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先日のブログ記事で、原電敦賀の破砕帯評価の有識者会合の報告に関するピアレビューで、深刻な問題点を指摘されていた旨を書きました。
そして、そこで指摘された弱点をカバーするための布石を、地震・津波の安全基準やその運用の中に入れ込もうという動きが盛んになされていて、それが実際に盛り込まれつつあるというのが現状です。照らし合わせていくと、よくもまあこれだけ露骨なことができるものだと感じ入ります。
典型的な事例が、火山灰(テフラ)の扱いです。敦賀のピアレビューの直前の第3回有識者会合で、原電側が提出した美浜テフラの存在は、地層の年代推定の上で、かなり大きな判断材料になります。これがその通りだとすると、D-1層もK層も、それより下にあるわけですから、後期更新世(12−13万年前)以前の地層ということになり、現行の「活断層」の定義からはずれてしまいます。そして、D-1層、K層の岩石の条線が複数回動いた痕跡があるということも、古い時代の話のことだということで吹っ飛んでしまいます。
美浜テフラについては、第3回会合では、次のような水をかける指摘が、有識者側からなされました。
・他のテフラ(琵琶湖その他)の可能性はないのか? それらのデータ比較も提出せよ。
・そのテフラは、二次的に(流れてきて)溜まった可能性も否定できないのでは?
・テフラの火山灰の量は判断するには少ないのでは?
ともかく、この材料を認めたくないのでしょう。
そして、第3回会合が終わった直後に開催されてピアレビューでは、第3回会合で提出された原電の追加調査結果は説明されていません。したがって、美浜テフラの存在も十分には伝わっていません。ピアレビューで用いられたの、2月5日時点での原電の中間報告です。3月8日のピアレビューの対象も1ヶ月も前のデータに基づくものです。正確には、主張の簡単な対比表に、美浜テフラのことは2行、小さい字で書いてはありますが、事務局の説明では触れていません。
ところが、驚いたことに、ピアレビューが始まって早い段階で、変動地形学者で、敦賀会合の鈴木康弘委員の盟友?である、渡辺満久教授が唐突な質問をします。それに、宮内教授(やはり変動地形学)が答えます。
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○渡辺教授 美浜テフラ、テフラの話ですが、先ほどちょっと伺っていたんですけれども、カウント数が物すごく少ないのは、特に問題にはならなかったのでしょうか。
○宮内教授 そこは質問しました。原電さんのほうも、非常に出現頻度小さいし、その下の3層にも少し角閃石が出てくるから、もう少し検討を続けたいという答えでした。
○渡辺教授 今ちょっと見ると、3,000カウントで0.2とか0.1というと、ちょっと厳しいような気がしますので、わかりました。
○宮内教授 その辺は私も指摘しました。
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ピアレビューでの事務局説明は、原電の2月9日時点での評価報告が中心で、直近会合で提出された調査結果についてはほとんどろくに説明されていませんでした。ですから、美浜テフラについては事務局の説明でも積極的には触れられていません。そういう中で、この調査結果部分に関してだけ、唐突に質問として出されたということは、変動地形学者の3人にとっては、全体のシナリオを大きく狂わせる「懸念材料」だと感じられたのではないでしょうか。だからこのピアレビューという場で、敢えて言及し、年代評価の根拠とはなりにくい旨の牽制をしたという、変動地形学者間のあうんの呼吸による連係プレーだったのだろうと想像しています。
● そして、更にだめ押しの意味で、地震・津波に関する安全基準案の運用において、彼らの弱点をカバーできるような、拒否権を発動できるような仕組みを入れ込もうとしたという流れだろうと思います。その点は、以前記事で書きました。
そのポイントは、前回書いたように、
①断層の規模、活動性を問わない。
(「これらの地形面又は連続的な地層にずれや変形が全く認められていないことを明確な証拠により示されたとき、後期更新世以降の活動を否定できる。」)。
②後期更新世(12−13万年)より以前であっても、断層があれば、それ以降に活動していないはずはないから、再調査を強いて実質的に安全と認めない。
③複数分野からの検討はするとしても、一分野(=変動地形学)からみて活断層の可能性ありとの指摘がなされれば、「安全サイドで判断する」との名の下に、活断層と判断する。
④活断層と判断した場合には、地学的な不確実性を強調し(=「『ずれ』がどうなるかわからない」)、工学的対応による検討を一切認めない。
この基準案は、従来の考え方から大きく乖離するものであり、そこに学会におけるコンセンサスを踏まえたものになっているとは全く思えません。「乖離」というより(マイナスの意味での)「飛躍」であり、一部委員による個人的独走です。
島崎委員長代理と変動地形学者らが、こういうことを言い出したのは、前々からではありません。きっかけは3月8日のピアレビューでの栗田委員からの指摘でしょう。栗田委員からの指摘は、次のようなものであり、深刻な疑義の提起だったことは、以前にも述べました。
・ 「もっと体系だった合理的推論をすべきである」
・ 「非常にあやふやな根拠で安全サイドで判断していると書くべきである」
その際に、島崎委員長代理は、「報告書は、バンとしたものは書きません」という全く意味不明のことを2回繰り返したのみで、正面から何も答えませんでした。そして、鈴木康弘委員が、次のように正直なところを吐露しています。
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「ここでの今後のまとめ方ということも含めて、まずは事業者から提示された結論を認めるのか、認めないのかというところが第一ステップだろうと思うんです。それ以上の何らかのデータがないので、基本的にそれでいいのではないかというふうにまとまることもあるわけですし、それに対して今回は、その見解は追認できないというところから今回は始まっているということを、はっきりさせたほうがいいような気がします。
それで、その見解ではよくないとすれば、どうまとめるべきかというところで、調査を私たち自身ができるわけでもないし、もっとわかりやすい図をつくったほうがいいと言われても、私たちはつくれないという中で、こういったものをまとめていくとなると、いわゆる投稿論文にして耐えるような論文を我々が書けるはずはないわけですよね。そこのところがピア・レビューというふうな仕組みで今回始まると、非常にやりにくいなと・・・。」
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つまり、自らは合理的推論を行えないと言っているに等しいのです。
そこで、電力事業者側に、活断層はない旨の完全な証明を要求するという証明責任を転嫁することにし、安全基準自体はもうパプコメにもかけてほぼ固まっていましたので、急遽、「審査ガイド」(従来の「審査の手引き」)の解説部分で、自らが合理的推論を行わなくてもいいような文言を盛り込んだのです。審査ガイドの審議は、3月8日のピアレビューの後、3月13日から始まっていて、各委員の意見が出されたのは4月上旬です。現時点での解説文は以下のようになっています。
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〔解説〕
(1)約12〜13万年前以降の複数の地形面又は連続的な地層が十分に存在する場合は、これらの地形面又は連続的な地層にずれや変形が全く認められないことを明確な証拠により示されたとき、後期更新世以降の活動を否定できる。なお、この判断をより明確なものとするため、活動性を評価した年代より古い(中期更新世までの)地形面や地層にずれや変形が生じていないことが念のため調査されていることが重要である。
(2)約12〜13万年前の地形面又は地層が十分に存在しない場合には、より古い(中期更新世まで)、地形面又は地層にずれや変形が認められないことを明確な証拠により示されたとき、後期更新世以降の活動を否定できる。
(3)約40万年前から約12〜13万年前までの間の地形面又は地層にずれや変形が認められる場合において、約12〜13万年以降の地形面又は地層にずれや変形が確認されない場合は、調査位置や手法が不適切であるおそれがあるため、調査結果を詳細に検討する必要がある。
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これを要約していえば次のようなことです。
「ともかく40万年前の地層まで全部調べろ。12−13万年前以降に地層に変形・ずれが少しであったらアウト。そういう新しい地層がなければより古い地層を調べて、やはり少しでも変形・ずれがあったらアウト。12―13万年前以降の地層に変形・ずれがなくても、より古い地層に変形・ずれがあれば、新しい年代でも活動しているはずだから、更に調べろ」
という無茶苦茶な構図です。
従来の18年安全基準との構図の比較をすれば、如何に無茶な飛躍になっているかわかります。
<従来の安全基準の運用>
・ 証明事項−12−13万年前以降の活断層であることが、3つの分野の知見に照らして確からしいこと。
・ 証明者−当局側
<今回の改正基準案の運用>
・ 証明事項−古い新しいを問わず、全く変形・ずれがないこと。
・ 証明者−事業者側
こういう構図に転換しておけば、自分は何も、活断層の存在の確からしさについての合理的推論をすることなく、事業者のデータに、「そうとは限らない」「別の可能性もありうる」「断定まではできない」等等の言葉を、根拠なく投げかけているだけで、「安全側の判断」で活断層の可能性ありという結論にもっていけるだろう、と考えたのではないでしょうか。
事務局の説明では、当初案から現在案にしたのは、鈴木委員の指摘を踏まえた者である旨、述べていますから、鈴木委員や変動地形学者らからすれば、してやったりでしょう。
●しかし、そうそう彼らの目論見通りにいくかというと、大いに疑問です。理由は以下の通りです。
① 審査ガイドの「解説」という部分で、安全基準の本体の趣旨からは読み取れず、従来基準の解釈運用の考え方からも大きく乖離しているような極端な運用に、果たして妥当性が認められるのか?
安全基準のパブコメでもそのような考え方は示されていないのではないのか?
② 審査ガイドの極端な考え方が、科学的・専門的見地からコンセンサスが取られたものと言えるのか?
③ 18年基準+緊急安全対策+シビアアクシデント対策+バックチェック措置+4大臣基準を満たせば安全だとされたものが、上記の「活断層でないことの完全証明」ができないという一点を以て、再稼働を認めない(=廃炉)ということが、法の原則不遡及、比較考量の原則、憲法上の財産権の尊重、電力の安定供給上の役割等を踏まえた上で、果たして認められるのか?
実際、上記②の点で、審査ガイドの審議の際に、岩盤工学の専門家の委員から、抗議的意見が出されています(後述)。
上記③については、今回の大阪地裁判決が大きなインパクトのある材料となり、今後、即時抗告で高裁レベルでも確定してくれれば、なお意義が高まります。
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