ラルバ・ムジカーレ 活動日誌

アマチュア古楽アンサンブルのゆるい奮闘記。

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アーチリュートの学習が遅々として進んでいない最大の理由は、練習不足であることは潔く認めます。が、それに加えて通奏低音を弾くための和声法の理解、特に「オクターブの規則」の習得というハードルが超えられないのも大きな要因となっています。そもそも、オクターブの規則って何なの?と聞かれたとき、私は上手く説明することさえできません。自分自身の理解を深めるために、そもそも・・・なところから考えてみたいと思います。

そもそも、オクターブの規則というのは通奏低音に和声を付けるための技術あるいは知識です。例えば、ト短調の楽曲で通底旋律にソの音が書いてあれば、特別なことがない限りシ♭(短三度)とレ(五度)の音を加えてト短調の和音を出せば良いだろうというのは初心者でも想像がつきます。それでは、ラと書いてある時、シ♭、ド、レ・・・の時はどんな和声を付ければ良いのでしょうか?作曲者が数字付き通奏低音という形で指定してくれていない場合、それは奏者自身が答えを見つけなければなりません。

まあ、結果的として、上声部の音と通底旋律の間を自然に埋めるような音を入れ込んで感じの良い和声が付けられればそれで良いわけなのですが、初心者にはその答えが簡単には見つけられない場合が多々あり、やっぱり何らかの指針みたいなものが欲しいと考えてしまうわけです。以下、少し具体的に説明しましょう。

任意の音に対して三度と五度の音を加えればとりあえず和音が出来上がるわけですが、これが通底の和声として使えるのはバス音が基音(ト短調であればソ)の時だけ(短調の場合)で、第二音以降はこの形を変化させなければ曲に馴染まず不自然な和声進行になってしまいます。変化の例として例えば、ト短調の第二音・ラであれば基本形(1・3・5)=(ラ・ド・ミ)を(1・3・6♯)=(ラ・ド・ファ♯)に変えてみます。ここでは、5を無くして6♯を加えた事になりますね。基本形の3が残され、5が省かれて6♯が加わった状態となり、表記としては「6♯」とだけ書かれます。続いて、第三音では「6」(5の代わりに6を代入)、第四音では「6・5」(5を残して6の音も加える)・・・、と、音階(オクターブ)に対して、この和音であれば調性に馴染んで上手くいくよ、という和声付けの指針(規則)が編まれており、これを、私たちは「オクターブの規則」と呼んでいるわけです。

では、バス旋律ひとつひとつの音に対してこの規則を当てはめる事で正解が得られるのかと言うと、全くそうではありません。例えば、ト短調の曲であれば平行長調である変ロ長の調部分が存在しますから、場所によってはバス音がどちらの調性に属するか判断し難い場合があったりします。あるいは、あるバス音が経過音であるかどうかの判断など、考え方ひとつで和声の付け方も変化します。また、奏者の好みによって(私のように内声を係留させるのが好きだったり等)、個性が加わる事もあります。

元より、オクターブの規則はひとつではなく、多種多様なアイデアが存在しています。厳密には時代や地域によってそれらを使い分けをする必要があるわけですが、私のような初学者はとりあえず汎用性の高い形のものを学びます。そしてそれは、あくまで和声付けの手がかりとして、過度な依存をせず上手く利用すべきなのだろうと思います。

それにしても、プロの奏者が即興的に和声を付ける様子など見るにつけ、自分の音楽に対する基本的スキルの低さにうんざりします。便利な理論はあくまで便利な道具に過ぎません。使い手が下手であれば、どんな道具を使ってもそれなりの結果しか得られないという事でしょう。私の場合は、オクターブの規則のベースとなる和声理論の基本を学んだり、それ以前の問題として読譜力を身につけるなど、基本の基本から見直さなければならないようです。ああ、先は長い。

終了報告をさせていただくのは、約9年半ぶりという事になるみたいです。間を置きながらも、こうして音楽を続けている事が感慨深く思えたりもします。ま、よくよく考えれば10年サボってただけとも言えますが。

ともあれ舞台から生還できました。歌は初レッスンから数カ月、リュートに至ってははじめて楽器を触って2カ月での舞台と考えれば、それだけで十分だと思っています。声の響きも悪くなかったのではないか、と、いつも通り自画自賛はしておきます。それでも、少しは現実と向き合わないと成長できないので、反省点をいくつか押さえておきましょう。

[1]
舞台上の時間は遅く進む。
相対性理論ではありません。リハーサルの録音を聴いて分かりました。自分が演奏しようとしているテンポより実際に演奏しているテンポが1.2〜1.3倍くらい早いのです。もちろん緊張からくる認知の錯誤ではありますが、かつて体験したヴァイオリン演奏での「走る」とはちょっと感覚が違います。「走る」は自分の出した音に反応して巻いてしまうような感覚でしたが、今回の「舞台上の時間」は一定の割合でゆっくりと進行しており、結果テンポが上がっているようでした。

[2]
あり得ないことが起こるのが本番。
私たちの第一発目がVoce氏の「ニンファの嘆き」。私のアーチリュートソロから入ります。さて、音を出してみてびっくり。左手中指と薬指が押さえられていません。練習では考えられないミスです。3つ音を出してギョッとしてして、即やり直しです。すっかり落ち着いて弾き始めたつもりだっただけに、自分で笑ってしまいそうになりました。まあ、これが冒頭でむしろ良かったと思います。曲の途中だったら取り返しがつきませんから。

[3]
練習で出来た事は本番で出来ない。
口を開ける形をちょっと変えるだけで声の出が良くなる等々、意識さえすれば簡単にできてしまう事もあります。しかし、その意識をしてる暇が無いのが本番。結果、当然何もできません。体が自動的に適応してくれるように練習しておきましょう。「宣言記憶から手続き記憶に」というテーマについては、いずれ考察し直してみます。

[4]
演者にとって楽曲は新鮮でなければならない。
練習をしないと上手くはなりません。しかし、打ち上げの席で先生もおっしゃってましたけど、練習のし過ぎで楽曲に魅力を感じなくなってしまうような事態になると、全く良い事はありません。解決策として、練習の内容を分割するという方法があるかも知れません。基本的あるいは部分的な技術の問題を解決する練習、楽曲の解釈、で、最後にまとめとして控えめに楽曲の通し練習。今回は発声練習と歌詞の解釈に重点を置きましたけど、なかなかストイックにはなりきれないのが実情です。

[5]
だれも死なない。
トーン・テヘレンの著作ではありません。相方であるVoce氏が一週間前の合わせ練習の段階から緊張しまくっているのを見かねて、先生がこうおっしゃってくださいました。緊張は必要です。ちょうど良い緊張感で練習ではできない音楽をするのが理想です。まあ、ほとんどの場合は緊張が過ぎて惨事が起こったりするわけですが、私たちが舞台上でどんな惨状を晒しても、だれも死なないのです。まあ、Voce氏は緊張のあまり自身の心臓が止まるかと思っていたようですが。

ともあれ、せっかく10年ぶりで音楽活動を再開したわけですから、またしばらく続けてみようと思います。やっぱり、音楽って楽しいものですから。

発声法の今と昔 metodo

昔の発声法と言っても、今回はバロック当時の発声ではなくて、私が少年合唱団当時に教えられていた発声の方法と、今現在先生から教わっている方法との違いを考えてみます。これが時代による考え方の違いによるものか、メソッドの系譜の違いによるものなのか、あるいは子供と大人との身体的特性を考慮した違いなのか、私には判断できませんが、私なりの解釈をまとめてみました。初学者ゆえの無知や記憶の誤りなどあるかも知れませんが、現時点の理解では以下のようになっています。

[1] 声帯
声帯はただひとつの音源。ヴァイオリンで言うと弓と弦との接点です。「今」発声では、なるべく少ない息で大きく響かせる事を目指します。ヴァイオリンの少ない弓使いで豊かな音量を出すのも難しい作業だったことを思い出します。

[2] 喉の奥
少量の息で響かせるため、喉の奥は広げず声帯に圧をかけます。私が子供の頃はこの部分も開いていたような記憶があります。

[3] 口腔内後部
口腔内の奥部分は共鳴の箱。ここは広く開けます。この空間を保つため顎はなるべく動かしません。子供の頃は、箱の意識よりも声帯から頭頂部へ音が抜けて行くようなイメージを持つように指導されていたように記憶しています。先日ののレッスンでは、この共鳴の作り方の良し悪しで「大人の声と子供の声ほど」響き方に違いが出ると指摘されました。

[4] 口腔内前部
口腔内前部で言葉の発音を作ります。[3]の共鳴箱を保持するために口を大きく動かせません。特に横に開くと箱の形が崩れてしまうので、舌の位置などを調整して音を作ります。子供の頃には母音毎に大きく口の形を変えていました。

[5] 吸気
吸気も省エネです。息を吸おうとは考えず、次のフレーズを歌おうとすれば自動的に吸気されますから、それで十分。言葉を話すのと同じなので、「話せれば歌えます」との事。子供の頃は腹式呼吸と言って、おなかの底に息を吸い込む気持ちで吸気するよう指導されていました。

総じて、今教わっている方法のほうが省エネ志向だと言えるでしょう。空気の出し入れを最小限に抑えて、響きを最大限に作る。この理想に近い感覚で歌えた時は、確かに楽に声が出せます。ただ、微妙な身体のコントロールが要求されるため、集中力を維持し続けなければなりません。まあ、身体の制御に関しては、手続き記憶として定着させるまでの訓練ですから、何の技術でも同じですよね。

通奏低音の形のひとつですが、しつこく同じ音型を繰り返すのが特徴。バロック音楽愛好家にはお馴染みのパターンですね。特に、シャコンヌ、パッサカリア、グラウンドなどと呼ばれる下降バスに乗せた変奏曲は単純ながら奥深く、心惹かれる名作も沢山あります。

9月の課題曲のひとつ "Lamanto della Ninfa" も、通奏低音パートに書かれた音符も4つだけ。イ短調・3拍子の楽曲の最下部で、「ラーー、ソーー、ファーー、ミーー」が延々と繰り返されます。典型的なラメント(ため息)の音型です。もう、これだけで泣けます。このバス音型はパッサカリアと同じなのですが、ここでの上声部はテーマの変奏ではなく、自由な旋律が乗せられています。誰あろうモンテヴェルディが書いていますから、号泣間違いなしです。

で、この楽曲での私の役割は、アーチリュートでこの4つの音を弾き続ける事。これなら初心者でも楽勝だろうって・・・いや、そうでも無いのです。リュート奏者は和音も弾かなければならないので、間違いなく指がこんがらがります。まあ、今回は幸いにも、Y先生のハープとご一緒させていただけるので、私は最低限の仕事に徹することにしましょう。今回、この曲での伴奏方2人の役割は、以下のような感じになるでしょうか。

 ・ハープの仕事
   1) バス旋律
   2) ソプラノ以外の声部の再現
   3) 装飾的な表現
   
 ・アーチリュートの仕事
  1) バス旋律の強化
  2) 必要に応じて和声を絡める

たった4つの音でも、バス旋律の表現が充実すると音楽の世界観が大きく広がります。4つの音は、"Lamanto della Ninfa" の舞台であり、歌い手はこの上で Ninfa を演じます。音の強弱や音の表情が、舞台を照らす照明にも書割りにもなり得るのです。「ラ、ソ、ファ、ミ」4つの音符をしっかり弾くため、本番まで残りひと月ほど、しつこいくらいの、そう、"ostinato" な練習を続ける必要がありそうです。

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「語るように歌う」という歌唱の新しい理想論がバロックの初期頃、イタリアに現れました。それまで音楽の真骨頂とされていたのは複雑な対位法で作られた多声楽曲でした。歌唱法も、他の旋律を壊さないようにするため破綻なく滑らかに歌う事が要求されます。音楽的には美しいのですが、どうしても言葉が聞き取り辛くなってしまいます。

音楽劇の創造に挑んでいた当時の文化人にとって、歌詞の内容が表現できないというのは致命的な事だったようです。言葉で状況を説明し、言葉で感情の表出ができなければ劇は成立しません。そこで、語るように歌う、レチタール・カンタンドという考え方に基づいた歌が主流になっていったようです。この「レチタール」という言葉、2つ前の記事の「レチタチーヴォ」と語感が似てますよね。動詞 "recitare" には諳誦するとか演ずるとかいう意味があるみたいです。

その根幹は言葉、すなわちイタリア語にあります。言葉の表現を最優先させるという考え方は、今秋の私の課題曲のひとつ、モンテヴェルディの "Sì dolce è'l tormento" にも当てはまりそうなので、何はともあれ歌詞を分析してみることにしました。

とりあえず、文節のまとまり毎に改行して並べてみます。11音節の繰り返しから始まった歌詞は、形を変じながら円を描くようにリズムを刻んでいきます。画像の赤と黄色の部分は韻の構成。入り組んではいますが、厳格に作られています。青色は同じ語、もしくは似通った音を当てている部分。出現する音節の位置など、かなり注意深く作られていることが分かります。

"Sì dolce è'l tormento" は、バロック音楽愛好家にとっては超有名曲ですから、何度も聴いていますし、だいたいの歌詞内容も知っていました。「苦しみはかくも甘き」などと訳される事が多いようですが、そもそもこういったロマンチックな悲恋の歌詞に文学的価値を期待していませんでした。しかし、じっくり向き合ってみると、これが本当に美しい「詩」だったのです。

レチタール・カンタンドは、イタリア語の音の響き、イタリア語の音の流れ、そしてイタリア語の音の構成だという事なのでしょう。詩の段階で、すでに音楽は出来上がっています。曲を付けたモンテヴェルディも心得たもので、冒頭から短調スケールの下降形をまるっと当てただけ。実にシンプルです。

そして、シンプルな楽曲ほど表現が難しい。これがまた半端ではなく難しい。と、気付いた頃には、本番まで残りひと月ばかりになっていたのです。

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