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長谷川等伯の松林図屏風を見るのは2年ぶりくらいだろうか。
これを見ると、バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタのフーガ楽章が頭をよぎる。
技術的にも音楽的にも、私の手と頭の能力を遥かに超えた楽曲だ。
絵から受ける印象と曲の印象は全く異なる。
松林図屏風には、バッハのフーガのような機敏なリズムも高い密度も無い。
閑散とした空間に書きなぐられたような有機的な墨の線は
バッハの音楽の確固たる構造美と対局の境地にあるようにも思われる。
等伯の屏風に描かれたものは、わずかな数の松。あとは余白だけが広がる。
しかし、何も描かれていないはずの空間には霧に隠れた無数の松が存在して見える。
等伯の筆は、最小限の描写で広大な空間を描き出す。
見え隠れする松…あるいは見えないけど存在するであろう松の形態の反芻は、
無限に繰り出される旋律主題のようでもある。
一方、バッハのフーガも本来旋律楽器であるヴァイオリンの限界ゆえ、
鍵盤のための楽曲のように全ての音が書かれているわけではない。
手がかりとなる音だけ置いて、後は聴く人の頭の中で補完させる。
印象こそ異なるが、手法としては等伯の松林図と同じだ。
また、堅固な構造に見えるバッハの音楽は、
実際耳にすると、同時代のどの作曲家よりも自由で伸びやかで有機的に聴こえる。
それは、決して定規を使っては描けない、生き生きとした筆致のようだ。
等伯の描く筆数も少ない無彩色の画面。その奥に広がる広大な空間は、
「宇宙」と称されるバッハの音楽に通じているように思えてならない。
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詳しいことはわからないけれど
水墨画はとても好きです
「永遠の静寂」を感じるからです
その意味で ”バッハの音楽と通じている”という
ご意見、深く共感いたしましたデス、ハイ(^^)
2008/1/8(火) 午後 10:07
頭の中での補完。は自分にとってかなり重要なテーマです。視覚表現と音楽表現の共通項。これも自分生涯の最大の関心ごとです。残念ながら視覚表現に対する補完に比べると、音楽表現に対する補完はそうカンタンにはできない〜本人にそれ相応のスキルが必要だと感じています。…でもこれ。考え始めると…「ことば」での補完ワールドから戻れなくなる〜(笑)。
2008/1/9(水) 午前 8:41 [ more_60_sonatas ]
Shigekoさん。
水墨画って、無彩色のストイックな表現がかえって想像力をかき立て。画面の向こう側の世界を広げているのかもしれませんね。特にこの松林図屏風は、手本を写すでもなく、単なる写生でもなく、等伯独自の世界観があるようです。
2008/1/9(水) 午後 0:14
鍵盤弾きさん。
絵づくりの観点から言うと、情報を盛り込むのはスキルがあれば出来る事ですが、省略にはスキル以外にセンスが必要ですよね。そこがいちばん面白い行程でもあるのですが…。
音楽の補完が難しいと思われるのは、理論的な整合性と具体性(視覚の大ざっぱなイメージと違って実音を書き込まなくてはならない…)が必要だからでしょうね。私のスキルではバッハのフーガに対して、そこまで具体的イメージを掴む事は出来ません。
今日では、「ことば」での補完も芸術とされておりますが、私はそれをあまり評価しておりません。(笑)
2008/1/9(水) 午後 0:31
私も、水墨画好きです^^。
目に見える色はモノクロのはずなのに、
視覚から入った情報は頭の中ではカラーとして広がる瞬間があって、そこに感動を覚えます。
バッハの音楽に通じる…私もとても共感しました。
私も旋律楽器。
バッハを、この画のようなイメージに吹ければ…いいなぁと思いました。
2008/1/10(木) 午前 8:40
見えない部分や説明されていない部分が想像力を刺激して世界を広げてくれますよね。
例えば、映画よりも原作ほうにより感銘を受ける事がありますが、それもすべてが目に見えてしまう事よりも文字情報だけから想像力を膨らませるほうがより広い世界が見えるからなのかもしれません。
笛は、重音が出せるヴァイオリンよりもさらに純粋な旋律楽器ですね。いつか想像力を刺激するような BWV1013 を聴かせてください。
2008/1/10(木) 午後 1:02
寝る前にどうしてもBWV1013が聴きたくなり…。
トラベルソバージョンのCD(有田さん)を出して聴いてみました♪
改めて感動。トリルの具合はまさに古楽独特で染み入ります…。
今後の脳内レパートリーにインプットされました♪
次回の候補曲にします^^♪
無伴奏ヴァイオリン!いつか聴いてみたいです^^♪
2008/1/12(土) 午前 4:06
有田さんの1013は、まさに限りない奥行きを感じさせますよね。
ちなみに、1013がフルート曲である根拠は無いらしいです。私個人的にはヴァイオリンのために書かれた曲ではないかと密かに思っているのですが、そんな事言うと、全世界のフルート吹きから「私たちの宝を奪うな!」と、叩かれてしまいそうですね。
私が、無伴奏のフーガを人前で弾く日は…、もし実現したとしても相当遠い将来になるでしょう。
2008/1/13(日) 午前 11:46