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第2813号 2009年1月12日 医学書院/週刊医学界新聞
医学生へのアドバイス(20) 田中和豊(済生会福岡総合病院臨床教育部部長)
古来から医学という学問は人体の正常な機能と傷病のメカニズムを解明することに心血を注いできた。そのため,医学理論で説明できないことは,ありえない,あってはならない,あるいは,もしもあったとしてもどうしようもないと考える傾向があった。
例えば,若い健康な人間がある日突然心肺停止となって死亡するという「現象」がその一例である。若い健康な人間に病気はなくいたって健康であるので,突然心肺停止になることなどあるはずがないし,ありえない。しかし,実際にそういう「現象」があるということは古来からアジアで言い伝えられて来た。若い男性が夜間に突然もがき苦しんで叫び死亡する病気が,日本では「ポックリ病」,タイでは“Lai Tai”,フィリピンでは“Bangungut”などと伝承されてきた。そして,この心臓突然死は「蘇生法」が普及した現在では救命可能となった。そして,その生還者の心電図所見から,ある特徴的な心電図波形を持ち,かつ,家族歴に心臓突然死が多発する一つの疾患群が1992年に提唱された。 Brugada症候群である。そして,このBrugada症候群の原因は,現在では心筋ナトリウム・チャンネルSCN5Aの異常と染色体3p22−25の異常の2種類あることが判明している。
この「心臓突然死」という「現象」はBrugada症候群だけではすべては説明されていない。しかし,少なくともBrugada症候群という「真理」は「心臓突然死」という「現象」を解析することによって発見されたものである。そして,医学がこの「心肺停止」という「現象」に対して真剣に対処して「蘇生法」を研究し始めたのは,「現象学」の提唱より遅れてたった50年ほど前のことなのである。
それならば,哲学者のカクテルではないが,医学についてわれわれはこう言わなければならないのである。
《ほらね,君が現象学者だったらこの心肺停止を治療できるんだよ,そしてそれは医学なんだ!》,と。
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02813_04
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