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サント・マルスと混沌の邪神
逆らえない運命なら、その運命を受け容れ、自分らしく生きる

書庫第一幕 第一章

第一章
荒れた土地に一気に砂埃が舞い上がる。ときの声はお互い相手を打ち落とさんと
 真っ向から攻め立てる。大きな力のぶつかり合いは絶望と希望が入り混じった未来を
見据えて戦っているのかに見えた。
「王、そろそろかと。」「うむ。」
立ち上がった初老の男、この国の王を名乗り、初めて大陸の南側に大国を創った人物
ロナウハイドだ。
 ロナウハイドは敵の軍と自分の軍を見据え、少しの間考えに耽っていた。深く
目を閉じ、近寄り難い雰囲気をかもし出す。やがてサント・マルスの国章が入った
軍事を翻した。「出陣!!。」
そう叫んで兵を率いて敵陣に乗り込んでいった。

 秋の風が静かに舞う心地のいい晴天の空。ユーラント大陸の西南にオルケルト族と
呼ばれし農耕を中心とする豊かな民族がいた。一族の巫女、イェルマグは収穫の祭りで
大陸神ユーラントに祈りを捧げていた。
オルケルトの巫女は収穫祭の時に今年の豊作の報告と来年の豊穣を願い、神に祈りを
捧げる儀式と祭りを同時に行うのが役目であった。その祈りを捧げる巫女は、祭りが
終った直後、来年の巫女を決める。巫女に選ばれた穢れなき娘は、巫女として一年間、
巫女としての修行を積み儀式に望む。その間父親以外の男性には決して手を触れては
いけないという決まりもあり、巫女に選ばれた娘はその戒律を守り一年間厳しい
試練に耐える。神聖なる神に近づく故、そうした決まり事が必要であった。
 大陸神ユーラントにはその容姿を模した像は存在しない。それは太古の昔、この
大陸の存在を守る為、闇の力の根源である邪神ヴァルタヴルカンとの戦いにより、
その容姿を失った事に由来する。その為、オルケルト族はユーラントの使走である
源祖ゲルマンを御神体として崇め祀っていた。 
 巫女として一年間、巫女の戒律に従って修行を重ね、この日を迎えた。大きな祭事に
緊張が深まる。緊張を解す為、深呼吸をし、少しずつ祭壇を登っていく。
 「・・・え・・・。」
祭壇に向かう階段を登っていく途中、なにやら地響きがする。何か不吉な事を感じた
イェルマグ。だが、今は儀式の最中。祭事を執り行う事だけに集中しなければ、と
再び階段を登り始めた。

「何だ・・・。」「何か来るぞ!!。」人々が騒ぎ始める。
「静かに!!。今は神聖なる儀式の最中。何事にも動じてはならぬ。」
一族の長、フィデーリスが皆を静めようとしたが、地響きは大きくなるばかりだ。
やがて土煙を上げ、何かが近づいてきた。
「!!。」
大勢の軍隊が一族を取り囲んだ。人々は初めて見る軍隊に 恐れをなし、成す術も無い。
逃げようと走り出しても馬の速さには敵わない。遂には一人残らず取り囲まれて
しまった。
「・・・何者だ。我等は今豊穣の儀式の最中。邪魔をしないで頂きたい。」
長老ドゥクスが一族を代表して軍隊を叱咤した。すると兵士の一人が鼻で笑った。
「下らん、今からこの地は我等が皇帝ベネディクトゥス様の統治下になるのだ。そんな
儀式などひねり潰してやる。」
それを合図に兵士達は大声でで笑った。「何という事を言う・・・。」
「・・・そのような事を二度と申すな。今に天罰が下るぞ。」
フィデーリスと長老ドゥクスは一族を庇うように立ち塞がる。しかし、兵士達は馬上から
皆を見下したままだ。突然兵士達が道を開けた。
 自分達の言い分が通ったのかと思ったフィデーリス。だが、そうではなかった。
「・・・皇帝陛下!!。」「・・・ふん。」
皇帝と呼ばれた男が一族を見下ろす。一瞬、フィデーリスと目が合う。フィデーリスは
皆を守る為皇帝ベネディクトゥスを睨みつけた。皇帝ベネディクトゥスは目を反らし、
他の兵士に目配せをした。
「皆の者よく聞け、この地の者は全て皇帝ベネディクトゥスに仇成す者として皆殺しに
しろとの命。覚悟致せ!!」
そう言うが早いがあっという間にフィデーリスを槍で突き刺し、絶命させてしまった。
「・・・ぞ、族長!!。」
皆、驚きと恐怖の余りそれ以上の声も出ない。
「・・・取り返しのつかないことを・・・この大地の神がお怒りになるぞ。」
長老ドゥクスが前に出た。
「この者達が何をしたというのだ。何も罪の無い者達の命を奪うというのか。」
「罪だと。それなら皇帝陛下に反逆の意思を示した。それだけで重罪だ。」
「それは、お前達が勝手に・・・。そこまで言うなら、お前達が言う罪をわし一人が
請け負う。ならばこの者達には罪は無かろう。」
「小賢しい!!。」
今度は長老ドゥクスが犠牲になってしまった。
「二人も死んだ。だが、天罰など何も起きぬではないか。」
兵士達は再び笑い飛ばした。
 目の前で信頼していた族長と長老が相次いで殺された。イェルマグは他の者達同様
恐怖の余り声も出ない。その様子を横目で見ていたのはなんとベネディクトゥスだった。

 兵士の一人が一族の民を掻き分けイェルマグに近づいてきた。気づいた民の一人が
イェルマグを庇った。
「この娘をどうする気だ。この娘は儀式の神聖なる巫女。何人たりとも触れてはならぬ。」
「どけ!!。貴様には用はない!!。」
自分を庇った者も犠牲になってしまった。逃げ出す事もできず、イェルマグは兵士に
引きずられ、ベネディクトゥスの前に差し出された。イェルマグは目を合わせない
ように顔を背けたが、ベネディクトゥスに顎を掴まれ、この男の顔と合わせるしか
なかった。
「こんな田舎の一族にもこのような者が居たとは・・・。連れて行く。」「はっ!!。」
「・・・い、いや!!。わたくしはどこにも行きません。連れて行くと言うなら、自害
します!!。」
イェルマグは何とかその言葉を振り絞った。ベネディクトゥスはイェルマグの顔を
見透かすように見つめ、こう言った。
「そうか、ならばこの者達が皆殺しになっても良いのだな。」
にやりと笑いを浮かべたベネディクトゥス。イェルマグは何も言わず唇を噛み締める。
「さあ、自害するなら今のうちだ。ただ、そなたが自害すればここにいる民女子供
全てがそなたと共に死を選ぶ事になるが。随分と安い命だな。」
「どういう事・・・ですか?。」
「そなたを我等の人質として連れて行けば、この者達の命の保障は考えるが、自害し、
人質になるのを拒めば、ここにいる民全てを皆殺しにすると言う事だ。」
「どうして・・・そんな事を!!。」
「我に反逆の意を示した。当然であろう。」「そんな・・・。」
「たった今からこの地はヴァルトロ帝国のものになったと言ったはず。その指導者で
ある皇帝の命に逆らえば反逆になるのは当然。だが、そなたが人質になって皆を助けると
いうのであればこの者らの命についての保証は考えてやってもいいがな。」
その言葉に驚くイェルマグ。やはり自分が犠牲にならなければならないのか。
「・・・一緒に行けば、この人達を、わたくしの故郷の人達の命は保障してくれるの
ですね。」
「ほほう、随分と理解が早い。」
ベネディクトゥスはイェルマグを自分の馬に引き上げ、乗せた。
「兵を引くぞ。このまま放っておいても反逆など出来ぬだろう。この娘は人質として
わが城へ連れて行く。」
何もせぬまま兵士は一族のもの達から離れた。そして兵士全てがベネディクトゥスの
後を追った。
 イェルマグは皆の命が助かり、少しは安堵できた。しかし、これから彼女の残酷な
日々の始まりである事に気づかなかった。
  
 ヴァルトロ城に連れて来られたイェルマグ。浴室の付いた部屋を与えられ、見た目は
贅を尽くした生活に見えた。だが、ベネディクトゥスにとっての性欲の捌け口として
屈辱の日々を過ごす事になった。
 皇帝ベネディクトゥスには数人の側室が居たが、誰一人彼の子を生んだものは居ない。
年齢的にもベネディクトゥスは焦りの色を感じているらしく、側室達に自分の後継者と
なる子を産ませようと必死だ。その為、ベネディクトゥスは城にいる間、側室達の間を
行き来している。無理矢理純潔を汚され、子を産む事を強要されるイェルマグはもう、
絶望しか感じなかった。夜伽の夜が怖くて仕方が無かったのは言うまでもなかった。
 イェルマグがヴァルトロ城に来て半年。他の側室同様イェルマグも子を身篭る気配は
ない。ベネディクトゥスは財力にものを言わせ、子を授かる為の香や薬を取り寄せたり
するが、一向に効果はなかった。
 そんなある夜。イェルマグは以前から気になっていた事をベネディクトゥスに
尋ねた。
「あの・・・皇帝陛下、わたくしの故郷の一族、オルケルトの民は今元気で居られる
のでしょうか。一度でいいから一目逢いたいのです。もうあれから半年。一度里帰りを
させていただけませんか、お願いします。」
「何・・・、オル・・・何だったか。」その言葉にイェルマグは多少の不安を感じ、
「オルケルト、です。まさか・・・お忘れになったわけではありませんよね。」
と、念を押して訊ねた。
「ああ、思い出した。確か何かの儀式の真っ最中だったかと、あの田舎部族か。」
ベネディクトゥスの部族を愚弄する言葉に苛立ちを感じるにイェルマグ。しかし
ここでベネディクトゥスの怒りを買えば一族の皆に逢うことも難しくなる。そう
考え、堪えた。まず今は彼の下手に出て、自分に有利に動いてくれるように仕向け
なければならない。あくまでも穏便に冷静にと、心を落ち着かせた。
 しかし、ベネディクトゥスの口からは、イェルマグが予想もしなかった答えが
返ってきた。
「そう言えば・・・そなたがこの城にやって来て間もなく、そなたを返せと直訴して
来た者達がいたな。大人しくしていれば死なずに済んだものを。」
「どういうことですか?。」イェルマグは一瞬信じられなかった。
もう一度ベネディクトゥスに問い質した。
「・・・直訴は反逆。死罪は免れんだろう。」
イェルマグはどうしても信じられなかった。牢に入れられる覚悟で部屋を飛び出し、
城中を駆け回って兵士を一人一人捕まえてはオルケルト族の事を訪ね歩いた。兵士の
殆どが忘れていたのだが、中には何人かその事を憶えている者がいて、ベネディク
トゥスの話が本当であることを知った。
 イェルマグにはもう絶望以外の何も感じなかった。一族の者達とはもう二度と会う
事は出来ない。そしてこの先永遠にこの男の慰み者になるのかと嘆いた。
 
 
 二年の歳月が過ぎた。イェルマグは勿論、他の側室達も子を身篭る気配はなかった。
ただ、時折、側室の何人かは愛人を作って密かに子を身篭り、ベネディクトゥスの
子と偽って寵愛を受けようとするが、誰もが気づかれしまう。そんな側室はベネ
ディクトゥスに全て処刑されてしまっていた。仮に偽らなくても子を産まぬ側室は
歳をとると役に立たたずとして奴隷として売り飛ばされた。
「わたくしも子を産まなければあのように殺されてしまうのでしょうか?。」
「そんな・・・そのような恐ろしいことをお考えになってはいけません。」
「いいえ、お前も気づいているでしょう。あの男には子種がない事を。」
 ベネディクトゥスに子種がない事は誰もが薄々気づいていたが、ベネディクトゥス
自身はそれを認めたくないらしく、次々側室を囲っては子を産む事を強要していた。
 そんなベネディクトゥスを冷静に見ていたイェルマグ。いずれ自分もあの男に
殺されるか、売り飛ばされるかと考えていた。しかし、あんな男の手に掛かるのだけは
避けなければならない。あの男はオルケルトを滅ぼした憎い男。何とかして一族の敵を
討ち、オルケルトを再興させなければ、イェルマグはそんな事を考えていた。
ある日、イェルマグは侍女達を集め、内密に話を進めた。
「そんな・・・。そのような事が皇帝陛下に気づかれでもしたら・・・。」
「大丈夫。わたくしにいい考えがあります。」「けど・・・イェルマグ様は。」
「この事はあの男に決して気付かれないでしょう。ですからお前達の協力が必要なの
です。」
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