわらず、それに応じて報告しようとしているのを拒否しているに等しい構図ですから、本来考えられない話です。その点の影響評価をしないままに、「絶対に基準にいう活断層でないとは言い切れない」というだけで、思考停止、検討停止し、再稼働不可の判断をすることなど、あり得ようはずがありません。
 まして、今回の評価書案では、9.5万年前以降は動いていないことを認めましたから、なおのこと、動いた場合の影響評価をしないままに、9.51213万年前の間に動いたか不明という一点だけで廃炉に追い込むということは、本来趣旨からしても逸脱しています。
 
【論点2】昨年7月の重要施設への影響なしとの報告徴収を了承したこととの関係
 いったい何のために議論しているのか? ということについては、昨年5月に規制委本体の会合で、いったんは活断層と断定され、ただちに影響評価についての報告徴収をかけたのに対して、影響なしとする原電の回答を了承したこととの関係からしても、疑問です。
昨25年5月の規制委で、活断層だと断定した評価会合の報告書が了承され、断層が動いて重要施設である配管が全壊して冷却水が失われた場合の影響を評価せよ、という報告徴収命令が発せられました。重要施設にどういう影響を与えるかを評価せよ、という命令ではなく、いきなり全壊することをアプリオリに決めつけての命令というのは前代未聞の奇妙な命令だと思いますが、いずれにしても、誤った認定に立ったものであるとして、原電は異議申立てをしました。しかし規制委は、命令に応じていることを以て訴えの利益なしとして却下しましたが、それは、判例にも反する決定でした。裁判になれば規制委は負けますが、原電としては、それに時間と精力を費やすのは無駄だということで、争っていないだけです。それに甘えて、判例違反の決定をすることは、本来許されません。
それは別として、規制委は、その命令に応じて影響評価を提出し、配管が全壊しても他の代替措置により、安全性を損なうことにはならないとの原電の評価を、あっさり了承しました。
それであれば、バックチェックとしての、そして立地基準としての本来目的である原発の耐震面の安全性はまず担保されているということですし、全壊に至らない補強工事も十分に可能です。破砕帯が12万年以前か以降か、破砕帯がK断層とつながっているかどうかといった点は、ある意味で些末な話でもあります。「活断層である」との認定にも拘わらず、それが耐震面で安全性に影響しないということであれば、その原発を全否定し、運転を認めずに廃炉に追い込むことは、法益の比較衡量において均衡を著しく失した措置であり、憲法上の問題となってきます。この点は後ほど詳しく述べます。
 
【論点3】憲法上の基本原則への違背
このブログで当初から一貫して述べていることは、原子力規制委の規制行政は憲法の基本原則の多くに違背しているということです。
法益の比較衡量、不利益措置の不遡及、比例原則、公正手続きの確保 といった基本中の基本であるはずの原則に反する措置が、実にあっさりと講じられています。こういう原則に、田中委員長を筆頭として、委員も規制庁も誰も勘案する様子さえも見せず、原発の安全確保のみを考えているとの台詞のもとに、それを当然としてきました。
原発の安全確保ということはもちろん、非常に大事な国民の利益であり、いったん深刻な事故が起きれば大変なことになるということは、福島原発事故で体験したことです。それは、電力会社を含めて誰も否定しているわけではないでしょう。
問題は、法益の比較衡量とバランスということです。原子力発電は、これまで原子力基本法による平和利用の促進という枠組みの下に、電力の安定供給を担うベース電源としての役割を果たしてきました。地球温暖化対策のカギとしても、菅直人政権の下で、一時は比重を50%まで引き上げるとの方針も決定されました。電力の安定供給は、電力会社の法的義務として定められていますが、電力会社とすれば、これまで政策的にベース電源として推進されてきた原発を一定割合以上組み込むことを前提としていたわけです。
安全確保も大事な課題ですが、安定供給(量、質、価格の三面での)もまた大事な課題です。絶対安全ということはあり得ないわけですから、利用促進、安定供給の確保とのバランスをどうとるために、どこまでのレベルで線を引くのかが重要な視点になってきます。これは、別に原子力安全規制に限らず、すべての安全規制に共通していえる基本原則です。米国の原子力規制委員会においても、安全確保と利用促進とのバランスをとることが要請されており、事実上の利用禁止に等しいような安全確保策というのは、この原則を無視したものであり、適当ではありません。ところが、それを無視し、「安全のことだけを考える」と宣言して委員会運営を行ってきているのが、田中委員長でした。安全確保だけでなく、安定供給の確保も社会的、政治的、経済的要請なのですから、すべての原発を止めて、新基準適合性審査を行うという方式は疑問です。というか、明らかに不適当です。

法益の比較衡量とともに、憲法の基本原則としてあげられるのは、不利益措置の不遡及です。これは直接的には刑事面での原則ではありますが、不利益措置を遡及適用してしまうと、既存の権利関係を侵害することになりますから、この点でも利益の比較衡量の視点に立って、基本的には遡及しないというのが原則です。建築物等の耐震基準の適用についても、新基準はこれから建築するものに対して適用されるのであって、既存の建築物については、建て替えや補修の際に適用していくとか、経済的インセンティブ(補助金、税制優遇等)を与えて、新基準への自主的適合を促していくというのが基本的な行政のあり方であるはずです。もし、新しい知見等によって、切迫した危険が迫っているということが判明したのであれば、それは緊急避難的に対処が検討されるべきことです。
原発の安全基準についても、通常の建築物と同様の方式により適用されてきました。新基準が定められても、遡及適用はせず、行政指導の形でバックチェックを行わせ、実質的な安全確保を図るというのが、これまでのやり方でした。
今回の規制委の下での活断層議論は、そういう憲法の基本原則を一切無視したものです。
 直下に仮にそれが活断層だとしても、その規模、形状、活動度合い等に関わらず、一律に公益事業として供されている私的財産の価値、効用を無に帰する措置をとるということは、財産権の侵害であり、経済活動の自由の侵害です。比較衡量の重要性を認識しているのであれば、評価の順序は次のようになるはずです。
 
 ・活断層かどうかを判定する。
 ・活断層だとして、その活断層の活動の切迫度合い、将来的活動時期の見 通しを評価する。活断層としての規模、活動度合、見通し等から、原発 の重要施設への影響を評価する。
 ・影響評価の結果が、耐震工事や代替的保補完策等によりカバーできるも  のかどうか評価する。
  
 このような一連の評価の結果、耐震工事や代替策を講じたとしても、原発の安全性が確保できる見通しがつかない、ということになった場合に初めて、廃炉ということになるわけです。その場合にも、経済的なダメージを補完するようなインセンティブが必要になってくることでしょう。
 ところが、【論点1】で述べたごとく、規制委や破砕帯評価会合は、そういう一連の評価を何も行っていないのです。昨年5月に活断層だと認定した後も、報告徴収でそのような評価を求めることはありませんでした。そのような影響評価こそが、規制委に求められているはずの基本的アクションだと思いますが、もともとバックチェックの指示から話が始まっていることからしても、理解できない対応です。
 それに、活断層の定義は、新基準になるごとに、活動時期の目安が遡っていっています。原電敦賀1,2号機が設置された当時は、5万年前だったはずです。それが遡ることはいいですが、それを既設置済みの原発に遡及して、しかも即時適用し、適合しなければ廃炉しかないというのは、不遡及の原則、激変緩和の原則、比較衡量の原則等を全く顧慮しないものであり、あり得る行政措置ではありません。通常は、新設のものから適用していくというのが基本です。
 ここで問題となっているのは原発ですが、それを自分の家に置き換えて考えればすぐに理解できる話でしょう。自分のマンションが、建築基準法の新基準に適合しないからといって、いきなり使用不可とされ、取り壊しを迫られるとすれば、到底納得がいくものではありません。現実に切迫した倒壊の危険がある、ということであれば、また別ですが、通常は、どの程度の地震に耐えられるのかを評価し、必要な耐震補強工事を行うことによって対応するはずです。
                           続く

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