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【論点4】新基準上の多重防護措置との関係
上記の憲法上の法益の比較衡量や比例原則等の観点から、もう少し補足します。
それは、これまでの安全基準に即して運転が行われてきた原発を、安全基準の激変、即時の遡及適用によって、直ちに廃炉に追い込むことは、新基準自体の二重、三重の防護措置からしても、バランスを著しく失しているということです。
もともとバックチェックによって、設計を上回る地震、津波に襲われたとして、その耐えうる限界はどこまでか、という評価はなされています。東日本大震災後に保安院から求められた緊急対応措置にも対応していることは、原電が公表しているかと思います。その緊急対応措置の多くは新基準にも反映されているかと思います。それでもなお、運転継続を一切許さない事情があるのか、という点が問われることになります。バックチェックと緊急対応措置によって、必要な補強工事も行いつつ、運転を継続させるという方針は、電力の安定供給とのバランスを取るという観点からは妥当なものだったと思います。
しかし、原子力規制委は、バックチェック作業・評価は棚上げしてしまい、新基準での評価だけを行い、それが終わらないうちは再開させないという方針をとりました。新基準を遡及適用するとしても、激変緩和のための一定の猶予措置(準備期間等)をとるのが規制行政の基本です。それは措くとしても、その新基準では多重の防護措置が盛り込まれています。
・事故が起きないように、重要施設の耐震、耐津浪のレベルを引き上げる。
・事故が起きたとしても、その被害が最小限のものになるよう多重の防護措置をとる。
バックチェックや緊急対応措置による補強に加えて、新基準が求めるこのような多重防護措置をとったとしても、活断層とされるものが事後的に見つかったというだけで、しかも、その活動態様、重要施設への影響等の評価をしないままに、入口のところでシャットアウトして全否定するということが許されるのかと言えば、公益事業として電力の安定供給に果たしている役割、公益企業にとっての経済活動の自由、私有財産でありながら公益的財産でもある財産権の尊重、被害の蓋然性の程度に比例した対応等の憲法的視点からみて、許されるわけがありません。
それが許されるのは、設計上の対応、補強工事、代替措置等によってもなお、発生する蓋然性が高い地震、津波に耐えられず、危険が現実に予想されるという場合です。その場合でも、公益的財産ですし、既存基準を満たしていたわけですから、廃炉に向けた経済的インセンティブの付与は必要でしょう。
安全性の確保はもちろん重要ですが、絶対安全を限りなく追求し、予想される震災の程度に比して、著しく過剰で、コスト的にもバランスを欠くような安全策を求めるということは、比例原則からして適当ではありません。「牛刀をもって鶏を割く」ようなことを求める規制は不可ということです。それは規制行政の基本です。この活断層論議の場合は、「その活断層がどういう態様のものか、どう動くのかがわからないが、安全サイドで、耐震補強の可能性を検討するまでもなく、これまで安全に稼働してきたものであっても、全部止めてしまえ」と言うに等しい話ですから、比例原則どころの話ではありません。それ以前の話です。
【論点5】活断層に関する新基準の策定過程と適用のあり方の問題性
今回の問題の根源は、活断層に関する新基準とその解釈にあります。それらは、その策定過程、内容とも、相当恣意的なものになっています。
基準や解釈については、今回の評価書案の末尾のp31以降に掲載されています。
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○実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則(平成 25 年原子力規制委員会規則第 5 号)
第三条 設計基準対象施設は、次条第二項の規定により算定する地震力(設計基準対象施設のうち、地震の発生によって生ずるおそれがあるその安全機能の喪失に起因する放射線による公衆への影響の程度が特に大きいもの(以下「耐震重要施設」という。)にあっては、同条第三項に規定する基準地震動による地震力を含む。)が作用した場合においても当該設計基準対象施設を十分に支持することができる地盤に設けなければならない。
2 耐震重要施設は、変形した場合においてもその安全機能が損なわれるおそれがない地盤に設けなければならない。
3 耐震重要施設は、変位が生ずるおそれがない地盤に設けなければならない。
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この第3項が、議論の対象となった点です。
旧基準では、「建物・構築物は、十分な支持性能を持つ地盤に設置されなければならない」とされていたのに対して、新基準では、「変位が生ずるおそれがない地盤に設けなければならない」とされました。第1項の「地震力の作用」、第2項の「変形」については、「施設を十分に指示することができる地盤」「安全機能が損なわれるおそれがない地盤」とされているのに対して、「変位」だけは、そういうパターンの「変位が生じたとしてもその安全機能が損なわれるおそれがない地盤」という規定の仕方ではなく、単に「変位が生じるおそれがない地盤」とのみ規定されました。
そして、「審査ガイド」では、次の【論点6】で述べるように、その解釈と審査ガイド、更にその解釈と、法規レベルの下層に降りていくほど、ハードルがどんどん高くされていきました。その結果、本来、原発施設への安全性がどうなのか、という観点からの基準んはずが、それとはかけ離れた、12-13万年以前であることの「明らかな証明」を電力会社に課し(証明方法、指標はなし)、その活動態様、規模さえも検討されることはないという構図になってしまいました。
基礎地盤分野の専門家である岩盤工学の学会関係者が詳細検討の上で、パブリックコメントの意見として提出し、安全基準検討チーム会合においても、独立行政法人の防災科学技術研究所谷委員がその代表として提出した意見が、文字通り一蹴されてしまっています。
谷委員は次のように意見を提出しています。
「活断層が露頭に現れている場合の立地制限に関する規定については,現在の骨子案の内容(施設の要求性能に無関係に,想定される断層変位がどんなに小さくても,将来も活動する可能性あれば立地を制限)は,当該分野(岩盤工学)の専門家(検討チーム内のメンバーでは私のみ,検討チーム外ではパブリックコメントをした多数の岩盤工学の専門家)が異口同音に不適切な規定であると指摘している。多くの専門家の指摘を無視した規定は修正されるべきであり,・・・」
「この検討チームの中では、岩盤工学を専門としているのは、残念ながら私しかいなくて、本当に増やしてほしいと思いますけれども、私だけでなくて、実はパブリックコメントをやったときに、専門学会又は協会もありますけれども、そこで組織的に合議をして、この岩盤工学の専門家が意見をされた内容があるわけです。
それで、・・・活断層の露頭に現れている場合の立地規制について何遍も申し上げていますけれども、これはこの岩盤工学の専門分野から見ればおかしいということを異口同音に申し上げているわけです。
私は、専門分野の専門家の意見と、そうでない方の意見は重みが違うと思いますね。専門家の意見は尊重されるべきだと思いますし、そうでない方の意見は配慮するというレベルじゃないかなというふうに私は思うわけです。・・・こういう専門学会が組織的に出した意見を一蹴……、何というんですか、一顧だにせずいるということは、私は正しいことではないと思います。」
このように、岩盤工学の専門学会が組織的に検討して、一致して提出された意見がまったく一顧だにされずに策定されたということからして、この基準及びその適用方針=審査ガイドの科学的妥当性に深刻な疑問があるということです。この点は、【論点1】で述べた、何のための議論なのか、ということと共通する話です。
もともと、安全基準は、その制定根拠は、原子炉等規制法の「第43条の3の6」第四号にあります。
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(許可の基準)
第四十三条の三の六 原子力規制委員会は、前条第一項の許可の申請があつた場合においては、その申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。
一〜三 略
四 発電用原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること。
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この規定にある通り、「汚染物質や原子炉による災害の防止上支障がないものとしての基準」ですから、学会の一致した見解に反して、変位がわずかでもあれば、「災害の防止上支障がある」ことの証明責任は、規制委側にあります。
しかし、基準検討の会合では、上記の谷委員の意見提出、発言に対しては、感情的な物言いがあるだけで、科学的根拠に基づく合理性のある見解は示されることはありませんでした。その際の空気は、島崎副委員長がさかんに台湾地震での橋や建物の写真を示して煽っていた「何が起きるかわからない」という漠然としたもので、原子力工学等の学会での一致した意見に対する合理的反論等のやりとりはなされませんでした。
つまり、この変位に関する新基準は、内容及び手続きにおいて違法と言えるでしょう。
伊方原発訴訟最高裁判決では、次のように判示されており、局面は違いますが、まさに、規制委による活断層関係の基準の策定と、原電敦賀の破砕帯評価会合そのものを指しているかのような内容になっています。
「現在の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。」
【論点6】基準の透明性、予測可能性の問題
規制行政の基本として、基準の透明性と予測可能性ということが挙げられます。これは基本中の基本です。冒頭の森嶌教授が感想として述べた
「規制委は原電側に『提出した資料は不十分』とするばかりで、何が足りないのか、どういう資料を示せばよいのかが分からない」
という点は、まさにそれらの基本が守られていないことを指しています。
審査基準の運用指針である「審査ガイド」では、基本方針として、
「「将来活動する可能性のある断層等」は、後期更新世以降(約12〜13万年前以降)の活動が否定できないものとすること。」とし、解釈として、
「約12〜13万年前以降の複数の地形面又は連続的な地層が十分に存在する場合は、これらの地形面又は地層にずれや変形が認められないことを明確な証拠により示されたとき、後期更新世以降の活動を否定できる。」
としています。この部分が盛り込まれる審議過程の問題は別途詳細に書きました。ここでは、どういう手法で調査を行い、どういう指標で判断するのか、ということが定められていません。「それは証明する側の電力会社が考えろ。それが妥当かどうかを規制委側が判断する」という考え方ですから、原電側も手探りになってしまいますし、相当のコストをかけてボーリングしても、それが認められうるのかどうかもわからないという状況でずっと推移してきました。
もともと、保安院での指示に基づき調査が開始されたものですが、調査方針、内容については、意見聴取会での議論を経てその了承の下にスタートしています。ボーリングは、どこの箇所をどういう理由で選定するのか、どういう評価手法、指標で評価するのかということも、計画書の中に明記されていました。ところが、規制委の有識者会合に移行した途端に、「御破算で願いましては」となり、そのような経緯を無視して、委員によっててんでばらばらな思いつきの意見や指摘をするばかりで、評価側、被評価側が共通理解に立たなければならないはずの調査手法、判断指標等が、宙に浮いてしまいました。
それでも原電側が、委員の指摘に即して追加調査をしたり分析したりしても、「そうとは限らない」「まだ資料が足りない」「安全サイドに判断すべきだ」「こちら側を掘ってはどうか」等々、まるで蜃気楼か逃げ水のように、近づいたと思ったらすぐに遠のいてしまうということの繰り返しでした。
それによって、「明確な証拠が示されたとは言えない」→「将来の活動を否定できない」として、活断層認定をしているという、およそ規制行政の基本とは無縁の行為です。電力会社の調査のコストは、電力料金に跳ね返るものですし、その調査によって稼働が停止する期間が長くなれば安定供給面で支障が生じますし、既設である以上調査には限界もあるということをすべて念頭に入れながら、明確な手法と基準、指標を示し、計画も承認した上で、その結果を評価するということが、当然行われなくてはなりませんでした。
その基準の運用指針の審議過程をみても、二重の意味で不公正です。
基準本体が、地盤の変位の程度、影響の如何に関わらず、また新設、既設の如何に関わらず、設置不可としたことに加えて、更に「基準の解釈」→「審査ガイド」→「ガイドの解説」と多層化された適用基準の細則の中で、次々とハードルを高くしていっています。「審査ガイドの解説」はその到達点でしょう。「12〜13万年前以降のものでない明確な証拠を挙げよ。ずれ、変形がなくても、より判断を明確にするためにそれより古い時期も調べよ」ということですから、基準、指標を明確にしないままに、地層に変形等がないことの挙証責任を全面的に負わせ、加えて、なお書きで、本来必要がないはずの「12−13万年以前の地層も調べよ」という追加負担を負わせるという、手の込んだやり方です。挙証責任のあり方については、この後の別途の論点として述べますが、上記のなお書きなどは、科学的裏付けがない話です。20数万年前まで遡る話が通らなかったために、なし崩し的に、それに近い運用となるように、「審査ガイドの解釈」という最末端の指針で、盛り込んだというわけです。 このような一連のハードルを恣意的に高くしていき、本体の議論では否定されているはずのことを実質的に盛り込ませるということが、まず一つ目の不公正です。
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(参考)
【基準本体】
3 耐震重要施設は、変位が生ずるおそれがない地盤に設けなければならない。
【基準の解釈】
「変位」とは、将来活動する可能性のある断層等が活動することにより、地盤に与えるずれをいう。
上記の「将来活動する可能性のある断層等」とは、後期更新世以降(約12〜13万年前以降)の活動が否定できない断層等とする。活動性の評価に当たって・・・安全側に判断すること。
【審査ガイドの解説】
約12〜13万年前以降の複数の地形面又は連続的な地層が十分に存在する場合は、これらの地形面又は地層にずれや変形が認められないことを明確な証拠により示されたとき、後期更新世以降の活動を否定できる。なお、この判断をより明確なものとするため、活動性を評価した年代より古い(中期更新世(約40万年前)までの)地形面や地層にずれや変形が生じていないことが念のため調査されていることが重要である。
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もう一つの不公正は、基準とその運用指針の策定者と、適用者(=破砕帯評価会合メンバー)とが同じだということです。同じというだけでなく、破砕帯評価で活断層認定に持っていくために、基準適用者が基準の運用指針のハードルを上げたという流れに見えることです。たしか、最初に示された審査ガイド案と、その後検討会合メンバーからの意見に基づいて修正された案とは大きく異なっていたはずです。その修正過程では、敦賀会合のメンバーである鈴木教授と島崎副委員長の意見、考え方が色濃く反映されていました。
その審査基準や審査ガイドの審議が行われていた時期は、まさに原電敦賀や関電大飯の破砕帯が活断層だと主張していたのに対して(敦賀はいったんは早々と認定されていた)、原電や関電が猛反発して反論を行っていた時期に当たります。それを封じるための手段として、基準の運用指針のハードルを非科学的に上げたというように見えます。実際、鈴木教授などは、審査ガイドがまとまった後に、敦賀会合で、「安全サイドで評価ことになっている」「証明するのは電力会社側で、どういう方法で証明するかは電力会社が考えることだ。こちらは結果が出されたら、それが適当かどうか検討し指摘するのだ」と言い放って、規制側の透明性、予測可能性ということはまったく念頭にもないような発言をしていました。島崎氏も同様です。
基準・指針の策定者と適用者とは別々にあるべきであり、それは立法と司法との役割分担に似た話だと思います。検察が立件に持って行くために、捜査中に、拠って立つべき法律とその適用基準を変えるに等しい構図になってしまっていました。
続く
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