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産卵したサンゴの幼生を育てるための「着床具」を台風に備えて移動させる東京海洋大チーム=6月20日、沖縄県・竹富島沖で
海洋国家ニッポンが誇る沖縄のサンゴが弱っている。98年の異常な海水温上昇でサンゴは色を失い白化した。その沖縄の海で、サンゴを再生するプロジェクトが進んでいる。
石垣島と西表島の間に日本最大のサンゴ礁「石西礁湖」(東西約20キロ、南北約15キロ)が広がる。その中の竹富島沖に現場はある。
この辺りのテーブルサンゴやエダサンゴは、なかなかしぶとい。高い水温に負けずに、8年ぶりに息を吹き返している。そんな強いサンゴの受精卵を、独自の着床具で育てて、岩礁に植え付けようとしている。
このプロジェクトを進めるのは、東京海洋大の岡本峰雄助教授だ。6月中旬、学生たちが水深5メートルの海底に入り、着床具を約10キロ東に移す作業を行った。
この着床具は、約1メートル四方に電柱の碍子(がいし)をならべたような形をしている。5月初めに沈めて間もなくサンゴの幼生を受けたはずだ。
移動には台風に備えるとともに、移動先で繁殖させるねらいがある。まだ着床は肉眼では確認できないものの、順調なら8月には小さな幼生がみえる。
「ほら、ここに7歳のサンゴがいる」と、水中で岡本助教授が指さした場所では、99年に沈めた着床具でテーブルサンゴが直径8センチほどに成長していた。
地球の温暖化に伴う海水温の上昇、魚の乱獲、観光地の乱開発と、サンゴを死滅させかねない要因は数多い。プロジェクトは、サンゴ礁の広さに比べたら、ため息が出るほど小さな実験だ。成長も自然のサンゴに比べて遅い。それでも、海を守る難しさと大切さを訴えるメッセージは重い。
サンゴの産卵と稚サンゴの移植
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サンゴ増えれば魚も増える
サンゴは、動物の一種で、地球上に800種類がある。岩のように硬い石灰質でできたものから、草や小枝のように柔らかいものもあり、太平洋やインド洋、カリブ海など熱帯地域を中心に世界に広がっている。
死滅の危機に
そのサンゴが、沖縄の海に限らず、死滅の危機に瀕(ひん)している。
国連環境計画(UNEP)の最新報告によると、世界のサンゴ礁では、この25年間に30%が傷つくか、すでに死滅した。残るサンゴ礁の60%も2030年までに死滅する恐れがある。
98年には、世界中でサンゴ礁の白化=下記参照=が起きた。この年、米海洋大気局(NOAA)が公表した衛星写真は、海面の水温が平年値よりも1度以上高い高水温塊が北半球の多くの地域で発生したことを示していた。
サンゴは単なる観光資源ではない。魚と共生関係を持ち、海の自然を守る防波堤ともいえる。
サンゴは、魚が産卵したり寝床にしたりする場所を提供し、魚はサンゴにとって有害な藻類を食べてくれる。サンゴが減れば魚の生きる環境は悪化し、また、魚が減ればサンゴ礁の衰退につながる。
サンゴの再生には、幼生を陸上で飼育して、大きくなってから海に戻す方法や、様々な着床具を使って、海中で育てる方法などが試みられている。
しかし、世界的な流れから見ると、そうした方法は主流とはなっていない。白化の被害が広がるカリブ海やオーストラリアなどでは、被害規模が大きすぎて人工的な再生は現実的ではなくなっている。
観光との距離
米国ではブッシュ大統領が今年6月に北西ハワイ諸島の海域を国家遺産に指定して、立ち入り制限や商業目的の漁業を将来は禁止することを決めた。
世界中のダイバーが集まる紅海のエジプト・シナイ半島では、サンゴを守る方策として(1)リゾートホテルの開発制限(2)漁業の原則的な禁止(3)ボートを使ったダイビングの制限、といった対策を打ち出した。
要は人間が近づかないことが、サンゴを守るためにはもっとも良い、というわけだ。
とはいえ、ダイビングやシュノーケリングの楽しみを人々から奪うことには異論がある。環境保護と観光開発のバランスを保とうと、サンゴの生態に関するデータ集めや評価を各国の協力で進める動きも現れている。
95年に発足した「国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)」もその一つだ。
これは、生物多様性を守るための多国間の取り決めで、日本では環境省が00年、石垣島に「国際サンゴ礁研究・モニタリングセンター」をつくり、専門家だけでなく市民にも公開している。
沖縄県・八重山列島
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栄養不足から、やがて死に至る
〈メモ〉サンゴの白化
健康なサンゴは、赤、紫、緑色など色鮮やかだ。この色は、体内に住む褐虫藻という生物から栄養分を得ている証しでもある。
ところが、水温が上昇すると、褐虫藻がサンゴの体外に出てしまい、サンゴは栄養がとれなくなって、だんだん色が消えていく。これが白化(ブリーチング)で、やがてサンゴは死んでしまう。
しかし、群生するサンゴが高温ですべて死滅するわけではなく、種によっては耐性が強いものもある。このため、死滅にはバクテリアや微生物など、水温以外の要因が絡まっている、とする学説もある。
赤土や農薬、汚水が流れ込んだり、オニヒトデが異常発生したりすると、サンゴは死滅する。サンゴは環境の変化に敏感だ。
(文・定森大治 写真・関口聡)
http://www.be.asahi.com/be_s/20060709/20060627TSUN0008A.html
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