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第十三章
凱旋したロナウハイド。エルンテベルグを埋葬し、墓標に花を手向けた。そして
リーベリィが言ったあの言葉をラケルタの墓前に伝えた。 「皆、逝ってしまったな。」 「逝くのはまだ早いですよ。父上。」ユニオルがいつの間にか後ろに立っていた。 「この老体に鞭を打てというのか。」 「当たり前です。父上にはまだまだやり残した事が沢山あるじゃないですか。」 火山灰の影響で使い物にならなくなったクーダム城を取り壊し、シュトットガルドに 新たな居城を建設しようという。 「俺が生きている間に城は完成するのか?。」「だから急いでいます。」 ユニオルに結婚話が持ち上がった頃、新たな城が完成した。 「その名をお付けに?。」「ああ、勿論。あいつと俺とで一人前だった。だからだ。」 ロナウハイドはユニオルと共に新たな城エルンテベルグ城の最上階へ登った。そこからは 城下街シュトットガルドは勿論、クーダム、サントヴルカーン山、ローザントやハンスト ヴェルグの街までもが見渡せる。 「王、大変です。レプティリアより軍が攻めてきて、援軍を要請したいとの事。」 「分かった、俺が行く。」 「ロニエールの王はどこだ!!。怖気付いたのか。」
レプティリア王、セルペンスは罵倒の言葉を並べ立てながらロナウハイドを捜す。 「俺はここだ、逃げも隠れもせぬ。」 ロナウハイドの威風堂々とした姿に気後れを取るセルペンス王。だが、この王を 討ち取って大陸の南を自分の手中に収めたい。そんな野望を胸に自らロナウハイドに 斬りかかって行った。 「ロニエールの王ロナウハイドよ。王と名乗のるも今日で終わりにしてやる。 明日から、いや、貴様の首を討ち取った瞬間からこの国の王はこのセルペンスが 王となる。御老体、覚悟いたせ。」 「滑稽だな。」「何だと!!。」 金属音が砂埃の中に響き渡る。 セルペンスはロナウハイドを罵倒しながら剣を振るう。恐らくロナウハイドが挑発に 乗り、冷静さを欠くための思索だろう。しかし、そんな挑発に乗るロナウハイドでは ない。百戦錬磨戦いの日々を費やしてきたロナウハイドにとってそんな挑発は無意味 だった。 「誰も手を出すなよ。この男の首、このセルペンスが戴いた。」 しかし、かなりの老体のはずのロナウハイドの動きは機敏で、セルペンスは傷一つ つける事は出来ない。 そうこうしているうちにロナウハイドはセルペンスの甲冑の隙間に剣を滑り込ませた。 「真の王とは、無用な事は口に出さぬもの。」 そう呟き、剣を抜いた。血吹雪が当たりに飛び散った。致命傷を受けたセルペンスは 力尽き、馬から滑るように落ちた。 「さっさと立ち去れ。そんな男の首などいらぬ。」 レプティリア兵は王の遺体を抱え後退した。 「・・・父上。父上はいずこ?。」 ユニオルはロナウハイドを探して城内を回っている。 「母上、父上はいずこに・・・?。」「いつもの場所でしょ。」 それを聞いたユニオルは頭を抱えた。 城下町にある入浴施設。この地域には昔から火山の影響で地下水が温水になって 沸いてくる場所がある。そしてそれに身体を付けると傷を治したり、筋肉痛や美肌に 効果があるとされていた。それを利用した施設を、城下街の、エルンテベルグ城の すぐ近くに建設していた。戦乱で痛めた身体を癒していくのには格好の場所で、特に ロナウハイドはこの施設をこよなく愛した。 「そんなにお好きなら、城内にも引けばいいのに・・・。」 ユニオルはぶつぶつ文句を言いながらその施設にロナウハイドを探しに行く。 案の定、施設の職員がロナウハイドがここに来ていることを教えてくれた。 「やっぱりか・・・。」早速、履物を脱ぎ、ズボンの裾をまくって浴場へと向かった。 湯気がもうもうと立ち込めている中を足元に気を付けながら探す。 すると浴槽の中に髭まで浸かり、目を閉じているロナウハイドの姿が。 「・・・父上、やはりここでしたか。入浴などしている場合ではありませんって。」 「見て分からぬか。今は大事な会議中だ。」 「私にはのんびり温泉につかっているようにしか見えませんが。」 「堅い事を申されるな。ユニオル王子。」 そう話し掛けたのは、軍師のモーリッツン。 「そうだ。王子も御一緒にいかがですかな。」 今度は将軍のガンツ。 「そういう訳には参りません。お客様がお待ちなんですから。」 「・・・客?。あいつか、随分と早い到着だったな。」 そう言いながら、浴槽から上がった。 ユニオルは裸の父の背中を見つめた。七十歳を過ぎても尚衰えぬ体つきで、両腕は 筋肉でぱんぱんだ。そして数え切れない程の傷が背中と両腕についている。特に目を 引くのが首筋についている一筋の火傷の跡だ。この火傷の跡について訊ねた事が あったが、余り多くは語ってはくれなかった。だが、ユニオルにはこの傷一つ一つが 戦場でのロナウハイドの人生を物語っているような気がしていた。 「王・・・、もう上がられるのですか。」 「ああ、ビールを一杯飲んでから城へ戻ろうと思ってな。」「父上!!。」 ユニオルは父親を叱咤した。 |
第三幕第十三章




