月 影 茶 房

ジャーナリスト月崎時央が仕事のことや日々の出来事などを書いていきます

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ロービジョン(弱視者)と節電

月影茶房
 
                                    
                                                   TEXT:TOKIO・TSUKIZAKI
 
生きづらさのプロフェッショナルを極める
 
昨日は御茶ノ水UD研究会というユニバーサルデザインを研究している勉強会に行ってきた。この会に参加したのは初めてだが、私というかウチの事務所は最近ユニバーサルデザインにすごく興味をもっていて、みんなで結構いろいろな勉強会に行っている。視覚障害に関する冊子や、ユニバーサルデザインの建具カタログなどのお仕事も来ている。
 
LAMAPPA企画のクラブ活動であるCLUB-LAMAPPAの当事者の人たちも一緒に、いろいろなUDのことを勉強している。みんな精神の病の当事者の人たちだけど、精神の病の患者のプロであると同時に、「生きづらさ」のプロフェッショナルとして社会貢献するべき大切な経験者だと私はこのところ特に強くそう思っている。
 
「人並み外れた苦労の持ち主」だからこそ、社会に対してアドバイス出来ることがいっぱいあるよねと思うのだ。そんなわけで、昨日はウチのスタッフの一人で統合失調症の回復者の女性ひさぴょんと一緒に参加してきた。
 
このUD研究会は、御茶ノ水の聖橋の近くにある有名な井上眼科という眼科の院長井上賢治先生が81年に自分の病院を設計する際に、「目の悪い患者さんばかりが集まる眼科医院をどのようなコンセプトで設計するか」ということに直面したことをきっかけにユニバーサルデザインに目覚め、そして自身の病院を快適な空間としてデザインするという課程の中で生まれた研究を、その後もずっと関係者と共に続けている研究会なのだそうだ。
 
ユニバーサルデザインの歴史や日本や世界の状況などの基調講演があったあとで、建築家やデザイナー、そして眼科の医療関係者などがシンポジストになってかなり興味深いディスカッションを行なった。
 
その中で私が一番印象に残ったのは鹿嶋建設の建築設計本部で建築士をしている原利明さんという方の話だ。彼はもともと建築のプロだが数年前から視力が落ちる病気にかかり「ものが見えにくい当事者」として「人に優しい空間づくり」を社内外に提供しているのだという。照明計画や視覚障害者が認識できる素材の異なる床材などについてもいろいろなアイディアと実践を語ってくれた。
 
目が不自由になったことはご本人にとって大変なハンディだと思うし、きっと図面書きなどできなくなったこともあるのだろうけど、それを企業のモノづくりに役立てている。きっとこの方は会社になくてはならない存在なのだと思う。これからの企業ってこうあるべきだよね。
 
安全・安心の基準は社会の現実にあっているのか
 
その原さんが、、震災以降の町の節電に大変困っているという。
実は、弱視者(ロービジョン)の人が駅など公共の場所が暗くなったことで困っているという話は障害者のMLなどですでに読んでいたが、今回話を聞いてなるほどと思った。
弱視者の人たちは例えば駅の天井の灯りや、サインなど、強い光の出ているものを目印にして歩いていることが多いのだ。そして例えば地下鉄の駅の蛍光灯など一直線に連なる明かりは、その明かりそのものが、空間の形状を確認するラインになっていたり、歩行しているときの障害物を認識するための目印だったりするという。
 
そんなわけで、私たちが1つおきに蛍光灯消しても慣れれば「もうこの明るさでもいいよね」とか、「節電って、案外簡単に出来るじゃん!」とか言っていることで、実はすごく迷惑したり、毎日怖い思いをしている人がいるのだ。原さんは毎日、乗換駅で地下鉄の柱にぶつかりながら通勤しているという。
 
シンポジストの一人井上眼科の視能訓練士の石井さんは、この原さんの指摘に対して、私たちの社会は健常者を基準の中心に据えてモノを考えているように見えるが、視覚障害の問題に関わっていると、もっと目にいろいろな潜在的な不自由を抱えた人が多いはずで、それに対する配慮が不足している可能性があると実感を込めて指摘していた。
 
うーむ。つまり社会が標準と思っている、「普通に見える」「安全」ということの基準値さえも、65歳以上が4人に一人という時代にあわせて変えなくてはいけないのかもしれない。
 
ちなみに私も老眼のため暗いレストランではメニューが見えず、時々適当に指さして注文し、思ったのと別のメニューが来たりして落ち込むことがある。
 
特に、弱視の方たちにとって町や公共の場は明るいほうがいい。しかし必ずしも明るさだけの問題ではないと原さんは指摘している。現在のように節電のため無計画に1つ置きに電球や蛍光灯を外すといった方法ではなく、明るさや安全性やサインとしての意味をきちんと計画的にデザインした都市計画を考えれば、節電やエコの思想と矛盾せずにいろいろな人にとって快適な町や公共空間を作ることができるという。
 
特別扱いされた誰かのために便利な何かでなくて、使う人みんなにメリットがあるものがユニバーサルデザインの根本の思想だ。UD研究会の会場には、車椅子の人、白状の人いろいろな当事者が来ていた。そして質問や意見をいうのも当事者の人が多かった。
 
あの大震災を経て私たちの社会はきっと変わっていく。そしてそれをリードしていくのは、きっと色々な方面の「生きづらさのプロフェッショナル」たちの声なのだと思う。
 

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